文化祭デート2
生徒会、放送部の出し物を見に行った後は、食べ物を売っているお店に立ち寄って食べ歩きをして校内を周った。
そうして、気付けば文化祭一日目はあと一時間ぐらいになっていた。
晃輔とななは仲良く恋人繋ぎをした状態で、目的のクラスを訪れる。
「あ! お姉ちゃん! お兄ちゃん!」
二人が目的のクラスを訪れると、袖と襟にフリルの付いた瑠璃色の浴衣を着て大きな髪飾りで髪を結ったあおいが晃輔とななに近付いて来た。
「こんちには、あおい」
晃輔とななが教室に入ると、室内に居た浴衣を着た生徒たちに歓迎された。
室内をよく見渡すと、射的や輪投げ、スーパーボールすくい、ヨーヨーつりなどの屋台らしきものがあった。
どうやら、あおいのクラスの出し物は縁日をやってたらしい。
よくできているな、と晃輔が感心しているとすぐ側で声を掛けられた。
「なな先輩、晃輔先輩。ようこそ、私たちのクラスへ」
淡紅藤色の浴衣に身を包んだ凛が丁寧にお辞儀して、晃輔たちを出迎えてくれた。
「ありがとう凛さん。夏のボランティアぶりね」
「そうですね……お久しぶりです」
そう言って、凛は苦笑して応える。
ななは、凛がすっと視線を動かして、繋いである手を見て、生暖かい視線を向けてきていた事に気付いたものの、あえて気付かないふりをして話を続けた。
「……それで……ここは縁日をやっているんでしだっけ?」
「ええ、そうです。やっていかれますか?」
「ぜひ。それじゃあお願いできる?」
「もちろんです!!」
そうななが尋ねると、凛は「お任せください!」と満面の笑みを浮かべた。
あおいと凛が進んで案内役を担い、晃輔とななを案内することで、二人に注目して集まった人たちが急速に履けていった。そして、晃輔となな、あおい、凛たちのやり取りを遠目から見つめ始めた。
晃輔は、この数週間のおかげで注目され人に見られることに慣れてきたのか、居心地の悪さは感じるもののあまり気にしないようになっていた。
晃輔とななはあおいと凛に案内され、輪投げ、スーパーボールすくい、ヨーヨーつりを順番にやっていった。
基本は晃輔とななが二人で楽しみ、あおいと凛はそんな二人の様子を見守っていた。更にその様子をクラスのスタッフや他の客が見守っている。
途中、二人でヨーヨーつりをやっていると、隣に居るななが真剣にヨーヨーと格闘としていて、思わず苦笑いしてしまった。
「あ、もう時間が……」
晃輔とななが、あおい、凛案内の下縁日を楽しんでいると、いつの間にかあっという間に時間が経過していた。
最後に晃輔たちが遊びに行ったのは晃輔が得意とする射的だ。
晃輔とななが射的が出来る場所まで来ると、晃輔は何か思い出したようにななに近付き耳打ちした。
あおいや凛はその様子を見つめて不思議そうに首を傾げた。
「じゃあ、射的やりたいんだけど……お願いしてもいい?」
晃輔とななを案内してくれる凛に、晃輔が優しく尋ねる。
「もちろんですよ。ちょっとお待ちくださいね……ごめんねお願いしてもいいかな?」
そう言って、凛は射的スペース担当の男子生徒にお願いする。すると、凛にお願いされた男子生徒は、一瞬、凛を見て硬直する。しかし、あおいや晃輔、ななを見て鋼の理性で耐え、説明を始めてくれた。
因みに、男子生徒が硬直した理由は、当の本人は全くの無自覚らしいが凛は何か人に頼む時に無意識に上目遣いをしてしまうらしく、それの影響をモロに受けてしまったからだろう。
「それじゃあ……」
銃の扱い方の説明を受けた晃輔が、銃を手に取って構える。そして、ゆっくりとした動きで目的のものに照準を合わせた。
晃輔が真剣な表情で銃を構えた瞬間、一瞬、教室内から音が消えた気がした。
まずは一発。引き金に指を掛けてコルク玉を放つ。
すると、晃輔によって放たれたコルク玉は目的のものに向かって真っ直ぐ突き進んだ。
コルク玉は、その目的のものの頭部に当たったが、ものが重すぎてびくともしなかった。
『惜しい!』
教室に居たほぼ全員の声が重なった。
惜しいかな、と晃輔は思わず苦笑いしてしまう。
「………………」
晃輔は少し考えると趣向を変えた。
目的のものの正面に立っていた晃輔だったが、立つ位置を変更する。
「……晃輔?」
「こー…………お、お兄……ちゃん?」
「……晃輔先輩?」
『…………?』
晃輔は無言で少しだけ屈むと、いつになく真剣な表情で引き金を引いた。
放たれたコルク玉は、目的のものの真下を通り抜け、その背後にあった黒板に跳ね返り後頭部へ直撃する。
『………………へ?』
晃輔は全く同じ位置からその後頭部に向かって正確にコルク玉を放ち続けた。
そして最後の一発を撃ち終えると、目的のもの……薄萌葱色のくまのぬいぐるみが他の景品を巻き込んで床に引いてあったシートに落ちた。
『………………!?』
教室内に居た者は、今しがた晃輔がやった神業に、ギョッとして目を見開く。どうやら驚き過ぎて声が出せなくなっているらしい。
それは、一番近くで晃輔の勇姿を見ていたななやあおい、凛も同じ。
「凄い! 凄いよ! お兄ちゃん!」
一早く我に返ったあおいが大興奮する。
すると、それを皮切りに他の皆も晃輔を褒め称え始めた。
あおいのおかげで金縛りから解けた凛は、景品のくまのぬいぐるみとお菓子、それとティアラが入った箱を手渡す。
「お、おめでとうございます。まさかああいうやり方で取りに来るとは……流石ですね」
「あはは……ありがとう」
若干引き攣った顔をする凛を見て苦笑いしつつ、晃輔は受け取ったくまのぬいぐるみをあおいに手渡した。
「…………………………へ? 何で? お兄ちゃん?」
そう言って、あおいはまじまじと晃輔を見つめる。
突然、晃輔からくまのぬいぐるみを渡された理由が分からないからだ。
「それは、俺とななからだよ」
「こー、お、お兄ちゃんとお姉ちゃんから?」
素でこー兄と呼ぼうとしたあおいは、慌ててお兄ちゃんと呼び直した。
「そうよ。まぁ……お礼みたいなもの、ね」
「お礼? 何の?」
「私たちが付き合う以前も、あおいは色々とやってくれたでしょ?」
「それに……あおいには色々と世話になったからな。今までや日頃の感謝を込めて……って事なんだけど……要らなかったか?」
「う、ううん! すっごく嬉しい! ありがとう!」
晃輔とななが顔色を伺うように恐る恐る尋ねると、あおいはにへっと相好を崩した。
「大事にするね!!」
太陽のような笑顔でそう応えるあおいに、晃輔やななをはじめとした教室に居た皆も嬉しそうに顔を綻ばせる。
「よかった」
「……そうだな。それで……よっと」
晃輔は、凛から貰った箱を素早く開けると、ななの頭にティアラを被せた。
すると、ななから間抜けな声が出た。
「……へ?」
『おー!!』
「まさか、ティアラまで同時に落とせるとは思わなかったんだけど……」
晃輔はそう言って苦笑いする。
ななにとっては完全な不意打ちだったためか、状況を理解できていないらしい。
ななは自分の頭に置かれたティアラに手元に持ってくると、ようやく自分の頭に何が置かれていたのか理解する。
「これって……ティアラ?」
「そうだけど……嫌だったか? もともとななに贈るつもりでいたんだけど」
「ううん!! 全然嫌じゃないよ! ありがとう!! ……えっと……その……似合ってる?」
「超似合ってる」
「そっか……良かった」
晃輔が即答すると、ななは嬉しそうに破顔した。
そんなラブラブカップル二人のやり取りを、傍で見守り続けた凛が呆れたような眼差しを向ける。
「正直、てっきり指輪を狙うかと思ってたんですが……まさかくまのぬいぐるみとティアラを狙って落とすとは……指輪はいいんですか?」
「いい、かな……既に手に入れてあるから」
晃輔がさらりと意外と衝撃な発言をする。
すると、なな、あおい、凛の三人は揃って目を丸くした。
「「「…………へ?」」」
なかなか愉快な反応をする三人を見て、晃輔は思わず苦笑いする。
そして、晃輔はすっとななに近付くと左手を取った。
「へ?」
晃輔の突然過ぎる行動に理解が追いついていないのか、ななから間抜けな声が出た。
すぐ傍に居るあおいと凛も、まだ理解が追いついてないらしく、半停止状態。
晃輔は穏やかな表情を作って、ななを正面から見つめる。
晃輔に左手を取られ、正面から見つめられたななは、ようやく理解が追いついたのか、白い頬がどんどん紅潮していく。
「……へ? え、えっと……」
晃輔はそんな可愛らしい最愛の彼女を見据えて、ポケットから取り出した玩具の指輪をななの左手の薬指にゆっくりとはめた。
「これからもよろしくな。なな」
晃輔が優しい声でそう告げると、ななは頬を紅潮させてボッーと晃輔を見つめた。
すぐに正気に戻り、ななは限界まで顔を赤くする。
そして、耳まで真っ赤にしたななは幸せそうに微笑んだ。
「ええ、こちらこそ。末永くよろしくね」
ななは晃輔を見つめて幸せそうに破顔した。
いつか本物の指輪を贈れるようにならないとな。
晃輔は心の中でそう誓って、破顔しているななを見て穏やかに微笑んだ。
一方、晃輔とななのやり取りを一番側で見ていたあおいと凛は、つられて顔を赤く染め上げていた。
「何、この甘々空間……」
突如始まった二人だけの空間に当てられて、顔が引き攣りそうになる凛。
「…………お姉ちゃん。良かったね」
最愛の姉と大好きな人が幸せそうにしている光景を目にして、あおいはどこか寂しそうな顔をしながらも小さく祝福の声を上げていた。




