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夏休みの宿題と小さなご褒美


「それじゃあ!こー兄!お姉ちゃん!お願いします!」


 机を挟んで正面に座る晃輔とななに向けて、あおいは元気良くそう告げた。


『こー兄!お姉ちゃん!お願いがあるの!宿題終わらせるの手伝ってー!』


 夏休み最終日、あおいからそんな内容の電話が掛かってきた。

 どうやら、このままだと夏休みの宿題が終わらないため、晃輔とななに手伝ってほしいとの事。


 こうなるのは毎年の事で、大会の助っ人なので色々と忙しいあおいは、必ず最終日に夏休みの宿題をやる羽目になっていた。


 晃輔もななも宿題はすでに終わらせてあり特に断る必要も無いため、電話を受けた晃輔とななは軽く身支度をして楠木家に向かった。


「それで、今年は何を終わらせてあるんだ?」

「日本史のやつ?」


 即答するあおいに、ななは苦笑いする。


「逆に、全然終わってないのは?」

「数学ドリルと国語の作文。英語のドリルと、あと、日記」

「マジか……」


 思っていたよりもやることが残っており、晃輔は思わず頭を抱えた。

 相当頑張らないと今日中に終わらせることは中々大変だろう。


 どうしようか、と晃輔が頭を抱えていると、ななが呆れを隠さずに告げた。


「取り敢えず……一つ一つやっていきましょうか。晃輔もそれで良い?」

「ああ……いやまぁ、毎度の事ながら相変わらずだな」


 晃輔はあおいが残した宿題の山を見ながらそう呟いた。


「仕方ないじゃん!私、今年はいつも以上に忙しかったんだよ!!」

「開き直った……」

「もぉー!お姉ちゃんまで!」


 ななが呆れたような声であおいに視線を向けると、あおいは悲鳴じみた声を上げていた。

 この会話の流れも毎年の事で、晃輔は苦笑いしながら二人の話を聞く。


「部活の大会の助っ人に、ボランティア、お泊りに夏祭り…………はっ!これが社会人の忙しさ?だから嶺兄は会社を辞めたんだ!」

「「それは違うと思う!」」


 晃輔とななは思わず同時にツッコんだ。 

 嶺が会社を辞めたのは、また違う理由だ。


 すると、机に広げられた宿題の山から日記帳を取り出して告げた。


「そもそも、何で高校生になっても日記なんてあるの?」

「知らん。それは校長にでも聞いてくれ……あと、そろそろ始めるぞ。終わらなくなる」

「はーい」


 あおいは素直に返事をすると、勉強を始める姿勢になった。


 あおいはやるとなったら真面目にやるので、晃輔とななもそれに応えるように頑張るつもりだ。

 努力家のあおいが報われるようにと。


「そしたら、まずは数学ドリルからだな。なな……国語の作文の方……手伝ってくれるか?」

「ええ。良いわよ。あおい頑張りましょう」

「うん!それじゃあ、お姉ちゃん!お兄ちゃん!今日はよろしくお願いします!」


 あおいが元気いっぱいの声量でそう告げると、直ぐに真面目な表情に変わり宿題を終わらせ始めた。



***



「終わったー!」


 そう言って大きく伸びをするあおい。

 あおいが残した夏休みの宿題を終わらせるために、晃輔とななが楠木家に到着して数時間。


 晃輔とななの二人があおいの宿題を手伝って、そして何とか終わらせた。

 晃輔がスマホの時計を見ると、既に十八時を回っていた。


「疲れたー!」


 あおいはごろんと寝転む。

 今日は短パンに白色のノースリーブを着ているあおい。


 当然、今は夏なのであおいは薄着なのだが、それにしても防御力が薄すぎると思ってしまう。

 思わずあおいから目を逸らした晃輔に、あおいが楽しそうに笑った。


「こー兄えっちー」

「やかましい」 

「……………………………………」

「なな……えっと……どうした?」

「別に、なんでも」


 気になった晃輔が、何だか複雑そうな顔をしているななに尋ねてみたが、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。

 すると、それのやり取りを見ていたあおいが晃輔に抱き着いてきた。


「こー兄!」

「ぐっ」


 晃輔は、あおいに抱き着かれた事でななの視界からフェードアウトする。

 それを見たななが驚いて目を見開いた。


「なっ!?」


 ななの顔をちらりと見たあおいは、にやりと笑った。


「ねぇこー兄!私頑張ったからご褒美ちょうだい!!」

「ご褒美?」

「うん!私、すっごく頑張ったから、こー兄に頭を撫でてほしいな〜」


 あおいはそう言うと、ななの方をちらりと見て、直ぐに視線を晃輔に戻した。


「えっと……それで良いのか?」

「うん!」

「わ、分かった……からー」

「やった!」

「取り敢えず、くっつくのやめような」

「えー!じゃあ、こうする!」


 そう言って、あおいは晃輔の膝の上に滑り込んで来た。


「これならいいでしょ?お姉ちゃん」

「何で私に聞くのよ」

「こー兄!お願い!」

「ちょ、無視しないの!」

「………………」


 ななとあおい口争に見ていた晃輔がどうしたら良いかと悩んでいると、あおいが晃輔の腕を掴んで強引に自分の頭を撫で始めた。


「あおいっ!」


 思わずななが叫ぶも、あおいはお構いなしの様子。


「お姉ちゃん、夏祭りの時こー兄とデートしたんでしょ?楽しかったんでしょ?」

「それは……まぁ……うん」

「それに比べたら……別に良いでしょ?」

「わかったわよ」


 あおいがそう告げると、ななは納得したらしく、大人しく身を引いた。


 あおいに言われて、しばらくあおいの頭を撫でていたら、ななから不満そうな、小さな声が漏れた。


「…………むぅ」


 晃輔とあおいが声がした方に視線を向けると、ななが非常に怖い顔をしていた。


「お姉ちゃん、顔怖いよ」

「……そんな事ないし」


 あおいがそう告げると、ななは不貞腐れたようにそっぽを向いた。

 その様子を見ていた晃輔とあおいは、思わず顔を見合わせてくすりと笑ってしまう。


「ふふ。お姉ちゃんもやってもらえば?」

「で、でも……」

「こー兄、私はもう良いから、今度はお姉ちゃんの頭も撫でてあげてくれる?」

「え、お、おう……」


 晃輔はあおいの頭を撫でるのを止めた。

 すると、晃輔の膝を占領していたあおいが退いた。


「お姉ちゃん、こっちにどーぞ?」

「なっ!?ば、ばかじゃないの!?」

「じゃあ……どうしたいの?お姉ちゃん」


 思いっ切り悲鳴じみた声を上げるななに、あおいが呆れたように尋ねる。


「え、えっと……ふ、普通に撫でてほしい…………です」

「だそうです。こー兄、お姉ちゃん頭を優しく撫でてあげてね」

「お、おう……」


 晃輔が戸惑いながら返事をすると、ななが晃輔に頭を出した。

 どうやら、撫でろ、ということらしい。


 戸惑いつつも、晃輔がななの頭に手を伸ばして優しく撫でる。

 すると、最初は緊張気味で固かったななの表情が徐々に緩くなってきたように見えた。


 晃輔が頭を撫でていると、どんどんななの表情が幸せそうなものに変わり、晃輔はどんどん落ち着かなくなる。

 晃輔が顔を赤らめながらななの頭を撫でていると、横からパシャリという音が聞こえた。


「は?」

「へ?」


 晃輔とななは同時に声を上げて、音がした方向に顔を向ける。

 晃輔たちが顔を向けると、あおいがスマホのレンズ側をこちらに向けてにやにやしていた。


「あー、ばれちゃったかー。いいよー。そのまま続けてて」


 あおいはにやにやしながらなんてことない風に言うが、小っ恥ずかしい光景を撮られた晃輔たちはそうはいかない。


「!?……出来るわけ無いでしょ!?今すぐ消しなさい!」

「えー!やだー!お姉ちゃん、めちゃくちゃ可愛いんだよー!ねぇ、こー兄!ほしいよね?」

「だめよ!消しなさい!ねぇ、晃輔も何か言って!」

「……あおい、貰っても良いか?」

「はーい!今送るねー!」

「晃輔!?何言ってるの!?消してー!」


 ななの悲鳴があおいの部屋に響き渡った。


 こうして、昔みたいに皆で集まって何かする。

 まるで、疎遠になる前に戻ったみたいだった。 


 こうやってじゃれ合っているななとあおいを見て、前と似たような光景を思い出しまい思わず笑ってしまう晃輔だった。



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