体育祭の組分け
九月もあと二週間を切り、体育祭まで丁度一週間となった所で、今日は紅白を分ける発表があった。
「あ!私赤組だった!」
振り分けられた紙を見て、希実は嬉しそうにそう呟いた。
「俺と同じだな。のん」
「うん!よろしくね!しょうちゃん!」
「よろしくな!のん!」
そんなに同じ赤組が嬉しかったのか、昌平と希実はわざわざ晃輔の前でいちゃいちゃをしはじめた。
突如目の前でいちゃつきだした昌平たちを見て晃輔が迷惑そうな顔をしていると、泰地が晃輔を覗き込んできた。
「晃輔。どうだった?」
「ん。俺も赤だな」
「そっか……残念だな。今年こそは一緒の色になれると思ったんだけど……」
「……ってことは泰地は違うのか?」
「俺は白組」
「……マジか」
「マジ。何かさぁ……何気に俺って晃輔と同じ色組になったこと無いよな……小学校の時も六年間ずっと白組だったし」
「そう言えば、そうだったな。俺も小学校の時はずっと赤組だったし。中学校の時でも、結局同じクラスにはならなかったしな」
「だなー」
晃輔や泰地たちが通学していた小学校や中学校でも運動会や体育祭があったが、一度も同じ組分けになったことが無い。
晃輔たちが小学生だった時の運動会では赤白の二組分けられるのだが、その時も晃輔は六年間ずっと赤組。
逆に泰地は六年間ずっと白組だった。
中学に上がってからも似たようなものだった。
中学の体育祭はクラスごとに色が分けられる。
一組は赤、二組は青、三組は緑組として色分けされて競技に挑み、順位を競い合う。
中学校では、晃輔は泰地と同じクラスになったことが無かったため、今年こそはと密かに思っていたが、叶わなかったらしい。
「藤崎くんは赤なんだね」
いつの間にか晃輔の席に来ていた石見たちが晃輔にそう告げてきた。
「ああ……そうだけど」
「そっか〜残念」
「全然残念そうには見えないんだけど……石見や筋乃はどうだったんだ?」
「私は白組」
「右に同じ」
「つまり……?」
「白組」
「因みに、ななは赤。ここにはいない藍子は白だって」
「マジ……?」
「晃輔、あと高紘と順哉も白だって」
泰地から告げられた真実に晃輔は大きくため息をついた。
そして、いつの間にか晃輔の席に集まっている泰地たちに疲れたような表情を向けた。
「…………何かの嫌がらせ?」
「いや、嫌がらせって……」
「これ、赤組勝つの相当きつくないか?白組に主戦力集まり過ぎだろ」
思わず疲れたようにため息をつく晃輔に、泰地たちは苦笑いする。
今回の組分け、あまりにも白組に戦力が偏り過ぎている。
泰地、高紘、筋乃とこれだけ見ても、各部活のエース級のメンバーが勢揃いしている。
過去にあおいに振り回されていたお陰で運動自体はそれなりにできる方ではあるが、真面目に部活動をしている高紘たちと比べると、晃輔は間違い無く劣るだろう。
「ところでさぁ。何で今年、こんな近々で赤白の振り分けしたの?去年はもっと前にやったじゃん」
石見の疑問に、昌平とのいちゃいちゃが終わったらしい希実が話しかけて来た。
「何か……今回は色々とトラブったらしいよ」
「トラブった?誰と?何で?」
「何でも、ウチの学校のご近所さんがうるさいって文句つけたらしくて……何か夏休み明けてから直ぐぐらいに連絡来たらしい」
「えー……」
希実が何とも言えなさそうな表情で声を上げる。
晃輔と泰地には文句を言った人が誰なのか直ぐに想像がついた。
「「あいつだな……」」
夏休み明け、という時点でもうあいつ以外考えられなかった。
すると、晃輔と泰地の変化に気付いた昌平が二人に尋ねてきた。
「二人は誰か分かるのか?」
「えっと……うん……」
「多分……というか、十中八九天野だな」
「あまの……?」
「プールでいた……あの……細いやつ。アレの家が高校のすぐ近くだから……だから、多分……嫌がらせなんじゃないかなって思う」
『…………』
推測の範囲でしか何も言えないが、今までそんな苦情が来なかったのに、夏休み明けてから急にそんな苦情が来たんだとしたら、それはもう晃輔たちに対する天野たちの嫌がらせとしか考えられなかった。
「だから、あんまりその事は気にしないでいいと思う。一応開催出来るんだし」
晃輔はそう告げると小さく微笑んだ。
***
「ねぇ晃輔。晃輔は種目なにやるの?」
夕食後、タッパーに夜ご飯の残り物を詰めていた晃輔に、なながそんな事を尋ねてきた。
「…………」
「え。何で黙るの?今日まででしょ?確か希望の種目の提出」
「大丈夫。ちゃんと出したから」
「良かったー。あんまり遅く出すと、体育祭実行委員の希実と丹代くんに怒られるよ?」
ななはホッとしたように息を吐くと、晃輔をじと目で見つめる。
残り物を詰め終わった晃輔は苦笑いした。
「俺は全学年共通くす玉割りと借り物競走」
「……何で?」
ななは呆れたような表情で晃輔を見つめて来る。
「晃輔、運動神経結構良い方よね?」
「いや、別に……」
運動神経が良いかと聞かれると、別に悪くは無いとは思うが、別に運動が得意というわけではない。
過去にあおいに振り回されていたお陰で、そう見えるだけで、別に得意というわけでもないのだ。
「因みにななは?」
「私は学年別対抗リレーと全学年混合のリレーと借り物競走だけど……」
「凄っ……」
思っていたよりもハードな組み合わせに晃輔は驚かされる。
「別に凄くなんて無いわよ……私が出れて活躍できそうなものを出るだけ。徒競走も大玉送りも綱引きも私たちは強制だしね。騎馬戦は出れないけど」
「……騎馬戦は男子だけだからな」
沸騰したお湯を二人分のコップに注ぎなから晃輔はそう告げる。
晃輔たちの学校の体育祭は全員強制参加の種目と希望制の個人種目が有り、個人種目は最低二種目出る必要がある。
晃輔は目立つ事なんてしたくないので、個人種目の方は目立ちにくいニ種目を選択した。
全員強制参加の種目は、徒競走、綱引き、大玉送り。
そして、男子のみ騎馬戦が種目に組み込まれている。
「どう?出来そう?体育の授業でやってるみたいだけど」
「まぁ、何とかな。はっきり言って憂鬱ではあるけど……まぁ頑張るさ。というか、頑張る以外ないと思うけど」
「じゃあ私は、晃輔が私たちのために頑張ってる格好良い姿が見れるわけだ」
「……その言い方はどうかと思います」
聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなセリフをサラリと言うなな。
晃輔は自分の頬が熱くなるのを感じた。
出来上がった珈琲をなな渡して、晃輔は自分の分の珈琲を持ってソファに向かう。
ななは、晃輔の後ろをちょこちょことついて来て晃輔にピッタリくっついて座った。
ほとんど零距離で晃輔の隣に座るななによって、晃輔の心臓に急激に負荷が掛かった。
「ちょ、なな、こぼれる」
「ふふ。ごめんね」
「反省してないな」
「そうね、してない…………ねぇ晃輔。私、晃輔が体育祭活躍するの楽しみにしてるから……お互い頑張ろうね?」
「お、おう……」
晃輔は自分の頬が熱くなるのを感じながら注いだ珈琲を飲む。
本来苦い筈の珈琲が、不思議と今はとても甘く感じた。




