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2人の朝


 晃輔とななが交際を始めて、今日が始めて学校に登校する日。

 朝起きて顔を洗った晃輔たちは、二人で仲良く朝食を取った。


 朝食を取った後、晃輔は何故かリビングで待つようにとななから言われた。


「ねぇ晃輔、晃輔の着替えるの早いでしょ?着替えたらちょっとソファで待っててくれる?」

「え?お、おう……」


 一体なんだ、と思いつつ朝食を取った晃輔は、さっさと制服に腕を通して着替えた。

 ななに言われた通りに晃輔がソファに座って待っていると、リビングに通じる扉がゆっくりと開いた。


「お、おまたせ……」


 晃輔が声が聞こえた方に顔を向けると、夏物の制服から冬物の制服に着替えたななが扉を開けた先に立っていた。


「ど、どうかな……?」


 ななは扉を閉めながら、晃輔の反応を伺うようにそう尋ねてきた。


「どうって……」

「……えっと……変じゃない?」

「……全然変じゃない。凄く似合ってる。か、可愛いと思います……」

「……そ、そう……良かった」


 晃輔が自分の思った感想をストレートに述べると、それを聞いたななが恥ずかしそうに顔を赤らめた。


 恥ずかしそうに顔を俯かせてしまったななを見た晃輔も、頬が熱くなるのを感じた。

 晃輔が思わず視線を下に逸らすと、なながリビングに入って来てから何となく感じていた違和感に気が付いた。


「ななさん」

「え、うん。どうしたの?というか、何で敬語?」

「……何で靴下とタイツ履いてないんですか?いつも履いてますよね?」


 晃輔が感じていた違和感の正体……それは制服で学校に行く時には必ず履いているはずのタイツを、ななが履いていないことだった。


 おまけに、今は靴下も履いておらず、スカートの下からは傷や染み一つ無い細く綺麗な御御足が晃輔の視界にバッチリと収まっていた。


 晃輔が思わずななから視線を逸らすと、なながいたずらっぽく笑った。


「そうね……だめだった?」

「だめ……じゃないけど、というかそれは本人の自由だから俺がどうこう言うものではないけど……」


 晃輔が視線を右往左往させながらそう告げると、ななの笑みが更に深まった。


「ねぇ晃輔。もしかして、照れてるの?」

「……うるさい。一刻も早く靴下たちを履いてください」


 晃輔は目を逸らしながら必死にそう訴える。

 すると、突然なながしゅんとした表情に変わった。


「……私の足は見るに耐えない?」

「違っ!そ、そう言うわけじゃなくて」

「じゃあ何で?」

「えっと……それは……照れてるもあるけど」

「………………晃輔?」

「ななが他の人に見られるのは、その……か、彼氏としてあまり……」


 そう言いながら、晃輔は自分の頬が更に熱くなるのを感じた。

 晃輔が言い切らない内に、ななが顔をにやにやさせて晃輔を見つめて来た。


「何だよ」

「ううん。べつに〜」

「別にって……」

「じゃあ、どぉ?似合ってる?」

「とても可愛いし、とても似合ってますので今すぐに靴下とタイツを履いてください!!」

「はいはい」


 晃輔が目を逸らしながら必死に訴えると、ななは素直に自室に戻って行った。

 なながリビングを出て行った後、晃輔はうるさくなった心臓を落ち着かせるように大きく深呼吸をした。


 数分すると、なながリビングに戻って来た。


「なぁ、なな」

「何?」

「もしかして、俺の反応を見るためだけのために靴下とタイツを……何て言わないよな?」

「そのもしかして、だったりして?」

「…………」


 勘弁してほしい、それが晃輔の素直な感想だった。


 朝から彼氏の心臓をいじめないでほしい。

 晃輔は大きくため息をつくと、軽く頭を振った。


「それにしても……今日から冬服だったんだな。すっかり忘れてた」

「やっぱり。晃輔は衣替え期間が始まる前から、もう既にワイシャツ長袖にしてたもんね」

「だって、教室のエアコンめっちゃ寒いから……あれは普通に風邪引く」

「それは確かに。あの教室寒いわね」

「何で、冷房あんなに強くするのか」

「それは……あの教室、暑がりさんがいるからね……梨香子とか希実もそうだし」

「確か、高紘も暑がりだった気がする」

「ウチのクラス、何気に暑がりさん多いよね」

「だな」


 何気ない会話に花を咲かせながら、自室に戻って靴下とタイツを履いてきたななはゆっくりとソファに近付き晃輔の隣に座った。

 そして、晃輔の隣に座って来たななが、晃輔の制服の袖を掴んだ。


「ありがとね」

「…………?」

「……私、こうして晃輔と一緒に登校するの夢だったし」

「………………ずいぶんと小さな夢だな」

「ふふ、そうね。でもね……どんなに小さくても、私にとっては、昔から願ってた、とても幸せな夢が叶ったんだよ」


 そう言って、すっと距離を詰めて来たななは晃輔の肩に頭を乗せた。


「でもね、ちょっと複雑」

「複雑?」

「うん。その……晃輔はかっこいいから、何か他の女の子にたくさん話しかけられちゃいそうだし…………」

「……………………大丈夫。俺はななしか見てないから」

「……ばか」


 晃輔が大真面目に告げると、ななは驚いたように目を見開き、そしてすぐに耳まで赤くなっていった。

 それを見た晃輔は思わず直ぐ横に居るななの頭を優しく撫でた。


「可愛いなあ」

「…………」

「大丈夫だよ。俺はなな以外興味ないし」

「ばかぁ」

「ばかだよ」


 晃輔が小さく笑うと、ななはゆっくりと上体を動かした。


「ねぇ晃輔。行く前にぎゅってしてもいい?」

「ん」


 小さく返事をした晃輔は、ななの前で両腕を広げる。

 すると、ななはゆっくりと晃輔に近付いて細い腕を背中に手を回した。


「温かい……」


 すっぽりと晃輔の腕の中に収まったななは小さくそう呟くと、晃輔の胸板に頬を当てて、そのまま頬ずりを始めた。


 流石の晃輔もこれには色々とくるものがあり、鼓動が速くなるのを感じた。


「……晃輔、ドキドキしてるね……?」

「それは、まぁ……好きな人にこんなに密着されたら、ドキドキしない方がおかしいと思うけど……」

「ふふ。そっか」


 晃輔が小さく告げると、ななは蕩けるような笑みを浮かべて、再度晃輔の胸に頬ずりをした。


 どうやら、晃輔が心臓を高鳴らせている事にご満悦らしい。

 直視しなければ良かったと思えるような笑みを浮かべるななに、晃輔はまたドキドキさせられた。


 ななとのハグタイムは五分くらいで終わった。


「ん……ありがとう晃輔」

「こちらこそ」


 お礼を言うのは晃輔の方だ。

 ななとのハグのお陰で、学校に行く不安が大分取り除けた。


 時計を見ると、そろそろ家を出ないと遅刻しそうな時間になってきたので、晃輔はソファから立ち上がる。


「それじゃあ、行こうか」

「うん!」


 ななは花が咲いたような笑顔で晃輔が伸ばした手を取り、自分の細い指を晃輔の指に絡めた。



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