私の友達(なな視点)
「それじゃあ、先行くから」
登校する準備を終えたななは、玄関に手を添えて目の前に居る晃輔にそう告げた。
「ほい」
「戸締まりするの忘れないでね」
「はいはい」
そう言って、晃輔は玄関を閉めた。
「う〜ん……なんかむずがゆい」
私が晃輔と一緒に暮らし始めてから数日。かれこれ一週間近くになる。
正直言って、全然今の晃輔との同居生活に慣れない。
だって無理でしょ!
普通に考えて!
一緒に暮らすのが幼馴染といっても、晃輔は男の子なわけで。
確かに、晃輔とは幼馴染で昔から良く遊んでいるけどだからって絶対無理があると思うの。
それにだけど、そもそも私はそんなに多く異性と関わってきたわけじゃない。
正直、晃輔以外の男子とはそんなに積極的に関わっていない。
まぁ、高校生になってからは結構関わりだしたけど。
というか、同じ家に住んでるのになんで晃輔は落ち着いているの……!?
一緒に住んでるせいで、私はすっごく晃輔のこと意識しちゃうのに!
意識しない晃輔のほうが絶対おかしいでしょ!
学校への登校途中、ななは頭の中でずっとそんな事を考えていた。
そして、教室に着いても、ななの考え事は止まらなかった。
「ななー! おはよう!」
「お、おはよー」
「おはよう」
ななは考え事をしていたので、声をかけてきたいつものメンバーに、適当に返事をしておく。
「お……!」
「ふ~ん」
「なによ?」
声を掛けてきたのは、私が高校生になってからできた友達。石見梨香子と筋乃絢音。
梨香子は、常に元気で明るく笑顔の絶えない可愛い顔の女の子で、二年生なのに吹奏楽部の部長で、誰にでも距離が近い。
そして、テンションがいつも高く、クラスでもムードメーカー的な存在だ。
絢音はバレー部の部長で、グループ競技をやっているおかげか、周りをよく見ているしっかり者だ。多分、私たちがいるグループ? では一番まともな女の子だと思う。
そして、またこの子もかなり整った顔立ちをしているなーと私は思う。
本来、この時期はまだ三年生が部長のはずだが、今年は、何故か二人の部の先輩たちが「早めに部長やっとくと後で楽だし、多分良い経験になるから」とほんとによくわからない理由で部長にさせられたらしい。
二人からその話を聞いたとき「その部活、ていうか、その元部長さんたちホントに大丈夫?」って思わず言ってしまった。
「いや〜、随分とお可愛い顔しているなーって」
「ほんとね」
「…………」
この二人は一体何を言ってのかしら?
梨香子がおかしなことを言うのは、まぁ、変じゃないとして。絢音にまで言われるなんて。
「ねえ、なな今何か失礼なこと考えなかった?」
珍しく梨香子が鋭い。
「ううん、そんなことないわよ。それよりもいきなりどうしたの?」
梨香子はまだしも、絢音までそんな事を言うのでちょっと不安になる。
「ふふ、なな自分の顔見た?」
「……え」
そう言われて、ななは慌てて持ってきた手鏡で自分の顔を確認する。
一応確認してみたが、特におかしなところは見当たらなかった。
「何もなさそうだけど……」
「ふふ、そうだね〜。いやさぁ……今のななずいぶん可愛い顔してるんだよね」
「ほんとになに言ってのよ……」
私は呆れて思わずそう呟いてしまう。
「そういえば、二人はどうしたのよ」
私たちは、私も含めて仲の良い女の子五人で集まることが多い。
というか、常にその五人で居る。
「いつも通り、ぎりぎりに来るんじゃない?」
「まぁ、あの二人……特に希実の方なんて遅刻寸前に来ること多いじゃん」
「確かにねー。でも、藍子はもうそろそろ来るんじゃないかな」
そう言って、梨香子は黒板の上にある時計を見る。
二人が話している間に、ななはいそいそと授業の準備を進める。
「おはよー!」
「おはよう」
殆ど同時に、希実と藍子が教室に入ってきた。
二人の事を簡単に紹介をすると、希実は、教室で晃輔とよく一緒にいる丹代君の彼女で、元陸上部らしい。
中学生の時まではやっていたらしいけど高校生になってからはやっていない。
ちなみに、希実は梨香子と同じタイプの人間で、常にテンションが高い。
私はこのテンション別に嫌いじゃないし、むしろ梨香子と同じ様に、こうやって誰にでも話しかけてくれる希実のおかげで結構気楽に過ごせる。
時々、晃輔と近い距離で話しているから、希実が羨ましく思ってしまうけど。
まぁ、可愛いからいいんだけど。
藍子は生徒会に所属していて、非常にしっかりしている女の子だ。
成績は私と同じぐらいで頭も良い。藍子はテンションの高い梨香子たちとは真逆の子であり、あまり喋らない。
でも、母性本能がくすぐるのか、よく私たちの世話を焼いてくれる。あと、すっごく美人。
「おはよー! 珍しいね、藍子がこの時間になるのはいつも通りだけど……希実は早いね〜」
「ほんと、どうしたの? 熱でもある? 明日は大雪?」
そう言って、絢音は自分の掌を希実のおでこに当てる。
「いや、降らないよ! お母さんに怒られちゃってさー。早く行きなさいって」
「希実はいつも遅いからねー」
そう言うと、絢音が何故か希実の頭をワシャワシャと撫でだし、それに他の皆も乗っかていた。
こうして、皆が集まっているのを見ると、改めて私の友達はみんな凄く可愛かったり、美人だったりするなーって思う。
ほんと、どういうクラス分けの仕方をしたら、こんな可愛い子たちが集まるのか。
「ななー! 助けてー!」
「……自分で頑張りなさい」
「ひどい!!」
希実に助けを求められるが、皆に可愛がられているだけなので助ける必要はない。
一度希実の方に視線を向けて戻す、すると突然、梨香子が手を止めてななの方を見た。
その顔がニヤッとしていて、なんだか非常に嫌な予感がした。
「ねぇねぇ、それよりも……さっきね、ななが超可愛かったんだよ」
「え!? そうなの!? えー、見たかったー」
希実は心底残念そうな顔をしていた。
「見なくていいわよ」
「確かに、さっき凄い可愛い顔してた」
絢音まで余計な事を、ななはそんな事を思いながら絢音たちを睨む。
「あー。じゃあ多分、藤崎くん絡みかな?」
「なぁ!?」
晃輔の名前が出ただけなのに、自分の顔が内側から熱くなるのを感じた。
「ち、違う……」
いつの間にか、耳まで真っ赤になってしまっている。
そんな私の表情を見て、皆は笑みを深めた。
「当たりっぽいね。まぁ私も、藍子の言う通り、晃輔あたりだろうなーとは思ってたけど」
「梨香子!」
「なんで私!?」
ジトッと梨香子を睨みつけると、梨香子から驚いた声が上がった。
どちらかというと、今のは希実がいけない気がするが、梨香子も悪い。
「おおー、怖ー……」
睨まれた梨香子は楽しそうに笑ってるし、なんでか知らないけど、藍子は苦笑いしている。
「なな、ほんとに可愛い……」
「確かに……」
本当に絢音も藍子も何言ってんのよ!
「ちょっと……」
「これは可愛がりたくなっちゃうよね!」
そう言って、梨香子がななの方へやってくる。
その手付きを見たななは肌が粟立つのを感じた。
「ちょ、ストップ!」
「しないよ〜」
梨香子を筆頭に希実、藍子、絢音が私の頭を撫でてくる。
「もう! やめてよー」
結局ななは、ホームルームが始まるまでの間皆にもみくちゃにされてしまったのだった。




