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終章 素直になれずに

 風の城の応接間で、インファとインジュが向かい合って黙々と書類の整理をしていた。インジュの隣には、分厚い魔道書を読みふけるリャリスの姿があった。

静かな午後だった。

キリのついたインファが顔を上げると、インジュも顔を上げたところだった。目のあった2人は、疲れたと苦笑した。

休憩しようかと机の上を召使い精霊のハト達に片付けさせていると、玄関ホールに続く扉が開いた。

険悪な雰囲気にソファーにいた3人が同時に顔を上げる。帰ってきたのは、リティルとノインだった。

「――おまえ、信じられねーよ!あそこであっちに動くか?」

「それはオレの台詞だ!ことごとく行動がかぶる。2人でいる意味がない」

「ああ、息合いすぎだろ!戦闘中にぶつかるとかねーよ!」

「あれは!……すまない」

「何だよ?言いてーことあるなら言えよな!この野郎!おまえとはしばらく飛んでやらねーよ!」

リティルは翼を広げて素早く飛ぶと、中庭へ続く扉を乱暴に開いて出て行ってしまった。

取り残されたノインは、ハアとため息を付くとソファーまで飛んできた。インファが席を詰めるとノインは隣に腰を下ろした。

「どうしたんです?リティルがあんなに怒るの珍しいですよぉ?」

フロインを取り戻してから、リティルはノインの名を呼ぶようになり、たまに魔物狩りにも出掛けるようになっていた。2人の間にまだまだ溝はあるものの、歩み寄りをみせていた矢先だった。

「騒がせてすまない。うまく連携できなかった」

「リティルとです?変ですねぇ。あの人、サポートうまいですよぉ?ノインが攻撃なら、リティルがサポートですよねぇ?」

インジュはなぜ?と言いたげに首を傾げた。

「どんな戦い方をしているんですか?」

「オレはサポートには向かない」

「つまり――」

「両方攻撃ということですわね」

シュルリとソファーに戻ってきたリャリスは、皆の前にアイスティーを置いて、インジュの隣に当然の様に収まった。

「……それで、戦闘中にぶつかったんですか?……フフフ……」

「アハハハ!ノイン!ウケますぅ!」

インファは控えめに、インジュは腹を抱えて笑い出した。

「これでも大いに悩んでいる。どう動いてもかぶってしまう。あげくには衝突だ!リティルに呆れられても文句は言えない」

そう言ってノインは、しょげてしまった。

「あははは。ノイン、そのままでいいです」

「なぜだ?あれでは狩りに支障が出る」

「攻撃がかぶっていることに気がついたあなたは、思いとは逆に動こうとしましたよね?それなのに、最終的にはぶつかってしまったんですよね?」

「その通りだが……」

「リティルも同じ事考えてたんですよぉ。ノインと同じ動きしてるって気がついて、逆に動こうとしたんです。同じタイミングで。お父さん、風の騎士がリティルと飛ぶとき傍観するようになったのって、これが原因でしたよねぇ?」

「聞いたんですか?そうです。風の騎士はぶつかるまでいかなかったですが、父さんと攻撃で連携したとき動きがシンクロしてしまって困ったと言っていました。ですから、父さんと飛ぶときは攻撃しないようにしていたと言っていました」

風の騎士対の戦いなら、彼は優雅に待ち戦法だ。だが、それが通用しない相手はいる。その場合、普段は神経の代わりに使っていた風の糸を相手に絡ませたりして行動の妨害に使い、自身は攻め込む。かなり攻撃的に行動を変えていた。だが、その風の騎士にしては過激な戦い方をする彼を知っている者は、この城でも少数だ。それは、リティルのせいだった。

 リティルと共に飛ぶと、その戦い方は使えなかったのだ。風の騎士と同じタイミングで、リティルが相手に攻撃を仕掛けてしまうのだ。ずらそうにもずらしたそばからタイミングが合ってしまう。なぜだ?と風の騎士は悩んでいたが、理由は彼にもわからなかった。故に彼は、手を極力出さず、リティルの隙を埋め、防御に徹する戦いを選択したのだ。

その後、城に住まう精霊の人数が増えて行くにつれ、風の騎士はインファと同じく指南役を担うことが多くなったことも、攻め込まない優雅なノインを形作る一因となった。

「今のノインの戦い方じゃ、リティルの隙を埋めるような戦いはできないですよねぇ。本当なら、ノインが攻撃でリティルがサポートしないとですけど、リティル、ノインに対しては素直じゃないんで、たぶんやってくれません。できることは、一緒に飛ばないか、ゴリ押すかですかねぇ。それか、お父さん、サポートの動き、レクチャーします?」

「選択武器が大剣では、不自然ですよ。別の武器を使ってみますか?」

「……リティルはもう、共に飛んではくれないのでは?」

弱気なノインの肩に、インファはそっと大丈夫と言うように触れた。

「あなたが退いては、父さんは折れられませんよ。わかりました。オレ達と手合わせしましょう。……中庭にまだいますね。インジュ」

「はい!バンバン反属性返すので、ジャンジャン攻撃してきてくださいよぉ?あ、ノイン、黄昏の大剣、使用禁止です。ボク、ボッキリ折っちゃうんで」

「折れてもかまわない。オレの力で直せる」

「じゃあ、遠慮いらないですねぇ。殺す気できてくださいよぉ?ボク強いですからねぇ!」

笑って立ち上がったインジュの瞳が、獰猛なオウギワシのそれだった。


 ノインに怒鳴り散らして中庭に出てしまったリティルは、東屋にいた。

項垂れるリティルの隣には、栗の皮を剥いているフロインがいる。彼女の頭には、ラナンキュラスの花冠が、優しい色合いで咲いていた。そして、その右耳には、1度はなくしてしまった、バラの花からト音記号の飾りの揺れる、ピアスが飾られていた。

「ノイン帰ってきてるぜ?ここにいていいのかよ?」

「リティルがここにいるわ。聞いてほしいのでしょう?」

フロインは栗の皮剥きをやめないまま、リティルに言葉を促した。

リティルは、項垂れながらやっと口を開いた。

「……うまくいかねーんだ」

「狩り?珍しいわね。あなたは、誰とでもそれなりに合わせられるでしょう?」

「昔から、ノインとは合わなかったんだ。オレがあいつの邪魔ばっかりするから、あいつ、オレと飛んでも戦わなくなっちまったんだ。今のあいつ、大剣使うだろ?戦い方が全然違うから、合わせられると思ったんだ。けど、ダメなんだよ」

オレ、狩り中にぶつかっちまった……と、リティルは泣きそうだった。フロインは栗の皮剥きをやめると、リティルの背をそっと大丈夫と言うように撫でた。

「合わないのなら、無理に飛ぶことはないわ」

「飛びてーんだよ、あいつと。豪快に切り込んでくあいつの剣、すげー格好いいぜ?オレはそんなこんなで、インファが過激だって言う風の騎士の剣を知らねーんだよ。フロイン、おまえは知ってるんだよな?」

「わたしもそんなには知らないわね。そうね、あの人、熱いところもあったのよね……憂いを帯びた瞳で、世界を見つめていた印象が強くて、今のノインはほんの少し、若返ったような気がするわ」

「オレも知らねー哀しみを、あいつは知ってた。父さんの死の記憶もあいつは継いでくれてたからな。それが一切なくなって、深みがなくなっちまったよなー。あいつの瞳の奥の氷が消えて、おまえの春風みたいな暖かさに置き換わってるぜ?」

涼やかさはそのままに、ノインは以前よりも明るく笑うようになった。大人びた雰囲気で微笑を浮かべ、時々とんでもないことを言い出すところも健在だ。

この前はリャリスに「おまえは笑っていた方が美人だ」と言って、大いに戸惑わせていた。

「だから?」

フロインは手を止めると、いくらか立ち直ったリティルに視線をやっと合わせた。

「ん?」

「だから、ノインを受け入れられないの?」

「そういうわけじゃねーよ。なくなってよかったんだよ。あいつは……父さんの、他人の記憶に苦しめられてた。なくなってよかったんだよ!オレとの記憶だって、楽しいばっかりじゃねーんだ。オレはすぐ死にかけるしな。あいつはそのたびに、騎士でいるべきか父さんになったほうがいいんじゃねーのかって、揺れてたんだ。あいつじゃなきゃ、とっくに精神が崩壊してるぜ?思い出なんて、また……作っていけばいいんだ……」

そんな寂しそうな顔をして……とフロインは、素直になれないリティルをギュッと抱きしめた。

「泣いていいのよ?」

リティルは、フロインの腕をそっと解くと、小さくだが笑って見せた。

「泣かねーよ。オレが選んだ道だぜ?」

リティルの父である14代目風の王の記憶を持っていた風の騎士は、見た目以上に精神が成熟していた。リティルが彼を父と認識することはなぜかなかったが、その強い精神に依存していた。揺るがない彼の姿が、リティルの揺れる精神を支えていたのだ。

 力の精霊・ノインが失ったのは、記憶だけだ。彼とこの城で過ごして、フロインはそれを確信していた。彼はノインだ。ノイン以外あり得ない。

だが、リティルにはまだ、彼は『ノイン』ではないのだ。

彼と過ごした時間。たわいない会話。風の騎士と言い合ったことは、1度や2度ではない。

しばらく口がきけなくなっても、言い切ってくれた風の騎士と、これ以上言ってはと、言葉を飲み込んでしまう力の精霊。言い切ってくれないことが、リティルには辛かった。

記憶を失ったノインは、経験値がリティルよりも遙かに低い。だが、聡明だった風の騎士の知識を継いでいる。机上の空論ではない、経験に裏打ちされた知識だ。だが、彼の思慮深さが、百戦錬磨の風の王にこれ以上言えないとブレーキをかけてしまう。

そのことが、リティルに、ああ、こいつはオレを知らないんだと、気づかせてしまうのだ。

襲ってくる寂しさに、つい、取り付く島もないくらいに怒鳴ってしまう。

そんな自分は嫌だった。ノインと関わりたくない。オレは子供だと、今更突きつけられるのは苦痛だった。オレは、風の王なのに、命を導く鳥なのに、こんなことじゃノインに顔向けできない……とリティルはノインとの距離を測れないでいた。

 そんな、折り合いの付けられないリティルを見守っていたフロインは、騒がしくなった中庭に視線を向けた。

「リティル、見て」

フロインの声に顔を上げたリティルは、インジュ相手に、インファとノインが手合わせする姿を見たのだった。


 フロインに促されて東屋の外に出たリティルの耳に、3人の会話が聞こえてきた。

「――オレの行動をできるだけ真似てください」

「しかし、それではぶつかってしまう」

「1つ試したいことがあるんです。これができれば、父さんと問題なく飛べますよ。では、行きますよ!」

問題なく連携していたノインに、インファは妙な提案をして、ニコニコ不穏な笑みを浮かべているインジュに、再び仕掛けた。

「ほらほらぁノイン!ずれちゃってますよぉ?お父さんの動き、予測してくださいよぉ。リティルとシンクロできちゃうんですから、やれますよねぇ?」

固有魔法・反属性返しを纏った両手の平で、武器を破壊しながらインジュは、挑発するように叫んだ。

「無茶を言う。……っ、すまない」

「いいえ。それでいいんです」

インジュの言葉に気を取られたノインは、その矢先インファとぶつかっていた。ぶつかられたインファの体にインジュの手が触れ、風の障壁が砕け散った。

「そろそろいいんじゃないんです?」

インジュの目には、行動がかぶってどちらかが攻撃を中断しなければならない場面が、9割を超えたように映っていた。

「そう見えますか?では、次ぎに進みましょうか。ノイン、そのままオレの行動を予測して動いてください。思惑と違っても、修正しないでください」

「?了解した」

インファの「行きます!」の声で、インジュが笑いながら仕掛けてきた。楽しそうに凶悪なインジュに、まるで魔王を相手にしているような気分にノインはなって、いつしか楽しくなっていた。彼相手には、一切の気兼ねが要らないからだ。

「?」

インファとタイミングは合っているのに、ぶつからなくなったことにノインは気がついた。

「あははは。鏡みたいですねぇ」

鏡?ああ、そういうことか。とノインは合点がいった。インファの動きは、さっきと真逆なのだ。

「あははは。楽しいですけど、そろそろ決めちゃいますよぉ?ボク、最・強・です!」

インジュは左右から同時に襲ってきた、大剣と槍を、両手を交差させて掴んでいた。その瞬間、槍は風となり、大剣の刃はへし折れていた。

ハアハアとインファは息を吐きながら、その場に座り込んだ。ノインも息が上がっていたが、2人を相手にしていたインジュは涼しい顔で、ニコニコしていた。

「久々に、こんな、に頭を使いました、よ。普段の動きと、逆に動くのは、難しいですね」

「おまえの役をオレがやるのか?あのリティル相手に?」

できる気がしないと、ノインはまだまだ弱気だった。

「できたら、リティルに怒られずに飛べますよぉ?ねえ?リティル!」

リティル?そういえば、中庭に出て行ったなと、インジュの視線の先を見やると、フロインの傍らに小柄な風の王がいた。

リティルが大きくため息を付くのが見えた。彼は近づいてこないと思ったが、フロインと共に来てくれた。

 リティルは、何も言わずにジッと見下ろしてくるノインを見上げた。

「……なあ、どうして飛びてーんだよ?おまえ、風の精霊じゃねーだろ?無理して、戦う事ねーんだぜ?」

インファとインジュはそれ言います?と呆れていた。

「リティル、ノインは無理などしていないわ?あなたはさっき――」

「引き受けたっていっても!おまえは客だ。借り物だ。オレはおまえを、使う気なんてねーんだよ!」

リティルは、フロインの言葉を遮って言い切ると、ノインに背を向けていた。本当は、一緒に飛びたい。もう、2度と飛べないんだと諦めていたのに、ノインはこの城に、応接間に戻ってきてくれた。

なのに、うまくいかない。皆のように自然に普通に、ノインに接することができない。

記憶がないのだ。しかたがないことなのに、未熟なノインに苛立ってしまう。

 1人になりたい……。リティルの足は、中庭の奥にあるドームの屋根が乗った円柱型の建物に向いていた。鳥籠と呼ばれる、温室だ。

――ノイン……オレには無理だ……おまえじゃないおまえと、何話していいのか、わからねーよ!

リティルは、魂を葬送する役目のせいで、案外涙脆い。ああ、泣く!と思ったリティルは地を蹴ると、急いで鳥籠を目指していた。間に合わずに、涙が頬を伝った。

戻すな!と、記憶を捨てさせたのはリティルだ。風の騎士だった記憶が、力の精霊となったノインを苦しめるからと、それを望んだのは、リティルだ。だのに、寂しい。彼の中に残れなかったことが、寂しくてたまらなかった。

 彼の中に残れたフロインが、羨ましかった。あのとき遠慮したが、骨でもなんでも風の騎士に会えたフロインが羨ましかった。彼に、当然の様に守られた彼女が羨ましかった。

リティルには、キンモクセイの気持ちがわかる。記憶を2度失っても、ノインの中からフロインはいなくならなかった。わたしのことは、忘れてしまったのに……。

キンモクセイは、半年そばにいた。その間、フロインは記憶を完全に消去するその最後の数日しか一緒にいなかった。だのに、キンモクセイは消えてしまって、フロインだけが彼の心に居座った。

哀しかっただろう。哀しみが、キンモクセイを狂わせてしまった。特別になれない自分が哀しくて、特別であり続けるフロインに嫉妬してしまったのだ。その思いが、消化しきれない想いがルキルースの獏を操ってしまった。

獏の喰った夢邪鬼は、キンモクセイだったのだ。それをリティルは、インファとルキと共に不問にした。キンモクセイは散り、生まれ変わった。もう、彼女はいないのだから。

オレの想いは?寂しさに苛立つ子供のようなこの醜い想いは、目の前にいるノインに向かってしまう……。嫌だ……やっと帰ってきてくれたのに……。

 あと少し。あと少しで、鳥籠だ。涙で歪む視界に、鳥籠へ入る扉が見えた。

「待たないか!リティル!」

ザッと大きく風が動いて、リティルは肩を掴まれていた。驚いて顔を上げてしまったリティルは、ノインが驚いて固まるのを見た。

「っ!」

リティルはノインの手を振り払う。その腕を、ノインは掴んだ。

「待て!そんなに!オレが忘れたことが許せないなら、記憶を戻せ!オレがノインだと認められないなら!」

「――か言ってんじゃねーよ……記憶が戻ったからって、風の騎士には戻れねーんだよ!おまえは!力の精霊だ!オレが望んだんだ。だから!だから……!」

――ああ、ダメだ……。こんなの、ノインはどうすればよかった?選べなかっただろ?生きても死んでも、オレを苦しめるんだって!おまえは……わかってた……

「最善を尽くしてくれたおまえを……苦しめたくねーのに……寂しいんだよ!おまえの中に、残れなかったことが!」

全力で振り払おうとしても、ノインが掴んだ手が外れない。痛てーよ。放せよ!と泣きながら叫んでも、ノインは手を離してくれなかった。

「リティル、オレとの記憶を捨てろ」

「嫌だ!」

「忘れていい。それでおまえが苦しみから解放されるなら、オレは忘れられていい!」

「先に忘れたくせして、調子いいんだよ!この記憶は触らせない……大事なんだよ。大切なんだ!ノイン!おまえが!おまえを2度も殺してたまるかよ!」

気迫に、一瞬緩んだノインの手をリティルは振り払っていた。背を向けたリティルを、ノインは後ろから抱きしめていた。リティルは当然暴れたが、30センチも身長差があり、大剣を振り回しているノインはそうは見えなくとも逞しい。ガッチリ押さえられて、抜け出せなかった。

「忘れたくなかった!だが、忘れるしかなかった!許せ!だから、泣くな!」

「放せよ!忘れたくなかったって?どうしてそんなことおまえにわかるんだよ!オレのことなんて、欠片も覚えてねーくせに!」

そうなのか?ノインはリティルの怒りの理由がわかった気がした。

ノインはリティルを忘れたが、リティルに対する感情が残っていた。それがあることを、リティルには告げられなかった。残っているのは、リティルやフロインへの想いだけではない。一家の皆には、こういう認識だが、合っているか?と初対面で確認したが、リティルには何も告げられなかった。

それは、リティルが距離を保ちながら、力の精霊を守ろうとしてくれていたからだ。何を守ろうとしてくれているのかわからず、騎士の想いが、邪魔をしてしまうのでは?と遠慮してしまった。だが、それが間違いだったことに気がついた。

リティルは、リティルを忘れた力の精霊を守ろうとしてくれていたのだ。

それは必要ないのだと、早く伝えるべきだったと、ノインはやっとわかった。

「大切だからだ!覚えていないが、心が確かに、おまえを大事だと言っている!オレとおまえは、どんな関係だった?騎士という理だけだったなら、あり得ない強さだ。友人?親友?いや、違う……オレはおまえの何だった?」

「騎士だよ。それ以外の何があるんだよ!放せよ!」

「違うはずだ!オレとおまえは存在が繋がっている!そうでなければ説明がつかない」

「ああ、そうだよ!風の騎士はオレの父さんだ!命の理を歪めて、騎士に転生したんだ!14代目風の王と姿形が一緒だって、おまえ知ってるじゃねーか!」

「では、これは父親の情なのか?」

「もし、そんなもの持ち出してきたんなら、おまえと縁切るぜ?」

「なぜだ?」

「風の騎士を、父さんと重ねたことなんて、ねーんだよ!ノイン、オレはおまえに憧れてた!認めてほしかった!おまえが……大好きだった!そばにいてほしかったのは、父さんじゃねーんだよ!ノイン!おまえだった!一緒にいてほしかったのは、父さんだなんて、言いたくなかった!おまえのこと、いらないなんて、言いたくなかった!」

記憶のないノインには、リティルが何を言っているのかわからなかった。ただ、リティルが傷ついて泣いていることだけはわかった。

リティルの涙に、苦しくなる。泣くなと言ってやりたいのに、どんな感情で、どんな表情でそう言えばいいのかわからなかった。

「ノイン……!オレにはおまえが必要だった!今でも必要なのに……おまえは……もう……」

「いる。ここにいる!目をそらすな!オレはここにいる!」

「もういいんだ……力の精霊……ごめんな……」

「リティル?」

「おまえの言うとおりだ。オレの精神じゃ、おまえの過去を守れない。ルキルースに行ってくるよ」

「リティル!」

「ごめんな……ノイン……」

リティルは、ブレスレットにあるルキルースへのゲートを開いた。リティルはその夜の闇に飲まれると、ノインの手を拒んで1人行ってしまった。

 ノインは、腕の中からなくなったぬくもりに愕然としていた。

――リティルが……オレを忘れる?

嫌だと思った。彼の言ったとおり、先に忘れたのにと思ったが、彼の中に忘れられずにノインがいるから、オレは力の精霊になったのに!と、そんな失望が広がっていた。

「インファ!」

ノインは踵を返し、すぐさまインファを頼っていた。

リティルに、風の騎士との思い出を捨てさせてはいけないと思った。軽率に言ってしまった言葉に後悔しながら、リティルをどう救えばいいのかわからない。

記憶をなくした自分が思うように、記憶を捨てたとしても解決しない。リティルの中には、騎士への強い想いがある。それが、再びリティルを苦しめる。

――オレはどうすればよかった?リティル……

 リティルが、レジーナのところへ行ったと聞いたインファの顔色が変わった。インファはすぐさま、バードバスに向かったのだった。


ノイン……おまえとオレ。何に例えたらいいんだろうな?

おまえは父さんの姿だったけど、父さんとは本当に1度もダブって見えたことねーんだ。

不思議だよな。おまえ、瓜二つなのにな。

オレのこと忘れたの、おまえも一緒だったのに、どうして、こんなに……こんなに寂しいんだよ?認められねーんだよ!

ごめん!ノイン!オレ、おまえを守れない!

ごめん……


 ルキルースは夢の国。

桜の舞い散る園には、記憶が集まる。

記憶の精霊・レジナリネイは、記憶との邂逅を許してくれる。

「来ると思っていた。リティル」

ノインとの記憶を消してくれと、とても言えないと思いながら、それでもトボトボと丘を歩いて登っていたリティルは、声に顔を上げた。微睡む黒髪の少女の隣に、涼やかに微笑む背の高い男性が立っている。

その人の背には、金色のオオタカの翼があり、その顔は、上半分を仮面で隠していた。

「ノイン……!」

思わず駆け出したリティルだったが、彼の数メートル前で立ち止まった。おまえ何者だよ?と言いたげな視線を受けて、風の騎士は苦笑した。

「安心しろ。記憶の万年筆製だ。おまえが迷っているようなら呼び出せと、レジーナに頼んでいた」

精霊の至宝・記憶の万年筆。レジーナだけが扱える、記憶から実体を産み出す禁断の至宝だ。レジーナは、ゆっくり話してと言いたげに、桜の後ろへ回っていった。

「ごめん……」

リティルは、力なくノインの前まで歩みを進めた。

「かまわない。それで、どうした?おまえが迷うなど、よほどのことだ」

そう言われて、リティルは自嘲気味に暗く微笑んだ。そんなこと言って、しょっちゅう迷ってたぜ?と知ってるくせにと思った。

「おまえに忘れられたことが、寂しいんだ……」

思わぬ答えだったのか、ノインは一瞬瞳を僅かに見開いたが、フッと困ったようにリティルを見下ろした。

「そうか……。オレがおまえを忘れたときも、寂しかったのか?」

「いや。あのときは、そんなことなかったんだ。おまえは、父さんとは違ってたからかもな……。あいつは、おまえその者で、どうしていいのか、わからねーんだ」

「リティル、オレは、ほとんど変わらないように転成したつもりだ。オレは何か言っていなかったか?」

「……オレが大切だって言ってたな。オレとおまえはどんな関係だったんだ?って結構必死だった」

「困る問いをぶつけたな」

「だよな。あげくに、オレを大切だっていう気持ちは、父親の情か?ってもうオレ、キレるかと思ったぜ」

「フッハハハハ!オレよりも古い関係を持ちだしてしまったか。ああ、オレとおまえは、騎士と主君以外になんと表現したらいいものか……」

ノインは困ったように桜の梢を見上げた。そんなノインを、リティルは懐かしそうに見上げていた。

「わからねーよな」

「おまえも困っていたな。精霊達が、兄弟だと言い出して、おまえはそれを否定しなかった」

ノインは意地悪な笑みを浮かべて、リティルに視線を戻してきた。

「否定したら、じゃあなんなんだって言われるじゃねーか。オレとおまえは、他人じゃねーし、かといって血が繋がってるわけでもねーんだ」

「魂で繋がっている。リティル、その絆は切れない。オレが風の騎士でなくなっても、過去のすべてを失ったとしてもだ。オレは転成で、新たに産まれたわけではない。おまえは、何が後ろめたい?寂しいと言いながら、オレの顔を見ないおまえは、オレに何か、許されたいのか?」

リティルのそらさない瞳の中で、ノインが見透かしたように穏やかに笑っていた。

その笑みを見たリティルは、思わずカッと感情が高ぶっていた。

「おまえ……覚えてるよな?オレは、全部、断ち切った!おまえの命を繋ぐためだって我が儘言って、おまえから全部取り上げた!」

泣きそうな顔で詰め寄ってきたリティルに、ノインは涼やかに穏やかに微笑んでいた。それがどうした?と言いたげな態度で。

「言葉で、何をオレから奪えると?確かに、このまま死んでやろうかと思えるほど辛くはあったが、同時に、おまえのいる世界に戻ろうと思った。リティル、オレを信じろ。オレはオレだ」

ノインは、トンッと拳を自分の胸に当てた。その揺るがない瞳に、リティルはどうしようもなく懐かしくなってしまった。傷つけないようにと遠慮してしまう今のノインに、リティルは傷ついていたのだ。彼にとり続ける最悪な態度。ノインは遠慮しかできないというのに、リティルは行動を改められなかった。

「ノイン……」

「泣くな、リティル。記憶に拘るなら、オレに見せろ。それくらい許せ。精霊としての理が変わっても、オレはおまえのもとへ戻りたい。その気持ちは変わらない。オレは言わなかったのか?なぜだ?」

ノインは、自分で自分がわからないと首を捻った。

「大丈夫なのか?オレのところにいて。力の精霊は、太陽王の管轄だぜ?」

「どこに属する精霊なのか、オレにはよくわからないが、持論を述べるとするならば、力の精霊が太陽の城にあるのは、風の王を討つことのできる剣だからだ。世界の刃を止めることは容易ではない。その為に用意された、切り札。それが、力の精霊だ」

そもそも、属する精霊なのか疑わしいとノインは言った。前任の力の精霊は守護精霊で、今は1人の精霊だ。主人となる精霊から離れられない守護精霊と、精霊では存在からして異なるのだから。

「オレを殺せる剣……」

「そうだ。それが、力の精霊だ。オレが選ばれたのは、必然だ」

「おまえは、騎士として王を討てる心があったからな。でも、弱すぎた」

「その通りだ。オレを手元に置け、風の王。安心しろ、いつでも斬り殺してやる」

ノインはそう言って、笑った。リティルは戸惑うように「いいのか……オレの所にあっても」と呟いた。ノインはリティルが、太陽王の管轄だから、一緒にいてはいけないとそう思いこんでいたことを知ったと同時に、おまえにしては勉強不足だなと思ってしまった。

「あれ、大剣じゃねーとダメなのか?」

「うん?使いこなしていないのか?オレは」

「ああ。ヤバいぜ?」

「そうか。オレはさほど器用ではないからな。そのうち気がつくと思うが、必要なのは黄昏の大剣ではなく、力の精霊の力だけだ。武器の形状は問わない」

「そっか、教えてやらねーとな。なんか、大剣に拘ってるような気がするんだよな」

「リティル、あとを頼む。今は、オレらしくないかもしれないが、風の城で過ごしていれば、オレはオレに戻れる」

「おまえ、いつの間にそんなことしたんだよ?最初目覚めた時は、全然おまえじゃなかったぜ?だからオレ、てっきり、おまえの心はあの時、死んじまったんだって思ったんだ」

「レジーナに記憶を癒やされたときだ。あの時、色々と悟った。オレの犯した間違いも。最後の最後で感情的になってしまった。そのことが、おまえ達を苦しめてしまったな。許せ。それから、記憶を癒やされたあの時、おまえの歌に、かなり助けられた。ありがとう」

「はは、聞いてたのかよ?風の奏でる歌も、歌えねーのかよ?」

「ああ、残念ながら、失ってしまったな」

「そっか、教えてやるよ。おまえが歌いてーならな」

「よろしく頼む。……リティル」

「ん?」

改まった様子のノインに、リティルは首を傾げた。

「1つ、否定させてほしい」

「否定?何だよ?」

「リティル、今まで世話になった。さらばだ。オレの、生涯ただ1人の主君」

リティルの顔が強ばった。そして、引っ込んだはずの涙が再び――

リティルの心に、楔のように刺さっている言葉だった。もう、戻れないとリティルに自覚させた言葉。ノインの命だけを守れればと、そんなことを思って実行してしまった自分の浅はかさを、思い知らされた言葉だった。

この言葉が、リティルを転成したノインから遠ざけてしまったのだ。

 リティルの反応を見たノインは、やはりなと思った。1番の過ちはこれだったなと、ノインは心苦しく思った。

「その言葉のすべて、忘れろ」

「はあ?」

「オレはこれからも、おまえの世話になる。別れるとき、それは、おまえを討つその時だ。おまえは主君ではない。手のかかる弟だ。これからもずっと」

「おと――!」

絶句するリティルに、ノインは困ったように苦笑した。

「恥ずかしい話、おまえとフロインに言わせてしまった言葉が、本心ではないとわかっていても辛かった。オレもまた、精霊という理に惑わされてしまった。風の騎士、力の精霊、そんなものは関係なかった。もっとも大切だったのは、ノインという存在だけだった。別れの言葉は不要だった。オレは、肩書きは変わっても、おまえのもとへ戻る。それは揺るがない心だったというのに。すまなかった。リティル、おまえを傷つけてしまったな」

「最初に、おまえに非道いこと言ったのはオレだよ。でも……すげー辛かった……痛かったよ!ノイン!あの時、おまえを殺したんだって思った!だから、オレ――」

再び泣き始めたリティルを、ノインは抱きしめた。リティルをこうやって、抱きしめた事はあっただろうか?どんなに打ちひしがれても決して縋ってこなかったリティルに、拒絶されると思ったが、ノインはギュッと抱きしめ返されていた。

どこにも行くな!と言われているようで、離しがたい。こんなに傷つけたのだと、ノインは心が痛かった。

「リティル、忘れろ。何でもかまわない。オレをおまえのもとへ戻せ。あのとき、オレが言うべきだった言葉は「オレをおまえのもとへ戻せ」だった。リティル、オレの願いを叶えろ!」

「……それが、オレ達兄弟?」

リティルは涙の溜まった瞳で、複雑そうに顔を上げた。こんなに、可愛かったか?とノインは抱きついたまま見上げてきたリティルに思ってしまった。

「どうだ?それなら、大切にし続けてもいいだろう?我々の仲は悪くなかったはずだ」

「それ、忘れてるおまえに言うのかよ!おまえはオレの兄貴で、オレはおまえの弟だぜ?って?」

バッとノインから手を離しながら、リティルは声が変に裏返ってしまった。そんなリティルに、ノインは涼やかに笑っていた。

「すんなり納得すると思うが?」

「そうかもしれねーけど!」

「今更照れるな。オレのことを、大好きなのだろう?」

「おまえ!」

「フッハハハハ!リティル、オレもおまえが好きだ。離れがたいほどに」

「それ、騎士だからじゃねーよな?」

ジトッとリティルはノインを睨んだ。

「疑り深いヤツだ。おまえを失う、あんなに泣いたのは、生涯初めてだ」

「ごめん……」

「おまえがオレを受け入れてさえくれれば、許す」

ノインは腕を組んで、涼やかに微笑んだ。

「おまえ、落ち着きねーんだよ。若返っちまって、オレと怒鳴りあいの大喧嘩だぜ?それで最後は退いちまうんだよ!言い切ってくれねーから、オレも退けねーんだよ……」

「それは、想像がつかないな。だが大目に見ろ」

「しょうがねーな。次からは、オレが折れてやるよ!あと、どうしてオレとおまえ、一緒に飛ぶとシンクロしちまうんだ?」

「わからない。魂の絆のせいかもしれないが、結局解き明かせなかった。さて、迎えが来たようだ」

ノインがリティルの後ろに視線を投げた。かすかに、名を呼ぶ声がする気がする。

「リティル、オレは記憶だ。何か聞きたいことがあったらまた来い。召喚に応じてやる。もっとも知識はオレの中にすべてあるが、な」

「ああ、ありがとな、ノイン。おまえが……死ななくてよかったよ。死んでたら、オレはもう2度と、過去のおまえとも会えなかったんだ」

ノインはフッと、優しく微笑んだ。

「そうだな。生きることを選択して、正解だったと今は思う。リティル、記憶のこと、辛いなら戻せ。今度は耐えてみせる。ではな、リティル。また数秒後に」

「ああ、考えとくよ。……数秒後だな。あとでな、兄貴」

ノインはその大きな手で、リティルの頭をポンポンッと軽く叩くと、レジーナの桜の高い梢に向かって飛んで行った。

 風の騎士の姿が、桜の花びらに消えてしまった直後、丘の下から突風のような風が吹き上がってきた。

「リティル!」

振り返ると、翼の黒いノインが急降下してくるところだった。本当に数秒後の再会だ。

ああ、こいつ、騒がしいな。と今し方一緒にいたノインと比べてしまって、リティルは小さく笑った。

「オレがわかるか?リティル!」

忘れてほしくない!と顔に書いてあり、ああ、そうだよな?おまえ、ノインだもんな。とリティルは必死な顔のノインをしげしげと見上げていた。

「ああ、オレの兄貴のノインだな」

「そうか……よか――兄貴?」

「そうなんだよ。おまえ、オレの兄貴なんだよな。弟忘れちまうなんて、薄情だろ?はは……ハハハハ!」

「リティル?」

突然笑い出したリティルに、ノインは戸惑った。

「もう、やめた!オレはオレだ!背伸びしたって、大人になんてなれねーよ。ノイン、風の騎士の過去、見てーなら見ていいぜ?あんまり参考にならねーと思うけどな。おまえ、落ち着きねーところ以外、ノインだからな」

「リティル……」

何かあったのか?と言いたげな顔だった。

「あのな、聞きてーことがあるなら、言えよ!顔色窺うなよ!気持ち悪りーな!……わかったんだよ。オレが寂しかったのは、おまえとの絆が断ち切れたと思ってたからだったんだ。忘れられたからじゃなかったんだ……。おまえ、オレが大切だって言ったよな?その言葉を信じるだけでよかったんだ。おまえは、真っ新な命ってわけじゃねー、ただ、力の精霊に転成しただけで、変わらずノインなんだからな」

リティルは疲れたように小さく笑うと、ノインを真っ直ぐに見上げた。

「おまえはオレの兄貴だ。信じるか?ノイン」

「ああ。疑う理由がない。この想いが、血縁の情なら納得できる」

本当に信じちゃったよ。とリティルは、記憶を見たら嘘がバレるな。と、苦笑した。さらっと、とんでもない嘘を思い付くよな?と風の騎士のことを思いながら、ああ、オレ達、知らず知らずにお互いそう思ってたのかもなと、思い直した。

もしノインが、そんな事実なかった!と言ってきたら、おまえが言い出したんだぜ?と言ってやろうと思った。だから、早く、落ち着いてくれよ?と思った。

「帰ろうぜ?ノイン。この世界、問題山積みなんだよ」

おまえに構ってる間に、また仕事が溜まったと、リティルはため息を付きながら、首の後ろを掻いた。

「もう、おまえに遠慮しねーよ。手伝ってもらうぜ?風の仕事」

「ああ、了解した」

ノインの心底ホッとした顔を見ながら、そんな心配するなよ!と思った。だが、風の騎士も顔には出さなかったが、始終心配してくれていたのかもしれないなと思うと、素直に感情をぶつけてくれる今のノインが、わかりやすくていいなとも思えた。

――ノイン、兄貴風吹かせてくれよ。そしたらオレ、素直になれるかもしれねーよ

風の王として、力の精霊との距離感を、これからも悩むのだろうなと思いながらも、リティルは、ノインが失ったのは記憶だけなのだとやっと思うことができた。

ノインは、死んでいない。別の力を手に入れただけだ。そしてこうやって、帰ってきてくれた。

「肖像画、描き直さねーとな」

ノインをもう1回描き直して、フロインの頭に花冠書き足してーと、リティルはブツブツ言い出した。それを聞いたノインは、嬉しいとは思ったが、力の精霊になったことを引け目に感じてしまった。あれは、風一家の肖像画だ。そこに、派遣されただけのオレが加わってもいいものかと思ってしまったのだ。

「……いいのか?」

「ああ?おまえ、オレの兄貴だぜ?風の城にいなくたって、どこにいたって、変わらねーだろ?やっとわかったんだ……捨てなくてもいいってことがな!おかえり!ノイン!」

リティルは明るく笑うと、ずっと見守ってくれていたレジーナに、風の城への扉を開いてもらい帰還したのだった。


 風の王の補佐官、風の騎士・ノインは、力の精霊・ノインへと転成を果たし、風の城に戻ってきた。

至宝の偏りを危険視する声もあったが、力の精霊の上司である太陽王が、風の王を監視するために遣わせたと宣言し、それでも納得しない一部の精霊に苛立った力の精霊・ノインが「オレは風の王・リティルの兄だ。家族が共にいて何が悪い?」と声高に公言してしまい、多少の混乱、主に風の城内部だが、それを聞いた大多数の精霊達が「ああ、やっぱり」と味方になってくれ事なきを得た。

 現風の王の補佐官である、煌帝・インジュと恋仲を噂される、智の精霊・リャリスは風の城に入り浸っているものの、太陽の城を住まいと定めていて、太陽の王の側にいることを態度で示していた。

 長らく姿を現さなかった精霊の至宝。

それが、所有者を定め、表舞台に戻ってくる。失われた至宝の発見が今後も相次ぐのでは?と精霊達は、動かなかった世界が動き出すのを感じ始めていた。

その中心には、いつでも風の城がある。世界の刃として、矢面に立ち続ける風の城を、案じながら危険視する視線。

智の精霊と力の精霊は、風の城を守るべく、イシュラースを監視していた。

そんな中でも、風の王・リティルの笑顔は健在で、精霊達は、彼の笑顔と歌声に、大丈夫、続いていけると希望を失わず持ち続けたのだった。

これにて、ワイルドウインド11完結です。

楽しんでいただけたなら、幸いです!

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