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文化祭の出し物


 晃輔たちが通う高校は体育祭が終わると次は文化祭のシーズンになる。

 イベント事が多い学校の中で最も盛り上がる行事だ。


 今日は今月末に行われるクラスの出し物について話し合うらしい。 

 らしい、と言うのは単純に晃輔の興味が無く話を聞いていなかっただけで、ななをはじめクラスの皆は既に今日の議題について知っていた。


「さて、今回の議題は文化祭の出し物についてなんだけど……」


 クラスの文化祭実行委員である泰地と石見が教壇に立ち、クラスを見渡す。


「おさらいなんだけど……今年の文化祭も、昨年と同じように学年ごとに飲食店の数は決まっていること。そして、皆も予想しているとは思うけど、大体どのクラスも飲食店が候補に入ってくること。それで……そうすると他クラスと出店を巡って争いになることは理解しておいて欲しい」


 そう言って、石見はクラスメイトの様子を窺う。

 当たり前といえば当たり前ではあるが、出店できる飲食店の数は決まっている。


 遣り甲斐があると言うのと、客に売った分の金銭を得ることが出来るため、ほとんどのクラスが飲食店を希望するのだ。

 ただ、調理実習室の空きの関係や衛生指導の関係で全ての希望は叶えられない。


 晃輔たちが高校に入学する前の一昨年までの文化祭では、飲食店の出店に制限は無かったらしい。


 しかし、当時の先輩たちが、文化祭当日に自分の店に人を呼び込もうとして、ブラックに近いグレーな方法を取ったため、昨年から飲食店の数に制限がかけられてしまったらしい。


「それで、それも含めてウチのクラスは喫茶店で行くって前に決めたんだけど……」

「はいはーい! うちのクラス、ただの喫茶店じゃなくてメイド喫茶が良いと思います!」


 石見が言い終える前にクラスメイトの誰かが元気良く声を上げた。

 すると、それを皮切りに他のクラスメイトからも声が上がる。


「獣耳喫茶とかは? めっちゃ可愛いと思う!!」

「獣耳ってことは…………流石に飲食店で、喫茶店で動物の毛云々は不味いだろ……」

「まぁ、確かに……」

「コスプレ喫茶は? 異世界仕様の」

「もう文化祭まで一ヶ月切ってるのに、そんな凝った衣装は作れないでしょ?」 

「じゃあ、女装、男装喫茶は? 男女で入れ替えるの」

「却下」


 クラスの誰かがそう提案した途端、泰地が即座にその提案を棄却した。

 その様子を眺めていた晃輔は思わず苦笑する。


 小学校低学年の時、仲が良かった友達と罰ゲーム付きのゲームして、最下位になった泰地が女装をさせられていたのを思い出してしまった。

 泰地も晃輔と同じタイミングでそれを思い出したのか、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。


「何で?」

「何でも」


 思い出したくもないトラウマ級の思い出だから、とは言えない泰地がクラスメイトからの質問を適当に受け流す。


「そっか……残念」

「じゃあじゃあ、大正喫茶は? 楠木さんに着てもらったら絶対似合うし可愛いと思うんだけど……」


 付け足された言葉は小声になりながら遠慮がちにちらちらとななを見る。

 晃輔は、クラスメイトに何だか少し面白くないものを感じるが、面倒なのでわざわざ口に出す事はしない。


「忘れてるかもしれないから一応伝えておくと、予算の限度ってものもあるからね。時間も限られてるしあんまり予算オーバー気味なものはちょっと難しいから」


 予算云々について石見が説明をしている横で、半分呆れた顔をした泰地が視線で尋ねてきた。

 それを、いかにも嫌です、と言わんばかりの渋い顔で対応すると泰地は苦笑いした。


「まぁ、そのへんはななに聞かないといけないからなんとも言えないな」

「一つの案としては良いんだろうけどね。というか、それなら今まで出できた全部の案にななは似合いそうだけど」

「ちょっと! 梨香子!?」

「あはは! 因みにだけど、この中でならななは何やりたいの?」

「確かに、ちょっと興味あるかも。ななはこの中でなら何やるんだろう?」

「希実! 藍子! …………ちょ、絢音!!」

「私が怒られるのか……」


 ななに怒りの矛先を向けられた筋乃がため息をつく。


「私、理不尽過ぎて可哀想………………まあ、なながやりたくないって言うなら無理にやらせるべきじゃないと、私は思うなー」

「ほら」

「まぁ、私はななの可愛い衣装姿見たいけど」

「絢音!?」


 筋乃の、突然の掌返しでななの悲鳴が教室中に響き渡った。

 あまりにも鮮やかな掌返しに、流石の泰地たちも苦笑いをせざるえない。


「それで、晃輔はどうなんだ? 俺は晃輔の意見も聞きたいんだが」


 正直、良いか悪いかで言えば、悪い。

 というか、普通に反対だ。


「………………」


 ただでさえななは、周りからクラスのアイドルやら完璧美少女と言われていて非常に目立っているのだ。


 確かに、なながメイド服や大正時代の給仕服を着ることで売り上げ自体は確約されるのだろう。


 ななの存在は絶対的な広告であり、一目見ようと男子たちが押しかけてくるのが容易に想像出来る。

 ただ、それはななの意見を全無視した場合によるもの。


 晃輔がななの方を見ると、ななは困ったような表情を浮かべていた。


「できれば、あまりななが困らないやつを俺は提案する」

「こうすけ」

「えーと、できれば具体的な意見を出してくれると嬉しいかな」

「………………縁日とか?」

「……意外とまともな案だった」

「おい」

「綺麗な石を集めて展示、とか言われたらどうしようかと思った」

「お前ら…………一体俺をどんな風に見てんだよ」


 泰地と石見、二人にそう言われて複雑な気持ちになる晃輔。


「皆はどう思う? 縁日」


 石見がそう尋ねると、愉快そうな表情を浮かべる希実が声を上げた。


「ななの浴衣姿を見れるなら私は良いけど」


 希実が余計な事を言い放ったせいで、ななの浴衣姿を想像したクラスメイトたちが興奮した声を上げる。


「楠木さんの浴衣姿……良い!!」

「やばい、超見たい!」

「ななの浴衣姿、絶対可愛いだろうなー!」

「夏祭りで浴衣着てたらしいけど、私見れてないんだよなー!」

「でもさー、私メイド服や給仕服も見てみたい!」

「確かに!!」

「メイド服絶対似合いそー!」

「給仕服とか絶対可愛いだろうなー!」


 想像力豊かなクラスメイトたちの感想が教室に飛び交う中で、晃輔は密かに後悔をしていた。

 やらかした、と心の中でそんな事を思い頭を悩ます晃輔。どうやら、余計な燃料を投下してしまったらしい。


 本来は文化祭の出し物についての話し合いだったはずだがいつの間にか「ななにこんな衣装を着させたい」や「いや、こっちの方が可愛い」と言う謎のプレゼン大会が始まり、議題の時間はあっと言う間に過ぎ去っていった。



***



「えーと……じゃあ、最も票が多かったのはメイド喫茶なので…………取り敢えずウチのクラスは喫茶店に決定します」


 激しい話し合いの末、結局晃輔たちのクラスの出し物は、一応喫茶店ということで落ち着いた。



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