バーベキュー
「こー兄! お肉取って!」
あおいにそう言われ、晃輔はクーラーボックスから袋詰めされているお肉を取り出して、あおいのところに持っていく。
「はいはい」
晃輔たちは今、バーベキュー場に来ている。
何故こうなったかというと、それは昨日の夜に、突然あおいから連絡が来たからだった。
***
『明日は楠木家と藤崎家とでバーベキューだから!』
そんな電話がいきなり晃輔のもとに来た。
「……」
『こー兄?』
どうしたの、と言うあおいの声がスマホから聞こえてくる。
「は……?」
遅れて晃輔は、思わず間抜けな声を出してしまう。
「あの……あおいさん? なんて?」
突然のことに晃輔は思わずそう聞き返してしまう。
『明日、楠木家と藤崎家でバーベキューをすることになったから……』
聞き間違いじゃなかった、と晃輔は頭を抱える。
「いや、だからちょっと待て……!」
晃輔は思わず大きな声を出してしまう。
「晃輔? どうしたの?」
リビングで電話をしていた晃輔は、たまたま近くに居たななに、声をかけられる。
『だから明日来てねー!』
そう言って、あおいは電話を切った。
「え」
あおいは言いたいことだけ言って、電話を切ったのだ。
「あちょっ……ああ。ごめん。突然あおいが、明日楠木家と藤崎家の二家族でバーベキューをするからって……」
晃輔は、あおいに言われたことをそのままななに伝えた。
「え……」
ななが固まってしまった。
晃輔とななが急いで親に確認を取ると、もう既に両家とも周知の事実らしかった。
『必要な物はこっちで準備するから、バーベキューできる格好で来てね!』とだけ返って来た。
用意周到過ぎる。そんなことを思う晃輔たちだったがもう既に決定事項らしいので、晃輔たちは大人しく、明日のバーベキューができる格好がないか探すのだった。
***
そして、現在に至る。
「晃輔ー、それ終わったら人数分イスとテーブル出しとけよー!」
「わかった」
「ガンバレー晃輔くん!」
両家の父親たちは、自分たちの分のイスを出して、既に寛いでいる。
いくら家からバーベキュー場まで距離があるから疲れるとはいえ、流石に人の扱いが雑過ぎる気がする。
嶺兄さんもいるのに、と晃輔はそんなことを思いながら作業を進めた。
嶺の方を見ると、母親たちと一緒にバーベキューの食材を串に刺していた。
ついでに、あおいもそこで手伝いをしている。
「おつかれさま」
晃輔が一人で頑張っていると、いつの間にか晃輔のすぐ横に居たななに話しかけられる。
「おう。なぁ……あれって……」
そう言って、晃輔はあおいたちがいる方向を見る。
晃輔につられて、ななもあおいたちを見る。
「あおいたちが……いるわね」
「ゲテモノが並ばないと良いけど……」
「……」
晃輔がそう告げると、ななも同じことを想像したのか黙り込んでしまった。
「……それは大丈夫だと思うわよ。そのための、ストッパー役が嶺兄さんだと思うし……」
そう言うななの語尾は、徐々に小さくなっていく。
この間あおいは「こー兄! セミって食べられるんだって!」と言っていたので、正直もの凄く不安だ。
晃輔としては正直、あおいに昼ご飯を作らせるのは反対だった。
どうしても気になってしまい、あおいたちを見ていると、あおいと目が合った。
「こー兄! お姉ちゃん! 楽しみにしててね!」
あおいは元気よくそう告げた。
「晃輔、準備お願いね」
「頑張ってー」
あおいに便乗してか、真実と千歳から次々とそんな言葉が投げられる。
「ファイト……」
嶺は控えめに晃輔にそう告げた。
「はぁ……」
「大変そうね……」
ななが心配そうに覗き込んでくる。
「手伝おうか?」
「だめだよ、ななちゃん。晃輔の仕事だからー」
「うるさい!」
「……大変ね……」
晃輔と父親たちの会話を聞いていたななは、何処か呆れと哀れみが含まれた顔で晃輔を見る。
「はぁ……」
今日何度目かわからないため息をつく晃輔。
結局、ほとんどの準備を晃輔がやることになって、バーベキューコンロに具材が並び始めたのは、準備が終わったお昼過ぎだった。




