募る想い(なな視点)
遂に体育祭が明日に迫って来た。
体育祭の前日は、設営などの準備をするため授業が午前中で終わる。
実行委員や部活に所属してい無い生徒が帰宅するが、ななは自ら体育祭の実行委員に立候補した希実にお願いされて、実行委員のお手伝い。
後、晃輔と一緒に住んでいる家に帰宅する。
もうすぐ九月も終わるというのにまだまだ全然暑い。
ななはお手伝いでかいた汗を流すためシャワーを浴びた。
シャワーを浴びて汗を流したなながリビングに出ると、いつの間にかリビングに訪問者がいた。
「あ!お姉ちゃん!お邪魔してまーす!」
私の妹、楠木あおいだ。
私を見つけたあおいは人懐っこそうな笑みを浮かべた。
「いらっしゃい」
「あれ?もしかしなくても、お姉ちゃんお風呂上がり?」
「そうよ。というか、見ればわかるでしょ?」
思わずそうツッコんでしまうなな。
完全に乾ききっておらずしっとりと濡れた髪、火照ったように内側からほんのりと色付いている肌。
どこからどう見てもお風呂上がりにしか見えないと思うんだけど。
「そっかー。うん。そうだね〜」
「何よ?」
あおいは、シャワーから出て来たななをよく観察する。
「お姉ちゃんってさぁ……おっぱい大きいよね?」
「………………」
ななは無言で自分の胸を庇うように腕を交差させた。
風呂上がりの姉をよく観察して、その結論がそれなの。
「いいな~。お姉ちゃんは可愛いし、おっぱい大きくて」
そんな羨望の眼差しを向けられても。
驚くほど反応に困る眼差しだ。
「ありがと。あと、私は別に大きくなんてないし。普通よ」
「そお?」
「そうよ」
「そっか……私もお母さんと同じ遺伝子引き継いでる筈なのになー」
そう言って、あおいは自分の胸をもにゅもにゅと揉み始めた。
「………………あおい、それを晃輔の前でやっちゃっだめよ?」
連絡も無しに突然家にやって来て、全然人の話を聞かない上に、突然胸の話を持ち出したと思ったら急に自分の胸をもにゅもにゅ揉み始める。
自由過ぎる。
ななは自分の頭が痛くなるのを感じた。
このままあおいのペースに巻き込まれれば一向に話が進まない気がしたので、ななは思いっ切ってあおいに尋ねてみることにした。
「それで?あおいは何しに家に来たのよ」
「う〜ん?私は単に遊びに来ただけだよ」
「遊びに来ただけ……?」
「うん!こー兄とお姉ちゃんと遊びたいなーって。それに……なんか見てると、そろそろお姉ちゃんたちの関係が変わりそうだしね」
「う」
そう言って、ななは思わずあおいから顔を逸らしてしまう。
すると、それを見たあおいは面白そうに笑う。
「お姉ちゃん可愛いー!」
「うるさい!」
「はいはい。ごめんねお姉ちゃん。でもね……お姉ちゃん。あんまりうかうかしてられなくなってきてるよ」
「うかうかって……どういう意味?」
ななは、あおいの言っている意味が分からず首を傾げる。
「こー兄ね、私の学年では結構人気なんだよ?」
「え」
「球技大会以降、何か、本気でこー兄とお付き合いしたい……そう言ってる人すら居るんだよ?お姉ちゃんがこのまま何もしないなら……ってね」
あおいはそう告げると、小さく微笑んだ。
「………………」
私は今、どんな顔をしているのだろうか。
あまり、いい顔とは言えないんだろうな。
恐らくあおいが言っていることは真実だろう。
二年生になって、私と一緒に暮らすようになって、梨香子たちと関わるようになって、晃輔は確実に変わってきている。
色々な人と関わって、楽しいも嬉しいも悲しいも辛いも色んな経験をしてきた晃輔。
色々と経験して、段々と自信ついてきたのかこの半年で晃輔の顔付きが変わった。
私が一番側で見てたから分かる。
なんというか、人としても異性としても、とても魅力的になってきているのだ。
球技大会……確かにあの時の晃輔はとっても格好良かった。
前向きに変わっていく晃輔に皆が惚れるのは分かるし、それに個人的に晃輔が評価されているのは凄く嬉しい。
でも、同時に焦りもする。
「まぁ夏祭りの時の幸せそうなお姉ちゃんたちを見たら……みんな、こー兄に手を出すのは控えるみたいだけどね」
「……私、全然気付かなかったんだけど……私そんな顔してた?」
「してたよ。すっごく幸せそうな顔してた」
「晃輔も?」
「もちろんこー兄も」
「そっか〜。ふ〜ん。そっか〜」
呆れた表情をするあおいにそう言われ、ななは嬉しそうに笑った。
見るからに幸せそうな表情で、それを見たあおいは引いてしまっていた。
「お姉ちゃん。一人で楽しんでるところ悪いんだけどさ……夏祭りの時、私が上げたアドバイスは役に立ちましたか?」
「……はい。役に立ちました」
「それで?どうでしたか?」
「……告白は出来ませんでした」
「だろうね」
「うぅ……」
「まぁお姉ちゃん事だし……どうせ、周りの雰囲気に流されたくない、って思ったんでしょ?お姉ちゃんらしいっちゃらしいけど」
本当に面倒くさいお姉ちゃんたちだなー、とあおいはななに聞こえないように小さくそんな事を呟いていた。
あおいの容赦の無い言葉がななに突き刺さる。
ななは、逃げるように膝掛けとして使っていたブランケットを自分の頭に掛けた。
「そのブランケット。懐かしいね。昔、こー兄に射撃で取ってもらったやつだ」
「ええ……そうよ。よく覚えてるわね」
「覚えてるよ。季節外れのブランケットを取ってもらった時、お姉ちゃん大はしゃぎだったもんね。わざわざ私に見せに来たんだから。何の嫌がらせかなって思ったけど」
「それは……ごめんなさい」
思わず頭を下げるなな。
昔晃輔と一緒に行った夏祭りで、晃輔に取ってもらったブランケット。
取ってもらってから、もう十年ぐらい経つのかな。
晃輔に取ってもらってから、私はずっとこのブランケットを愛用し続けた。
晃輔は忘れてるかもしれないけど、私にとっては宝物なんだよ。
ななが一人でそんな事を考えていると、目の前のあおいが穏やかに微笑んだ。
「ねぇお姉ちゃん…………楽しかった?今回こー兄と夏祭り行けて」
「ええ!すっごく!あおいありがとね!」
「ううん。お姉ちゃんが楽しかったのなら良かった」
あおいはそう告げると、静かに微笑んだ。
「……ねぇあおい」
「うん?」
「わたしね……多分私はあの時から晃輔が好きだったんだ」
「………………そっか」
「うん。誰よりも優しくて、格好良くて……そして……人のために、誰かのために頑張れる晃輔が……私は大好き」
「……うん」
あおいは穏やかな表情で私の話を聞いてくれた。
ありがとう、あおい。
色々と相談にのってくれて。
あおいは可愛くて、運動が出来て、優しくて、色んな人に好かれる私の自慢の妹だ。
「その素直な気持ちをこー兄にちゃんと向けて、伝えられるといいね」
「ふふ。そうね……」
ななはそう告げると、あおいをじっと見つめた。
「あおい、私は明日負けないからね。勝つのは赤組だから」
「私も負けないよ。勝つのは白組だから」
ななとあおいはお互い真剣な表情で意気込みを伝え合う。
しかし、お互いシリアスな空気に耐え切れずに笑ってしまった。