体育祭と最後の種目
色々と予想外の事が起きた借り物競走が終わり、次は体育祭最後の種目……ななと昌平が二年生代表として出場する全学年混合リレーだ。
借り物競走を担当した昌平と希実は、一度水分補給のために赤組のテントに戻って来た。
すると、借り物競走から帰ってきた昌平と希実は、帰って来るなりハイテンションで会話を始めた。
「いやー、借り物競走大成功だね!」
「そうだな、のん!」
「良かったよね!晃輔」
「あのなぁ……」
「しょうちゃん、晃輔も大成功だって言ってる」
「お、そうか、やったな!のん」
「おい待て、何勝手に話進めてるんだよ」
「「?」」
「いや、?じゃなくて……」
昌平と希実よりも少し早くテントに戻って来た晃輔が昌平と希実の会話について行けずにいると、いつの間にか二人の会話に巻き込まれていた。
すると、晃輔と同じタイミングでテントに戻って来たななが晃輔に近付いて来て、告げた。
「じゃあ晃輔、私行くから」
「お、おう……」
「丹代くんも遅れないようにね」
「はーい」
ななに言われた昌平は元気良く返事をする。
「なな」
晃輔は、入場門に向ってスタスタと歩き出そうとするななを呼び止める。
すると、ななが晃輔の方に振り返った。
「えっと……頑張れ。応援してるから」
晃輔が若干照れながらそう告げると、ななは嬉しそうに笑った。
「うん!ありがと!いってきます!!」
「いってらっしゃい」
小さく手を振りながら、はにかむななを見て晃輔の心臓がドキリと跳ねた。
晃輔が顔に手をやると、頬の部分を中心に熱くなってきていた。
そんな晃輔とななのやり取りを見ていた昌平と希実は、にやにやしながら晃輔に話しかけてくる。
「おやおや〜?」
「うるさい」
「私たち、まだ何も言ってないんだけど」
「顔がうるさい」
「酷い!」
晃輔が悪態つくと、希実は悲鳴じみた声を上げて昌平に抱き着いた。
突然目の前でいちゃつきだした二人を見て、晃輔は思わずため息をついた。
人の事言えないだろ、とそんな事を思いつつも晃輔はそれを敢えて口には出さなかった。
「昌平、そろそろ行かないと」
「えー。まだ大丈夫しょー」
「……お前のせいで赤組負けたら、めっちゃ責められるだろうなー。下手したら全裸で土下座とか……」
「こぇえ事言うなよ…………じゃあ俺もいってきまーす」
「はーい!いってらっしゃ~い!しょうちゃん!頑張ってねー!」
希実は自分の体を目一杯動かして、離れていく昌平に手を振る。
「おう!頑張ってくるぞー!」
昌平はそう告げると入場門の方へ小走り向かって行った。
晃輔は、昌平が入場門に向かうのを眺めていると、何やらあおいと楽しそうに話しているななを見つけた。
晃輔が楽しそうに話す楠木姉妹を見ていると、晃輔の視線に気付いたのか、ななと目が合った。
ななは他の人に気付かれないように、こちらに小さく手を振ってきた。
それに気付いたあおいは遅れて晃輔を見つけると、ななとは対象的に小さな体を目一杯使って大きく手を振ってきた。
晃輔がななたちに手を振り返していると、それを見ていた希実が笑った。
「うっせえ」
「まだ何にも言ってないんだけど…………ねぇ晃輔」
「うん?」
「体育祭終わったらどうするの?」
「どうするって?」
「あの家に帰るんでしょ?」
「いや、今日は一回実家の方に帰る。その後あの家に帰るけど」
晃輔は希実にしか聞こえないような声量でそう告げる。
「そうなんだな……ななも?」
「ああ。汗かいたまま電車乗りたくからな」
「じゃあ、一回家帰ってシャワーを浴びると?」
「そうだ」
これに関しては、昨日の夜にななから提案を受けていた。
晃輔も、体育祭が行われれば汗をかくことは容易に想像できたので、ななのその提案を受け入れる事にした。
晃輔が答えると、希実は真面目な表情になって告げた。
「…………ねぇ晃輔。ななは本気でー」
「わかってる」
晃輔は希実の言葉を遮った。
「ななが一歩、勇気を踏み出してくれたんだ。今度は……俺が勇気を出す番だ」
「ふ〜ん……そっか」
晃輔が力強くそう告げると、希実は満足そうな笑みを浮かべた。
「何だよ」
「何でも無ーい。それが聞けて満足。じゃあ私も行くね!怒られちゃうから」
「おう、頑張ってこい」
「はーい!」
希実は元気良くそう告げると、運営のテントに向かっていった。
運営テントに向かった希実は、スターターピストルを受け取ってスタートラインの方へ向かう。
スタートラインの位置へ到着した希実を確認した他の体育祭実行委員は、出場する選手たちに集合をかけ、リレーのスタートラインに誘導する。
赤組、白組に別れて行う体育祭最後の種目、全学年混合リレー。
各学年の代表が二人ずつ。合計六人でリレーを行う。
その中に、赤組の二年生代表として、ななと昌平が入っている。
何故、ななと昌平がリレーの代表に選抜されたたかと言うと、単純に陸上部よりも走る速度が速かったかららしい。
全学年混合リレーでは、紅白でそれぞれ作戦があるため、走る順番はバラバラだ。
リレーに出場するななと昌平は順番を知っているようだが、晃輔は走る順番は知らない。
走る順番によっては、楠木姉妹の姉妹対決があり得るかも知れない。
一番最初に走る選手がスタートラインに並び、静かにクラウチングスタートの姿勢を取った。
すると、ざわついていた学校全体が静寂に包まれた。
「位置について」
希実は銃口を上に向ける。
「用意……」
一拍置いて空砲の音が校庭に響いた。
その瞬間、スタートラインでクラウチングスタートを取っていた両組の一年男子が、同時に走り出した。
二人とも力一杯走ってトラックを一周すると、準備していた次の選手……赤組は三年の女子、白組は二年の男子にバトンを渡した。
白組の方が僅かに早くバトンをもらって走り出す。
ほんの僅かに遅れた赤組の選手がバトンを受け取ると、赤組の選手は必死に白組を追い掛ける。
しかし、赤組の選手は白組の選手との距離を中々詰められず、どんどん離されていく。
赤組の選手が次の一年女子にバトン渡した時には、約半周分離されていた。
バトンを渡された赤組の選手は、これ以上白組の選手に離されまいと必死に白組の選手を追い掛ける。
白組との距離がほんの少しだけ縮まった所で、白組は二年女子にバトンを渡した。
数秒遅れて次の赤組の選手……昌平にバトンが渡される。
バトンを渡された昌平は、最初からアクセル全開で同じく二年の白組女子を追い掛ける。
バトンを受け取った昌平は、どんどん白組との距離を詰めて行き、やがて白組の女子と横並びになった。
それを見ていた赤組のテントから大声援が上がる。
「すっげえ……」
昌平の走りを見ていた晃輔は、思わず興奮したようにそう呟いた。
昌平が半周を超えて来た所で、赤組代表のななと白組代表のあおいがバトンの受け渡しゾーンの前に立った。
「お姉ちゃん!私負けないからね!」
「私だって!絶対負けないから!」
ななとあおいがお互いにそう告げると、ななを視界に捉えた昌平が思いっ切り叫んだ。
「楠木さん!お願い!」
ななは緩く走りながら昌平のペースに合わせるようにして、バトンを受け取った。
あおいも殆ど同じタイミングでバトンを受け取り、両者同時に走り出した。
両者同時に走り出した楠木姉妹を見た生徒たちから、大きな声援が上がる。
「楠木さんー!頑張れー!!」
「あおいちゃーん!頑張れー!」
「行けー!」
「走れー!」
『頑張れー!!!』
最後の最後の種目で、楠木姉妹対決が勃発して、最早この二人がアンカーと言わんばかりに学校全体が大興奮に包まれた。
ななとあおいは両者一歩も譲らず必死な表情でトラックを駆け抜ける。
「ななー!頑張れー!!」
晃輔が思いっ切り叫ぶと、ななの表情が一瞬緩んだ気がした。
すると、ななが更にスピードを上げて走るので、あおいは必死にななに喰らいつく。
必死な表情でトラックを駆け抜けたななとあおいは、両者全く同じタイミングで三年の男子にバトンを託した。
ななとあおいにバトンを託された三年の男子たちは、生徒たちの大声援を受けながら真剣な顔付きでトラックを走る。
ななからバトンを託された赤組の男子は真剣な表情で走り、ほんの僅かに白組よりも前に出た。
白組も全力で赤組を追い掛けるが、そのほんの僅かな距離が縮まらず、本当に僅差で赤組がゴールテープを切った。
「ゴール!!!」
遅れて白組リレーのアンカーがゴールすると、生徒たちから大きな歓声が上がった。
「優勝は赤組ー!!!」
実況は興奮で鼻息を荒くしながら声を上げた。
「皆さん!体育祭、最後の最後まで白熱した試合を魅せてくれた選手たちに盛大な拍手をお送りください!!!」
実況がそう告げると、学校全体に盛大な拍手が響き渡った。
「ななも昌平もあおいも本当にすげぇよ……」
最高のリレーを見せてもらえた晃輔も、全力で拍手を送った。
「あー、負けちゃったかー」
あおいは残念そうにそう呟くと、ななの方に顔を向けた。
すると、ななもあおいの方に顔を向ける。
「そ、そうね……でも、いい勝負だったわよ。ありがとうあおい」
「こちらこそ。ありがとうね。お姉ちゃん」
晃輔がリレーが終わったななとあおいを眺めていると、ななとあおいは笑顔で握手を交わし、楽しそうに話していた。




