報告
晃輔とななが交際を始めて、初めての週末。
久々に両家の予定が空いている事を知った晃輔とななは、自分たちの住まう家に藤崎家と楠木家の両家を招いた。
「何か、久しぶりにお姉ちゃんたちの家に来た感じだね〜」
「そうだな」
「…………あれ? 嶺兄は来たことあったっけ?」
「どうだろうな」
「んー。嶺兄のいじわるー」
あおいは手に持っていた餃子の皮に餡を詰めながら、プクッと頬を膨らませる。
すると、あおいと嶺と一緒に餃子の皮に餡を詰めていた両家の母親、真実と千歳が小さくため息をついた。
「あおいー。喋るのは良いけど手を動かしてねー!」
「はーい……」
「嶺もね」
「え、何で俺まで?」
「あなた最年長でしょう? お願いだからもう少ししっかりして……」
真実の顔から心配や疲労といった感情が見て取れ、嶺の表情が曇る。
就職をしたものの、直ぐに仕事を辞めてしまい、現在進行形で親に迷惑をかけてしまっている嶺は何も言えなくなってしまった。
「「「「………………」」」」
リビングに重苦しい空気が漂い暗い雰囲気になってしまった事に、いち早く気が付いたあおいがわざと明るい声を出す。
「だってさ嶺兄」
「……うっせ」
「ふふ〜ん」
気を使えるあおいが機転を利かせてくれたことに気付いた嶺は、小さく口を動かして感謝の意を告げる。
そして、一度大きく深呼吸をして軽く頭を振ると、嶺の横に座る真実としっかり目線を合わせた。
「ちゃんと頑張るから。見ててほしい」
「うん。分かった。言ったからには、ちゃんと頑張りなさいよ」
「ああ」
嶺と真実はお互いを顔を見合わせる。嶺の正面に座るあおいとあおいの隣に座る千歳は顔を見合わせて笑い合った。
「さあ、湿っぽい話はそこまでにしましょう。せっかく今日は餃子パーティーに呼んでもらえたんだから」
「……提案したのはあおいだけどね」
ななはキッチンからリビングに移動しながら疲れた様にそう告げる。
「…………あおい、嶺兄さん、お母さんたちも……餃子作り終わってからで良いから、私たちから大事な話があるから、聞いてもらえる?」
「「「「「「……………………」」」」」」
「分かったわ。真実ちゃんも良い? お父さんたちも」
千歳は、ソファに座っている結夜や洸平に向けて尋ねた。
「うん」
「構わないよ」
***
「それで、ななちゃん。晃輔。話って?」
あおい提案の餃子パーティーなるものも一段落ついたところで、真実がそう切り出した。
晃輔とななは、お互い向かい合って頷く。そして、見せつける様に恋人繋ぎをした。
「その……俺たち、付き合いはじめました……」
「「「「「「……………………」」」」」」
「その、ちゃんと報告した方がいいと思って……」
真剣な表情でそう告げる晃輔となな。
晃輔とななの告白を聞いたあおい、嶺、真実、千歳、結夜、洸平はじっと二人を見つめた。
無限とも思える無言の時間。
実際は一分も経っていないが、晃輔にはそう感じるぐらい緊張していた。
どうやら、それはななも同じ様で、繋いだ手から、脈が速くなっていることが感じ取れて、ななも緊張していることが伝ってきた。
藤崎家、楠木家の両家に見つめられる事約一分。
一番最初に声を出したのは、ななとあおいの父親、洸平だった。
「晃輔くん。なな」
「「はい」」
「まず、勇気を出して伝えてくれてありがとう」
「い、いえ……」
「お父さん……」
「二人が交際する事についてだけど……そんなに身構えなくても大丈夫だから」
洸平の言葉に思わず身構えてしまった晃輔とななに、洸平は苦笑いする。
「私は、君たち二人の交際に反対するつもりは無いよ……いつかこうなるんじゃないかと思ってたしね」
「お父さん……!?」
洸平の言葉にななの顔が赤くなった。
それではまるで「昔からななは晃輔の事が好きだ」と言っているようなもの。
晃輔の隣で、ななは金魚みたいに口をパクパクさせていた。
「おじさん…………」
「結夜さんからは? 何か言いたいことでもあれば……だけど」
「僕からも特にないかな。素直におめでとうって思うよ…………晃輔」
「ん」
「いい? お付き合いするんだったらそれぐらい分かると思うけど、ななちゃんが悲しむ事は絶対しちゃいけないよ」
「分かってる。ちゃんとななを幸せにする。絶対にななを悲しませる事なんてしないしさせない」
晃輔が真面目な表情でそう告げると、嶺以外の外野からヤジが飛んできたので晃輔はそれを思いっきり無視した。
いつになく真剣な表情をした晃輔に、結夜は嬉しくなったのか、頬を緩めた。
「そうか……ななちゃん」
「は、はい!」
「晃輔は素直じゃない所もあって大変だと思うけど、嫌わずに接してくれると嬉しい」
「も、もちろんです! 何があっても私は晃輔の事を嫌いになんかなりませんし、何があっても晃輔の味方です。私は、晃輔が大好きですから!!」
「…………っ」
最愛の彼女が放つ決意の様な言葉を聞いて、晃輔は自分の頬がじわじわと熱をもっていくのを感じた。
嬉し恥ずかしという感情が大きく晃輔が何も言えなくなっていると、今まで空気を読んで大人しくしていたあおいが笑いながらちゃちゃをいれた。
「まあ、お姉ちゃんがお兄ちゃんを嫌うなんてこと、絶対に無いだろうけどね」
「ちょっ、あおい! 今大事な話をしてるんだから!」
「ごめんってお姉ちゃん」
あおいが苦笑いしながらななの苦言を躱す。すると、同じ様に静かにしていた嶺があおいに尋ねた。
「その様子だと、あおいは知ってたんだな? 晃輔たちが付き合い始めたこと」
「うん! 体育祭終わった後の、あのゆるゆるのお姉ちゃんの顔。それとお姉ちゃんとお兄ちゃんの雰囲気を見たらねー。流石に分かるよ!」
「…………………………」
「どうしたの? 嶺兄?」
「いや、何でもない」
「……何でもないなら何でいきなり頭撫でるの?」
「何でだろうな」
そう言いながら、あおいの頭を撫で続ける嶺。
あおいは、微妙に不服そうな顔はするものの、嫌がったりはしてないので、嶺に頭を撫でられるのは満更でも無いのだろう。
「さあ、話もまとまった事だし、続きしましょう」
「そうね。せっかく晃輔とななちゃんが焼いてくれた餃子が冷めちゃうし」
「はーい!」
千歳、真実がそう告げると、あおいが元気よく声を出して再び餃子を食べ始める。
あおいに続いて嶺たちも餃子を食べ始めると、真実と千歳が晃輔とななを向いて告げた。
「ななちゃん」
「は、はい」
「晃輔をよろしくね」
「はい!」
「晃輔くんも、ななをよろしくね?」
「はい!」
晃輔は強く頷くと、ななの方に顔を向ける。丁度同じタイミングでななも顔を向けたらしく、ななと目が合った。
ななは、晃輔と目が合うと幸せそうに微笑んでいて、それを見た晃輔も自然と笑みを浮かべていた。




