あおいの提案
「提案?」
あおいの家庭教師が終わり、支度をして帰ろうとした時に突然あおいに呼び止められた。
先程までとは違い、あおいは真剣な表情でそう告げて来た。
あおいが真剣な表情になる時は、何か真面目な用事がある時なので晃輔も軽く表情を引き締める。
「うん」
「どうした?」
「ごめんね、突然。お姉ちゃんがいないタイミングってあんまり無くて」
「ななが……?」
突然、あおいからななの名前が出てきて、晃輔はどう反応したら良いのか分からなくなる。
「えっと……どうして突然ななが?」
「え!?」
晃輔の反応を見て、あおいは驚いた表情で固まった。そして、あおいは徐々に困惑した表情になってしまった。
「これは、気付いてない可能性も……」
あおいが何か小さく呟いた気がしたが、何を言ったかまでは聞き取れなかった。
「あおい?」
「う〜ん……こー兄、もしかして気付いてない?」
「えっと……何に?」
あおいは若干呆れた視線を晃輔に向けてくる。
あおいの視線を受けた晃輔は、自分が何か不味い事をやらかしたのではないかと自問自答するが、答えは出てこない。
すると、あおいは小さくため息をついた。
「今週末、お姉ちゃんの誕生日なんだよ……」
「あ」
「その反応、ほんとに忘れてたっぽいね」
「いや……忘れてはないぞ」
晃輔はそう答えるが、思いっきり目を逸らしながら言っているためあおいからの視線が痛い。
「ふ~ん、じゃあなんで目を逸らすのかな〜?」
「……」
「はぁ……まぁいいや。それでねこー兄、今週末はお姉ちゃんの誕生日です!」
これ以上は無駄だと感じたのか、あおいは切り替えて目的の話を始めた。
「うん」
「なので、こー兄にはとある任務を与えます!」
そう言って、あおいはニヤリと笑う。
あおいの笑みに、晃輔は非常に嫌な予感がした。
「任務?」
「そう! 任務! こー兄は、今お姉ちゃんが欲しい物を見てくるという任務」
「……………………」
予想通りと言うべきか、思いっきり嫌な予感が当たり、晃輔は顔を引き攣らせた。
「こー兄、そんなあからさまに嫌な顔しないで」
「してない、って言いたいところだけど、ちょっと待て。欲しい物を見てくるって、どうゆう? 聞いてくるじゃなくて?」
普通そういうものは聞くものでは無いのか、晃輔はそんな事を思っていると、若干呆れ目をしたあおいの視線が晃輔に突き刺さった。
「絶対聞いたら駄目だよ。お姉ちゃん、勘がいいんだから……直接そんなこと聞いたら、絶対誕生日プレゼントのことだってわかっちゃうもん!」
「それは……まぁ、そうだろうけど」
確かにななは勘が良い。
あおいも言う様に、もし何か欲しい物があるかと聞かれたら一発で誕生日の事だと気づかれるだろう。
「ちなみに、それが今回のあおいの提案なんだな?」
「そーだよ! 今回の誕生日は、お姉ちゃんにはサプライズでやりたいの!」
晃輔は若干興奮気味なあおいに尋ねると、あおいは更に興奮気味になってそう答えた。
「それに、こー兄は今、お姉ちゃんと一緒に住んでるんだから、お姉ちゃんのことをちゃんと見てれば、お姉ちゃんの欲しい物だってわかるはず!!」
「…………」
わかってはいたがやはり暴論に近いものになったな、と晃輔は心の中でそう思った。
晃輔は、あおいの暴走をどう止めようか悩んでいると、その間にあおいはどんどんヒートアップしていく。
「いい? ちゃんと見るんだよ? よーくお姉ちゃんを観察するの! せっかく一緒に住んでるんだから! その利点をフル活用するの!」
そう告げるあおいの目がキラキラしている事に若干引きつつ、あおいの暴走を放置しているとどんどんヤばそうな目になってきた気がしたので、心配になった晃輔はあおいに尋ねてみた。
「ちょ、あの、あおいさん?」
「ん? なーに?」
「いや、なーに? じゃなくて……」
「こー兄なら大丈夫だよ!!」
「いや、人の話を聞け!」
晃輔は思わずそうツッコんでしまう。
駄目だ、晃輔は直感的にそう思って頭を抱えた。
暴走状態のあおいは人の話なんて全く聞きやしない。
晃輔が小さくため息をつくとリビングの方が声が聞こえてきた。
「あおいー? 運ぶの手伝ってー」
「はーい!」
どうやら楠木家の夜ご飯が出来たらしく、あおいはその手伝いのために呼ばれたらしい。
あおいはリビングの方に向かって元気良く返事をすると、振り返って晃輔の方へ向き直る。
「呼ばれちゃった……いい? こー兄は、お姉ちゃんが何を欲しいか、それを普段の言動から見抜かないとだよ」
「そんな滅茶苦茶言うなよ」
本当にどうしろ、晃輔は再び頭を抱える。
「大丈夫! 一緒に生活してるこー兄なら大丈夫だって! お姉ちゃんの些細な変化にも気付けるって」
「どこにその根拠が……いや、そもそも些細な変化に気付けるって……どういう……」
「こー兄なら知ってると思うけど、お姉ちゃんすっごくわかりやすいから。それでも、些細な変化とかに気付いて上げてね」
「無視かよ……」
完全に暴走しているあおいに、晃輔は言い返すことを諦める。
「そしたら、お姉ちゃんが欲しい物、自ずとわかってくるはずだから!」
そう言って、あおいはリビングの方へ行ってしまった。
「……はぁ」
こうして一人部屋に残された晃輔は、あおいに呼び止められたことで止まっていた支度を始めた。
***
「今日はありがとね!」
帰る支度が終わり、玄関に居た晃輔にあおいが声を掛ける。
「どういたしまして」
「……………………こー兄どーしたの?」
晃輔に見られてる事に気付いたあおいが尋ねてくる。
「いや、なんでもない」
正直、あおいには色々と言いたいことがあるが、今の晃輔には、もう言い返す気力も無い。
晃輔が疲れた顔をしていると、奥から千歳の声が聞こえてきた。
「ふふ。ごめんなさいね、騒がしくて」
そう言って、あおいと一緒に玄関まで来ていた千歳は優しく微笑む。
「いえ、まぁ……」
「大変だとは思うけど、またお願いね」
「はい」
そう言って、晃輔は楠木家を後にした。




