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帰り道


「あははー! 楽しいねー! こー兄!お姉ちゃん!」


 晃輔たちは校門を出て帰り道にある階段に向かって歩いていた。

 右から晃輔、あおい、ななという順番で。そして、あおいはずっとご機嫌な表情だ。


「普通に帰ってるだけでしょ?」

「そうだな」

「も〜〜! ……でも! 上手くいったね!」


 あおいはご機嫌な表情のまま晃輔とななを交互に見る。


「何が?」

「ひどいなー! せっかく、わざわざお姉ちゃんたちのクラスまで行って、こー兄が家庭教師のこと公言したのにー」


 そう言って、あおいは河豚みたいに顔を膨らませた。 

 

「それに関してはすごい助かってる。ありがとう」


 あおいがクラスに来た時は、何故突然二年生の教室に来たのか、その時はその疑問で頭がいっぱいだった。

 しかし、あおいの口から家庭教師の話が出てきて、ようやくあおいの目的が分かった。

 晃輔は小さくため息をつくと、眉を寄せる。


「ただ……」

「こ、こー兄? そんな怖い顔してどーしたのかな……」

「自覚あるだろ? 見事にやらかしてくれたな……」

「い、いやー……私もちょっ~と口が滑っちゃっただけだから……」


 そう言って、あおいは晃輔から目を逸らす。


「おい、目を逸らすな。あのな……楠木家で晩御飯をいただいてるって知ったら、そりゃ皆ああなるって」

「そうね」


 今まで会話に参加してなかったななが話に混ざってくる。


「お姉ちゃんまでー!」

「あおいは、せっかく沈静化した話題を、わざわざ自ら掘り出して炎上させたようなもんだぞ。俺を助けてくれたのは凄く嬉しいけど……はぁ……明日からの学校……ほんと行きたくない」

「その気持ち、ちょっとわかる……私も行きたくない……」



***



「いやー、だって私の家で家庭教師してもらうし、一緒に帰った方が色々と都合がいいでしょ? どうせ、家庭教師の仕事終わったら(うち)で夜ご飯も食べるんだし」

『え!?』


 その場にいた……というよりこの会話を近くで聞いていたクラスメイトから、一斉に驚いたようなそんな声が上がる。


 嫌な予感がして、止めようとしだけど遅かった。

 ななの方を見ると、同じ様に嫌な予感がしたのか、あおいに向かって手を伸ばして硬直していた。


「「はぁ……」」


 晃輔とななは大きくため息をついて、同時に額に手をやる。


「どうしたの? こー兄。あと、お姉ちゃんも」

「あのさ……」

「あのねぇ……」


 晃輔とななの声が重なる。

 どうやら、爆弾を投下した本人は全く気付いた様子はないらしい。


 晃輔はどう切り出そうかと悩んでいると、一番近くで話を聞いていた昌平が、皆を代表してか、あおいにそう尋ねてきた。


「え、じゃあ晃輔は楠木さん家で、一緒に夜ご飯食べてるのか?」

「はい、そうですよ! こー兄が家庭教師をする日だけですけど!」


 あおいは元気良く、笑顔で、ハキハキと答える。

 困ったことに昌平もあおいも声がよく通る。だから、クラス中に二人の会話がほぼ丸聞こえ状態となる。


 この会話が一緒に住んでることの注意を逸らすためで、その意図はわかる。分かるのだが、同時に不安……心配にもなった。


 何が心配なのかというと、学校に存在する言われるななの隠れファンに殺されるのではないかという心配だ。


「ふ~ん……」

「なんだよ」

「いやー、なんでも」

「なぁ、もういいだろう」


 晃輔が居心地悪そうにそう告げると、昌平は生暖かい目で晃輔を見てきた。

 あおいが来たことにより、クラスの注目の的になり正直居心地が悪い。


 それに、これ以上昌平とあおいの会話を続けさせると、あおいが余計なことを言いかねない気がした。

 すると、ななも同じ事を思ったのか、あおいに声を掛ける。


「そうね。あおい帰りましょう」

「え!? いいの?」

「えぇ……晃輔も……えっと……いい?」


 ななは心配そうな表情で晃輔を見てくる。


「あぁ……わかった」


 そう言って、晃輔は急いで支度を始めた。

 ななは、あおいが来た扉とは別の扉の近くにいるカースト上位集団の方へ向かった。


「ごめん! 今日は……」

「いいって!」

「行っておいで!」

「たまには、三人で帰るのもいいと思うよ!」

「皆……ありがとう!」


 ななはそう言うとペコリと頭を下げて、ななは急いで帰る支度を始めた。


 意外と良い人たちなのかな、と既に支度を終えその光景を見ていた晃輔がそんなことを思っていると、ななの支度が終わった。


「それじゃあ、お姉ちゃん! こー兄!帰ろー!」


 超強引なあおいに連れられ、晃輔たちは教室を出た。



***



「「はぁ……」」


 先程のやり取りを思い出して、晃輔とななは同時にため息をついた。


「二人ともー、いくら疲れてるからって、ため息ついてばかりだと幸せが逃げちゃうよ」

「「誰のせいだと思ってる」」のよ!」んだよ!」


 晃輔とななは同時にあおいにツッコんだ。

 ゴールデンウイーク明け初日から、あおいのめちゃくちゃに振り回された晃輔たちは既にへとへとになっていた。


「明日からの学校《これから先》が思いやられる……」

「ほんとね……」

「にゃははー、大変だねー! ……ねぇねぇ、ところでなんだけど、ちょっと寄り道してもいい?」


 晃輔とななが恨めしそうにあおいを見ていると、階段を降りてすぐにあおいはそんな事を提案してきた。


「寄り道?」

「まぁ、寄り道って言うよりはコンビニ?」

「またアイスか」

「正解!」

「まぁ、それぐらいなら……」

「だめよ、昨日も食べたでしょ?」

「えぇー」


 間髪入れず、ななに止められた。

 あおいは、また顔を膨らませて抗議の声を上げている。


「それに、今日は晃輔に家庭教師してもらうんでしょ?」

「う……ん……?」


 あおいは不思議そうな表情で晃輔の方を見てくる。


「あぁ、そっか。帰る時間遅くなるんだもんね……」


 晃輔より先にあおいがその答え? に辿り着いたらしい。が、あおいがニヤニヤしている理由がわからない。


「そうよ。夜ご飯は家で食べるとして、他の家事とかどうするの? 私ひとりに任せるつもり? 私が家事をまともにできると思ってるの?」 

「いや……それは……少しは努力するべきじゃないかな……どうして、こう……勉強はできるのに……」


 あおいは、呆れた表情で開き直ったななを見つめた。

 すると、ななの表情が険しくなった。


「なんか言ったかしら? なんなら今日は私も家庭教師しましょうか?」

「へ?」

「私と晃輔の二人であおいの勉強見てあげようか?」

「えっと……それは大丈夫かなー」


 これはあおい地雷踏んだな、とななとあおい(ふたり)の会話を聞いていると、あおいが助けを求めるように晃輔に視線を送ってきた。


 助けたいのは山々だが、これはあおいの不注意による自爆なので、あおい助けたら晃輔まで飛び火が来てしまうだろうから、今回は流石に助けられない。

 ごめんあおい、と思いながら晃輔はあおいから目を逸らす。


「薄情者」


 そんな小さな言葉があおいから聞こえた気がしたが聞こえないふりをする。


「と、取り敢えず、アイスは諦めるから。あと……ほんとにお姉ちゃんも教えてくれるの?」

「え?」


 予想していなかったあおいの質問にななは間抜けな声を出す。それと同時に晃輔は何かを察した。

 これはあおいのペースに巻き込まれるやつだと。


「教えてくれるの?()()()と一緒に?」


 そう言って、あおいは上目遣いでななを見つめている。 

 何かを期待するようなあおいの視線に、ななの目が泳ぐ。


「え、えっと……」

「そんなに、こー兄と一緒に家庭教師したいの?」

「な!?」


 あおいの一言でななの顔が一瞬で真っ赤になった。


「そ、そんなわけないでしょ! もう! 私、先に帰るからね!」


 そう言って、ななは早足で歩き出す。

 すると、ななは突然振り返って告げた。


「それと、どうせアイス買うんでしょ! だったら私はバニラ味のカップね!」

「はーい! さぁ、こー兄! みんなの分のアイス買いに行こ!」

「まじかよ……このあと家庭教師すんのやなんだけど……」

「心配なくても大丈夫だと思うよ!」

「なんで?」

「お姉ちゃんの欲しがってたアイス持っていけば、機嫌直ると思うし、たぶんお姉ちゃん、家庭教師(こっち)には来ないと思うよ?」


 そう言って、あおいは家の近くにあるコンビニに入って行き、晃輔もそれについて行った。



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