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真夏のボランティア活動記4

 

 晃輔とななは昼ご飯を食べ終わると、手伝いをするために階段を降りていった。


 下に降りてすぐ、ななは凛に捕まって何処かへ連れ去られてしまった。


 取り残された晃輔は、取り敢えずジャグを交換する必要があるかどうかを確かめるために運営棟の方へ向かおうとする。

 すると、一人の選手が晃輔を呼び止めた。


「晃輔くーん!」


 大きく手を振って晃輔を呼び止めるので、晃輔は急ぎ足で選手の所へ駆けつける。

 どうやら、昨日晃輔が助けた選手と同じ人らしい。


「どうしました?」

「やあ晃輔くん……悪いんだけど、僕を上まで押してくれないかな?」

「分かりました。大丈夫ですよ。ちょっと待ってくださいね」

「全然大丈夫。悪いね急に頼んじゃって」

「いえいえ。これもお仕事ですので」


 そう言って、晃輔は一度尋ねてから、晃輔に頼んできた選手の後ろに回り車いすを押す。

 坂を上がるために晃輔が車いすを押していると、選手が話し掛けてきた。


「どうだい?仕事慣れてきたかい?」

「そうですね……慣れてきてるといいんですが」

「あはは、そうか。まぁ、まだ二日目だからね。難しいかー」


 選手のそれに晃輔はなんて応えたら良いのか分からず、取り敢えず相槌を打った。


「そうですね」

「ところで、君は藤崎くん……嶺くんのご家族だったりするのかな?」

「はい。ウチの兄……嶺の弟です」


 別に隠す必要も無いので素直に答える。


「やっぱりそうだったのか。昨日助けてもらっちゃった時さー、誰かに似ている気がしてはいたんだけど……わからなくてね。なんせ今年は、久しぶりに手伝ってくれるボランティアさんが多いからね」

「多い……そうなんですか?」

「うん、そうだよ。今年は結構多いかな。僕がこの大会に参加するようになってからは一番多いんじゃないかな?」


 思わず晃輔が尋ねると、随分と楽しそうな声色で晃輔の質問に答えてくれた。


 正直、意外だと思った。

 晃輔の中では、毎年この大会のボランティアはそれなりに人数が居るものかと思っていた。


「……俺たち、ちゃんとボランティア出来てますか?」

「出来てるよ!おじさんたち、大助かり何だから」

「そうなんですか?」

「あんまり自信無さそうだね?」

「はい……俺たち、あんまり出来てるっていう実感がないっていうか……そもそも、ちゃんと出来ているのか……」

「何でそんなに自信無いのかはわからないけど、少なくとも、僕は出来ていると思うよ……昨日と比べて、あんまり迷いがなくなったようにも見えるよ」

「……」

「昨日は、次は何をすべきか分からなくてキョロキョロしてたけど……今日は結構自分で判断出来るようになってる」

「そうですか……」


 選手にそう言われたが晃輔にはあまりピンときてない。

 晃輔にはあまりその実感がないからだ。


 晃輔たちは本当に役に立っているのだろうか。

 そんな事を思いながら、晃輔は車いすを押して坂を上がった。


「……あの、車いすの方々たちと接する上で大事だと思う事……あと、俺たちと車いすの方々と違いって何だと思いますか?」

「誰かに聞かれたのかい?」

「まぁ……はい」


 晃輔は思わず言葉を濁した。

 凛に尋ねられたから、とは流石に言えない。


「そうかあー。ふふ、それは僕が教えてあげても良いけど……」


 そう言って晃輔の方を振り返ると、小さく笑った。


「でももう既に、君の中でその結論が……答えが出でるんじゃないかな?」

「……」


 真っ直ぐ晃輔を見つめてくるので、晃輔は思わず目を逸らしてしまった。


「一応言っておくと……それに正解は無いと思うよ?君が経験して思った事。それが…………かな?ここまで運んでくれてありがとうね」

「いえ、こちらこそ。すいません変な事尋ねて」

「ううん。大丈夫だよ。じゃあお仕事頑張ってね!」


 そう言って晃輔に大きく手を振ると、その選手は他の人の試合を見に行った。


 試合は進み、氷問題を除けば特にこれといったトラブルが無く順調に決勝戦までいった。


 決勝戦までいくと、ジャグの交換はする必要は無くなり、必要なのはアイスシング作製だけとなるが、皆決勝戦を見るため殆どこちらに来なくなる。

 そうなると晃輔たちの仕事も無くなってしまう。


「折角なので見に行っては?」


 と凛に勧められて晃輔たちは決勝戦を見に行った。


「二日間あっという間だったな」


 決勝戦を見ながら、順哉はそう呟いた。


「そうだな」

「そうね」

「うん。みんなどうだった?」

「私は楽しかったわよ」

「俺も」


 そんな会話していると、間もなくして決勝戦が終わった。


「あ、終わった」

「終わったわね」

「終わっちゃったなー」


 決勝戦が終わると、これで大会が終わりなんだなと思う。

 試合が終わると、次は表彰式がある。


 表彰式を行い、入賞した選手の記念撮影が終わると、次は晃輔たちが会場の片付けを行う。

 試合会場は、市から許可を取ってお借りしているので、綺麗に片付けをしなくてはならない。


 ある程度選手たちが解散すると、晃輔たちは片付けを始める。

 今年は人数が多いらしく、皆で協力したので片付けがとても早く終わった。


 片付けが終わった晃輔たちは朝と同じように管理棟の前に集まった。


「皆さん。お疲れ様でした」


 大会スタッフやボランティアが集まった所で、柚葉が皆にそう告げた。


「皆さんのご協力があったお陰で、今回の大会も、特にこれといったトラブルは無く順調に試合を進めることが出来ました。皆さん、本当にありがとうございました」


 柚葉がそう言うと、今回一番大変だったであろう大会ディレクターの柚葉に大会スタッフ、ボランティア一同から盛大な拍手が降り注いだ。


「ありがとうございます。今年もお手伝いしてくれた方、今年からお手伝いをしてくれた方、ありがとうございました。本当に皆さんのお陰です。この大会を来年も続けていきたいと思っていますので、どうぞ皆さん来年もよろしくお願いします」


 そう言って柚葉が頭を深々と下げると、改めて盛大な拍手が柚葉を包み込んだ。

 これで晃輔たちのボランティア活動を終了だ。


「……」


 他の大会スタッフやボランティアは解散し、帰宅の準備を始めているが、晃輔にはもう一つだけやるべき事がある。


「楽しめましたか?藤崎先輩」

「楽しかったよ。中々体験出来ない経験をさせてもらったなって思ってるよ。ありがとな」


 晃輔は、解散してトコトコ近付いてきた凛にそう告げた。


「それなら良かったです……それでは藤崎先輩、昨日と同じ事をもう一度聞きますね。ボランティアをしてみて……この大会を通して、選手やスタッフを見て、いったい何が大切だと感じました?私たちと車いすの方々とは何が違うと感じました?」


 凛は何処か楽しそうな表情で晃輔に尋ねた。

 晃輔は一度大きく深呼吸して、告げた。


「これは完全に俺の持論なんだが……俺がこの大会を通して大切だと思ったのは……自分とは違う人の事を理解して、相手の気持ちにたって行動する……かな」


 そう言って、晃輔はチラリの凛の方へ目を向ける。

 すると、晃輔と目があった凛は、ふっ、と優しく微笑んだ。


「当たり前過ぎるか?」

「そうですね……でも、その当たり前に気付かない人が世の中には非常に多いと思いますよ?もし、出来ていれば、世の中もっとマシになっているでしょうね」

「そうだな……で、もう一つの方は……俺は殆ど何にも変わらないと思った」


 晃輔がそう言うと、凛は穏やかな笑みを継続しながら告げた。


「変わらない?」

「ああ。この二日間ボランティアとして参加して、選手と話してみて、俺たちとの違いを考えてみた」


 晃輔は昨日、凛に尋ねられてから行き帰りの電車の中や家で色々考えていた。

 そして、晃輔が考えて出した答えが、これだ。


「車いすを使っている人も使っていない俺たちも、さして何も変わらない。元を辿れば結局、俺たちみんな同じ人間だしな」


 それが晃輔の出した結論だった。

 車いすを使っている人も、使っていない晃輔たちも、何も変わらない。


「ただもし、強いて言うなら……車いすを使っているか、いないか……違いって言うなら俺はそれだけだと思う……この答えで満足か?」

「私は最高の答えだと思いますけど……どう思います?藤崎さん」


 凛がそう告げると、晃輔の背後から声がした。


「ああ……いいんじゃないか。俺もその通りだと思う」


 背後から声を掛けられた晃輔は、驚いて体がびくっと跳ねた。


「……」

「ごめんって」


 晃輔がジト目を向けると、嶺が平謝りする。

 その顔がちっとも反省しているようには見えなかったので、晃輔は思わず嶺の足を踏みたくなった。


「でも、そんだけ言えるってことは、結構良い経験になってくれたってことだな」

「そうみたいですね。良かったですね。藤崎さん」

「ああ。良かったよ本当に」


 嶺と凛は、二人で会話をしながらそのまま歩きだしてしまった。


「いや、あの俺には何が何だが……説明してほしいんだけど……」


 晃輔が尋ねようにも、用件が済んだ二人はさっさと歩きだして何処か遠くへ行ってしまった。


 自由過ぎる嶺とそれに普通に乗っかっていく凛を見て、晃輔は思わず大きくため息をついてしまった。


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