夜ご飯は鰆のから揚げ
「ただいまー」
あおいの家庭教師が終わり、晃輔は玄関を開けてそう告げた。
「おかえりー」
すると、リビングからななの声が聞こえてきた。
今日学校行って思ったが、やはり同じ家に美少女の幼馴染がいるのはどうしても違和感が大きい。
晃輔は一旦自室に戻り、制服から部屋着に着替える。
晃輔は制服から部屋着に着替えながら、あおいに言われた事を思い出していた。
『今回のお姉ちゃん誕生日は、お姉ちゃんにはサプライズでやりたいの! こー兄は今、お姉ちゃんと一緒に住んでるんだから、お姉ちゃんのことをちゃんと見れば、お姉ちゃんの欲しい物だってわかるはず!! だからお願いね!』
「はぁ……」
晃輔は思わずため息をついて頭を抱える。
あおいと付き合いの長い晃輔には、あおいの滅茶苦茶な要求には慣れていたつもりだったが、どうやらそうではなかったらしい。
あの自由奔放さどうにかならないかな、ため息をついた晃輔はそんなことを思いながらリビングに向かう。
「あ、お帰りー」
「ただいま」
リビングに行くと、ななはソファに座りスマホを見ていた。
ななのすぐ横にはテレビリモコンが置いてあり、お菓子が広げられてある。
「…………」
家に居るので当たり前なのだが、ななは部屋着でリビングにいる。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
そう言って晃輔はキッチンの方へ向かう。
日中はななの制服姿を見ていたため、制服とのギャップでついついななを凝視してしまった。
すると、ななは妹であるあおいのことが気になるのか、今日の家庭教師について尋ねてきた。
「そういえば、あおい家庭教師どうだった?」
「どうって、別に大した事してないから」
これと言って特に何にも無い……訳ではないが、あおいと約束した以上それをななに言うわけにはいかないので、適当に返しておく。
「明日も家庭教師あるの?」
「いや、基本週三日ぐらい」
「……次は?」
「次? 次は水曜日だな」
「そう……」
ななは、何故か不満そうな顔をしてこちらを見ている。
何か不味いこと言ったかな、と少し考えてみるが何も思い付かない。
「今から夜ご飯作るからちょっと待ってて」
「うん」
晃輔は考えても仕方なさそうなので、切り替えてご飯の支度を始める。
「あと、夜ご飯前にお菓子食べるのはちょっと考えた方がいいと思うぞ。ご飯入らなくなっても知らないからな」
晃輔はキッチンからななに向かって軽く窘める。
「……はーい」
すると、ななは素直に頷きお菓子を食べる手を止めた。
名残惜しそうにお菓子を見つめるななを見て晃輔は思わず、ふふ、と声を漏らしてしまった。
***
「なな、夜ご飯できたから運ぶの手伝って」
夜ご飯が出来上がり、リビングに居るななに声を掛ける。
途中、何故かななに見られている気がしたが気のせいだろう。
「わかったー」
そう言って、ななは素直にキッチンに来て出来上がった料理を運ぶ。
すると、ななはキッチンに置いてあった本日の夜ご飯を見て驚いた声を上げた。
「あれ、今日唐揚げなの!?」
「そうだけど? 嫌だった?」
「ううん、でもどうして?」
ななは疑問に思ったのか、晃輔に尋ねてくる。
「どうやらさ、今日は楠木家が唐揚げらしくて……リビングの方からずっといい匂いがしてたんだよ」
家庭教師の仕事が終わり、晃輔があおいの話を聞いていた時、楠木家のリビングから唐揚げのいい匂いがしていた。
お陰で、今日何を作るか悩んでいた晃輔は、ウチも夜ご飯は唐揚げを作ろうと考えたのだ。
「……なるほど」
「ちなみにこれ鰆の唐揚げだけど」
「鰆!?」
ななは驚いた表情で晃輔を見る。
因みに、なぜ鰆かというと、たまたま家に鰆があったからである。
「うん」
晃輔がそう告げた後、少し間が空くと突然ななは晃輔の方を振り返った。
「え、なに?」
突然振り返って来たななに晃輔は驚く。
晃輔は、突然振り返ってくるななに、否応無しにドキッとさせられた。
こうして至近距離で見てると同じクラスの人たちが口を揃えて言っていたように、改めてななは美少女なんだなーって思った。
わざわざ口に出したりはしないが。
「いや、すごいなーって思って」
「何が?」
いきなりそんな事を言うななに、晃輔は思わず首を傾げる。
「料理……それに魚の唐揚げってあんまり家じゃ出なかったから」
「……まぁ、それはそれぞれ何じゃないか。料理が得意な人がいればできるかもしれないけど」
実際、藤崎家では料理の知識のあった晃輔しか、こういうものは作れなかった。
そもそも晃輔の場合、晃輔以外は仕事で忙しかったり家事を一切行わない人が居たため、生きるためには晃輔がご飯を作らないといけなかった。
そのためか、晃輔は鰆の唐揚げを含め色々なものを作れるようになった。
ちなみに鰆の唐揚げの作り方はそこまで難しい訳じゃない。
鰆を三〜四つに切る。ボウルに下味の材料を入れて混ぜ合わせ、鰆を加えて約十五分漬ける。
次に、ころもの材料を入れて、混ぜ合わせる。中温に熱した揚げ油でこんがりと色がつくまで揚げる。
そして器に盛り、クレソンを添える。
手順はこんな感じだ。
楠木家でも唐揚げを作った記憶はある。
ただ、その時は普通の唐揚げだった気がするので、今度楠木家に行った時に作ってあげればいいだろう。
「それに、私は料理」
「それは得意不得意があるし」
晃輔は、勉強の成績はそこそこだし、スポーツはそれなりに出来るが、正直普通の範囲内だ。
実家の時は、家族はあまりやってくれなかったため、必然的に料理などをしなくてはいけなかったが。
なので、料理などは出来ても、ななほど勉強も運動もできるわけではないし、上手く人とコミュニケーションが取れるわけではない。
過去に人間関係に悩んでいた身としては、やはりななが羨ましく思ってしまう。これもわざわざ口に出したりはしないが。
「ほら、運んで。そろそろ食べよう」
「え、ええ」
食卓には、ご飯やメインの鰆の唐揚げ、作った味噌汁などを運んである。
「「いただきます」」
晃輔とななは、両手を合わせてそう言うと夜ご飯を食べ始めた。




