あおいの家庭教師
「第一回! こー兄の勉強大会!」
「勉強やるのはお前だからな?」
あおいがそんなことを言うものだから、晃輔は思わずそうツッコんでしまう。
「えへへ~、分かってるよ!」
そう言っているあおいはヘラヘラしている。あおいは本当に分かってるのだろうか。
「はぁ……」
晃輔は大きくため息をつくと、昨日のバーベキューでの会話を思い出して頭を抱えた。
***
昨日のバーベキューの時に、母親たちが変なことを言ったせいでこちら側が居た堪れなくなったため、晃輔は無理矢理に話題を変えた。
晃輔が気になっていた勉強の進み具合をあおいに尋ねると、話がトントン拍子に進み、何故かあおいの家庭教師をすることになった。
今考えても本当に意味が分からず、それが晃輔の素直な感想だった。
結局、昨日は帰りも朝と同じ様に、親の運転する車で晃輔とななが住むマンションまで送ってもらった。
晃輔は、日中のバーベキューの準備やら片付けをやって相当疲れていたのか、車の中では爆睡したらしい。
家に帰ったらご飯とか作らないと晃輔が思っていると、ななが「私がやるから晃輔は休んでて。晃輔には今日ほとんどやってもらっちゃったから」と自ら料理を作ると言って張り切っていた。
しかし、ななは家事全般……とは言えなくなってきたがまだ苦手なものが多くあることを知っている晃輔はかなり心配そうにななの動向を見ていた。
結局、キッチンが惨事になる前に晃輔が交代し、家事が得意じゃなくても簡単に出来そうなものをななにお願いして、それ以外のものは、冷蔵庫にあるものを使って晃輔が適当に作った。
***
「こー兄? 大丈夫?」
晃輔が昨日の事を思い出して疲れた表情をしていると、あおいが心配そうに晃輔を覗いてきた。
「大丈夫、大丈夫。さぁやるぞ」
「はーい! ほんと、こー兄も大変だよねー。昨日バーベキューして今日は家庭教師なんてねー」
あおいは机に教科書類を並べながらそんなことを言う。
「誰のせいだと?」
思わず目を細めてあおいを見てしまう晃輔。
「わ、私のせいじゃないよ! どちらかといえば嶺兄のせいだと思います!」
あおいは微妙に必死になって訴える。
まぁ確かに今回は嶺のせいだろう。あと晃輔のせいでもある。
昨日はバーベキューでクタクタになって、今日は幼馴染の家であおいの家庭教師。
改めて、結構タイトなスケジュールだと晃輔は思う。
「そういえば、お姉ちゃんの相手ちゃんとしてる?」
突然、あおいはそんなことを晃輔に聞いてくる。
「ななの相手? 同じ家に住んでんだから、相手するも何もないだろ」
晃輔とななは一緒に住んでるため、ななしか会話の相手がいない。
今日は学校のカースト上位の人たちと何処かに遊びに行ってるらしいが。
「だめだよ! こー兄はちゃんとお姉ちゃんを相手する必要があるんだから。せっかく同じクラスになったのに、こー兄、お姉ちゃんと全然お姉ちゃん話してないでしょ!」
何故かあおいがぷりぷりと怒っている。
「そのせいで、お姉ちゃん家だとすっごい機嫌悪いんだから。この数日でだいぶ良くなったけど……だから、こー兄はお姉ちゃんの相手をするって言う責任を取らないといけないの!」
力説するあおいを横目に晃輔は淡々と告げる。
「ほら、そろそろやるぞ」
「うわ……人の話全無視……」
あおいが引き気味な顔で告げるが、こっちはアルバイトということでお金までもらっているわけで、だから、その分気合を入れてやらなければいけない。
頑張り屋のこの子がしっかり報われてくれるように。
「やるぞ。あおい明日試合だろ? だから、早く始めるぞ。まずは数学からだな?」
これ以上言っても無駄だろう、とそう思ったのかあおいも切り替えてくれた。
「うん! じゃあ、よろしくおねがいしまーす!」