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久しぶりの登校


 非常に楽しくて、非常に濃かった夏休みが終わり晃輔が教室に入ると、晃輔に気付いた昌平が話しかけて来た。


「お、晃輔おはよう」

「おはよう」


 軽く会釈をして席に座る晃輔。

 席に座って授業の準備をしながら、晃輔は先に教室に着いているはずのなな方にちらりと目を動かした。


 ななはいつものメンバーと楽しそうに話をしていた。

 すると、晃輔の近くまで来た昌平が晃輔にしか聞こえない声量で告げた。


「そんなに気になるなら話しかけに行けば良いのに」


 小声でそんな事を言ってくる昌平。

 気を遣ってくれるのは嬉しいが、わざわざそれを小声で言う必要は無いだろうに、と思う。


「それが出来るなら苦労はしてない」


 相変わらず、晃輔はななと別々の時間に登校している。

 理由としては、晃輔とななが一緒に暮らしている事が周囲にバレないようにするためだ。


 バレれば確実に面倒事になるというのが目に見えているから、そうならないように普段から気を付けている。


 ただ、気を付けていても、偶然が重なりまくったせいで昌平やクラスカースト上位メンバーにはバレてしまったが。


 最初は、本当にどうしようかと頭を抱えていたが、幸いにも、昌平や泰地たちは誰かに言い触らすことなどせずに、秘密を守ってくれているようなので安心した。


「意気地なし」

「うっせ」

「花火、楠木さんと二人で、屋上で見てたくせに」

「………………………………………………うっせ」


 晃輔はそれだけ言うと、静かに足を動かして、昌平の脛を思いっ切り蹴ってやった。


「いってっ!」


 脛を蹴られた昌平が悲鳴を上げる。

 思わぬ方向からの爆弾発言に晃輔は思はず顔を引き攣らせる。


 すると、昌平の悲鳴で晃輔たちの存在に気付いたのか、泰地と高絋、順哉の三人が近付いて来て、ナチュラルに会話に混ざって来た。


「お、晃輔おはよう。いたんだな」

「おはよう。今さっき来たところだ」

「痛え……」

「どうせ昌平が、なんか変なこと言って晃輔を怒らせたんだろ?」

「高紘正解」

「やりっ!」


 見事正解した高紘はガッツポーズをしていた。


「それで、今の話って夏祭りのはなしだろ?」


 昌平に近付いた順哉はそう尋ねると、昌平は自分の脛を擦りながら答えた。


「そうそう。晃輔がヘタレで意気地なしだからーって、痛った……!」


 昌平が言い終わらないうちに、今度はつま先の方を思いっ切り踏んでやった。

 昌平は、朝から二回目の悲鳴を挙げた。


「余計な事を言うのはどの口かな?」

「「「この口です」」」

「ひどい!」


 泰地、高紘、順哉の三人から一斉に指を差されて、昌平は思わず声を上げた。

 晃輔は大きくため息をつくと、晃輔の周りに集まってきた泰地たちに目を向ける。


「それにしても、皆久しぶり……でもないのか」

「う〜ん、いや、割と久しぶり何じゃないか?」

「そうだよな。たぶん晃輔はボランティア以来じゃないか?」

「え?どういう事。まさか、俺やななだけ除いて皆でー」

「あー!違う違う!ごめん!今のは言い方が悪かった!」


 そう言って、高紘が慌てて言い繕う。

 すると、晃輔の横で苦笑しながら話を聞いていた順哉が口を開いた。


「単純に、それぞれ皆部活をやってるからさ。日によってはばったり会う時があるんだよ」

「あー、部活か……なるほど」


 順哉の説明にようやく納得する晃輔。

 それを見た昌平が肩を震わせていた。


「ぷっ」

「…………もう一度蹴られたいようで?」

「いや。待って。ごめん……面白くて。つい」


 そう言って、昌平は前の人の机に突っ伏した。

 どうやら、昌平は笑いを堪えるのに必死らしい。


「因みに言うと、昌平もボランティア以来会ってない」


 泰地が付け足すと、晃輔は少しだけホッとした気がした。


「あのさ……流石に晃輔たちをはぶいて遊んだりはしないから。安心して」


 どうやら見透かされているらしかった。


「お、おう……」

 若干呆れたようにそう告げる高紘に、晃輔はそう答えるしかなかった。

 すると、やっぱりこのやり取りが面白かったのか、昌平は堪えきれずに声を上げて笑っていた。


「なになに、どうしたの?朝から楽しそうだけど」


 昌平の笑い声に反応したのか、希実が晃輔の机にやって来る。

 どうやら、朝から騒ぎ過ぎて目立ってしまったらしい。


「何でも無い。だから自分の席に戻れ」

「ひどいっ!」


 晃輔が希実を冷たくあしらうと、晃輔の前で腹を抱えて笑っている昌平に抱き着いた。


「しょうちゃん!晃輔がいじめる!」

「のんをいじめるなんて酷いぞ!」

「そうだ!そうだ!」

「人聞きの悪い事言うんじゃねぇ。誰かに聞かれて誤解されたらどうするんだ」

「知らない。晃輔が悪いんだもんねー?」

「ねー?」

「…………あの、いちゃつくなら他所でやってくれませんか?」


 目の前でいちゃいちゃしだした二人に、晃輔はそう言わずにいられなかった。


「相変わらず君の周りは賑やかだね―」

「石見か……」

「そうだよ。藤崎くん、おはよう」

「おはよう」


 笑顔で手を振る石見に、晃輔は軽く挨拶する。


 いつの間にか、晃輔の机の周りにぞろぞろと人が集まってきていた。

 そして、晃輔の机を中心にして会話に花を咲かせている。


 何だこの状況、とそんな事を思いながら皆の話に耳を傾けた。


「あれ?絢音。梨香子。ななは?」

「あそこ」


 そう言って筋乃が指を差した。

 晃輔が筋乃が指差した方向を見ると、じっとこちらを見ていたななと目があった。


「っ!?」


 晃輔と目があった瞬間、ななは顔を正面に向けた。

 そして、ちらちらとこちらを盗み見ては、晃輔と目が合うと違う方向を向いてしまう。


 こうやって見ると、最初の方は目があっただけで睨まれていたのだから、随分変化したものだなぁ、とそう思ってしまった。


「ねぇしょうちゃん」

「どうした、のん」

「晃輔ってさ、私たちの事あーだこーだ言えないよね」

「そうだよなー。俺も思った」

「見ているこっちが恥ずかしくなるよね」


 晃輔の前に居る昌平と希実からそんな会話が聞こえて来て、晃輔は思わず顔を逸らしてしまった。



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