クラスのアイドル
楠木なな
このクラスで一番かわいいと思う人、という質問をしたら八割の人が楠木ななと答えるだろう。
それぐらいななは美人に成長していた。
実際幼馴染の贔屓目なしで見ても、ななは美少女だ。
顔立ちは整ってるし、スタイルもいい。勉強もスポーツもでき、誰にでも優しい。
ただし、一人を除いては。
「なに?」
「いや……、なんでもない」
「そう」
眺めていたのがバレたのか、このように、目を合わせるととても怖い顔になる。
それでも、なお可愛いなぁと感じてしまうのだが。
一体なにかしただろうか?
思わず自分を責めたくなる。
「お前、楠木さんと幼馴染じゃなかったけ?」
ななが席に着くのと同時に声をかけてきたのが丹代昌平だ。
彼女持ちのイケメンで俺の数少ない友達であり、親友で入学当初から、こんなパッとしない晃輔を気にかけてくれている、なかなか気のいい奴だ。
「ああ、そうだけど……なんで、俺だけに対してだけあんなに怖い顔になるのか……」
「そうか?全然そんな風に見えんが」
「いや、だってほら……」
もう一度ななのほうに顔を向けたら、また目があった。
目があった瞬間、すごく怖い顔になる。
「俺、なんかやったけ?睨まれるようなことをした記憶ないんだけど」
「さぁ? 俺にはそんな風には見えないけど?」
「そうか?」
どうやら昌平にはそうは見えないらしい。
「まぁ、でも確かに楠木さん、お前の時だけ違うよな。他の人とは完全に他人って感じで、距離を保ってるし」
昌平は苦笑いしながら晃輔にそう告げる。
「俺には、人気者たちが楽しんで喋っているようにしか見えないんだが」
いつからだろうか、中学校ぐらいから、いつの間にか疎遠になっていって気付けば、目が合っただけで睨まれるという状態になっていた。
「俺、また、知らず知らずのうちに恨まれることやったのか?」
「さぁな、俺には恨まれるとか、そういうのには思えないけど。まぁ、これといって、特に関わる事もないんだったら別にいいんじゃね?」
「他人事……」
「実際、他人事だからな。そんなに気になるなら、あの中に乱入して聞いてみたらどうだ?」
あの中とは、サッカー部のエースや吹奏楽部の部長、バレー部の部長、放送部の部長などで、いわゆるスクールカーストの上位の男女の集団のことを示している。
ちなみに、当然ななもそこに含まれる。
「あほか……あの中に入るとか、ただの自殺行為だろ。いきなりなんだこいつって思われるわ」
ただでさえ、ななとの関係が冷え切ってるのにこれ以上冷たくしてどうするというのだろうか。
「じゃあ、今のままで我慢するんだな。まぁ、そのうち変わるだろう」
「何を根拠に……」
「それじゃあ、授業始まるからまた後でな」
そう告げると、昌平は自分の席に戻っていった。
席に戻っていく昌平から視線を外すと、クラスメイトに囲まれて、にこやかな表情で話しているななと目が合った。
すると、今までは、にこやかにクラスメイトと話していたのに、晃輔と目が合った瞬間、凍てついた視線で睨まれた。
「はぁ……」
今日、何度目かわからないため息をして晃輔は次の授業の支度を始める。
まぁ、用も無いのにわざわざ関わることなんてないから大丈夫だろうと気楽に考えていた。
でもまさか、あんなことになるなんて予想もしていなかった。