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撫で撫でとぎゅー


「はい晃輔。お願い」


 夜ご飯後、晃輔とななは二人でキッチンに入ってお皿洗いをしていた。


「了解」


 晃輔の隣で機嫌が良さそうに鼻歌を歌っているななからお皿を受け取る。

 晃輔はななが濯いで綺麗になったお皿を受け取ると、それをタオルで綺麗に拭いて食器棚にしまった。


「これで最後だな」

「そうねー。晃輔、先にリビング行ってて良いよ。私、少しだけ水回り綺麗にしてみたいし」

「希実たちにでも何か言われた?」

「分かっちゃうか……まぁそんな感じ。いつも晃輔に料理とか家事関係でめちゃくちゃお世話になってるんだから、せめて掃除とかやった方がいいと思うよって」

「お、おう……分かった。ありがとな。えっと……ケガするなよ?」

「流石に……大丈夫」


 ななは苦笑いしながらそう答えた。

 ななに言われてリビングにやって来た晃輔は、ソファに座って日中昌平に言われた事を思い出していた。


「やっぱり無理だよな……」


 晃輔が小さくため息をつくと、キッチンの方からななが奮闘している音が聞こえてきた。

 少し心配になった晃輔がキッチンの方に目を向けると、掃除しながらこちらを見ていたななと目が合った。


「……!?」


 ななは晃輔と目が合った瞬間、ほんのりと顔を赤らめてすぐさま目を逸らした。

 一体何だ、と思いながらも、気が付くと晃輔の頭は直ぐに昌平に言われたことでいっぱいになっていた。


 絶対大丈夫だから取り敢えず抱き締めてみろよ、と昌平にはカラオケ店を出て別れる際にそんな事を言われた。

 もし、そんな事が言えるなら、出来るなら晃輔は今頃苦労していない。


 去り際に、わざわざ晃輔を動揺させる事を言う昌平を軽く睨むと、昌平は可笑しそうに笑って帰っていった。


「…………」


 正直の事を言うと、ななは細くて柔らかくていい匂いがするので、思春期真っ只中の晃輔としては触りたくなる。


 この言い方では多方面に誤解を招く可能性があるが、実際その通りではある。

 実際その通りではあるのだが、馬鹿正直に言えるわけでも無く、晃輔はこうして頭を悩ませていた。


「晃輔。どうしたの?」


 考え込んでいたら、いつの間にか水回りのお掃除が終わったらしいななが、ソファでボーッとしている晃輔の顔を覗き込んできた。


「!……いや、何でも無い……けど……」

「そう?なら良いけど……晃輔、何か顔変だったから。何か悩んでるんだったら、私でよければ聞くよ?私はいつも晃輔に頼りっぱなしだから……少しぐらいは晃輔の力になりたいし……」

「変って……まぁ、でも確かに……何でも無くは無い……」

「……………………」


 晃輔が言葉を詰まらせていると、ななが小さく微笑んだ。

 そして、無言で晃輔の頭に手を乗せてゆっくりとスライドさせ始めた。


 突然の事に驚きはしたが、晃輔を撫でるななの手付きはとても優しかった。


 ななの撫で撫では不思議なもので、ななに頭を撫でられていると晃輔の身体からどんどん力が抜けていった。

 だからなのか、緩んでしまった晃輔の口から無意識に悩んでいたことが飛び出した。


「はぁ……言えないよな」

「何が?」


 やっと口を開いた晃輔を見て、ななの笑みがさらに深まった。

 そしてななは優しく優しく晃輔の頭を撫でる。


「抱き締めてもいいか……なんて」

「……そ、そうね……………………へ?…………!?」

「そうだよな……言えるわけないよな……はぁ……」


 晃輔が大きくため息をつくと、ななは頬を赤らめて困ったように視線を泳がしていた。


「なな……?」

「晃輔のバカ……えっち」

「?……!!!………………!?!?!?!?」


 晃輔は、ななにそう言われて初めて気が付いた。

 自分がとんでもない事を口走っていた事に。


 ななの方に目を向けると、ななは耳まで真っ赤にさせて晃輔を見つめていた。

 晃輔は自分の顔が物凄いスピードで熱くなるのを感じて、告げた。


「えっと……ななさん」

「はい」

「聞かなかったことにはできますか?」

「…………流石にできません」


 耳まで真っ赤にさせたなながそう告げる。

 晃輔は自分の耳まで熱くなるのを感じながら小さく頭を抱えた。


 言ってしまった後だと……今更だとただの言い訳にしか聞こえないが、流石に、本人を前にしてこんな恥ずかしい事を言うつもりはなかった。


 ななの、晃輔の頭を撫でる手付きがあまりにも優し過ぎて、何だが気持ち良すぎてうっかり気が抜けてしまったのだ。


「バカ……えっち」

「ご、ごめん……そ、そんなつもりじゃないから」

「じゃあどんなつもり?」

「へ?」


 晃輔の言葉を遮って、真っ赤になったななから思わぬ言葉が飛び出してきて、晃輔は固まった。


「どんなつもりで言ったの?」

「そ、それは……えっと…………ごめん。忘れてくれると助かります」


 頭を撫でるななの手付きが優し過ぎて気持ち良すぎて気が抜けたからです、とはとても言えない。


「何で?」

「何でって……それは、俺の身勝手な心の欲求って言うか……変な事言って、ななを困らせるの良くないし……それに、もし嫌がられたりしたら……流石に俺もキツイから」

「そう?……別に私は困ってもないし……それに……嫌だ、とも言ってないんだけど?」


 ななは頬を赤らめながらそう呟いた。


「…………………………へ?」


 晃輔の聞き間違いかと思った。

 晃輔が発言の意図を尋ねようとすると、ななが晃輔に向かって両手を伸ばした。


「えっと、その…………ぎゅー、する?」


 ななは頬を赤く染めて僅かに潤んだ瞳で晃輔を見つめてきた。

 今度こそ本当に聞き間違えたのかと思った。

 おずおず、と切り出されて晃輔は完全に言葉を詰まらせた。


「え、えっと……」


 確かに……したい、と言ったというより口が滑ったというのが正解ではあるが、まさかそれを受け入れてぎゅーさせてくれるとは思わなかった。


 ななにとっては、一緒に暮らしている、自分の事をよく知っていてくれる幼馴染のお願いだから、という感覚で提案したのかもしれない。


 これだけ一緒に暮らしていて、全く男として意識されてないということになるので、それはそれで、どうなんだろうとは思うが。


 もちろん、クラスのアイドルと呼ばれ、人気者であるななが誰にでもこんな誘いをかけてくる訳ではない事は重々分かっている。

 分かっているからこそ、その申し出は、晃輔の心臓に非常に悪かった。


 いろいろ悩んだ結果、晃輔はななの提案を受け入れることにした。

 おずおずと、ななに手を伸ばして、華奢な体を腕で包み込んで薄い背中に手を回す。


 よく考えてみたら、こうしてちゃんとななを抱き締めるのは二回目なのだなと思った。

 物心ついてから、初めてななの事を抱き締めたのが、球技大会の後にななが涙を流したあの日。


 それと、もう一回。

 日中、遊びに行ったプールで晃輔が一番会いたくなかった人たちと遭遇してしまった次の日。


 あの時は、晃輔が抱き締めたというより、ななに抱き締めてもらったというのが正解だろう。

 恐らくあれはノーカンに含まれるだろうし、正直ノーカンに含んでほしかった。

 あの時は色々と恥ずかしい思いをしたな、と若干過去の自分に後悔しつつ、晃輔は今この状態を堪能する。


 両日とも、それどころじゃなくて感触なんて確かめる余裕なんて無かったが、今こうしてちゃんと抱き締めてみれば、改めて細くて頼りないと思ってしまった。


 しかし、こう抱き締めると、ちゃんと女性らしく柔らかく丸みがあり、胸元から鳩尾にかけてあたる柔らかいものは質量がはっきり感じられて、ななのスタイルの良さが本当によく分かる。


 ななを抱き締めた際に首筋から強く香る甘い匂いは、晃輔の理性をゴリゴリと削っていく感覚があった。


 それと同時に、不思議とななに触れているととても幸せな気持ちになった。


「あったかい……」


 気が抜けた晃輔の口から出た言葉に、ななは優しく微笑む。


「ねぇ晃輔」

「ん?」

「いつでも私に頼ってくれていいからね?甘えてくれても全然いいから」

「頼るのはともかく……甘えるのは遠慮しとく……」

「えー、残念」


 ななはそう告げると、優しく笑いながら晃輔の体をぎゅっと抱き寄せた。



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