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夏祭りのお誘い


「ねぇ晃輔。今週の夏祭り一緒に行かない?」


 車いすテニス大会のボランティアをしてから数日。

 ななは出来ていなかった宿題を片付けて、ソファでゆっくりしている晃輔にそう尋ねた。


「……」


 唐突過ぎて、一瞬何を言われているのか分からなかった。

 どうやら、晃輔はななに夏祭りに一緒に行かないかと誘われたらしい。


「晃輔?」

「ん……ああ。全然良いけど……どうした?そんなにかしこまって」

「……いや、えっと……その……」


 とことこと歩いて来て晃輔の隣に座ったななに尋ねてみると、ななは何故か目を泳がせ始めた。


「晃輔って、夏祭り毎年行ってた……?」

「う〜ん、ここ数年は行ってないな……あいつ等に遭遇するかもしれなかったし……」

「そう……」


 晃輔がそう言うと、何故かななは悲しそうな顔をする。


「じゃあ、今年も行かない……?」


 そう言って、ななは晃輔をじっと見つめてくる。

 よく見ると、ななの目が少し潤っているようにも見える。


 恐らく無自覚でやっているのだろうが、ななが超至近距離でそんな事を言ってくるので、晃輔の心臓がどきりと跳ねる。


「い、いや……こ、今年は折角だし行ってみようかな……」


 晃輔がそう告げると、その言葉を聞いたななは、ぱあっと花が咲くような笑顔に変わった。


「―ッ!」


 ななの無自覚攻撃に、もう一度どきりとさせられる晃輔。

 晃輔は思わずななから目を逸らしてしまった。


「?……晃輔どうしたの?」

「い、いや、何でも無い……」


 そんなに行きたかったのだろうか、そんな事を思いつつ晃輔はスマホを手に取ってメッセージ画面を開いた。


「それじゃあ、夏祭りの……みんなに集合時間をれんらー」

「ま、待って!晃輔!」


 晃輔が皆に連絡を入れようとスマホの画面をタップしようとすると、ななが晃輔の言葉を遮って、ぎゅっと晃輔の手を握って来た。


 突然の事に晃輔が驚いてななの方に目を向ける。

 そして、その隙に晃輔のスマホが没収された。


「えっと……えっとね……こ、今回は私たちだけで行きたいなって……」


 顔を真っ赤にされながらそう告げるなな。


「………………………………へ?」


 予想外の言葉に、晃輔から間抜けな声が出る。

 夏祭りを、ななと一緒に、二人だけで回る。

 予想外の連発で、どうやら晃輔の頭は処理が追いついていないらしく、混乱している。


「だ、だから!今回の夏祭りは私と晃輔の二人だけで回りたいの!」


 もう一度、声を張り上げるなな。

 晃輔はその意味をやっと理解した。

 それと同時に、晃輔の顔が熱くなっていくのを感じた。


「こんな事恥ずかしいから言わせないでよ……」


 そう言って、恥ずかしそうに顔を俯かせるなな。

 言ってて相当恥ずかしかったのだろか、耳まで真っ赤になっている。


「ご、ごめん……」

「……バカ」

「えっと……俺で良いのなら……全然……で、でも、良いのか?皆と一緒じゃなくて?」

「良いの。むしろ、皆とじゃなくて、私は晃輔と一緒に回りたいの……だめ?」


 ななは恐らく無自覚だろう、上目遣いで晃輔の顔を覗き込んでくる。


「全然だめじゃないです」

「良かった……」


 晃輔が即答するとななはホッとした表情に変わる。

 どうやら、ななは本当に晃輔と一緒に夏祭りに行きたいらしい。


 何でそんなに晃輔と一緒回りたいのかは分からないが、夏祭りでななの可愛らしい姿が見れるかもしれないと考えれば、一緒に行く価値は十分にあるだろう。

 晃輔がそんな事を考えてると、ななが心底嬉しそうな顔をしながら晃輔に尋ねてきた。


「私は浴衣着ようと思うんだけど……晃輔も一緒に着ない?」

「浴衣?」

「うん。浴衣……どお?」

「……着るとか着ない以前の問題で、そもそも、俺浴衣持ってないんだけど」

「えっと……多分あると思う」

「何でだよ」

「私の分と……晃輔の分がタンスに入ってた」

「ほんとに何でだよ」


 ななのそれに思わず突っ込んでしまう晃輔。

 何故、晃輔とななの浴衣がタンスに入っているのか。

 一緒に暮らし始めてから、晃輔とななは浴衣なんて買いに行く余裕なんて無かったのだ。


「私たちがプール行った日あったでしょ?」

「ああ。あの日か……」

「うん……あの日。私たちが出掛けている間に、どうやらあおいが楠木家、藤崎家の両方行って浴衣を貰いに行ってたらしいのよ」

「待った。色々とツッコミが追いつかないんだけど」


 最早何処から突っ込んでいいか分からない。

 そんな内容の話だった。


「諦めて、晃輔。私も色々と言いたいことはあるけど……一々気にしていたらこっちが疲れちゃうから」


 ななはそう告げると、大きくため息をついた。


「後日気付いて、お母さんに聞いてみたら『浴衣代は大丈夫だから……今度二人で行っておいでって』ってだけ言われて……切られた」

「無茶苦茶過ぎる……」


 晃輔は思わず頭を抱えた。

 今までの傾向から何となく分かってはいたが、相変わらず両家とも目茶苦茶だ。


「だから多分、着ろ、ってことじゃないかなって」

「…………ななが着るなら俺も着るよ」

「本当に?」


 晃輔も浴衣を着る、ということになって、ななは急にそわそわしだした。

 どうやらななは、晃輔の浴衣姿が見えるのは楽しみらしい。

 晃輔としては、男の浴衣なんか見てもあんまり楽しいとは思わないのだが、と内心そう思ってしまうのだが、ただ、ななが楽しそうなので良いかと思った。


「ああ」

「ふふ……やった!」


 晃輔がそう告げると、ななは嬉しそうに微笑んだ。

 隣に座る天使のような美少女の微笑みを直視してしまった晃輔は、その笑みにどきりとしてまた晃輔の心臓が暴れ出す事になってしまった。



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