31.同じレールの上
結論から言えば、俺の心配はとてつもない杞憂だった。
すなわち、利子は『幽霊である必要がなくなった』だけだったのだ。
話を聞く限り、利子は内臓に重大な損傷をし、事故後緊急手術が行われた結果、
一命をとりとめたものの意識不明のまま昏睡状態となり、体に何本もの管を
繋ぎ、それで命を繋いでいた。
曰く、ここ数週間の間は利子の体は大分落ち着いた状態にあったらしい。
そして、幽霊の利子が消失した夜あたりから、体調が急に回復し、そして明朝に
約1年ぶりに意識を取り戻した。
俺が自分の殻に閉じこもっていた2、3日の間にさらに体調は快方へと向かい、
今では体に繋がっていた管も半分近くに減ったようだ。
……といっても、見える限りで、右手の指を総動員して数え切れる程度といった
本数はありそうなのだが。
このままなら、1月たつのを待たずして退院できると医師は言ったらしい。
まぁともかく、ある程度のアクションを自分でもとれる程度まで回復した、とのことだった。
現在俺達は、結局利子が持っていたトランプで、なぜかババ抜きをやっている。
「……えと、これか。よいしょ」
ぅおい。JOKERとれよ。
「あがりです♪」
「くっ……」
……手が動かせるからって、やることはババ抜きかよ。
「ちょっと待てよ。いくらなんでもババ抜きで20連敗はおかしくないか」
「ユーマさん、ついてませんね」
「運云々の問題なのか……イカサマしてるだろ?」
「えぇ~、してませんよ」
「というかそれ以前に、ババ抜きで20連戦ってのがツッコミ所な気がするが」
「気のせいです気のせい」
ちなみに、俺が入ってきていきなり二人で号泣しはじめ、咲子さんは相当引いていたが、
とりあえず利子の幽霊の話をする訳にもいかず、あることないこと話して取り繕い、
なんとか納得してもらった。今は、咲子さんは1階の売店に飲み物を買いに行っている。
急いでいて気が回らなかったが、何か持ってくるべきだった。
ともかく、利子は晴れて人間となり、俺と同じレールの上を共に歩んでゆくことに
なった。
「なぁ、利子」
トランプを集めて束ねながら声をかける。
「何でしょう?」
「……好きだ」
目の前の元幽霊さんは顔を赤くして下を向いてしまった。
「……はい」
「ずっといっしょにいてくれ」
「……はい」
「約束だぜ」
「……はい」
なんかテープレコーダーのように『はい』ばっかりだ。
なんだかちょっと心配になってきた。
「ババ抜きは好き?」
「……はい」
「ポテトチップのプルングルスは好き?」
「……はい」
「アンパンマンは好き?」
「……はい」
「たすき?」
「……はい」
「チャイコフスキー?」
「……はい……ってユーマさんっ!!」
「気付くの遅くない?」
「だって、心臓がすっごい鳴ってたんですよ!!しょうがないですよ!!
もう、ユーマさんのせいでムードぶちこわしですっ」
「はっはっ」
「むー。はっはじゃないですよぅ」
いつになっても、俺たちはくだらない会話ばっかりだな。
「ユーマさん」
「なに?」
「ずっと、一緒にいましょうね」
生きてる。
過去があって今があって、たぶん未来もある。
多くの人には当たり前かもしれない。
でも、すばらしいじゃないか。ねぇ。
(終わり)
お読みいただきありがとうございました。
この後にエピローグが続きます。
そちらの方までお付き合いいただければ幸いです。