21.他力本願
そんなこんなで、学校へ到着した。
途中で立ち止まっていたせいか、時間は遅刻ギリギリだった。
「よっす、雄真」
「よっす」
敬司は日課のとおり御社と話をしているようだった。
(………。)
そんなことよりも今は利子だ。
他人からは見えないとはいえ、利子は俺の左腕にしがみついたままである。
実体を消さぬままに、俺のワイシャツを掴んで無言の利子。
当然、俺は座り方も不自然だしワイシャツの皺も不自然なわけで、誰でも
注視すれば何かがおかしいことに気付いてしまう危険性を孕んでいる。
(利子、せめて実体は消したほうがいいぞ)
(……私、ユーマさんに触れていたいです)
困ったな。
どうしたものか……と悩んでいると鐘が鳴った。
教師が入ってくるとともに、敬司との話が終わったと思われる御社が
「じゃあねぇ、敬司」と言って立ち上がった。
そして席に戻るのかと思うと、俺の席まで歩いてきた。
「HR後にこの前の教室」
御社は、小声でそういうと、すぐに踵を返して席に戻った。
「……は?」
今の言葉は、確実に俺に向けられたものだよな?
この前の教室、とは多目的教室のことだろうか。
む……やっぱり、アイツにはバレたか。相変わらずの洞察力だな。
(何の話でしょう?)
(そういえば地の文も読めるんだっけね)
きょとんとする利子。その表情にも、いつものような生き生きとしたものが
ない。どこか、どんよりとした雰囲気が見受けられる。
(何でもねぇよ)
しかし、俺は内心、少し期待していた。
御社が『話がある』と間接的に言ってきたのだ。
しかも、自ら「興味がない」とまで言っていた御社が、である。
この逆説に、利子に関する情報を期待しないはずはない。
御社は何か知っている……か、もしくは一枚噛んでる可能性がある。
もしかすると、この明らかに不自然な利子の態度変化の原因も彼女は知っているのかもしれない。
う~ん。早く終われHR。
「……では、HRは終了だ。各自、授業の準備をしておくこと」
立ち上がる。
(ど、どうしましたか、ユーマさん?)
咄嗟にしがみ付いてくる利子はさながら仔ウサギのようで。
俺がどこかへ行くと思ったのか、いっそう怯えた表情になっている。
「なぁ、利子」
俺はお前が好きだよ。
どうやったら、お前に笑顔が戻るんだろう?
声に出せない疑問を嚥下した俺は――
「上目遣いはやっぱり反則だと思うんだ」
そんな気の利かない言葉だけを小さく吐き出した。
教室を出る。
利子に何が起こっているのかはわからない。
御社が何を考えているのかもわからない。
だから俺の……究極の他力本願が始まる。……やべ、死ぬほどカッコ悪いな。
……藁にもすがりたい心持ちなんだから、少しは大目に見ろよ。
利子から一言。
「種明かし、始まり始まり〜です!!」