終末なので大型核シェルターに避難したらカルト宗教団体が先客だった
「小間口兆庵。こんなところに隠れていたのか」
ソラの顔に翳りが差す。兆庵はにやにやとほくそ笑んだ。
「さすがの威子口家当主も、顔色が悪くなったな」
「顔色が悪い? それは貴方でしょう。威子口家に楯突いたばっかりに、一瞬で自分の築いた宗教が瓦解したのだから」
ソラが強気に言い返すと、兆庵はしょぼんと肩を竦めた。
「確かにそうだ。私は少々思い上がっていたし、娘の死を知って頭に血が上ってもいた。とはいえ、君があれほど迅速に我々を潰しにかかるとは。かかれるとは」
「観返り教の息がかかった連中は、既に重要な役職から外していた。老眼で気づかなかったか?」
ソラが無表情で問う。兆庵はニヤニヤ笑った。
「宗教の恐ろしさを怖がるどころか、信奉者を問答無用で豚箱送りにする過激さ。君に独裁者の自覚はあるのか?」
「お、俺は関係ないんで。帰ってもいいですか」
生ぬるい汗を垂らしながら手を挙げる金枝に、小間口兆庵はゆっくりと首を横に振った。
「君は彼女の婚約者でしょう。いつものボディガードは、いないようだ。ついているな我々は。お喋りは終わりにしよう」
兆庵がパチンと手を叩く。二人はスーツの男らに無理やり床へ押し倒され、強引に手と視界の自由を奪われてしまった。
――美糸君、君はこんなことばかりだな。私が憑く前もこうだったのか?
ホルスの声がぼやんと頭に響く中、金枝は金星由来の薬物の沁み込んだ麻布を不意に嗅がされ、ふっと意識が遠のいた。
金枝が目を覚ますと、椅子に縄で縛られていた。乾いた空間。どうやらシェルター内の物置のような場所に金枝は連れ込まれたようで、壁際の天井高くまで段ボール箱が隅々まで積まれている。中には保存の利く缶詰でも入っているのか、何となく重たそうに見えた。
「ホルス。お前何かした?」
――いや何も。君が平静だから心を整える必要もないだろう。
「なるほど」
こういう場面にすっかり慣れて、恐怖を大して感じられなくなっている自分に、金枝は少し寒気を感じた。傍には能面のように無表情の男性信者が立ち、金枝を見張っている。ひょっとして人形ではないかと金枝は疑いかけたが、ドアのノック音に反応して信者はドアを開けた。
「ふん、どうだね調子は」
金ぴかな小間口兆庵が金枝に笑いかけた。金枝は何と言っていいか分からず黙っていると、兆庵は少し離れた壁際の柔らかそうな薄緑のソファにぽんと腰かけ、気さくに話しかけてくる。
「驚いたよ。君、足の爪を剥がされてるって? 大方、御当主様にやられたものだろう。それとも君に自傷癖でもあるのか」
「あいつですよ。クソ女ですから」
兆庵は「ふーむ」と溜息をつくと、ツルリとした頭を擦った。
「金枝君、といったね。ちょっと話そうか。おい」
兆庵は葉巻を咥えながら、見張りを部屋から追い出した。
「さてさて」
兆庵は小気味よく笑うと、両膝に手を置いた。
「改めまして。私は小間口兆庵と申します。他人は私を観返り教の教祖と呼ぶし、私を崇めるものは実際いる。しかしその前に私は小間口伊穂の父だ。そのことは知っているだろう」
「はあ」
「君と伊穂は仲が良いと訊いたがね」
小間口伊穂の笑顔が金枝の脳裏に浮かんだが、すぐに暗闇へと消えた。金枝が口を閉ざしていると、兆庵は軽く手を広げる。
「表情が硬いね。誤解しているようだが、観返り教は別にカルト宗教じゃない。単なる、そう、昨今の終末現象を不安視する者たちの、精神的受け皿の役割を果たしていた。そういった存在が、今の無機質な社会には必要だったのだ。それは威子口の者達も認めていることだ」
「俺の家族は惨殺されました」
兆庵は深い皺の刻まれた目元を指で揉んだ。
「ああ、そうだ。それに関して、私に全て責任がある」
「信者から金も巻き上げてる」
「ぶっちゃけてしまうと、宗教と詐欺の違いは精神的な幸福を得られるかどうかの差異しかない。騙されたと知らない方が幸せなことだってあるんだ、世の中には。どの宗教だって、そんな言い訳が根底にあるんだな」
「あの、一体俺に何の用ですか。殺すんなら殺す、解放するんならさっさとして下さいよ」
金枝は臆さず考えを吐きだした。
「どうせアンタの目的なんて、威子口空への復讐でしょ。散々痛めつけてびーびー泣かせたい、そういうアレ」
すると兆庵はガラガラとうがいをするように笑った。
「金枝君、君はァ思い違いをしている。私は別に御当主様の尻を引っ叩いて、反省させるつもりは毛頭ない。そもそも、うちの娘の伊穂は生きてたんだ」
「……はぁ?」
金枝は咳払いをした。
「いや。死んでるでしょ。だって――」
「ノア爆破の映像を信じたのか? あんなのは、尻の青い御当主様をびびらせたい宙の羊飼いのコラージュだ。作り物のインチキ映像だよ」
金枝が黙っていると、兆庵はおもむろに立ち上がり傍にあった金属の丸椅子を引き摺ってきた。そして金枝の正面に合わせてよいしょと腰を下ろすと、泥濘とした顔の造形に似合わない滑らかで耳当たりの良い声を喉元から発した。
「金枝君。話は変わるが、威子口家の昨今の終末への対処を君はどう思っている? ゾンビが多いからと渋谷区そのものを爆撃したな。あれで何人の罪なき女子供が死んだのか分かったもんじゃない。大体、さっさと他の惑星から月へ攻撃を仕掛ければいいのに、何故しないのか? ポーズでもいいから彼女が降伏すればいい。下手なプライドで意地を張っているせいで、日本国民はとても迷惑をしている。彼女が日本にいなければ、こんな終末被害に見舞われていないんじゃないか、ええ? そうだろう?」
兆庵は言葉で大勢の人間を惹きつけただけあって、自信に満ちた聞き取りやすい話し方をしていた。金枝は別にソラを庇う気もなく、「そうですね」と乗っかった。
「俺もそう思いますよ。苦しむ国民を尻目に、のうのうとソラは安全な威子口タワーで過ごして、塔が崩れればこの安全な地下シェルターに避難してんですもの。一般人は、入れもしない場所ですよ。指導者として、あまり褒めたものじゃないと俺は思いますね」
「そうだろうとも。……ふむ」
兆庵は葉巻で一服すると、その太い指で金枝を指差した。
「実はね、金枝君。私は脅されているんだ、宙の羊飼いに」
兆庵は懐から携帯端末を取り出し、葉巻を咥えながらタップする。
「ノアの爆破映像に怒り、私の娘をくだらん宇宙船に乗せてくれた威子口空を襲わせたがそれも失敗し、意気消沈した私の元に、こんな動画が、送られてきた」
兆庵の再生した動画には困り顔の小間口伊穂が映っていた。
「お父さん、お願い。助けて。宙の羊飼いに協力してあげて。でないと、殺すって言われてるの」
そこには両眼に透明な珠の涙を浮かべ、必死に懇願する小間口伊穂の姿があった。それは短い映像ではあったが、確かに小間口伊穂は生きていて、此方に喋りかけている動画だった。金枝は複雑な気持ちでそのショート動画を見つめていた。
兆庵は端末を懐に仕舞うと、煙草をくゆらせ言う。
「宙の羊飼いに協力すれば娘の命は助かると言われた。放火と君の家族の殺害は私の指図だが、威子口タワーでの暗殺計画からは私ではなく羊飼いの指示で動いている。暗殺計画というより、暗殺失敗計画だがね。あれは元々、暗殺失敗で終わるのが目的だった」
「……は? 何だそれ。何でそんな――」
「そう思うだろう。彼等の要求は『威子口空の精神を擦り減らし絶望させること』であり、決して当人は殺すなと言ってきた」
兆庵はやれやれと頭を振ると、「あと気になったんだがね」と葉巻を咥えた。
「君と話をしてみて分かった。威子口空とあまり仲が良くないようだな。婚約者なのだろう?」
「先日のデートで初めて手を繋いで、暗殺未遂の日には初キスを交わしました」
「今時珍しい古風な男だね、君は。ふん、笑えるな」
「……俺も笑えるよ、兆庵さん」
金枝は意地悪い顔で兆庵の懐を顎で示した。
「娘の生存に縋りたいんでしょうけど、さっきの動画、あれフェイクですよ。小間口伊穂はまず死んでる」
「ほーう。何故そう思う」
「だって小間口さんは、貴方のことだいぶ嫌ってましたから。あんな潤んだ、媚びるような目で助けを乞わないでしょ。逆によく、信じられますね」
「うちの娘が? 出鱈目だ」
「ほんとですよ。アンタの自叙伝、ウソばっかだって」
「は、くだらない」
兆庵は苦い顔で葉巻を噛みながら席を立った。
「あまり私を怒らせるなよ。君の命は私の手の内にあるのだ。こうして君を生かしてやっているのも、あの高慢ちきな威子口空を洗脳し服従させる際に、もしや心を折る手段の一つとして使い道があるのでは、という保険でしかない」
金枝はそれ見たことかと、兆庵を睨んだ。
「結局、それが目的だな」
金枝は吐き捨てるように口舌を揮った。
「威子口家の当主を言いなりにして、自分達の身の安全を確保しようって魂胆。本当に汚ねえ連中だよ、お前ら。生きる価値のない、最底辺のクズ」
カルト宗教の教祖に罵詈雑言。金枝は内心、主人公になった気分だった。
兆庵は渋い顔で煙を吐き出すと、金枝を見据えた。
「確かに君の言う通り、私は悪人かもしれないな。しかしだ、君は親の気持ちも、私が子供の時分の酷い境遇だって、何も知りはしない。何一つだ。それでよく知った風に、私を責められるな」
「あんたは子供の気持ちを知らないじゃん。それに、酷い境遇ながらマトモに育った人間は世の中に五万といる。境遇を悪事の言い訳にすんのはマトモに育った人間に対して失礼だよ」
「もういい。そんな話がしたいんじゃない」
兆庵は太い腕をばさばさと振った。
「君が非協力的だというのは分かった。てっきり威子口空に復讐したいかと思ったが、とんだ期待外れだ。晒し首にして使うぐらいか」
兆庵は腹を立てながら部屋を出ていった。
「ふん、ざまあみろ」
――兆庵の娘を用いて、奴と同じように威子口空を洗脳しようとしていたのは、どこの誰だったか?
「君だろ」
金枝は自分のことは棚に置いて、とても胸の奥がすっきりした。
軟禁されている間、金枝はすることもないので夢想した。能面の見張りを欺き拘束から逃れた金枝は、スーパーヒーローのようにばったばったと狂信者をなぎ倒し、拷問を受けしくしく泣いていたソラを御姫様抱っこで救い出す。そんな痛快な妄想。しかし現実は非情で、金枝はそれから丸三日間、ほぼ放置されていた。
――美糸君、気づいているか? 君は寄生生物を体内に留めておく薬品を飲むのを怠った。おかげで私は自由の身になったのだ。
金枝の視界の半分はちらちらと、受信信号の低下したテレビのようにざらついた。
少し間があって、またホルスが言った。
――くふふ、安心したまえ。君の最期は近そうだ。どうせなら見届けやる。
浮ついた、部屋の外の物音。気付いた金枝が、ゆっくりと顔をあげる。二日は水を与えられておらず、まずは枯れた喉を唾で潤して喋ろうとしたが、手間取った。
その内に、金枝を見張っていた男も異変に気付いて、外の様子を確かめようとドアノブに手をかけた。
男は驚いたような呻き声をあげた。ドアの真ん中から黄色い光の刃が突き出し、見張りの男の胸を貫通していた。びしゃりと胸元から血を噴き出して、見張りはあっさり命を落とした。
「だ、誰」
ギィィとドアが開く。そこには真っ赤な目をした血みどろの女がいた。戦闘形態の北形雅が全身に仕舞っていた殺傷用の兵器を剥き出しにしていた。
「金枝美糸。貴様は、お嬢様を護れなかった」
北形は脚を引き摺りながら金枝の前に立った。血走った眼は怒りに染まっていた。殺気に当てられ、金枝の皮膚はピリピリと泡立つ。
「お……落ち着け。俺だって何も、出来てなくて。悔しかったんだ」
北形は変形した左腕から伸びる光の刀を振りかざした。金枝は反射的に目を瞑る。
吐き捨てるように北形が舌打ちをした。金枝は諦め気味で目を開けると縄が鋭く切られていた。
「あいつは、ソラは……?」
金枝は言いにくそうに訊ねる。
「今、手当てをして寝かせてある」
「状態は」
「命には別状はない。金枝。彼女の傍にいてやってくれ。私は、下のフロアも見て回る」
北形は胸ポケットに仕舞っていたルームキーの鉄輪の部分を歯で咥え、器用に金枝へ放ると、全身返り血の浴びた機械のボディを軋ませながら部屋を出ていった。
「ちぇっ。ガチでサイボーグ女だったのか」
――あの様子、身体にガタがきている。巨大ロボットのコアにされていたのも、かなり負担が大きかったようだ。
「あっそ」
金枝は凝り固まった体を両手でほぐしながら、ホルスの話を聞き流した。
「ここだな」
掠れ声で金枝が言う。ルームキーに付属した金属板に彫られた数字と部屋番号が一致しているのを確かめ、金枝は静かにドアを開けた。
内部は金枝のシングルルームとは違い、三人家族を想定した部屋の造りをしていた。未使用の、静の空間。その中に異音がした。くぐもった、啜り泣くような声が、寝室の方から聞こえた。
「ソラ?」
金枝は半信半疑で、白く清潔そうなベッドに近づいた。遠目には清潔だと思ったのだが、ところどころ血が付着している。人を受け入れ、薄く人の線に盛り上がる白布の中からは、微かに、か弱い呻き声がしていた。
枕元まで回って、金枝はソラを見つけた。
トレードマークだった長髪の黒髪を乱雑に切り取られ、ソラは前より安っぽくなっていた。短髪のソラを金枝が見るのは、中学一年生以来だった。ソラの目元は朱色に腫れ、頬には涙の筋が幾つも垂れている。時間が経ってすっかり乾いた痕もあれば、まだ濡れ光っているものもあった。両の瞳の中に金枝は居らず、どこか遠くの幻想の彼方に向けられていた。小さく開いた口からは弱々しく嗚咽が漏れた。金枝は面食らった。ショックで言葉を失った。それでも、おずおずとソラに掛けられた薄布をめくった。
ソラは両手足を縛られ、威子口に似合わない簡素な麻布の服を着せられ、仰向けで寝かされていた。
「良かった。手足ある」
金枝は安堵した。柔らかなタオルで丁寧に縛られている様子を見るに、縛ったのは観返り教徒ではなく、ソラの自傷を防ぐ為の北形の処置だろうと金枝は想像した。
――様子がおかしい。
「見りゃ分かるよ。ソラがこんな、泣いてるの初めて見た」
金枝の記憶にある威子口空はいつだって、憎たらしいくらい欠点のない、才色兼備の女生徒だった。今ここでぼんやりと虚空を見つめ、はらはらと涙を零し、シーツを湿らせている女が威子口空である訳がないと心が拒否していた。
――美糸君、威子口空の体に手を翳してみてくれないか。
「……ああ。いいけど」
金枝は何も考えずに右掌をソラの体へと近づけた。おでこ、口元、首から胸。腹部を通過したところで、ホルスの声がした。
――やはりそうか。
「何か分かったの?」
――腸内に地球外来の寄生虫がいるな。どうやら、『懺悔虫』の拷問を受けたようだ。
「何だ、それ」
――聞いた事ないか? 観返り教徒の有名な手口だ。
ホルスはつらつらと懺悔中の説明を始めた。
――奴らは裏切り者の信者や、洗脳された信者を教団から取り戻そうとする邪魔者に対して、ジュースや酒などに虫を潜ませ、飲ませるのだよ。その虫というのが、木星の衛星エウロパの氷海で獲れる懺悔虫だ。この寄生虫は宿主の腸内に到達すると、特殊な物質を分泌し始める。
「えげつな」
金枝が何か言いたそうな様子に気づき、ホルスは面倒くさそうに告げた。
――原理までは知らんよ。
「ちげーよ。俺も寄生されてるし、『寄生仲間じゃん』って思ったんだ」
――とかく宿主は寄生されると、強い後悔の念を抱き始めるのだ。大切な人を傷つけてしまった際の記憶、人前で大恥をかいた時の記憶、吐き気を催す最低な記憶。そういった古い、どうしようもない記憶をフラッシュバックさせ、宿主の心をズタボロにしていく。そんな精神状態の輩は簡単に大事な秘密を洩らすし、神父が目の前にいればひたすら懺悔をして、怪しい宗教にだって縋りつくようになる。
「さすがホルス。寄生虫だからお互い知り尽くしてるんだな」
――私を知能の無い虫と一緒にするんじゃない。
ホルスは機嫌を損ねて解説を止めた。
金枝は急に強がりたくなった。
「ソラにも懺悔っていう感情があったんだ。おーいソラ、俺は見えてる? 懺悔したかったらしろよ」
「ふざけるな、金枝美糸」
金枝が振り返ると、部屋のドアが開いていて、血みどろの北形が立っていた。北形は自他の血が混じった固形物混じりの赤黒い液体をぽたぽたと垂らしながら、ギクシャクした機械音を発するのも厭わずに寝室の手前まで歩き、立ち止まった。
「北形。お前……大丈夫か」
金枝が心配をかけるほど、北形は損傷していた。
「私のことはどうでもいい。お嬢様に、虫下しの薬を飲ませなくては」
北形は光の刀を発するのを止め、右腕を元に戻そうとした。しかし、何かがつっかえているのか腕は元には戻らず、不自然な形状のまま止まった。北形の左腕は銃口が剥き出しのまま、モーターが不愉快な音を出している。北形は悪態をつくと、肩から掛けた黒鞄を金枝に放った。
「中に、水と薬がある。飲ませてあげてくれ。私の手は故障して上手く使えない」
金枝は肩を竦めると、キャッチした鞄から飲料水と蜂蜜色の顆粒薬の瓶を取り出した。虚ろな目をして天井を見つめるソラの、半開きになった口に薬を流し込んで無理やり水で飲ませた。
北形は寝室には入ろうとせず、力なく俯いた。
「お嬢様。申し訳ありません。今の私ではもう、お嬢様に薬を飲ませることも出来ず……」
「入ってこいよ。北形」
「こんな姿でか? お嬢様に、血の匂いを嗅がせたくない。お嬢様に、こんな姿を見られたくない。私は、ここにいる」
「でも、ソラの奴ぼんやりして、何も見えてないようで……」
北形は憎々しげに言葉を吐き捨てた。
「信者共はお嬢様を拷問にかけ、幻覚作用のある薬物を使ったのだ。寄生虫と併用することで、強いショックを与えられるからな。私は、ああ何故お傍にいてあげられなかったのか!」
「それはソラに命じられて怪獣退治してたからだろ。倒したのか?」
「……時間はかかったが、三体とも消し炭にした。ここにいる気の狂ったカルト集団も、全て私が息の根を止めてやった。念入りにな。しかし、そんなことはもうどうでもいい。お嬢様が無事なら、それで……」
「なあ、北形。まずはシャワー浴びてきたらどうだよ」
「あ、ああ。そうさせてもらう」
ソラは一日もするとぼんやりとではあるが意識を取り戻し、ぽつぽつと仄暗い会話をするようになった。寄生虫は飲み薬で死に、三日も経つと薬物はほぼ体から抜けて、ソラは次第に聡明な女性に戻っていった。金枝はそれが妙に嬉しく感じられたが、照れ臭いので口には出さなかった。
重症なのは北形の方だった。ムゲンという、旧遺物の技術を存分に使用し完成した威子口家渾身の巨大ロボット。その人工知能の代役を急遽務めて怪獣と戦った北形の身体は限界を超え、機械神経の三割が焼け焦げていた。
「怪獣は一週間に一体ずつという暗黙の了解があるのにな」
金枝は冗談を言ったつもりだったが、寝込む北形には通じなかった。




