眠れない夜
「えっと……それじゃあ、隣失礼します……」
晃輔とななが交際を始めた日の夜。
ベットに腰掛けていた晃輔に向って、ななは少し緊張した表情でそう告げた。
「お、おう……」
晃輔から了承を得たななは、少し顔を強張らせながら、下の方からゆっくりとベットに入り、晃輔の隣にちょこんと座った。
いくら両想いとは言え、好きな人の隣で寝るという事実に二人ともドキドキして寝る事なんて出来ないと分かっているため、まだ寝るにしては少し早い時間ではあるが、いつもよりも早くベットに行き、少しでも眠りやすくするために少しの間ななと話をする事にした。
「えっと……その…………晃輔、取り敢えず横にならない?」
「お、おう……」
なながベットに入って来て緊張していた晃輔は小さくそう呟くと、体をずらして仰向けになった。
隣で晃輔が仰向けになったのを確認したななもベットに寝っ転がった。
「…………ねぇ晃輔」
「ん」
「ふふ」
「何だよ」
「……やっぱり緊張してる?」
「しない方がどうかしてると思う」
晃輔の隣でなながいたずらっぽく笑う。
交際する前、晃輔たちがベットで寝る時はお互いくっつかないないように距離を開けているのだが、今は肩や腿がななとぴったりくっついている。
お陰で、肩や腿などの触れている場所からななの温もりを感じてしまい、もう色々と晃輔にはきつかった。
「ふふ。晃輔カチカチだもんね」
「そりゃあな。好きな人と両想いになって……まぁそこまでは良いんだけど…………それでいていきなり一緒の布団で寝るって……何か色々と手順を飛び越えまくってる気がする」
「確かに。それはちょっと私も思ってる……でも、ねぇ……」
「いつも当たり前のようにやっている事の延長線……みたいな?あんまり上手く言えないけど」
「そうね。私も上手く言えないけど、何か、その……正直、付き合う前から、この家で晃輔と暮らし始めてからずっとこうやって寝てたじゃん?だから、その、えっと……」
恐らくななも晃輔と似たような単語を連想したのだろうか。
しかし、上手くそれを言葉に出来なくて苦戦しているようだった。
「もういいや。何か寝れなくなりそうだし」
「確かに」
晃輔が同意すると、ななは大きく深呼吸をした。
そして、無言で晃輔の手をぎゅっと握ってくる。
しかも、ただ手を繋ぐのではなくお互いの指を絡める恋人繋ぎをしてきた。
突然の事過ぎて、頭の処理が追い付かない。
晃輔は自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「晃輔、脈速いね」
「誰のせいだと」
「ふふ。私のせいだね」
「これじゃあ、ドキドキして寝れないな……」
「ふふ、そうね。でもね晃輔。私も今……凄いドキドキしてるんだよ?」
「みたいだな」
そう言って晃輔はほんの少し力を入れて、ななの手を握り返した。
繋いだ手から、ななの体温や脈の速さまで本当によく感じ取れる。
強めに握りすぎたかな、と少し心配してななに顔を向けてみたが、顔を赤らめて幸せそうな表情をしていた。
幸せそうな表情を見てしまった晃輔は、自分の頬が内側から熱くなるのを感じて思わず目を逸らしてしまう。
晃輔が目を逸らすと、ななに笑われた。
「何だよ」
「ん〜ん。何でも無い」
聴いても答えてくれないので、抗議の意を唱える代わりに晃輔は繋いだ手をにぎにぎとしてやった。
するとななは、更に笑みを深めて晃輔を見て来た。
「あはは。くすぐったいよ晃輔」
「知らん」
頬を赤らめた晃輔がそっぽを向くと、なながすすっと晃輔に近寄って来て、耳元で囁いた。
「ねぇ。晃輔」
「!?」
突然耳元で囁かれてびくっとする晃輔。
「ああ、ごめんね。びっくりしたね…………」
「なな?」
頬を赤らめながらじっと晃輔を見つめて来るななに、晃輔は不思議そうな表情をする。
「晃輔って男の子だよね?」
「ああそうだけど……いきなりどうした?というか一体どこをどう見たら女の子に見える?」
「いや、その……私たちって付き合って、その、えっと…………男の子って、その……」
思わず晃輔がななを方へ振り返ると、ななが頬を赤らめながら繋いでいない方の指をパジャマのボタンにかけて、何かごにょごにょと言っていた。
何となくななが言いたいこと……というよりなながこれからやろうとしている事が分かったのだが、交際零日でそれをするのは果たしていいものなのか。
「…………」
少し考えた晃輔は繋いでいない方の手で、ボタンに指をかけているななの手を握った。
すると、ななは驚いたように目を見開き動揺を見せていた。
「こ、こうすけ?」
突然の事で頭が追い付かなかったのか、ななから変な声が出た。
「ストップ。なな」
そう言って、晃輔は真剣な表情でななを見つめる。
ななも同じ様に晃輔を見つめて来た。
「歩きながら、なな言ってただろ。俺たちのペースでゆっくりとって。だから、その、そういうのは…………男としてはその、もちろんなんだけど……」
「晃輔?」
ななは晃輔をじっと見つめる。
今は止まっているが、パジャマのボタンに指をかけている時、ななが小さく震えていた事に晃輔は気が付いていた。
「あまり無理はしてほしくないんだ」
「無理…………そっか気付かれてたかー」
「流石に。震えながらボタン外そうとしてたし」
「あはは……」
晃輔が指摘すると、ななは苦笑いをした。
「なな。俺たちは俺たちのペースで。ゆっくりとお互い理解を深めていこう」
「そうね……ありがとう。何か私焦ってた」
「おう」
晃輔がそう告げると、ななは一度大きく深呼吸をした。
そして、ななは晃輔をじっと見つめてきた。
「ねぇ晃輔」
「ん?」
「一つだけ……一つだけ、私わがまま言ってもいい?」
「どうぞ」
「…………ぎゅっとしてくれない?」
そう言って、ななは若干頬を染めながら晃輔に手を伸ばした。
晃輔はそんなななの表情にどきりとしつつ、無言でななに手を伸ばしてその体を包み込む。
晃輔がななの体を包み込むと、ななが幸せそうに笑った。
「ありがと……晃輔、おやすみ」
「ああ。おやすみなな」
晃輔は、抱き締めたななの温もりを感じながらゆっくりと目を閉じた。




