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二章 体温を分け合う

 ノインは目覚めて、朦朧としているうちにリャリスによって、太陽の城に連れてこられた。

そこで出会った太陽王夫妻を、ノインは仕えるべき主であるとすぐに認識した。それは、継承した精霊の至宝・黄昏の大剣がそう反応したからだ。ノインには、その反応がかつて仕えていたのか、仕えるべき者なのか、そのどちらでもよかった。2人はノインをぞんざいには扱わなかったが、どこかよそよそしかった。

記憶のないノインは、その理由がわからなかった。違和感を感じていたが、そのどれも知ってはいけない気がして、ノインは動けなかった。

そうしているうちに、次第にこの体は体温を失っていった。なぜなのかわからない。わからないことだらけだった。

胸の中心に残った傷跡の意味。それはすでに癒えているというのに、時々苦しいほどに痛んだ。何かが急かすようで、しかしどれもノインの中で像を結ばず、ただただ心がすり減っていった。同じ配色のパンジーとビオラを植えたプランターを眺めて、耳に飾るピアスの存在が辛うじてノインとこの世界とを繋いでいた。

――名を『――』に呼んでもらわなければ、オレは死ぬ……

唐突にそう心に湧き上がった頃から、件の夢を見るようになった。誰かがこの体の名を呼ぶ。オレの名――しかしオレではない誰かの名を。

明るい声でその人に『ノイン』と呼ばれるたびに、この体に体温が戻った。会いたいと思った強く強く――だが、何かがダメだと後ろから腕を引くようだった。

 なぜ、捜してはいけない?オレは何者だ?何をして、今のオレになった?ノインは、答えを探せずにどんどん無気力になっていった。

 キンモクセイに背を押され、出禁にされた風の城に赴き、ノインは生まれたてではなく、転成した精霊だと初めて知った。

ピアスの贈り主にも会えたが、彼女には拒絶され哀しくて、プランターに八つ当たりしてしまった。

 今、偽物とはいえ、太陽の城にある自室と同じ部屋に、フロインと共にいることが不思議だ。彼女はきっと、来てくれと言っても来てはくれないだろうからだ。

そんなノインの心を知るよしもなく、花の溢れる内装に、フロインはキンモクセイを思い浮かべてのことだと思い、心がやさぐれていた。少し近づいた距離が、また離れたのを感じてしまっていた。

「この部屋は、オレの中にあった漠然としたイメージで作った」

「そう。花は喜ぶでしょうね」

「確かにキンモクセイは喜んだが、オレがイメージしたのは彼女ではない」

ノインは、フロインをジッと見つめた。フロインはその視線に気がついてノインを見た。

「君だ。君だったことに、風の城で君に出会って気がついた」

「わたしは風の精霊よ?なぜ、花のイメージなの?」

ノインはフロインの髪に手を伸ばした。フロインはハッとして身を強ばらせ、顔を背けたがその場には留まった。そんな彼女の様子に、ノインは刹那躊躇ったが、髪に触れた。

「君の髪に飾られた花。このプランターに植えられた花々と、雰囲気が同じだ。その配色も。オレは、君をどこかで覚えている」

「けれども……わたしがあなたを選ぶ、資格はないわ」

「フロイン、風の騎士は婚姻の証を壊していない。それは、壊せなかったからだ。君を手放したくないと、思っていたからだ」

「あなたは来なかったわ!」

フロインはツンッと言い放つと、部屋の中へ足を進めてしまった。

プランターに植えられた花が、わたしをイメージしたもの?信じられるわけがない。信じられるわけが――フロインは水盤に張られた水に自身を映していた。

「本当に……わたしなの……?ノイン……あなたを手放すしかなかったわたしを、あなたは……」

すぐに太陽の城へ行った、キンモクセイではなく、尋ねもしない、会えば拒絶したわたしを選ぶというの?水盤に映ったフロインの像が、波紋に歪んだ。

「ノイン……わたしはあなたを、今度こそ守れる?」

ノインに霊力を送りすぎて実体を保てなくなって、ノインの中からほとんど出られなくなっても、彼は、フロインに語りかけることをやめなかった。たまに実体になると、ノインはその腕の中に捕らえてなかなか放してくれなかった。

愛されていたことを、疑いようがなかった。たとえ、この身を繋げなくても。

――フロイン、構わない。今のままで、構わない

何度、同じ言葉を言わせた?フロインは、婚姻を解消しようと葛藤していた。それがノインにはわかるらしく、彼は何度も何度もそう言って、フロインから婚姻の解消という言葉を奪い続けた。

「ああ……わたしは――あなたに……生きてほしかった!手放すべきだった!ノイン……!愛していたわ!愛して――いた――のに!」

手放せなかったわたしは、本当に愛していたといえるの?命を救う方法を知っていながら、それをできないで、あなたの言葉に安心して、それで、それで……フロインは大理石の床に泣き崩れていた。

「フロイン」

「わたしでは、ふさわしくないわ……」

「では、誰ならふさわしいと?君が拒むのは、オレが記憶を失っているからか?記憶があればいいのなら、戻そう。インファが、記憶の精霊がいると言っていた。その者ならば、オレの記憶をいじれるのではないか?」

「やめて!それをして、あなたが壊れてしまったらどうするの?あなたもどうかしているわ!甲斐甲斐しくそばにいたキンモクセイではなく、拒むばかりのわたしを選ぶ理由がわからないわ!」

ノインは、フロインの前に腰を下ろした。

「オレにとってこの部屋以外の場所は、凍えるほどに寒い。夢の中で名を呼ぶ誰かの声、このピアスが辛うじてオレを生かしている。そう感じている。君が未だに”ノイン”を想っているその心が、オレを守っている。今オレは、生きたいと思っている。フロイン……この寒さ、止めてくれないか?オレに体温を分けてほしい」

「わたしの、想い……?」

ノインはゆっくりと服をはだけた。そして、胸の間に縦に走る傷跡をフロインに晒した。

「それは?」

風の騎士・ノインには、超回復能力があった。傷など残らない。なのに、もう癒えているらしい傷跡が生々しく残っていた。

「この傷をつけたのは”ノイン”なのだろう。オレは彼の想いに打ち勝たねばならない。この傷は、オレの何かを壊した。君は癒やしを扱えるのだろう?消す方法はないか?」

フロインは、恐る恐るノインに近づいた。足の間にフロインを招きいれたノインは、ゆっくりと触れてくる彼女の指先を見ていた。

「っ!」

「ごめんなさい!」

「いや、違う。思いの外、君の指が熱かった」

熱い?フロインは慌てて引いた指先を自分の手で確かめた。そんなフロインの両手を、ノインは大きな手で包むように握った。

「オレの手は冷たいか?」

「いいえ。きちんと体温を感じるわ。ノイン、今も寒いの?」

「いくらかマシだ。フロイン……許してほしい」

覆い被さるように、ノインの体が近づいてきて、フロインは抱きしめられていた。

「思った通りだ……君は……温かい……」

ノインの顔が、フロインの半分剥き出しの肩に埋められ、安堵するようなため息とともに、つぶやきが耳をくすぐった。ぎゅうっと背中に回した腕に力がこもって、フロインは息が詰まった。

「ノイン……痛いわ……」

「呼んでくれ……オレの名を。フロイン……頼む……」

まるで自分が誰なのか、確かめるよう……フロインは切なくなって、そっと自分の豊満な胸を庇っていた腕を解き、ノインの背に回した。

「ノイン……あなたが救われるというのなら、わたしのすべてを、あなたにあげるわ」

「フロイン……心が揺れるが、それはできない。オレは君の夫ではない」

「ならばわたしに贈って。わたしを、あなたのモノにすればいいわ」

顔を上げたノインの瞳に、泣きそうな顔で笑うフロインが映った。

「いいのか……?」

フロインの顔に手を伸ばしかけたノインは、途中でその手を止めた。

「できない……オレは、君の霊力がほしいわけでは……」

「わたしの魅了は、思い人のいる人には効かないの。あなたの思い人が、わたしなら嬉しいわ」

「君しかいない」

「あなたが彼ではないとしても、あなたにならいいわ。力の精霊・ノイン……」

フロインの手が、ノインの頬を撫でた。その指に気を取られていたノインは、フロインに唇を奪われていた。

風の騎士・ノインとは、口づけさえ数えるほどしかできなかった。彼は本当に、そういう触れ合いを避けた。それはなぜだったのか、フロインにはわからない。

「ノイン――」

婚姻の証となるアクセサリーを贈りあわなければ、霊力の交換は行えない。

これではただの、欲望のぶつけ合いだ。フロインは、これは精霊にとって禁忌であるとわかっていた。

彼の欲望に火を付けたのはフロインだったが、ノインが婚姻の証を送ることを忘れてしまうとは思わなかった。けれども、ノインの掴んできた手を、フロインは拒まずに受け入れる道を選んだ。何もわからずに傷ついているこの人を、癒やしたいと思った。

たった1人、自分の苦悩に誰も立ち入らせずに、孤独に戦う道を選んだあの人を、フロインはついに癒やすことができなかった。最後まで、共に行くと約束したのに、フロインは、最後の最後で手を放してしまった。

この人がノインだというのなら、あの時与えてあげられなかったものを与えたいと、あなたもわたしの一番だったのだと、証明したかった。

「フロ――イン……!」

あなたも、そんな目をした?あなたはいつも涼やかで、余裕で……。わたしはいつも、そんなあなたに甘えていた……

「君に――」

――見せたくなかった……

熱に浮かされた瞳で、ノインが呟いた。フロインは瞳を見開いた。

――そこにいるの?あなたは、そこにいる?

「ノイン……!」

叫んだフロインの閉じた瞳から、涙が溢れた。

初めての交わりが、こんなに切ないとは思わなかった。

………………………………………………

「ノイン、同意の上よ?」

流されてしまった自覚のあるノインは、落ち込んでしまったのか、フロインに背を向けて座り込んでいた。その丸まった背中が小さく見えて、こんなノインの姿はそうそう見られないわねと、フロインは笑ってしまった。

「しかし!オレは君に……」

振り向きかけて、ノインは慌てて視線をそらした。フロインは未だ、一糸まとわぬ姿だったからだ。クスッと微笑んだフロインは、風を集め肌を隠した。

「ノイン、そのピアスをわたしに返して」

「フロイン?」

「新たに贈りあいましょう?わたしの夫となって?力の精霊・ノイン」

「!」

「イヤ?」

フロインは首を傾げて、ノインの顔を覗き込んだ。サラリと波打つ髪が流れ落ち、飾られた野の花が散る。

「まさか!だがフロイン、今は婚姻の証の形が思い浮かばない。必ず贈る。だから、それまでこれを預かっていてもいいだろうか?」

「ええ、もちろんよ。ノイン、もう寒くないかしら?」

「……あれだけ凍えるようだったのが、嘘のようだ。何かしたのか?」

「特殊なことはしていないわ。ただ、あの頃のように少し魂に触れてみただけ。あの人は、お見通しだったようね」

フロインは少し拗ねたように首を竦めた。

「どういうことだ?」

「あなたがわたしに愛されたら、その傷が治るようになっていたのよ。まったく勝手なのだから。あなたが心変わりしない保証なんて、どこにもないのに……」

「しなかった」

「そうね。ありがとう、ノイン。わたしのもとへ、帰ってきてくれて……」

「礼を言うのはオレの方だ。ありがとう、フロイン……苦しみをすまない」

首を横に振ったフロインは、再び泣きそうな顔で笑い、ノインの胸にそっと寄り添った。フロインの背を抱いたノインは、ため息を付いた。

「風の騎士が、手を出さなかった理由がわかったような気がする。先ほどまでは平気だったのだが、今はその、また触れ合いたくなる」

「それはわたしの力ではないと思うわ。あなたの欲望よ」

「そうハッキリ言われると、立つ瀬がない」

「わたしにだけなら、いいのではないの?」

「それは、そうだが……君とは、こういう触れ合いも大切にしたいのだが……」

「では、理性を鍛えることね」

「ぐっ!君はなかなか辛辣だな」

そう言いながら、ノインは楽しそうに笑った。

 ノインに合わせて笑いながら、フロインは早く婚姻の証を贈ってほしかった。彼と肌を重ねたことを後悔したくなかった。愛せる。と、思えている今、この心を捕まえていてほしかった。

――わたしは、あなたとあなたを重ねてしまうのね……これからずっと……

割り切れない部分が確かにある。あの人を、生涯ただ1人だと思っていたが故に。けれども、寒いと、凍えているこの人を温めてあげたくなった。あなたより少し頼りないこの人を。あなたより少しだけ明るく笑う、この人を愛してあげたくなった。

――あなたを、いつまでも愛しているわ……ノイン……だから、ノインを、愛させて

スリッとフロインは瞳を閉じると、ノインの頬に頬をすり寄せた。するとノインは、慌てたようにフロインを引き離すと「なぜだかわからないが、心が乱される!」と狼狽えていた。そういえば、風の騎士は止めはしなかったが、フロインがこうすると困ったように照れたように笑っていたなと、思い出した。

わたしもあの人を乱していたのかしら?と思うと、意地悪に嬉しいと思ってしまった。

 さて、そろそろ行かなければと2人が立ち上がる頃、部屋の扉がある方向に気配が現れた。

「えっと、お楽しみは済んだかしら?」

現れたのは、スワロメイラとセリアだった。2人はなぜかぎこちなく、ソワソワしていた。

「誤解しないで!見たくて見たわけじゃないのよ!」

セリアはいきなり叫んだ。その顔が真っ赤だった。

見たくて見たわけじゃない?フロインはハッとして固まった。まさか、見られた?

戦慄くフロインに気がつかずに、ノインは眉根を潜めた。

「君はいきなり何を言っている?」

「だって、ノインがフロインとその……思いもよらなくて!もおおおお!いいわよ!行きましょう!」

モジモジしていたセリアは叫ぶと、さっさと踵を返した。

「どこへ?そもそも君たちは誰だ?」

呼び止められたスワロメイラは、明らかに不満そうにノインを睨み上げた。

「……知ってたけど、これは凹むわね。あたしたちは宝石三姉妹。あたしは次女・スワロメイラ。この娘は3女・セリアセリテーラ。かの有名な雷帝様のお妃様よ」

「インファの?彼は今どこに?」

「言っておくけど、迷子はあなた達よ?インファちゃんはずっと待ってるの。連れていってあげるからついてきて」

スワロメイラは少し疲れたようにため息を付くと、2人を促した。その時だった。

部屋の入り口で破壊音が響いた。

 スワロメイラはチッと舌打ちすると、リング状の刃を抜き構える。

「どうしてあなた達を狙ってるのかしらねぇ?ここはいいから、セリア、行きなさいな」

「はい、スワロ姉様。急いで、ノイン、フロイン!」

セリアはすぐさま何もない空間に扉を開くと、二人を先に通し、自分も扉に入ると閉じたのだった。


 扉を抜けた先は、桜の花びらの舞い散る花曇りの空だった。

「ノイン!無事でしたか!」

空気感もまったく違う場所に出て、ノインはしばし満開の夜桜の舞い散る景色に瞳を奪われていた。

声をかけられ、そちらに視線を向けると、大きな桜の古木の前にインファとリティルがいた。その傍らに、髪の異様に長い、着物姿の少女が佇んでいた。

「インファ!ああ、獏に襲われたがなんとか無事だ」

駆け寄ってきてくれたインファは、心底ホッとした顔をしていた。そんなインファに、ノインは自然と笑みがこぼれていた。

「無事で何よりです。……?ノイン、何かしましたか?」

「何かとは?」

「いえ、何か……変わったような?」

首を傾げるノインに、インファは何か雰囲気が変わったようなと首を傾げた。そんなインファの背後から、突風がノインに襲いかかっていた。

「っ!リティル?」

ノインは咄嗟に大剣を抜き、彼の一撃を凌いでいた。マグレだった。いや、リティルが相当に手加減したのだろうとノインは察した。

「……おまえ、フロインに手、出しただろ……?」

「え?」とこの場に全員が、目を見開いた。当事者の2人も。

「斬る!」

リティルの金色の瞳が、視線だけで切り裂かれそうなほど鋭く睨み付けていた。

「待て!リティル!話を――!」

「問答無用だぜ!このバカヤロウ!」

リティルの容赦ない怒りを受けて、ノインは交戦するしかなくなった。

 怒り狂っているはずなのに、リティルの剣はどこか冷静だった。こちらの隙を的確に突いてくる。これは、格が違いすぎる!

「リティル!貴殿の守護女神とことに及んでしまったことは謝罪する!だが、決して――」

リティルのショートソードが、風の金色の輝きを放って閃いた。それを辛うじて大剣で受け流したが、炎のような陽炎が刹那消え失せた。

「真剣だったとでも言うつもりかよ!」

襲ってきたリティルの両手の剣を受けたが、間髪入れずに顔に向かった突きを放たれ、咄嗟に避けたが左の頬に熱い痛みが走った。その耳で、小さな音がした。ノインは慌てて交戦中であるというのに、左耳のピアスがまだそこにあるのかを確かめていた。その大きな隙を見逃すリティルではない。両手の切っ先が、ノインの首と心臓に突きつけられていた。

「――婚姻なしにヤルのは御法度だ。それくらい、知ってるだろう!それはな、やろうと思えば相手のすべてを奪い尽くせるからだ!おまえ、気がついてねーのかよ!フロインから、ごっそり生命力奪いやがって!あいつのことだ、無知すぎるおまえに内緒で押し切ったんだろうけどな」

焼け付くような熱い切っ先を首に突きつけられながら、ノインはこちらを見上げているフロインを瞳だけで見下ろした。

「おまえに、心がなかったとは言わねーよ。けどな、これから記憶をリセットされるおまえは、フロインに答えてやることは不可能なんだよ!」

記憶をリセットされる?ノインは耳を疑ったが、何とか問い返せた。

「!どういうことだ?」

「副官に説明させる。来いよ!」

リティルは剣を退くと、怒りを隠さないまま舞い降りていった。フロインはこちらを見上げるばかりで、舞い上がってはきてくれなかった。

 記憶のリセット?それは、いつからいつまでの記憶なのだろうか。

力の精霊として、生きてみようと思えた矢先のことでノインは、間違いであってくれと縋るような視線をインファに向けていた。

「ノイン、あなたが記憶を失ったのは、風の騎士が黄昏の大剣を使って記憶を焼き尽くしたためでした。その傷が、今でも残っていませんか?胸のこの辺りです」

インファは自分の胸の間を、縦に指を滑らせて示してみせた。

「あったが、フロインが消してくれた」

「なるほど、父さんが怒り狂うはずですね。フロインでなければ死んでいましたよ?そうですよね?フロイン」

「生きているのだから、いいでしょう?」

フロインはプイッと顔を背けた。

「まったくあなたは王の気も知らないで。いいですか?そういうことをして、傷がつくのは女性の方ですよ?それからあなたはノインを、罪人にしかけたんです。精霊殺しが許されているのは、たしか、風の精霊だけだったと、記憶していますけど、ね?」

「それは!……ごめんなさい……」

フロインは反論しようとしたが、諭すインファがこの身を案じての事であるが故に、これ以上かみつけなかった。

俯いたフロインに、インファは小さく困ったように息を吐いた。

「フロイン、風の王は世界を守る刃です。世界の理を揺るがす行為には、罰を与えなければなりません。上級以上の精霊でその力の司は1人だけです。ので、責任重大なんですよ。風の王は父さんで15代目です。13人の王の無念を背負って飛んでいるんですよ。その覚悟は、他の精霊達の比ではありません。今後気をつけてください。しかし、無知を恥じることはありません。それを教えるのは、精霊大師範であるオレの役目ですから」

そう言ってインファは、ニッコリ微笑んだ。そして、優しい微笑みを収めると「本題に戻ります」と言った。

「記憶の専門家の話ですと、記憶の破壊は精神をも壊してしまう危険な行為とのことで、まず、壊れた記憶を修復します」

「風の騎士だった記憶が、この体に残っていると?」

「ええ、そのようです。それが、夢となって現れているようですね。精神の修復も考えていたんですが、フロインが意図せずやってくれたので、あとは記憶だけですね」

「リセットとはどういうことだ?」

インファは言いづらそうに、しかし、視線をそらさずにノインを真っ直ぐに見ていた。

「……ノイン、力の精霊と風の騎士の記憶は相容れません。ノイン、あなたの精神は風の騎士の記憶には勝てません」

「やってみなければ、わからない」

「そう言ってくれますか?わかりました。消さない方向で頑張りますが、あなたの精神が耐えきれないと判断したときは、消します。いいですね?世界を守る刃としては、力の精霊を失うわけにはいかないんです」

あなたを、殺してしまうわけにはいかないんです……インファは、そう言うことができなかった。

「……了解した。フロインと話してもいいだろうか?」

「ダメだ!って言いてーけどな、今生の別れになるかもしれねーからな。時間やるよ」

リティルは腕を組んで、未だに怒り狂っていた。フロインとの記憶すら失う危険のあることを知っていた彼からすれば、大事な家族をただ弄ばれたように感じたことだろう。

しかし、まだ負けると、決まったわけではないとノインは思っていた。

 フロインに近づくと、彼女はこっちへと言うように、丘を歩いて下り始めた。ノインは足早に彼女に並んだ。

「ノイン、無駄に傷つくことはないわ。捨てていいのよ?」

「そんなことを言うな。それとも君は知っていて、拒まなかったのか?」

精霊の婚姻は、魂を分け合うという言い方もされていた。それは相手の霊力を、自分の体内に取り込む特別な魔法が使えるようになるからだ。霊力は精霊という存在を維持する力だ。それぞれ固有の色をしているが、それを体内に取り込むと、相手の純粋な力を、体に宿っている分だけ使う事ができるのだ。

「さすがにそれはないわ。知っていたら、断固拒否したわ」

言い切る彼女から、嘘をついている気配はなかった。

「フロイン、オレは君を忘れたくはない」

「ありがとう、ノイン。安心して。わたしの夫は、ノイン、あなただけよ」

本当の事だ。例え、力の精霊・ノインが、別の人を選んだとしても、フロインの夫は、ノインだけだ。フロインは、目覚めたノインに選ばれなかったら、恋愛感情を捨てようと決めていた。もう、必要ないからだ。

「行って、ノイン。わたしは、あなたが生きることを望むわ」

「ああ、もちろんだ。フロイン、待っていてほしい」

「待っているわ。ノイン」

そうして、2人は別れた。

 丘の上に消えるノインを、フロインはずっと見つめていた。そして、背後に迫ったモノを振り向いた。

「ノインには指一本触れさせない。あなたが誰に操られているにせよ、襲い来るモノには容赦しないわ!」

フロインは風の中から鉄扇を出現させ構えながら、レジーナの桜の生える丘を風の障壁で覆った。この障壁には、音を遮断する魔法も練り込んだ。外でどれだけ暴れようが、中には聞こえない。

フロインは桜をなぎ倒し現れた獏と対峙した。

――ノイン、ごめんなさい。あなたを信じてあげたいけれど、風の騎士・ノインは誰にも倒せないの。わたしの夫は、無敗の騎士。今のあなたでは、太刀打ちできないわ

獏の急所は象と同じ、鼻の付け根だ。フロインは容赦なく急所を鉄扇で打ち据えた。

痛みにのたうつ獏の首に一撃を加え、フロインは難なく仕留めていた。

「けれども……夢だけは見させて。ノイン……わたしを忘れないで……お願いよ……」

フロインの頬を、涙が伝った。そんな彼女を狙い、新たな獏が現れた。

「フロイン、そばにいってもいいのよ?」

細く鋭い殺気が辺りを直線的に飛び交った。それは、透明な糸だった。

「エネル。いいえ、わたしは守護女神。守ることがわたしの役目よ」

赤い袴を履いた、透き通る水色の髪の女性が、音もなくフロインの前に降り立った。

「じゃあ、凌ぎきりましょう。そのうち、スワロも合流してくれるわ」

「何かわかったの?」

「ええ、あとでリティル様に報告するわ。あなたにウッカリ漏らすと、1人で行ってしまいそうだもの」

エネルフィネラはフフと妖艶に朱を引いた唇を歪めると笑った。フロインは涙を払うと、フッとその女神のように美しい顔に勇ましい微笑みを浮かべた。

「退けるわ」

「ええ、頑張りましょう。フロイン」

2人の勇ましき精霊は、戦いに身を投じた。


 リティルは桜の梢を見上げていた。

「健気なヤツだぜ」

「何か言ったか?」

「ん?いいや。じゃあ、始めようぜ?力の精霊」

呑気なヤツだなと、リティルは力の精霊・ノインの様子に思ったが、風の騎士が規格外の精霊だったことを思い出した。強すぎて忘れていたが、彼はインファの守護精霊という位置づけで、上級精霊ではあったが精霊的強さはさほどでもなかった。

にもかかわらず、リティルが一太刀も入れたことがなく、誰と手合わせしても負けない。無敗だった。

彼なら、この丘を覆い尽くした風の障壁は誰が張り、今この外で誰が戦っているのかわかっただろう。

こいつ、ホントに最上級精霊か?とリティルは少し心配になった。こんな体たらくで風の騎士・ノインに勝つ?できるわけねーよ。と冷ややかに思ってしまった。

――リティル!

炎のような陽炎に、その身を焼かれながら名を呼んでくれた風の騎士。姿ばかりのおまえは、オレのノインじゃない!ノインじゃ……ない……。リティルは、ノインから視線をそらすと両手に拳を握っていた。

「ノイン、ここ、仰向け、寝て」

レジーナが桜の古木を背に、自分の目の前の地面を指さした。

「安心しろよ。オレ達がおまえを守ってやるよ」

リティルに背中を押され、ノインは息を詰めるとレジーナの前に身を横たえた。

レジーナは1度インファとリティルを見上げた。2人が頷くのを見て、そっとノインに両手をかざした。

ブワッと風が巻き起こり、レジーナの長い髪、着物の袖や裾を巻き上げる。透明な風を花びらが彩り、ノインの姿を淡い桜色が覆った。

 ノインは瞳を見開いた。

今、この目が見ているか、様々な光景が通り過ぎる。そして、頭と心に蓄積されていくのがわかった。確かな正体が、この存在に戻ってくるのを感じる。

『ノイン!』

明るく笑うリティルの顔が、声と共にノインの心に襲いかかってきた。

――オレは……誰だ?

縋ってこない、泣いているリティルを支える大きな手――これは誰の?オレだと自覚したとき、心に強い拒絶が起こった。

叫んだだろうか。力の精霊の理と、風の騎士・ノインの心が争いを始めていた。

『オレは、リティルを守るために存在する、騎士』

『待て!それでは力の精霊の理を守れない!』

騎士の剣は鋭く揺るぎなく、そして美しい。対する力の精霊は無様なもので、迷いなく襲いかかってくる騎士の剣に為す術がなかった。

――負ける!

ノインは唐突に思った。

美しく1点の曇りのない騎士の心。リティルだけを主君と定めた、高潔な精神。そして、触れられない妻のフロインに対する深い愛情。何1つ勝てるモノがなかった。

「これまでですね」

 傍観していたインファが、やっと動いた。リティルにしてみれば、息子はよく待った方だと思う。叫び声を上げるノインの虚空を見つめる瞳が、正気を失っていく。もう、限界だった。

「ああ。レジーナ!記憶の消去、よろしくな!」

リティルはレジーナに指示すると、ジャラリと鎖を手の平から引き抜いて、暴れ始めたノインを拘束したインファに並んだ。

「抵抗しますね」

鎖を引くインファの手が持っていかれそうなほど、引っ張られていた。リティルは、魔法の鎖でノインを押し止めるインファの背と手に手を重ねて、最大限の霊力を送っていた。

「ああ?当たり前だろ!けど、こいつじゃオレのノインには勝てねーよ。揺るがないブレない無敗の騎士様だぜ?」

「”ノイン”は、どこまで想定していたんでしょうか?」

「これは想定外だと思うぜ?あいつだって、知らないことはたくさんあったさ!けど、風の騎士の記憶が力の精霊の妨げになることはわかってた。オレもわかってたさ!」

もの凄い力だ。百戦錬磨の風の最上級精霊2人がかりでも、抑え込むのに必死だった。

それなのに、騎士に負ける?彼はどれだけ強い心で風の騎士であり続けたのか、インファは泣きそうになってグッと奥歯を噛んだ。騎士の最後の時、泣きながら呼んでいた名が、インファの耳に蘇っていた。

インファは、それなのに!とリティルにフツフツと怒りが湧いてきた。

「もう1つ想定外だったのは、父さんが目覚めたノインに、会えなかったことですね。彼のことですからね。父さんに導かせるつもりだったでしょうね」

インファはチラリと隣のリティルを、咎めるように見下ろした。

「……そうかぁ?あいつ、オレとフロインは関わらなくていいって言ってたぜー?」

「棒読みになってますよ、父さん!しかし、強いですね力の精霊。オレ達が競り負けそうですよ」

鎖を握る手が傷ついて血が滲むのを、インファは感じていた。

「だな。力の精霊は風と同じで純粋な力の司の1つだ。あらゆる力を支配してるんだ。こいつは、イシュラースで1番強い精霊なんだよ!」

「野放しにはできませんね。ルディルで御せますか?あの人、優しいですが導く力は弱いですよね。風の王で導く力が強いのは、15代目と14代目ですが、父さんどう思いますか?」

15代目はリティル、14代目はリティルの父親である、伝説の風の王・インだ。インは、風の騎士・ノインのベースとなった精霊だ。ノインにノインは導けない。とすると?

「ああ?オレに導けって?冗談じゃないぜ!太陽王の部下なんだ、あいつにやらせとけよ!くそぉ!手が痺れてきたぜ!セリア!インジュ呼んでくれ!こいつが風の騎士のままなら、何の問題もなかったんだけどな!けど、ノインの揺るぎなさが、オレありきだったなんて、わかるかよ!バカノイン!オレみたいなのに、依存してんじゃねーよ!」

煌帝・インジュは、風の城最強の精霊だ。その上、オウギワシの彼は怪力だ。初めから呼んでおくんだった!と、リティルは歯を食いしばっていた。

「リティル1番!だったですからねぇ、ノイン。気がつけば、リティルのお兄ちゃん説まで出てきちゃったくらいに、リティル過保護番長でしたからねぇ。あの人の愛情、ちゃんと受け取ってあげないとダメじゃないですかぁ」

後ろから2人を抱きしめるように綺麗な手が伸びてきた。リティルとインファの手にその手が触れると、途端に楽になった。

「インジュ、早いですね」

「あはは、実は後ろで見てましたぁ」

「おまえ!見てたんなら、手伝えよ!」

「仲良くおしゃべりして余裕そうでしたけど、違いましたぁ?」

「これがオレ達のやり方なんだよ!強い魔物と戦うときほどインファとは喋りまくってるんだよ!」

「はあ、そうですね。なぜなんでしょうか?しかし、ノインの基本的な性格は変わっていないようです。きっと大丈夫ですよ」

「だな!ノインは探究心が強かった。偏ってたけどな!その探究心が、謎を謎のままにしておかねーよ!ダメだ。オレじゃやっぱり導けねーよ!」

「どうしてです?」

この期に及んで、導きを拒否するリティルに、インジュは瞳を瞬いた。

「オレはどう考えても、あいつより下だった。それをノインは、騎士の心で支えてくれてたんだ。それをなくしたあいつが、オレに一目置くとは思えねーよ!」

「リティルも自己評価低いです」

「事実だぜ?オレが優れてるところなんて、1つもねーんだよ!ノインはオレの目標だった。あいつにオレは、認めてほしかったんだ!」

よく怪我をするリティルを、ノインは叱ってくれた。若さで迷うリティルを、ずっと支えてくれた。彼の隣なら、平気で泣けた。あの大きな手で、格段にリティルよりも弱い力しかなかったのに、このどうしようもない王を守ってくれた。

それは、彼が騎士だったからだ。残念ながら、ノインが選んでくれたわけではないと、リティルは思っていた。だから、忘れられたのだ。リティルを忘れたのは、ノインのせいではない。リティルは、彼の庇護下から出ることを決めた。もう、振り返らない。

「ノイン!オレを忘れてほしくなかった!また、おまえはしょうがないって、笑ってほしかったよ!だけど、さよならだ!ノイン!これで……本当にさよならだ!大好きだったぜ?クールで大人なおまえが、大好きだった!そばにいてほしかった!おまえの手、放したくなかったよ!ノイン!だから生きろよ?永遠に生き抜いてくれよ?オレはおまえを、永遠に忘れない!会えなくても、地獄でも、この記憶を……この記憶だけは手放さないよ!」

リティルは鎖を引きちぎる勢いで暴れるノインの体を、鎖ごと抱きしめた。3人分の霊力で、鎖は焼け付くように熱かった。それでもリティルは抱きしめた。この体に、鎖が焼き付こうとも。

「ノイン……ノイン!大丈夫だ。大事なモノを手放しちまうほど、おまえはバカじゃねーよ。怖がるなよ。おまえはまた、フロインを選べるさ!」

あれだけ激しかった抵抗が弱まっていく。インファは鎖を再度自分の手に巻き直した。その手から、血が滴っていた。

「ノイン、こっちだ。おまえの進むべき道はこっちだぜ?オレは自信がねーから、おまえのそばにいてやれねーけど、見守っててやる!おまえが力の精霊ちゃんとやってるか、見ててやるからな!ノイン、行け!振り返るなああああああ!」

そしてリティルは歌い始めた。『風の奏でる歌』を、かつて風の騎士・ノインが歌っていたように力強く。魂を鼓舞するように。

「リティル、これで導けないって言うんです?」

「リティルは、考えてやっているわけではありませんからね。大丈夫ですよ、インジュ。ノインが迷うなら、見かねてしゃしゃり出ますよ、オレ達の王は」

――そうあってくださいよ?父さん

インファは鎖を風に返した。インファにも超回復能力があるが、インジュは父の手を取るとその傷を一瞬で癒やしたのだった。


 声が聞こえる。歌声が……。

もう思い出せないその歌の名前。

歌うおまえは、誰だ……?

この体の名を呼び、ここへ繋ぎ止めてくれた声。

大切だったはずなのに、思い……出せない。

もう、得ることはできない?それがとても寂しい。辛い……この胸の痛みは何だ?

――そう、悲観してくれるな。また、出会えばいい。おまえはおまえのやり方で、彼と、関わればいい。おまえは生きている。そして、おまえはオレだ。望め、心のままに……

生きろと急かすような、魂を奮い立たせるような歌声。嫌いじゃないと、ノインは思った。そして立ち上がると、顔を上げた。

――心に 風を 魂に 歌を 限りないと 君を信じて

――眼差しの向こう 風の導きに 逆らっても 叫べ 信じるままに

――透明な腕に 抱かれ 別れを突きつけられても 歌え 想いのままに――……

歌声の先に眩しい光があった。光を背にしたスラリとした影が、ノインに手を差し出した。来いというその手を、力の精霊・ノインは取った。


 歌声が聞こえる。

華やかに歌う、女性の声。まるで恋するような甘く暖かい歌声だった。

──心に 風を 魂に 歌を 君と築く未来が 今 目の前にある

──さあ わたしに 手を伸ばして 掴んだ手が まばゆい羽根に変わる

──恐れるな 傷ついても 誓え 瞳の輝きを失わないと――……

誰だ?力の精霊・ノインは、ベッドの上に体を起こすと、迷いない手つきでサイドテーブルの上に乗っていた仮面を取ると、顔にはめた。

ノインは、小さな本棚とテーブルと2客の椅子という、一通りの家具の揃った、白い塗りの壁に開いた、窓ガラスの嵌まっていない窓から外を覗いた。

大理石の床を所々くり抜いた場所に樹木の植わる、知っている風景が目に飛び込んできた。その樹木の間に、誰かがいる。歩いているのか、チラリチラリと波打つ金色の長い髪が木々の間に見え隠れしていた。

金色のオウギワシの翼を生やした彼女は、ノインが見ていることに気がつかない様子で、小屋のある広場に出てくると、プランターの花に触れながら、美しく微笑みながら歌っていた。部屋を満たす白い柔らかい光の中、彼女の波打つ髪が金色にキラキラ輝いていた。長いまつげに縁取られた瞳を、彼女が上げた。その瞳が驚いて、歌が止んだ。

なぜ、歌をやめてしまう?とノインは思って、ああ、オレが見ていることに気がついたのかと思い至った。

「声を、かけてくれればよかったのよ?」

彼女が、気恥ずかしそうに笑いながら首を少し傾げた。その拍子に、右耳に飾られたピアスがかすかな音を立てて光を返した。オウギワシの羽根をモチーフにしたピアスだった。

ノインは、近づいてきてくれた彼女に、窓越しに声を投げていた。

「そのピアス……」

「これが、どうかした?」

彼女の触れた金のピアスが、チャラリとかすかな音を立てた。

「なぜ、君が……?」

「わたしの作った物を、わたしが身につけていたらおかしいかしら?」

わたしが作った物?あれは確かに、オレの作った物ではないが、確かに――

「それは、オレの物だ」

彼女は驚いて、その場に立ち止まった。ノインは、返してほしいと手を差し出した。明らかに彼女は戸惑っていた。

「これがほしいの?……いいわ。どうぞ」

彼女は耳からピアスを外すと、渡してくれた。ノインはホッとして、そのピアスを左耳に付けた。その様子を、彼女はなぜかジッと見つめていた。

「すまない。君は誰だ?」

「わたしは風の王・リティルに仕える精霊よ。守護女神・フロイン」

フロインと言うのかと、ノインはその名を心の中で反芻していた。守護女神……その名にふさわしい神々しさだなと、ノインは半ば見とれていた。

「なぜ、太陽の城に、オレの部屋にいる?」

「あなたが目覚めたばかりの精霊だからよ。風の王の仕事が何か知っている?」

風の王の?ノインは少し考えて、フロインに視線を戻した。

「世界の刃たる精霊だ。死した魂を始まりの地・生命の大釜、ドゥガリーヤへ送る標の鳥だ」

フロインは感心したように、頷いた。

「よく知っていたわね。風の王は世界を守る義務があるわ。あなたには少し問題があって、それで、目覚めるまで監視していたの。もっとも、歌っていて、目覚めの瞬間を見逃してしまったけれど……」

リティルに知られたら、怒られてしまうわと、フロインは困ったわと笑った。彼女の笑顔が眩しくて、ノインは思わず瞳を細めていた。

「あなたは、自分の名前を言える?」

「力の精霊・ノイン」

「ここはどこ?」

「太陽の城だな」

「この城の主の名は?」

「夕暮れの太陽王・ルディル、夜明けの太陽女王・レシェラ」

「……大丈夫なようね」

フロインはあとは何を聞こうかしら?というふうにノインから視線を外した。

「少し、話をしないか?」

ノインがそう声をかけると、彼女はまた驚いた。なぜだろう?なぜ彼女は、オレの行動にいちいち驚くのだろうか?とノインは不思議に思ったが、今彼女を帰せば容易には会えなくなるような気がして、何とかして引き留めたかった。だが、オレと彼女の想いは同じではないと思えた。彼女は明らかに、ここから早く去りたい様子だったからだ。

 彼女は明らかに戸惑っていた。そんな彼女に、背中から白いクジャクがすり寄り、後ろを振り向いたところを、前に音もなく舞い降りてきたワシミミズクに、クジャクを振り返った為に、その鋭い爪で後頭部の髪の毛を引っ張られ、悲鳴を上げた。

「よせ!サーリー!スレイ!」

ノインは窓枠を飛び越えると、ワシミミズクとクジャクを追い払った。

「ありがとう、ノイン」

何が襲ってきたのかわからなかったと、フロインはノインの差し出した手に手を重ね、少しかがんだ体勢から顔を上げた。

はにかんだその笑顔が、強烈にノインの心に刺さった。

「っ!」

近い!とノインは思ってしまった。フロインはすぐに背筋を伸ばすと、ノインの手をはな――とそこへ、クジャクのサーリーがいきなりフロインに体当たりをした。悲鳴も上げられずに、フロインは見事にバランスを崩してノインにぶつかっていた。フロインは180センチ以上あるノインと殆ど背が変わらない。加えて、グラマラスだ。ノインはフロインを受け止めたが、その膝裏をワシミミズクのスレイに蹴られ、ガクンと膝を折らされていた。

「――ごめんなさい!」

フロインは、2羽の見事な連携で、ノインに抱きつく形で倒れていた。

「いや」

「……あの、離してくれると、ありがたいわね」

体を起こそうとしたフロインは、背中にノインの腕が回っていて動けないことに気がついた。すぐに手を放してくれると思ったが、彼はなぜか放してくれなかった。もう一度声をかけようとすると、ノインが言った。

「君は……誰だ?」

フロインは、戸惑うノインの声を耳元で聞いた。

「オレは、君を知っている。オレが、力の精霊として目覚めたのはついさっきだ。だのに、君は誰だ?」

触れた体温、香る匂い――ノインは体が、彼女を知っていると訴える声を聞いた。そして、放してはならないと、焦りを感じた。

「落ち着いてノイン。確かに、わたしはあなたを知っているわ。けれども、今のあなたには関係ない事よ?」

「教えてくれ。教えてくれたら、この手を離そう」

そう言われても……とフロインは躊躇った。魂を分け合う約束をしているなんて、とても言えない。だが、嘘をついても納得してくれない気がした。

けれども、どうして?とフロインは混乱していた。彼の記憶を消したのはレジーナだ。記憶の精霊の消去は文字通り、何も残らないはずだ。だのに、ノインの中にわたしが残っている?なぜ?とフロインは答えの出ない疑問が渦巻いていた。

 記憶の消去の終わったノインを、太陽の城で監視しろと命を下したのはリティルだった。フロインが進んで見届けにきたのではない。

ノインを部屋に運んで、ベッドに寝かせたが、とても枕元にはいられなかった。体を重ね「君を選ぶ」と言ってくれた彼は、いなくなってしまったとわかっていたから。

 風の城で出会ったノインは、ノインの姿形をしているだけで、ノインではないとフロインは思った。そう思って哀しくて、それが理不尽な怒りに変わってしまった。

あなたは、新しく産まれたのではないのに、転成なのに、どうして、こんなに変わってしまったの?聡明で強かった風の騎士なら、1番大事な想いを守って、帰ってきてくれると信じていたのに、勝手な想いを裏切られたフロインは、感情を抑えられなかった。

今、風の騎士、力の精霊として生きた1ヶ月の記憶を完全に失ってしまったノインの瞳に、どう映るのか知るのが怖かった。この体を抱いた記憶も失って、フロインにとっては愛そうと決めた矢先のことで、冷静になどいられないと思った。

だが、今抱きしめてくれている彼は誰?フロインは、なぜか風の騎士と一緒にいるような錯覚に囚われていた。

どうして?記憶の壊れていた数時間前とは違う。今の彼には、本当に一切の記憶がないのに……フロインは自分の認識にも戸惑っていた。

「ノイン、そのピアスのこと、何か覚えているの?」

何か質問しなければと思った。風の騎士に繋がる何かを、彼に問わなければならないと思った。

「覚えていない。だが、これはオレの物で、誰かからの――誰か……君は誰だ!」

ええ?どうあっても、わたしとの関係を知りたいの?とフロインは困った。言ってしまっていいのだろうか?このまま抱きしめられたままも、そろそろ恥ずかしい。ノインはこの豊満な胸と密着して大丈夫なのだろうか。男は皆、この肉体に魅せられるというのに。彼はとても、無防備に見える。

「あなたとわたしは、前世夫婦だったの。そのピアスは、その時わたしが贈ったものよ」

うん。嘘ではないわ。これで納得して!とフロインは願った。

「前世?……違う!オレは!……うう……オレは……」

前世。ノインは、前世という言葉を否定したいのだろうか?だが、過去の記憶がすべてないのだ。そういうことにしておいた方がいいとフロインは思った。

「無理しないで!前世は前世よ。今のあなたが囚われるべきものではないわ」

ノインの腕が、更にきつくフロインを抱きしめた。ハア……ハア……と耳元で聞こえるノインの息遣いに、心穏やかではいられなくなる。どうしよう?どうしたらいいの?とフロインは心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。

「ノ、ノイン、離して……」

「今離せば君を失う!」

ええ?記憶はなくなっているはずなのに?とフロインは戸惑うしかなかった。これはもう、受け入れろとそういうこと?風の騎士・ノインは、彼の中から消える時、この想いだけを守ってくれたのだろうか。そうならば、手放すわけにはいかないのだが……。

「あなたには、わたしと魂を分け合う覚悟があるの?」

やっと腕の力が弱まった。フロインは用心しながらゆっくりとノインの腕の中から逃れた。彼の足の間から出ようとすると、その背にクジャクがすり寄ってきた。

この子達、まるで無理矢理くっつけようとしているみたい。とフロインは思って、なんだか健気で笑ってしまった。

サーリーを見ていたフロインは、乱暴に頬に触れられノインの方を向かされていた。そして、唇を奪われていた。

何が起こったのかわからなかった。それはノインも同じだったようで、自分の行動に動転しているようだった。無理もない。彼は理性的な人だ。それが、初対面でいきなりキスしてしまうなんて、驚く。大丈夫だろうか?壊れないだろうか?と、フロインはノインの様子を窺った。

「わたしのことを、覚えていないでしょう?無理しなくていいのよ?あなたは確かに、わたしともう1度魂を分け合おうと言ってくれたけれど、引きずる必要はないのよ?」

「君でなければ――ならない。ならないのに……その理由がわからない」

ノインの泣きそうに訴える顔を見たフロインは、切なそうに微笑んだ。

「ノイン……ありがとう……落ち着いて、目を閉じて」

ノインは一度大きく息を吐くと、瞳を閉じた。たぶんフロインの言葉を、心を落ち着けろとそう促されたと取ったのだろう。

 だが、フロインの意図は違った。

その唇に、フロインは唇を重ねたのだった。ノインは驚いたようだったが、受け入れてくれた。ぎこちなく、長く、2人は口づけを交わした。何の解決にならなくても、今、この人とキスしたかった。

「――落ち着いたかしら?」

「いや……今度は別の意味で落ち着かない……」

こんなことを言える人だったかしら?と思いながら、フロインはおかしくて笑ってしまった。上品にお腹を抱えて笑うフロインを見ていたノインは、つられて声を出して笑っていた。

「こんなに笑ったのは、たぶん初めてよ?」

「それは、よかったのか?」

「笑うことはいいことよ?ノイン、わたし、風の仕事に戻らなければならないのだけれど――」

フロインが離れることを仄めかすと、ノインはあからさまに不安そうな顔をした。

そんな、そんな捨てられた子猫みたいな目をしないで!とフロインはたじろいだ。そして、2羽の鳥もズイッとフロインに近寄ってきた。

こ、怖い……このまま監禁されてしまいそうだと、フロインは身の危険を感じた。

「ちょっと、待っていて。帰らないから、待っていて!」

フロインは立ち上がると、雄々しいオウギワシの翼を開いて軽く踏みきりあっという間に木々を飛び越えた。

 フロインはノインと鳥達から離れると、ホッと胸をなで下ろした。そして、両手の平に風を集めると、水晶球を取り出した。

「インファ、ノインが目を覚ましたわ」

『そうですか。混乱はありませんか?』

「それが……」

フロインは、ノインが”フロイン”に固執して、かなり精神が不安定なことを訴えた。それを聞いたインファは、遠慮なく笑いだした。

「笑い事ではないわ!どうすればいいの?このままだとわたし、絆されてしまいそうよ!」

『それは絶対に阻止してください。2度も許すと癖になりますから。そうですね……では、一緒に仕事しますか?』

「ルキルースへ?」

ノインを太陽の城に送り返したあと、ルキルースに残った風の王と副官は獏の件を片付けるべく動き出した。呼び出された補佐官・インジュは風の城に戻っているはずだ。

『ええ、トンボ返りになりますが、オレがお守りできますし、父さんに会えばまた何か動きがあるかもしれません』

「わかったわ。一緒に来るか聞いてみるわ。出たくないと言われてしまったら?」

『人身御供でお願いします』

「それは、魂を分け合えとそういうこと?」

『イヤなんですか?』

「……ノインは今、正常な判断が下せないわ。勢いで結ぶモノではないでしょう?」

『あなたには、ノインしかいないでしょう?捕まえておけばいいんですよ』

「いいのかしら?」

『ノインにも、あなただけでしたよ?………………オレに何を言わせるんですか!ともかく、生け贄がイヤならば、ルキルースに連行してください。オレが何とかしますから!』

「連絡はセリアにお願いします切りますよ!」とインファは逃げるように水晶球からいなくなった。

 フロインはハアとため息をついた。大人なノインしかしらないフロインは、まるで母親を追いかける子供のようなノインに戸惑っていた。だが、気配が確かに風の騎士で……今、彼の中で何が起こっているのだろうか。記憶が壊れていたときよりも、なくなってしまった今の方が、風の騎士みたいだなんてと、フロインは首を傾げていた。

イヤなわけではない。ただ、とても危うくて、風でありながら導いたことのないフロインにはどうすればいいのか、わからなかった。

 風の騎士・ノインには、ずっと甘え続けた。今度は、わたしが甘えさせてあげる番?そう思えば、フロインは前向きになれた。

広場に戻ると、ノインは2羽の鳥達と小屋に続く階段に腰を下ろしていた。彼等は同時にフロインを見た。フロインが戻ってきたことに、あからさまに安堵する彼等に、フロインの母性本能は大いにくすぐられていた。

「ノイン、風の王の副官が、仕事をしなさいと言うの。わたしはルキルースへ行くわ」

ノインは、ルキルースがどこかわかっているような素振りだった。彼には記憶がないはずだ。なのに、消す前はなにもわかっていなかったのに、今知識があるのはなぜなのだろうか?知識……そうだ、ノインは知識を持っている。それは、記憶ではないのだと、フロインは朧気ながら納得できたような気がした。

「そうか。いつ戻ってくる?」

だから、そんな目で見ないで!とフロインは、グラグラと心を揺さぶられていた。

「副官が、あなたも一緒に来ないか?と言っているわ。わたし以外に、あなたには疑問があるはずよ?違う?」

ノインは、正体のある確かな瞳で、フロインを見返した。

「……確かに。黒いがこのオオタカの翼。オオタカの翼は、風の王の証のはずだ。それをオレが持っているのは不自然すぎる。オレは風と関係していた。と考えるのが普通だ。君は、前世のオレの妻だと言った。前世ということはオレは生まれ変わりのはず。だが、君の表情を見る限り、前世のオレとオレは同じ姿形をしていた。だとするなら、それは生まれ変わりではない。蘇りだ。だが、蘇りは御法度だ。風の王が黙っていないはず。だが、オレは生かされている。風の禁忌に触れない存在の変換……考えられるのは、転成だ。オレは風の精霊だったが、訳あって力の精霊となった。といったところか?」

どうだ?とノインは、風の精霊だった名残の残る金色の瞳でフロインを見返した。

「あなたは、ノインなのね……」

フロインは感心して、思わず風の騎士・ノインと重ねてしまった。いや、ノインその者だと思った。

「名まで同じなのか。だが、1つ疑問が残る。転成であるならば、記憶は引き継がれるはずだ。しかし、オレの中には風の精霊だった記憶はない。故意に消されたか、消滅寸前で転成したかのどちらかだ。どちらだ?」

確信のある物言いで問われ、フロインは答えていた。

「消されたの。消すしかなかったのよ。あなたは、風の王の補佐官だったの。風の騎士という精霊だったわ。ノイン、ルキルースへ行きましょう。風の王の副官、雷帝・インファが、あなたの疑問に答えてくれるわ。わたしより、彼の方が適任よ」

行きましょうと促すと、ノインは立ち上がった。

 セリアに連絡をと水晶球を、フロインが風の中から取り出そうとしていると、ノインが言った。

「フロイン、魂を分け合うという話だが」

重要な事を忘れていたと言いたげな口調だった。

「だ、だから、考えなくてもいいわ!冷静になれば、また違って見えるはずよ?」

フロインはさっき勢いでしてしまった口づけを思い出して、狼狽えてしまった。

「先ほどの口づけ、オレを受け入れてくれたのではないのか?」

「……ノイン、わたしは転成する前のあなた、風の騎士の妻だったの。彼とあなたを重ねてしまっただけ。見てわかるとおり、風の騎士との婚姻の証はもうないわ。わたしが、解消したのよ」

「そうか。オレと風の騎士を重ねたということは、君は、今でも風の騎士を想っているのだな?」

「ええ、そうよ」

「君が風の騎士に贈った婚姻の証は、このピアスか?」

「ええ」

「風の騎士とオレは、別人か?」

「…………」

さすがのフロインも、何を確認されているのかわかった。ここで、今フロインが思っていることを言えば、彼は心を決めてしまう。いいのだろうか?それで。

「フロイン、答えてほしい」

一歩も退かない強い声。この声を知っている。風の騎士の声だ。フロインは、答えられなくて縋るようにノインの顔を見た。

ノインだ。彼はノインだと感じた。しかし、フロインは躊躇った。

――リティル、今まで世話になった。さらばだ。オレの……生涯ただ1人の主君

フロインは、風の騎士の声を聞いた。

今ここで、彼と婚姻を結べば、ノインは、風の城へ戻ってきてくれるのだろうか。風の騎士が、帰りたがっていた場所へ導くことができるのだろうか。リティルのもとへ、帰してあげられるのだろうか。

「あなたは……ノインだわ」

「ありがとう。ではオレは、もう1度君を選びたい。フロイン、もう1度、オレの伴侶となってくれないか?」

「……ノイン、でも……わたし……」

いいの?これでいいの?インファは好き合っているのならいいのでは?と軽かったが、フロインは何か大きな事を見落としているような気がしていた。

「フロイン、オレの記憶が消されたことには意味があるのだろう。だが、心が君を離すなと言っている。君が、風の騎士とオレとの、決定的な違いに気がついているのだとしても、オレは君を諦められない。重ねてかまわない。風の騎士を忘れなくていい」

――ああ……もう、ダメ……

フロインはノインの胸に飛び込んでいた。

「あなたに……わたしが勝てるはずもないわ。ノイン……わたしの魂、あなたにあげるわ」

ノインの腕が、背中を包んでくれた。彼がホッとしたのが、フロインにはわかった。

「だが、証は少し待ってくれ。君にふさわしい物を作りたい」

「ええ、いくらでも待つわ。ノイン、わたしも新しい物を贈るわね」

そっと抱擁を解いたフロインは、ノインに微笑んだ。

「そうか。だが、これは返さない」

フロインは、頑なに風の騎士に渡した婚姻の証を手放そうとしない彼が、気に入っているのかな?と思っていた。ならば、持っていてもらおうと思った。

「それはあなたの物でもあるわ。持っていて」

笑うフロインに、ノインは風の騎士と同じ涼やかな目元に、彼よりも柔らかな笑みを浮かべた。

 そんな2人の様子を、木々の向こうから見ていた者がいたが、2人も、主達が上手くいって満足げな2羽も気がつかなかった。


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