文化祭デート
晃輔とななが担当する時間で騒ぎがあってから、少し。泰地の提案で晃輔とななは二人で念願の文化祭デートを始めた。
恋人繋ぎをして、体を寄せ合いながら歩くと、ななが小さく声を漏らした。
「ふふふ」
晃輔の隣でご機嫌そうに破顔させるななに、思わず晃輔は苦笑いする。
あまりにななが幸せそうに微笑むので、ななとすれ違った人たちがななに視線を奪われる。
すれ違う男性の殆どが目を奪われていて、一緒に居る女性は、コホンと咳払いしてななに視線を奪われている男性を咎めていた。
「見られてるなー」
「そうね……まぁ、こんな格好だし。まさか給仕服のまま教室の外に繰り出させるとは……宣伝してこいってことだとは思うけど……流石に恥ずかしい」
「後で石見に苦情入れとくか」
「本当にね。梨香子にも着させようかしら」
晃輔とななは、そんな事を言いながら、一緒に廊下を突き進む。
「さて……最初は生徒会の出し物だっけ」
「そうね。まずは藍子がやってるんだっけ」
「で、その後は順哉の放送部か。何をやってるだか」
「ふふ、気になるね。行ってみましょう」
晃輔とななは、そんな他愛も無い話をしながら、順哉たち放送部が行っている出し物に向かって歩いて行った。
暫く廊下を歩くと、土井が所属している生徒会が使用している部屋に辿り着いた。
「ようこそ。生徒会室へ……ななと藤崎くん。何しに来たの?」
晃輔とななが恋人繋ぎをした状態で生徒会が普段使用している部屋に入って行くと、心なしかげんなりとした表情の土井に歓迎された。
どうやら、今の時間の当番は土井と一個下の後輩だけらしい。午前中クラスの出し物をやって、午後は生徒会の出し物とか、どれだけハードスケジュールで動いているのか。
「あれ? 私たちあんまり歓迎されていない?」
「別に、恋人繋ぎして、容赦無く周りにお砂糖をばら撒く人は歓迎してないって、そんな事は言ってないよ」
「心の声が、全部声に漏れてるわよ」
「……抑えきれてないな」
ななと晃輔は呆れを隠さずそう告げる。
後輩の生徒会役員の少女は、もの珍しいそうに晃輔たちのやり取りを見つめていた。
「えっと……そしたら、スタンプラリーの台紙を貰って良い? 確か、やりたい生徒は生徒会室で貰うって聞いたから」
「わかった」
「ありがと」
「他は? どうする? 何もないけど?」
「それを言い切っちゃうのも凄いのよね……」
「実際、生徒会室に集客出来るものなんて無いし。強いて言うなら、展示?」
土井は、無表情で首を傾げながらそう言うので、ちょっと怖い。
「展示なんてやってるのか。てっきりスタンプラリー用の台紙とか、困っ時に駆け寄る場所になるのかと勝手に思ってた」
「その認識で合ってるよ。展示は先輩たちが、単に自慢したいだけ」
「結構な言いようね……」
「だな。結構辛辣」
「私は、見る必要ないと思ってる。過去の、生徒会の栄光の記録なんて死ぬほどどうでも良いと思う」
と、そう言って土井はななと晃輔を真剣に見つめた。
「大切なのは今。それと、これから。未来をより良くするにはどうすべきかって考えるべきだと私は思う」
普段は口数が少ない無機質系の土井だが、今日は珍しく口数が多い気がする。
文化祭という行事でテンションが上がっているからだろうか。
「まぁ……たしかに、その通りだな」
「まぁ、せっかく生徒会室まで足を運んだんだし、ちょっとだけ見させてもらうから」
そう言って、晃輔とななは力説している土井を放置して展示を行っているスペースに向かう。
生徒会の展示スペースには、生徒会の今までの功績を示した証書や盾、トロフィーなどが置いてあった。
さらに奥に進んで行くと、一番奥のスペースだけは物販になっており、百均で買ったような物が高値で売られていた。
晃輔はそこに売っていた物の前で足を止め、ななが他の展示に気を取られている隙に土井に近付いてそれを購入したいと告げる。
すると、土井は小さく口元を緩めて生暖かい視線を向けてきた。
「晃輔? 藍子? どうしたの?」
「えっ、えっと」
「何でもないよ。ね?」
「はい」
「…………? そう? そしたら、そろそろ別の所行こう?」
「ああ。じゃあな」
「ふふ」
「? どうかした?」
ウキウキ顔のななに促され生徒会室を出ていく晃輔を見ていた土井は、思わずふっと笑ってしまった。あんなに幸せそうなななの表情を引き出せるのは晃輔一人だけ。土井は、その事に改めて気付いてちょっと可笑しく思ってしまったのだ。
「何でもないよ。文化祭楽しんでおいで」
「うん! ありがとう!」
土井に廊下まで見送られたななは笑顔でそう告げ、次なる目的地へ向かって行った。
生徒会室で一通り展示を見た晃輔とななは、次の目的地である場所まで二人仲良く並んで歩き、その場所まで到着した。
「ようこそ放送ぶ……へ…………なんだ二人か」
入るなり、恋人繋ぎをして部屋に入って来た晃輔とななを見て、げんなりとした表情をする順哉。
「……何か、ついさっきと似た反応だな」
「……藍子の所もそうだったんだけど、何でそんな反応?」
「執事服とメイド服を着たラブラブのカップルが、そこら中に甘々なお砂糖をばら撒いてるっていう噂が流れておりまして……」
順哉はどこか遠い目をしてそう言う。
すると、ななは顔を赤らめて順哉を軽く睨んだ。
「俺を睨まれても……」
「…………」
晃輔は、噂を流した犯人があのバカップルで間違い無いと瞬時に見抜いた。
あとで絶対何かしらの報復はしておこう。晃輔は心の中でそう決心すると、すぐに気持ちを切り替える。
「それで、放送部って何やってるんだ?」
「やってる事は、スピーチコンテストとか、大会の練習用に使っている部屋で、マイクへ向かって大声で叫んで、その音量を測って、百デシベル超えたらお菓子を渡すってやつ」
「何それ?」
「意外と人気だぞ。防音室を使うから自分の叫び声が外に漏れることはないし、ストレス発散にもなるって。それでお菓子貰えるから良いって…………やってるみるか? 因みに二百円」
「金取んのかよ」
「当然。こっちも商売なので。さっきので大分ストレス溜まっちゃっただろうし、発散していったら?」
「どうする? やるか?」
「……そうね。スタンプ貰ってから。さっきの分と、希実たちの分も含めて叫ばしてもらおうかしら。晃輔もやるでしょ?」
「まぁ……」
「了解した。さっきのは気の毒だとは思うけど。でも、少しは自重してほしい。お砂糖を当てられるこっちの身にもなってほしい」
「「……すみませんでした」」
順哉が苦言を呈すると、晃輔とななは素直に謝った。
二人合わせて四百円を順哉に渡すと、防音室に案内された。
なな、晃輔の順に、シフト時間で起きたトラブルで溜まっていたストレスを思いっ切り叫んで吐き出すと、見事に二人とも百デシベルを超えた。
特にいちゃついた覚えが無いのだが、目標の百デシベル超えて二人して喜んでいると、順哉から「そういうところだよ」と呆れられてしまった。




