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藤崎家の長男


「俺、会社辞めたから」


 家に帰るなり、リビングのソファに座り、優雅にコーヒーを飲んでる兄からいきなりそう告げられた。


「は……?」


 何を言ってるんだこの人。

 大学を卒業して、会社に入社したばっかの兄が仕事を辞めた。


「どうやら、俺にはこの会社は合わなかったらしい」


 晃輔の兄こと、藤崎嶺(ふじさきれい)は、たった一ヶ月で会社を辞めた。


「いや、ちょっと待って……」


 嶺の言っていることの意味が分からず、晃輔は思わず頭を抱えてしまう。

 確かに嶺は昔から飽き性で、急に何かを始めたと思ったら、数日でつまらないと言ってやめてしまう。


 何事も長続きしないタイプではあり、それは、晃輔も周知のことである。

 まさか、それと同じ感じで会社をやめるとは、正直思いもしなかった。


「会社辞めたの? まだ、一ヶ月経ってないよね?」


 そんなに早く会社を辞めて、どうやって生活していくのか?


「そんなに、早く会社辞めてどうするの? 生活は? 母さんたちに怒られるよ……」


 晃輔は呆れながら言う。

 しかし、それは余計な心配だったらしい。


「ああ、それなら大丈夫だ。ちゃんと話をしてある。ちなみに、ほら、お金の方も心配は要らない。見てみ」


 そう言って、晃輔に何かを差し出す。

 それは万馬券のようで、どうやら当たったらしい。

 忘れてた、この兄の運の強さを、と晃輔は軽く頭を抱えた。


 嶺は昔から運が良い。

 スーパーのくじ引きでは一等や二等ばかり引き当てる。


 嶺のお陰で、家にはくじ引きで当たった最新家電などが勢揃いしている。

 そして賭け事に恐ろしい程強く、会社を辞めた直後にギャンブルと競馬で大儲けをして、一生遊んで暮らせるほどの大金を手に入れたらしい。


 というか、なんで考えてることわかるんだろうか。エスパーなのか。


「昔から、晃輔はわかりやすいからな。顔に全部出てるぞ」


 その疑問も、口に出す前に先に嶺に言われてしまった。

 そんなにわかりやすいのだろうか。


 そして嶺の話だと、なぜか倒産しかけてる幼馴染の両親の会社を立て直して、自分は残ったお金で新築の高級マンションを買ったらしい。

 なのに、なぜか自宅で過ごしている。

 全くもって意味がわからないため、思い切って本人に聞いてみる。


「俺は、家事が致命的にできないからな」


 と返された。そんなこと、自慢げに言うものじゃないだろうにと思う。

 確かに藤崎家の家事は晃輔に任せきりだ。


 藤崎家は両親共に働いていて、母親は六時過ぎには家に帰ってくるが、父親は早くても九時過ぎに帰ってくる。

 嶺は家事がほとんど出来なく、また、遅く帰ってくる二人のため晃輔が家事の全般をこなしている。


「ああ、そうだ。母さん達から晃輔に伝えてくれって言われてたの忘れてた」

「母さんが?」

「ああ」


 嶺は何かを思い出したのか、おもむろにソファーを立ち上がり、テーブルの上に置いてある珈琲メーカーの準備をする。


「なんて?」

「『突然ごめんね! 明日からななちゃんと一緒に住んでもらうから! 荷造りしといてねー!』だって」

「はぁっ!? いきなり何言ってんの?」


 突拍子もないことを言い出した嶺に思わず頭を抱える。

 意味がわからない。


 あの母親は一体何を言っているんだ。

 というか、一体何がどうしてそういうことになったのだろうか。


 頭を抱えて混乱している晃輔を見て、嶺は申し訳なさそうに呟く。


「ごめんな……なんか色々。一応、俺の知っていることを伝えておくな。まず、俺が会社に辞表を出して、辞めたその日の帰りにパチンコに行ったんだが……」

「はぁ……何やってんのホント」


 嶺の話を聞きながら、晃輔は思わず溜息をつき小言を言ってしまう。


「まあまあ、最後まで聞いてくれ。パチンコに行って適当にやってたら大当たりを引いてさ、お、今日ついてるって思って、その足でたまたまやってた競馬に行ったんだけど、そこでパチンコでの当たり分を全部つぎ込んで賭けてみたら、何と大当たり!」


 相変わらずの強運の持ち主だなと思う。

 まぁ、こんだけ運が良いなら働かなくてもお金が入るだろうし、すぐにニート生活ができそうだ。

 話を聞いた晃輔は少し羨ましいと思ってしまった。


「それで、何で楠木の事業の経済支援をすることになったわけ?」

「ええっと、楠木家の事業の経営が傾いていたことは知っているよな?」

「ああ」

「俺がたまたま大金を手に入れて、そのことを父さんと母さんに言ったんだ。そしたら、母さんが『お願いがあるの、千歳ちとせちゃんの会社を助けて欲しいの!』って言われてな」

「それで、助けたわけだ」

「ああ、そんな感じだな」


 なるほど、全然よくわからない。

 聞けば聞くほど意味が分からない話だと晃輔は思う。


「それで……なんでななと一緒に住むという話になったの?」

「すまん、それは俺にもわからない……いつの間にかそういう話になったらしい。ごめんな」


 そう言って、嶺は晃輔に向かって両手を合掌させて、謝る素振りをする。

 一番知りたいところが、肝心なことがわからなくて、晃輔はもう一度頭を抱えた。


 嶺が幼馴染の両親の会社を助けたことにより、どういうわけか、うちの両親とななの両親の間で話が進み、幼馴染のななと同棲することになった。


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