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採寸


 放課後にあおいと出掛けた次の日、何故か晃輔は朝早くに自分たちの教室に集められていた。


「で、集められた理由っていうのがこれか……」


 晃輔は、目の前でシワがつかないように綺麗に広げられているメイド服を見てため息をついた。


「そう! 衣装の採寸」

「衣装って言ってるし」


 どうやら晃輔たちが朝早くに集められた理由は、クラスの出し物で着用する給仕服のための採寸らしい。

 昨晩、石見からグループに連絡が来たときは正直何事かと思った。


「流石に時間があんまり無いからねー。出来る事はなる早でやっておきたいんだよねー」

「ほんとにそれ」


 登校して教室に到着するなり、ななを速攻で拉致して制服の上から採寸を始めた石見と土井がそう告げる。


「そうですか……」


 文化祭における晃輔たちのクラスの出し物が喫茶店に決まったとの報告があった瞬間、その時のクラスの男子の興奮度合いに晃輔は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「本当はオーダーメイドでいきたいんだけど……生憎そんなお金も時間も無い訳だし……」


 制服の上からななの採寸をする石見がそう告げると、ななが顔を赤らめて恥ずかしそうに呟いた。


「あ、あの……ちょっと恥ずかしいからできれば別の場所で……」


 相当恥ずかしいのか、ななは顔を真っ赤に染め上げていた。

 自分が採寸されている様子を皆に見られているという羞恥で顔を赤らめているなな。

 そんなななの様子を見て流石に可哀想と思ったのか、石見と筋乃は顔を見合わせる。


「……あ、そ、そうだね……場所変えよっか」

「ごめんねなな」

「う、ううん」


 真面目な筋乃といつもは少しおふざけが入る石見だが、こればかりは流石にななが可哀想だったので、二人は申し訳無さそうな表情でななに謝っていた。


 石見と筋乃の二人は申し訳無さそう表情で急いで準備をする。

 石見と筋乃が準備を終えると、ななと希実、土井を連れて教室の外に出る。そして、泰地に向かって声を上げた。


「じゃあ、そっちお願いね〜!」

「おう! 了解」

「……………………?」


 何だか不安な言葉を残していった石見に、晃輔は背筋が冷たくなる様な気がした。

 非常に嫌な予感がする、石見の言葉を聞いてそう思った晃輔が泰地や昌平に顔を向けると、その泰地と昌平はニヤリと笑った。


「…………マジ?」

「折角だし、晃輔も測ってみようか?」

「何で?」

「良いから良いから。高紘、順哉手伝ってくれ」

「了解〜」

「おっけ」

「……俺は何も良くないんだが!?」


 泰地と高紘に後ろから羽交い締めされ身動きが取れなくなった晃輔は、服の上から無理矢理採寸させる。

 運動部所属の二人に押さえつけられてしまえば、晃輔の抵抗など無意味に等しいものになる。


 抵抗をしても意味が無いと悟った晃輔は抵抗を諦めて力を抜いた。

 晃輔はせめても抵抗だと思い、思いっきり顰めっ面をしてやった。


「晃輔、嫌な顔しない」

「いやするだろ」

「何で?」

「何でって、こんなに朝早く呼ばれて……今日のメインはななの採寸じゃないのかよ?」

「そうだけど?」

「……じゃあ何で俺まで採寸されてるの?」

「もともとそういうつもりだったから?」

「答えになってねえよ」


 どうやら、昌平は晃輔の質問には答える気が無いらしく、適当に受け流された。


「まぁそれは冗談として、ちょっとした希望があってな」

「希望?」

「………………」

「おい泰地」

「と、取り敢えず、服に関しては今衣装担当が被服部と交渉してる」

「は? まさか作るのか? これから?」

「足りない分はって感じだな……」

「足りない分はって……」

「石見の趣味が……俺も知らんかったんだけど……制服とか可愛い服集め? らしくて……所謂メイド服とか、執事服とか」

「マジか……」


 晃輔は泰地から出た情報に少し驚いた。

 と、同時に、何となく微妙にタイプの違うななと石見が仲良くなった理由みたいなものを感じた。

 可愛い小物などを好むななと可愛い服などを好む石見。


 後から泰地に聞いた話だが、石見とは最初は方は接点が無かったらしく、今見たく一緒に行動をしていた訳ではないらしい。


 二人が接点を持ったのは一年生の時にあったグループワークで同じ班になった時らしく、当時、そのグループワーク中に意見の食い違いから石見が孤立する事態が起き、そこで手を差し伸べたのがななだったらしい。


 石見は、最初は何か裏があるのではないかとななを警戒していたらしいが、お互いに本音を言い合う場面があり、本音をぶつけ合った結果、ななの素直な気持ちを聞いた石見は心を開き二人は仲良くなったらしい。


 そういう繋がり方もあるんだな、と話を聞いていた晃輔は密かに心の中でそう思った。

 泰地が知っているのはここまでらしく、恐らく、その後お互いに好きな物でも言い合って、何かしらの共通点でも見つけ認め合い更に仲良くなったのだろう。


「そんな事があったのか」

「……………………はぁ」


 泰地の話を静かに聞いていた晃輔が呟くと、泰地は大きくため息をついた。


「どうした? 泰地」

「いや。何でも。ただ、当時の石見の状態といい……ななのやってる事といい……なんか、誰かさんと全く一緒だなって思っただけ」

「?」


 泰地の言っている意味が分からず、晃輔は首を傾げる。

 すると、その晃輔の様子を見ていた昌平、高紘、順哉は苦笑いした。


「………………」


 泰地は、いじめ云々が原因となって途中で疎遠になった晃輔と異なり、晃輔を気にしながらずっとななの近くに居て見守り続けてくれた。

 晃輔の胸にじんわりと温かいものが溢れていくのを感じて……無意識に口から感謝の言葉が漏れていた。


「ありがとな」

「ん? 何の話だ?」

「いや、ななをずっと見守ってくれてたんだろ? だから、ありがとなって」

「………………うるせぇ」

「何で!?」


 普通に感謝の言葉を述べたら、悪態をつかれた。


「晃輔って、人たらしのとこあるよな〜」

「だよな〜」

「あれって無自覚なの、か……?」

「無自覚なら尚の事ヤバくね?」

「そこ! うるさい!」


 ヒソヒソ話になっていないヒソヒソ話をされ、晃輔は吠えた。


 泰地たちによる採寸が終わり晃輔が小休憩していると、教室の隅に置いてあった箱の蓋を開けてゴソゴソしていた泰地が戻って来た。

 その泰地の手には、黒っぽい上品な服が握られていて……誰がどう見ても執事服のそれだった。


「はい、晃輔はこれを着てみて」

「……何であるの?」

「知らん。石見に聞け」


 晃輔は、何故か少し機嫌が悪くなった泰地に言われた通り、執事服に腕を通した。


「「おー。似合うー」」

「うん。似合ってる」

「…………マジで意味分かんないくらい似合ってるんだけど……」


 一人若干引いている者もいるが、四人の反応を見る限り、一応様になっているらしい。

 晃輔がひとまず安心していると、教室の扉が開いた。


「そっち終わった?」

「終わったぞ。この通り」

「おおー。良いねー、格好良い。それで、格好良い藤崎くん。ちょっとこっちの空き教室に来てくれる?」

「良いけど、何で?」


 突然移動を促される晃輔が石見に尋ねると、代わりに希実が答えた。


「ななが、最初に見せるのは晃輔が良いって。そういうななのお願いなんだもん」

「一番最初に藤崎くんに見せたいから連れてきてほしいって」


 今日初めて口を開いた土井が、静かな口調で晃輔にそう告げた。



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