慣れない生活
「そういえば、こー兄たちって家で何してるの?」
今まで勉強に集中していたあおいが突然そう尋ねてきた。
集中力が切れたのだろうか、丁度休憩しようと思っていたので晃輔はあおいの疑問に答えた。
「何してるのって、普通に生活してるだけだけど。ご飯は一緒に食べるけど、それ以外はほとんどお互い自室に籠もってる。勉強とかあるし。まぁ、最初は戸惑ったけどなんか慣れてきたかな」
「そ、そう……」
「そうだ」
「……」
「なんだよ」
「いや……なんでも」
そう告げるあおいは微妙そうな顔をしてたが、それ以上は何も言わずまた黙々と勉強を始めたのだった。
***
「ただいまー」
晃輔はガチャと玄関の鍵を開けて中に入る。
「って帰ってないよな。今日遅くなるって言ってたし。確か夜ご飯とかは要らないって言ってたよな。よし」
晃輔は、誰もいない部屋で一人そう呟く。
ここに住み始めてからは簡単な掃除しかやっていなかった為、まだ手を付けていない場所は少し埃が被っていた。
せっかくなので、晃輔はななが帰ってくる前に軽く大掃除を始めた。
「ふぅ〜、こんなもんだろう」
大方片付けたので一旦手を止めると、いつの間にか十九時を回っていた。
あおいの家庭教師が終わって家に帰ってから、晃輔は二時間近く掃除の方に熱中してたことになる。
晃輔は掃除により汚れた身体を洗うため、いつもより少し早めに風呂に入り、夜ご飯を作る。
夜ご飯と言ってもインスタントの醤油ラーメンだから大した手間ではない。
「ただいまー」
「……! おふぁふぇふぃ!」
丁度晃輔が夜ご飯を口に入れたところで、ななが帰ってきた。
晃輔はななを見て慌てて麺を飲み込む。
「そんなに慌てなくていいわ。喉に詰まるわよ」
「んんっ……大丈夫。それにしても意外と早かったな。もっと遅くなるかと思った」
慌てて飲み込んだ麺が喉に詰まりそうになったが、なんとか回避する。
「そお? そんなことは無いわよ。それより、お風呂ってもう湧いてる?」
「あぁ、お先に頂いた」
「じゃあ、入ってくるわ。明日はあおいの試合だから絶対見に行きたいし」
「はいはい」
「適当に返事してるけど晃輔も行くんだからね」
「分かってるよ。そのために早く上がってきたんだから」
「そうみたいね……」
ななはパジャマ姿の晃輔をじっと見たあと、ほんのり頬を赤く染めた。
「どうした? なんか顔赤いけど」
「そんなことない! じゃあ入ってくる!」
そう言って、ななはその場から逃げ出すように自室に戻り、準備をしてお風呂に入っていった。
明日の準備が終わり晃輔が寝ようとすると、既にななはベッドで熟睡していて起こさないようにそっとベッドの中に入る。
今だに寝る時、人のぬくもりが近くにあることに全然慣れない晃輔は、また今日も眠れないのかな、と思いながら目をつぶり、眠くなるのを待つのだった。