お隣のデュラハンさん
父は川に洗濯へ。母は山に魔物をシバキに。
朝食を終えて暫くしての昼下がり家には俺しかいなかった。作り置きのお昼ご飯を味わった後に暇を持て余していると、訪問者が家の玄関を慣れた感じでノックする。扉を開けると立っていたのは、お隣に住んでいるデュラハンのお姉さんだった。少しそわそわとしているのが気になるが、それよりも手に持つバスケットには山盛りの果物の方が俺としては気になった
「よ よお 紅葉。もう怪我は大丈夫なのか」
この様子だと紅葉のお見舞いに来たので間違い無いだろう。つまりそれは俺の物ということで良いのだろう。
「こんにちは。デュラハンのお姉さん おかげさまでもう大丈夫かな。心配かけてごめんなさい」
「そんな他人行儀じゃなくてホロウで良いって。
……そいや前に約束したろ。今度オレが特製フルーツウォーターをご馳走してやるって。それ今でいいか?」
俺の様子を見てどこかホッとしたような顔色を浮かべたホロウ。そんなに心配をかけていたとは、他人事ながらどこか申し訳ない気分になるな
「うん!」
俺が死んでから二千年経って最も驚いた事の一つ。本来文化形成の異なる多種族たちが当たり前のように同じコミュニティで生活している事だ。
俺の死後、アリスたちがどれだけ世界をまとめるのに尽力したのか。想像もつかない。きっと並大抵の苦労ではなかったはずだ。でも成し遂げたんだな。あの子は。それが二千年経っても脈々と受け継がれている。俺のしたことは少しは無駄じゃなかったと思えた
「どうした紅葉 何か良いことでもあったのか」
「え?」
「だって今一瞬だけ凄い嬉しそうな顔してたからよ」
言われて気付く。そうか、俺は今知らず知らずの内に笑みを浮かべてしまっていたのか
「もうちょい待ってくれよ、この双樹の根っこをすり潰すの大変でさ。30分で出来上がるから」
果物はそのまま食べたいのだが、わざわざそんなグチャグチャにしなくても……あぁ、勿体ない。水々しくて美味しそうなのに。なんて思ってしまったのは食い意地が張りすぎだろうか。それから暫くして
「ほらよ」
「え 泥?」
「ドロドロだけど味は保証する。いいから飲めって。」
目の前に置かれた飲み物?はお世辞にもあまり美味しそうではなかった。見た目で味の良し悪しが分かるほど、味覚が発達しているわけではないのだが、人間の情報処理の割合はどうやら多くが視覚情報に割かれている。手が伸びづらいのはきっとそのせいだろう。
しかし俺のためにここまでしてくれた好意を無碍にも出来ない。故にホロウに勧められるままに、目を閉じてぐいっといく
「どう?」
ゴクゴクと喉を鳴らしながら、一息で飲み終える。
「ぷはー まずい! もういっぱい!」
「……なんだそれ。ふふ
いっぱいあるからな」
クセが強く、苦味がある。舌で味わうと70点。だがこの喉を通っていく感覚は不思議で、この感覚で50点の加点。つまり120点の美味しいフルーツウォーターだ。だから自然と2杯目をお代わりしてしまうのも仕方のないことなのだ
「ご馳走様!ホロウのお姉さん」
「……」
「どうしたの?」
「なあ 片付けが終わったら少しだけ散歩をしないか?」
「別にいいけど……」
ホロウが家に来た時から俺を見る時の視線には妙な感情が混ざっていた。不安感や焦燥感といったものだ。なぜ紅葉を見て彼女はそう思うのだろう
「どうだ 乗馬するのって初めてだろう」
「うん。凄い早い!」
デュラハンは自身の影に首無しの馬コシュターを住まわせている。コシュターの速度は普通の馬より遥かに速い。凄まじい加速力だ。風を切るように走っている。それに合わせて感じる風もどんどん冷たくなってきている
「それだと寒いだろ」
ホロウが自身の羽織っていた上着を俺に被せてくれた。服に残った僅かな温もりが俺の身体を温めてくれる
「学校は楽しいか?」
「……どうだろうね。普通かな。
それよりホロウ、私に何かいいたいことあるでしょ」
小さかったアリスを半年ずつ魔術師と騎士の学校に通わせた事がある。その時に俺も学校はどうだ?と聞いた時に彼女は普通だと答えていた。だから学校とは学びを得るための場所であって、楽しさとは無縁の場所なのだと俺は認識している。
しかしそんな答えをホロウは聞きたいわけじゃないだろう。だけど俺はホロウが何を聞きたいのかわからない。他に聞き出す術も知らない。だから単刀直入に聞くしかなかった
「あー……希少種の人間ってさ、オレたち多種族から見ると凄い物珍しいんだ。悪気があるわけじゃない。施された魔法もあって、どうしても好奇の目で見ちまう。お前、前に自分だけが他と違うって悩んでただろ?もしかしたらそれで日頃から嫌な思いをさせてるかもしれねえ。
見た目とか些細な部分は確かに違うけどよ、でも心とかそういう大事なもんはきっとオレもお前もみんなだって同じなんだ。そこだけは分かってくれねえか?」
「……うん」
「良い子だ」
ホロウの大きな手が紅葉の頭を撫でた。
もしかして紅葉は常にこの世界で疎外感を感じていたのだろうか?だから俺の魂をなんらかの魔法で呼び出した、とか?
あくまで憶測の段階。でも可能性はある。じゃあこの孤独や疎外感を充足させる事が出来たら、或いは俺という存在は今度こそ消えることが出来るかもしれない
「学校、か」
家に帰ったら、父と母に明日から学校に通いたいと頼んでみよう
父以外の野郎をそろそろ入れようかと思いましたが、5秒考えやめました。当分出さないかもしれません




