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月には蟷螂がいる  作者: 田村麻呂
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関東奪還作戦①

西暦2705年9月21日 9:26 ───旧東京都付近


第4部隊の隊員は式美が運転する装甲車に揺られながら、もうすぐ始まる作戦に向けてやる気と緊張と不安にまみれた顔をしていた。

「もうすぐ東京につくぞ…予定地に到着したら1班は拠点設置2班は周辺調査だ」

亮は助手席から後ろのユズキ達に呼びかける。


「ユズキ…緊張してる…?」

鷹史がユズキに問いかける。

「してるよ…鷹史は任務は初めてじゃないから緊張してないでしょ?…」

「いいや…してるよ…でもみんなよりはしてない…かな」

「でも今回は月承種もいるかもしれないから不安だよ…」

ユズキの頭には、コティの右腕を移植されたあの少女がちらつく。

「月承種には…一回だけあったことがある…」

「え!?」

思わず鷹史は大声を出してしまい「うるさい!」と、水歩に注意された。

「よく生きてたね…」鷹史は小声で話しかける。

「亮さんが助けてくれたんだ…」

「さすが加瀬川隊長だ…! だからユズキは隊長と顔見知りだったんだね」

「いまでも月承種にあったら太刀打ちできないと思う…」

「月承種っていうのも色々あるからね…」

「え? そうなの?」

「え? 知らないの?」

また驚きの表情を見せたが、今回は大声を出さなかった。

「月承種は月喰よりも強力な種ってだけだから、力には幅があるんだよ」

あの少女はどのくらいだったのだろう、そんなことを思いながらユズキは話を聞いた。

「その幅にも階級があってAからDまでの4段階あるんだ…でも中には…「着いたぞ! 準備しろ!」

大声で亮が到着を知らせる。

「着いちゃったね…でもありがとう少し緊張が解けたよ」

「それは良かった! さあ外に出よう」


───旧東京都

「勅使河原、周辺は頼んだ」

「了解です、2班武器を持て! 周辺調査にいくぞ!」

ユズキは鷹史はと共に式美についていった。


2班は数年前まで人が住んでいたとは考えられないほど荒廃した東京の街を歩いていた。

「おかしいな…」式美が辺りを見渡しながら言う。

「明らかに月喰が少なすぎますね…」鷹史もこの状況に首をかしげていた。

確かに第4部隊が担当しているのは、月喰が集まっていると情報が入っている旧東京都。

1時間近く調査しているはずなのにも関わらず、辺りには月喰の気配すらない。

「副隊長! もうすぐ11時になります!」

「…一旦戻って報告だ」


同日───12:35


「辺りには月喰が一体もいませんでした」

「なに? エーレンドの群れぐらいいると思ったが…」

「はい、それが気配すらもありませんでした」

「少し妙だな、他の部隊にも連絡を取ってみる」


ユズキ達は午後に向けて昼飯を頰張っていた。

「───にしても、てっきり月喰と戦うと思ってたよ」鷹史は少しがっかりとした表情で、白米を口に運んだ。

「なんだお前ら、会わなかったのか」水歩がバッグを整理しながら言う。


八百波 水歩(やおなみ みなほ)───藍色の長髪とつり目が特徴的な女。

ユズキは何回か彼女と会話する機会があったが、彼女は面倒見がよくチームの中でも母のような存在であった。


「もう逃げたんじゃないのか」

「だとしたら他の部隊のところに分散してるのかな」

「案外、私たちが一番安全なんだろうな」


───隊長キャンプ

「他の部隊はどうでしたか」

「他の部隊も月喰が見当たらないらしい、明らかにおかしいな」

「午後の作戦は予定通り行いますか」

「…ああ、予定通り…」

すると突然他の部隊からの通信を知らせる通知が鳴った。

「なんだ…?」

亮は受話器を取り応答する。

「こちら第4部隊加瀬川、どうした?……わかった」

式美は、亮の顔が雲がかかったように暗くなったをみて不思議に思った。

「どうしました…?」

亮は将棋を指すように静かに受話器を置き、口を開く。

「第2部隊…が壊滅した」


西暦2705年9月21日 11:45 ───旧群馬県

第2部隊隊長の郡浜 辰巳(こおりはま たつみ)は、拠点近くの丘から辺りを見渡していた。

───おかしい。

おかしい点は2つあった。

1つ目は月喰の気配が全くないこと、2つ目は1時間周辺調査に向かわせた2班が未だに戻ってこないことだ。

辰巳は副隊長である宮杜 香(みやもり かおり)に周辺調査を任せ、1時間後に戻ってこいと言ったが一向に戻ってくる様子はなかった。

「…連絡も帰ってこないしな、どうなってんだ」


辰巳が丘から下ろうとしたとき、拠点の方から叫び声が聞こえた。

急いで拠点に戻ったときにはすでに遅かった。

「隊長ォ!! 月喰の大群が!!」隊員の1人が辰巳に向かって走ってくる。

「お前ら! 急いで武器を手に取って応戦しろ!」

「(なぜだ…? 気配全くなかったはず…)」

すると走ってきていた隊員が後ろから刃物で貫かれた。

「なっ!?」

隊員を貫いた刃物は、全部隊に支給された対月喰用の刀だった。

「誰だっ!」辰巳は装備していた刀を構え、誰が貫いたかを確認した。

貫かれた隊員の後ろから現れたのは、同じように刀を構えたゴーグリフであった。

異様な光景に辰巳は動揺を隠せなかった。

「(どういうことだ…なぜこいつらが俺たちの武器を?)」

ゴーグリフは急発進で向かってきたが、辰巳は冷静に受け流し首を切り落とした。


「おまえら! 無事か!?」

「隊長! いきなり月喰の大群が…!」

辰巳の元に女隊員が駆け込む。

「ゴーグリフのか…? 全く気配がなかったぞ…」

「ゴーグリフだけじゃありません! 他の種も…」

話してる女隊員の頭を横から銃弾が撃ち込まれた。

辰巳の目の前で、脳が弾くように飛び散っていった。

遠くから彼女を打ち抜いたのは、他の隊員から奪った対月喰用の銃を握ったハイ・エリーであった。

「こいつらなんで銃をっ…」

すでに自分以外の隊員は月喰の大群に殺され、拠点には辰巳1人だけであった。

「(1人じゃさすがに無理か…)」

幸運にも辰巳の後方には移動用のバイクがあり、辰巳はそこに向かって走り出した。

ハイ・エリーが撃った銃弾が辰巳の頬をかするが、それに構わずバイクに乗ってその場を後にした。


同日 18:45 ───旧東京都

「結局ここには現れませんでしたね…」

ユズキは暗闇に包まれた旧東京都の景色を眺めながら言った。

「隊長達はキャンプに入ってから戻ってこないしね」

鷹史も今までの任務と違う雰囲気に少し戸惑っているようだった。

第2部隊については混乱を招くため、亮は他の隊員には知らせないようにした。

「おい、2人とも交代の時間だ」

後ろから岡田と田辺が監視の交代に来た。

「それじゃあ戻ろうかユズキ…」

「うん…」


関東全土を賭けた関東奪還作戦の初日は、余りにも不気味で予想外で展開に終わりを告げた。

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