ちょっと強引に(あおい視点)
「結構強引にいったね」
こー兄が帰った後、私とお母さんでご飯を食べていると、お母さんがそんなことを言ってきた。
「そう?」
私は、今日の夜ご飯の唐揚げを食べながらそう答える。
ちなみに、今日の夜ご飯である唐揚げは、私の大好物で、大体、唐揚げは男子が好きな食べ物として上位にランクインすることが多いけど、私みたいな女子も意外とこういうのを好む子が多い。
ほんとはこー兄やお姉ちゃんと一緒に食べたかったんだけどなー。
今それは置いといて。まぁ、確かに。
ちょっと強引過ぎかなーとは思ったけど。
「うん。結構あおいは強引に行くんだなーって思って聞いてたよ」
うん……あれ聞かれてたのか……やばい、ちょっと恥ずかしくなってきた。
そう思った途端に、あおいの顔が少しづつ赤く染まっていく。
こー兄曰く、結構暴走してたらしいからなぁ……変なこと言ってないといいけど……あんまり記憶ないんだよな。
「そっか……お母さんから見てどうだった?」
あおいは自分の顔が赤く染まっていくのを感じながら、自分の母親に尋ねてみる。
「どうって? う〜ん……暴走してたね」
「うん。ごめん。私が聞き方を間違えた」
これは私のミスだな。聞き方が悪かったと思う。
今の流れでお母さんに尋ねると、どう考えても私の暴走の話になっちゃうよね。
「えっと……そしたらねお母さんから見てこー兄はどう思う?」
あおいは、これ以上グダグダと会話を続けていても一向に話が進む気がしないので、気になっていたことを直球で切り込むことにした。
「すごくいい子だと思うよ。根は真面目だし、素直で優しい子だなーと思うよ。まぁ、いい意味でどこか俯瞰してると思うし、親の私が言うのもおかしな話だけど、かなりの優良物件じゃないかな」
うん。こー兄が褒められてるのはやっぱり凄く嬉しい。
まぁ実際、こー兄は優良物件だろうしね。
あおいは、晃輔に対する母親の評価に満更でもない表情を浮かべた。
「だからあおいはちょっと焦ってるんでしょ?」
「……? 焦ってる?」
何に、と反射的にそう聞き返そうとした。
いきなりそんな事を言われて、あおいは訳が分からず首を傾げる。
私が焦ってるとは一体どういう意味だろう。
「もし、他の人が晃輔くんの魅力に気付いたら、晃輔くんは他の女の子に取られちゃうかもしれないからね」
お母さんはいたずらっぽく微笑みながらそう告げる。
「………………!?」
あおいは驚いて目を見開き、そして俯く。
すると、目の前で分かりやすく表情を変えた娘を見て小さく笑みを溢した。
「あれ。その顔、ほんとに気付いてなかったの?」
「…………気付いてない訳じゃ無いけど……確かにそうだね。二人の事で頭いっぱい過ぎて忘れてたよ」
あおいは、そう言って思考を巡らせた。
確かにそうだ。お母さんの言う通りだ。
そういう事態も全く考えてなかったわけじゃないけど。
私にとっては、お姉ちゃんとこー兄がくっついてくれるのが一番。
それ以外の……こー兄が他の女子とくっつく、なんて事までは想像してなかった……というかできなかった。
あおいが何とも言えないような表情になっていると、千歳は何処か愉しそうに微笑んだ。
「ふふ、複雑そうね」
うぅー! なんでお母さんはそんな楽しそうなの! なんかムカつくー!
こー兄がお姉ちゃん以外の女の子とくっつくのは絶対駄目。
もし、そんな事になりそうだったら、私がこー兄の事もらっちゃっうから!
「と、取り敢えず、こー兄は大丈夫! ちょっと可哀想だけど今のところモテてないから。教室でもあんまり人と喋らないみたいだし! こー兄陰側の人間だから!」
我ながらなかなか酷い事を言うな、とあおいは内心苦笑する。
すると、千歳は半ば呆れ目になってあおいに告げた。
「あおいも結構言うわね……流石に晃輔くん可哀想よ」
「お母さんが変なこと言うからでしょ……」
「そうね、だから、今日は強引にいったの?」
「え? いや別に、そういう訳じゃないけど……」
びっくりした! いきなり話が元に戻った。
お母さんの方がよっぽど強引な気がするんだけど。
こういうところも含めて、やっぱり私はお母さんの子供なんだなーって思う。
「ただ、このままだと絶対あれ以上進展しないことなんて、目に見えてるじゃん」
「まぁ、確かに……そうね」
千歳もあおいと同じ事を思ったのか、二人して遠い目をしている。
親子揃って心配される姉と言うのはどうなのだろうか。
「だから正直、こー兄たちとはあれぐらい強引じゃないと駄目な気がする」
「…………大変ね」
ホントだよ! なんか私たちだけ必死になってやってるみたいじゃん。
お姉ちゃんもお姉ちゃんだし、こー兄もこー兄だと思う。
「……はぁ」
あおいは思わずため息をつく。
でもまぁ、二人の距離を縮めるためにも、今回は強引で良かったかな。
そんな事を心の中で思いながら、あおいは中断していた夜ご飯の続きを食べ始めた。
どうか二人が上手くいきますように、あおいは静かにそう願うのだった。




