幼馴染とすり合わせ
「私たちのことは、別に言わなくていいと思うの」
夜ご飯を食べ終わりリビングのソファでスマホを見ながらくつろいでいると、同じくリビングでいすに座っているななが突然そんなことを言ってきた。
「え……おぅ……あれ? というか、さっきその話してなかったけ?」
「あれはあおいとでしょ」
「え……」
「わたしたちは、まだでしょ?」
あの会話に俺は含まれていなかったんだ、と晃輔はそんなことを思う。
「はぁ……」
すると、何故かため息をつかれた。ため息を疲れる理由が全くわからないため晃輔は首を傾げる。
「まぁ、確かにクラスのアイドルと一緒に住んでるって知られたら色々大変になりそうだよな」
「うん。お互い面倒くさくなる予感しかしないから。だから言わない。それでいいでしょ?」
結局、結論としてはとてもシンプルにまとまった。
面倒くさくなるからお互い言わない。
余計な詮索をされたくないのはお互いそうだろう。
「ああ」
「それに…………たぶん……」
「ん? なんか言ったか?」
「別に、何でもない!」
ななが一人でぶつぶつと呟いていたが上手く聞き取れなかっため、晃輔がななに尋ねる。
すると何故か、若干キレ気味に返された。
聞き取れなかったから、何を言おうとしたのか尋ねようとしただけだったのだが。
ななの方をよく見ると、心なしかななの顔がほんのりと赤く染まっている気がした。
「じゃあ、そういうことで!」
それだけ言ってななは逃げ出すようにお風呂の方へ行ってしまった。
いったいなんなんだ、とそんなことを思いながらも晃輔は明日の学校に行く為の準備を始めた。
明日から学校で少し憂鬱な気分になる。
今までのゴールデンウィークは、ななと疎遠になってからは昌平ぐらいとしか遊ばなくて、後は大体勉強などで時間を消費していた。
それに比べて、今回のゴールデンウィークは諸々の事情でいきなり幼馴染のななと暮らすことになった。
ななと買い物に行き、藤崎家と楠木家でバーベキューして、いきなりあおいの家庭教師をやることになって、あおいの試合を見に行ったりなど。
振り返ってみたらほんとに色々あったな、と晃輔はそんなことを思いながら、ななが上がるまで明日の準備を続けた。
なな、晃輔と順にお風呂に入ったあとは、それぞれの自室で各自自分のやることを行う。
明日の学校の準備が終わり、晃輔は寝室のベッドに横になる。ななはまだ自分の部屋にいるらしく、ななの部屋から明かりが漏れていた。
晃輔はベッドから起き上がりななの部屋の方へ向かう。
コンコンとノックをすると、しばらくして「はい、どーぞ」という返事が返ってきた。
静かに扉を開けるとななは机に向かって勉強をしていた。
「どうしたの?」
晃輔が部屋に来たので、ななは勉強を止めてこちらを振り返る。
お風呂を上がったのだから当然ななもパジャマ。久しぶりという訳では無いが、やはりどうしてもこの状況に慣れない。
「いや、まだ部屋の明かりが点いていたから。まだそんな時間じゃないけど……ちょっと気になって」
「そう。大したことじゃ無いわよ。ちょっと勉強しておこうと思って」
「勉強ってもしかして今月末の中間テストの?」
「そうよ」
晃輔とななの通う高校は二学期制で今月末に中間テストがある。だから対策として早めに勉強を始めているらしい。
「凄いな、だから毎回好成績なのか」
「別に、大して凄いことじゃないから」
「いや、俺からしたら十分凄いことだと思うんだが……」
「晃輔からしてみればねって、というか、別に晃輔も成績悪くないでしょ。あおいの家庭教師を任せられるぐらいなんだし」
晃輔の成績は別に悪いわけじゃない。学年の半分以上にはいるし、一年生の時は三分の一のところにいたぐらいだ。
決して成績が悪いわけじゃないが、なながちょっとおかしいような気がした。
「まぁただ、ななと比べられたらちょっと辛いものがあるぞ」
「ふふ、それはごめんなさいだね」
「……それじゃあ」
大した時間話したわけじゃないが、ななとの会話に一段落がついたタイミングで晃輔は話を切り上げる。
「俺もう先寝るから、勉強も程々にな。勉強のやり過ぎで、睡眠時間足りなくて倒れました、とか笑えないからな」
「うん……そうだね。気を付けるよ。忠告ありがとう」
「……おやすみ」
「おやすみなさい」
晃輔は静かに扉を閉めて寝室の方へ向かいベッドに横になった。
こうしてななと一緒に暮らして分かったが、なながどうして毎回テストなどで上位成績を取っているのか、それがやっとわかった気がする。
ななは天才だねー、とよく言われているのは知っているが、実際はこうやって裏で地道に努力している。
ゴールデンウィークにいろんなことがあり、今日もあおいの試合を見に行き疲れていたのか、晃輔は静かに眠りに落ちた。




