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狙われた二人―前編―

 その日、私はホワイト家の庭で、ホワイト家長女のソフィアと向かい合っていた。


「《霊弾》」

「はい!」


 ソフィアが《霊弾》を放つ。


「《霊壁》」

「ほっ!」


 ソフィアが《霊壁》を生成する。


「《聖壁》」

「ほい!」


 ソフィアが《聖壁》を生成する。


「《聖域》」

「はっ!」


 ソフィアが《聖域》を生成した。


「オッケーよ!」


 私は指で丸を作ってみせた。

 ソフィアが駆け寄ってくる。


「これならC級は間違い無いと思うわ」

「本当⁉︎」


 嬉しそうな顔をするソフィアに頷いてみせる。


「やった!」


 小躍りするソフィアに頬を緩める。


 明日は半年に一度の霊能者階級検定だ。

 現在、ソフィアは軍の見習いになるべく修行をしているが、見習いになる選択肢は何も見習い試験に合格するだけではない。

 C級霊能者になれば、誰でも見習いにはなれるのだ。


 この検定以前にソフィアに見習い検定を受けさせる事も出来たが、どうぜならまとめてやればいいか、と考えたのだ。

 これまでずっと反復練習をさせてきたから、緊張で出来なくなる事もないだろうし。


「じゃあ、ソフィー。今日はここまでにしよっか」

「はーい!」


 うん、可愛い。








 翌日。霊能者階級検定当日。

 正規隊員は二部隊に別れて検定を行う。


 私は前半の班で、A級霊能者の判定を受けた


「うーん、Sへの道はなかなか厳しい……」


 本部の建物に入って独りごちりながら、娯楽室を目指す。


「どうもー」


 軽い挨拶をしながら中に入っていくと、目的のテーブルはすぐに見つかった。


「皆、ソフィーの相手ありがとね」


 そう声を掛ければ、皆がこちらを向いた。


「リリー!」


 ソフィアが立ち上がり、駆け寄ってくる。


「おっ、リリーお疲れー」


 次に返事をしたのはクレアだ。


「で、どうだったよ?」


 そう聞いてくるのはアイザック。

 他には、このテーブルにはレイモンド、アリア、スカイラーがいる。


「Aだった」

「おお、流石だな!」

「それより、あんた達は支度済ませてあるの?」


 私が聞けば全員が頷いた。


「よっしゃ。じゃあ、そろそろ行きましょう」

「はいよー」

「オッケー」


 皆が立ち上がる。

 私がソフィアの手を引きながら、全員で娯楽室を出た。








「――でね、最終的にレイが勝ったんだよ!」

「へえ、激闘だったわねえ」


 前にソフィアを置いて馬に乗りながら、私はその話を聞いていた。

 年上の皆に遊んでもらって嬉しかったようだ。


 私の周囲には、さっきのメンバーからレイモンドを除いた四人もいる。 


 検定では見習いと一般人はごちゃまぜで行われるため、ソフィアとクレア達――正規隊員であるレイモンドは先程別れたが――は受けるのは同じ場所なのだ。

 そして私は、万が一のためにマテオから正式に依頼を受けた護衛だ。


 検定会場にはすぐに到着した。


「じゃあ、皆。また後で。頑張って」

「はいよー。ソフィーも頑張んなよー」

「うん!」


 クレアの激励にソフィアが頷く。


「ソフィー。行くよ」

「はーい」


 ソフィアの手を取り、一般の列に並ぶ。

 さほど人は並んでいなかったため、ソフィアの順番はすぐにやってきた。


「頑張れ!」

「うん!」


 親指を立ててみせるソフィアの顔には、自信があふれていた。








 当然というか順当というか、ソフィアはC級霊能者になった。


「これで私もリリーと一緒に悪い人を懲らしめたり、霊を退治出来るの?」

「今すぐとは言わないけど、そう遠くないうちにね」

「やった!」


 小躍りするソフィアを引っ張って、クレア達との待ち合わせ場所に向かう。

 するとそこには、スカイラーとアリアがすでに戻ってきていた。


 私が声を掛ける前にアリアが気付いたようで、こちらを振り返る。


「お疲れ様です」


 アリアの声に反応してスカイラーもこちらを向く。


「あっ、お疲れ様ー」

「うん。二人ともね」

「ねえ、見て見て!」


 ソフィアが二人に駆け寄り、スコアシートをその前に広げてみせる。


「C級? 凄いじゃない、ソフィー」


 と、スカイラーがソフィアの頭を撫でれば、


「流石、リリーさんのお弟子ですね」


 と、アリアが微笑む。


「ほらソフィー。あんまりひけらかさないの」


 私はソフィアをやんわりとなだめた。

 二人は特に不快にはなっていない様子だが、自分より年下のソフィアが自分達より階級が上というのは、あまり気分のいいものではないと思ったからだ。


「クレアとアイザックはまだ?」

「はい。クレアさんがもう少し――」


 アリアが目を見開き、固まった。


「どうしたの?」


 その指が私の後方を指す。


「あ、あれ……!」

「……なっ⁉」


 アリアの指差す方を見て、私は目を見開いた。

 そこから少し離れたところで、火の手が上がっていたからだ。


 続いて、《霊弾》が二発、打ち上がる。


(隊員はいるけど、手に負えないのか!)


 私は《霊弾》を二発打ち上げた。


「アリア、スカイラー。ソフィーをお願い!」


 そう言い残し、私は《自己強化》を発動させながら現場へと駆け出した。

 この世界は木造建築が多い。早めに消化しなければ、冗談抜きで悲惨な事になる。


 程なくして現場に辿り着くと、遠巻きに十人以上の人間が見守る中、一人の隊員が両手を燃焼している家に向かって突き出していた。

 その家の左右に《聖壁》が作られており、《聖壁》によって隣家に燃え移る事は阻止されている。


「ディランさんっ」


 私が背中に声を掛ければ、その隊員、ディラン・ラッセルはこちらを振り向いた。


「リリーか!」


 その額には脂汗が浮いている。


「状況は?」

「《聖壁》で何とか燃え広がるのを押さえてはいるが、俺はあれ二つで手一杯だ。お前が消化を行ってくれ」

「中に人はいないんですか?」


 その質問に対しディランが僅かに動揺したのを、私は見逃さなかった。


「いな――」

「いるんですね」


 被せるように言えば、彼は観念したように言った。


「……子供が中に一人いる。が、火は完全に家に回り切っている。いくらお前でも、この中から子供を助け出すのは自殺行為だ」

「そうです」


 後ろから、女の人の声。

 振り向けば、高価そうな衣服に身を包んだ貴婦人が立っていた。


「貴女はまだお若い。助けに行って二人とも亡くなっては元も子もありません」


 今この状況でこの台詞。間違いない。


「貴女の子供なんですね?」


 その貴婦人は目を見開いた。

 返事こそしなかったが、その表情は、私の言葉が正しい事を示していた。


「御二方とも、ご忠告有難うございます。でも、私は行きます」

「リリー⁉」

「大丈夫。私は生きて帰ってきます」


 私は力強く言い切った。

 後ろの群衆から危険じゃないか、というような声も出されるが、それを気にしている余裕はない。


 ディランが溜息を吐くのを尻目に、私は貴婦人を見る。


「お子さんはどこら辺にいらっしゃるか、分かりますか?」

「……家の右側には確実にいません」


 貴婦人は迷いながらも答えた。

 それに頷生きながら、私は質問を続けた。


「ではもう一つ。この家、破壊しても大丈夫ですか?」

「え? ええ、構いませんが」


 戸惑いながらも貴婦人は頷いた。

 この世界では燃え移るのを防ぐために、隣の家まで壊す事もあるため、すんなりと受け入れてもらえたようだ。

 日本だったらこうはいかないだろうな、と思いながら私は頷いた。


「分かりました。お約束は出来ませんが、きっとお子さんを連れて戻ってきます」

「危険だと思ったら、すぐに戻ってちょうだい」

「ええ。それから、ディランさん」

「何だ?」

「私が戻ってくるまで、《聖壁》は最大強度にしておいてください」

「分かった」

「有難うございます」


 ディランの両手が発光する。さらに霊力が送り込まれた証拠だ。

 それを確認して、私は右手を家の屋根に向けた。


「《霊撃破》!」


 発光した右手から放たれた霊力の塊が、家の屋根を吹っ飛ばした。

 すかさず空中に足場とする《霊壁》を展開し、それを使って《自己強化》で家の真上まで移動し、左半分に注意を凝らす。


「いた!」


 煙の中に人影らしきものを発見した私は、その周囲に《聖壁》を生成しつつ飛び降りた。


(あっつ!)


 息を止めながら人影の隣に降り立つ。

 周囲の火を《霊撃破》で消し飛ばしてから、その様子を確認する。

 どうやら、子供とは息子のようだ。意識が朦朧もうろうとしているが、まだ死んでいない。


 また《聖壁》を足場にして空中へ駆け上がり、私はようやく深呼吸をした。


「ふうー……」


 息を整える。


「リリー!」


 こちらを見て叫ぶディランに手を振って応える。


「おおっ!」

「すげえ!」


 群衆の歓声と拍手に包まれながら、私はディランと貴婦人の元に駆け戻った。


「無事なのか⁉」

「はい。息子さんも息はしています」

「有難うございます……!」


 貴婦人は目に涙を浮かべて私から息子を引き取った。


「ただ、まだ安心は出来ません。すぐに病院へ向かう必要があります」

「すぐに馬車を手配しますっ」

「馬車ならもう呼びに行ったぞ!」


 群衆の中から声が上がる。


「本当ですか⁉ 有難うございます!」


 素晴らしい判断だ。

 なら、こっちもやる事はやらないとな。


「ディランさん」

「ああ」


 今度はこちらの意図が分かったのか、彼は私が言う前に《聖壁》を強化した。


「助かります!」


 私は先程の足場を利用して再び家の真上に到着すると、両手を家に向かって突き出した。

 火が移っているとこ全てに《霊撃破》を撃つ。

 間もなくして火も家も消え去り、そこには陥没した土地のみが残った。


「おお……」


 呆然としている貴婦人に駆け寄る。


「息子さんをローガン先生のとこまで連れて行きます」


 近くの医者の名を出しながら、私は手を貴婦人に差し出した。


「え、ええ? でも、馬車は手配して下さったはずじゃ……」

「いえ。その馬車は貴女が乗るものです。息子さんは一刻も早く治療を受ける必要がありますし、ここからなら、馬車を待つより私が走った方が速いですから」

「……分かりました。お願いします」

「責任をもってお送りします」


 私は息子を自分の背中に乗せ、空からの最短ルートを目指して《霊壁》を駆け上がった。








 息を切らしながら少年を背負うって来た私に、ローガンは怪訝そうな顔をしたが、事情を話すとすぐに診てくれた。


「大丈夫。命に別状はないよ」

「良かったー……」


 ローガンの言葉に胸を撫で下ろす。

 これで助かりませんでした、なんて事になっていたら、あの貴婦人に合わせる顔がなかった。


 ローガンの診察が終わった直後に、ディランと貴婦人も姿を現した。

 息子の無事を聞いて、貴婦人はまたそっと涙を流した。


 その姿を見れば、彼女がどれだけ自分の子供を愛しているのか伝わってくる。

 あの時、私を止めようとしたのは、本当に辛かったはず。凄い人だ。


「あっ、やっば!」


 その時、私は思い出した。自分がソフィアの護衛役であった事を。


「ディランさん! 私、ソフィーの元へ戻らなくちゃいけないので、後お願いします!」

「ええ⁉」


 困惑の声を上げるディランを無視してローガンと貴婦人にも頭を下げ、私は病院を飛び出した。








 嵐のように空中を走っていくリリーを見て、ディランはローガンと貴婦人と一緒に呆然としていた。


「ふふっ」


 貴婦人、オリヴァーが笑いを洩らす。


「凄い子ですね。能力もさることながら、判断力と行動力はとてもあの幼さとは思えません。名乗る暇もありませんでしたわ」

「あの子はいつも走り回っているイメージだな」


 ローガンが笑った。

 確かに、本部ではともかく外でのリリーは常に何かしらに巻き込まれてどこかしらを奔走しているな。


「あの子がどこまで大物にあるか、楽しみですわね」

「俺はちょっと怖いです」


 目を輝かせるオリヴァーに、ディランは苦笑で返した。


 リリーが大人になる時か。

 リリーが大人になれば、アンドリューはいずれ総司令官の席を彼女に譲るだろう。


「……ちょっと楽しみだな」


 ディランは人知れず笑みを浮かべた。

 最後まで読んでいただき有難うございます!


「面白いな!」

「続きが気になるな!」


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 次話も読んで下さると嬉しいです!

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