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月には蟷螂がいる  作者: 田村麻呂
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第4部隊

西暦2705年9月9日 11:00

──新月喰対策研究所本部──

横浜港の近くにあるこの研究所は、旧東京都にあった設備よりも数倍の性能を誇る機械が揃えられていた。研究所が所持している土地は横浜市のすべて、研究所以外にも対月喰用の兵器を作成・保管する施設もある。

そしてユズキ達はこの一週間、研究所に隣接している病院で、先日の月承種との戦闘の傷を癒やしていた。


「おめでとうユズキくん、今日でめでたく退院ね」

白衣を着た女医が、こちらを見ずにカルテにペンを走らせながら祝福する。

「秋宮先生…ほんとありがとうございます…まさか肋骨が折れてるは思いませんでしたよ…」

「ああ…本当に()()()()だとは思わなかったよ」

「あっ…はい…ぼくの体って丈夫なんですかね…ハハ…」

「ええ、そこらへんの人間よりは丈夫だとは思うけど」


ガチャ、と突然ユズキの後ろの扉が開く。


ユズキが後ろを確認するとそこには、タバコを咥えながら立っている亮の姿があった。

「よ!久しぶり詩織先生!」

「亮さん!お久しぶりです!」

「おお、怪我はもう大丈夫か?」

「亮、院内でタバコはやめて」

「お、これは失礼…えっと灰皿は…あったあった…」

すると亮は火のついたタバコをユズキの首元に押し付けた。

「いっだ!あっつ!!」

ユズキは急いで亮の手を振り払い、自分の首にまとわりつく熱を必死にとろうとした。

「よし!痛みの感覚があるならもう大丈夫だな!」

亮は反省する様子もなく、屈託のない笑顔でいた

「はぁ…ちょっと!なにか冷やすものとってきて!」「はーい!」

秋宮は大声で看護婦に呼びかける。


「すぐ来るから待っててね」

「ありがとうございます…」

「で、なんであなたがここに来たの?」

「そんなこと言わないでくれよ、久しぶりの帰国だぜ? そりゃあ詩織先生の美しい顔を拝みに来たんだろ」

「あなたよりいっそう気持ち悪くなったわね」

「相変わらず口が悪いなぁ、顔見るぐらい無料だろ? あなたの顔は人を癒す効果があるそうだろ?ユズキ?」

「残念ながら私の顔は無料じゃないの、見るならお金を払ってちょうだい」

「おいおいおい、ユズキは無料で見てんじゃねぇか不平等だろそんなん」

「患者達の治療費にその分の料金が入っているもの」

「いいねぇ、これは一本取られた」

「茶番はいいわ、なにしにきたの」

「ここには用はないさ、用があるのはユズキだ」

「ぼくですか?」

「ああ、ついてこい上が呼んでる」

ユズキは看護婦から受け取った氷枕で首を冷やしながら、理由を考えたが全く思いつかなかった。

「いいからついてこい」

そういいながら亮はユズキの腕を引っ張り出ようとする。

「んじゃ、バイビー詩織先生」

「ええ、それじゃあお大事にユズキくん」

「なんかお前好かれてね?」

「多分…亮さんが嫌われてるだけです」



──月喰対策基地──

「誰が呼んでるんですか? いい加減教えてくださいよ」

「うーん、この国トップだな」

「は?」

【大隊長室】と書かれた部屋の前で亮は止まった。

「一応偉い人だけど別に緊張すんなよ」

亮は静かにドアをノックし、「入るぞ」と言ってからドアを開けた。

静かにノックするなんて珍しいな、と思いながらユズキも続いて「失礼します」といった。

ドアを開けると高級感溢れる部屋現れ、書類が山積みになった茶色の机の上に白髪白髭の眼鏡をかけた大男が座っていた。


こちらに気付いた大男は机から降りて眼鏡を外し、ユズキ達を歓迎した。

「お、やっと来たか! 初めまして、ユズキくん私は坂本円次郎、この国の総理大臣兼月喰対策部隊の大隊長だ」

「はっ…初めまして!ユズキです!」

「やっっと、帰国できてゆっくりできると思ったら面倒なの押し付けやがってこのクソジジイ」

そういいながら当然のようにタバコに火をつけ始めた亮を見て、ユズキは少し引いたが坂本は何も言わないので気にしないことにした。

「まあ、たんまり金は積んだろ? 許してくれ」

「俺は優しいからな、許してやるよ」

「ここに来てもらったのは、重要な報告があるからだ…亮、ユズキくん」

よっこらしょ、という言葉と一緒に坂本は椅子に座った。


「本題に入る前に、まずユズキくんには世界の状況を理解してもらわないとな」

「え?」

そうして彼はユズキに説明を始めた。

「全ての始まりは────55年前だ」


─────────────────────────────────────────

西暦2650年7月21日、月面調査のために打ち上げられたアルベ2号の船員は、探索中に初めて地球外生命体と対峙した。

実際に遭遇した船長のニル・オルド(現在はすでに死亡)は地球に向けてこう発信した。

──────月にて蟷螂の形によく似た生命体と遭遇、と。

しかしアルベ2号は地球に帰還することはなかった。


それから30年間、人類は月にいる地球外生命体の調査のために各国が協力し15の調査船を送ったが、機関に成功してきたのは最後に送ったイタリア製のアルベ17号のみだった。

調査船が帰ってきた西暦2680年7月24日を境に世界中で原因不明の大飢饉が発生する。

この混乱の中でイタリアで何者かに喰い荒らされた謎の死体が発見された。

最初は凶暴化した野生動物の仕業かと思われたが、異変に気付いた科学者が犯人を調査していると、牛の角にトカゲの頭そして毛むくじゃらの体をした化け物に出会う。

これが記録に残っている最初の月喰であった。

─────────────────────────────────────────


「そこからいろんな種の月喰が発見されて今じゃ4種類だ」

坂本はコーヒーを飲みながら説明を続けた。

「数もアホほど増えるしな」

亮は説明に飽きたのか、眠そうな顔で立っていた。

「で!ここからが重要だユズキくん!」

ユズキは今の話でも満腹だったが、構わず坂本は説明する。

「我々人類は、5年前()()()()()を回収した」

「生命体…?」

「名前は【コティ】、体の特徴から恐らく雌と判断された」

「彼女の体には月喰達を引き寄せる特別な力があった、我々はその特徴を利用しある()()を計画した」

ユズキは頭の中で、これまでの情報を冷静に処理しながら、次に来る作戦についての情報処理の準備をした。

「コティの体を分解し各国が所持することで、月喰の数を分散させる作戦だ

 それまで月喰の負担の大きさが極端だった世界は、これによって調整されスムーズに月喰を殺せるようになったわけだ」

「…日本はコティの体の一部を所持しているんですか?」

「ああ、日本はコティの右腕を所持している…それが先日君に回収しにいってもらった少女だ」

「え!? あの子が!? ふつうに人の姿を…」

「それはコティの保管方法が関係している…」


「コティの体を人に埋め込むことで処理しやすいように保管してんだ」

長い話に我慢ができなくなったのか亮が急に横から話し出す。

「そういう関係であのガキは月承種だったわけだ」

「そんな重要なことをどうして僕に…!?」

「月承種ではあるが、危険性としては極めて低いはずだったんだが…」

「あんた直接行けばいい話だったんだよな…」

「それに関してはこちらの落ち度だ、本当に申し訳ない」

坂本はユズキに深く頭を下げる。

「いやいや! 頭を上げてください!」

「そうだぞジジイ、過ぎたことはしょうがねぇ」

「そう言ってくれてありがたいよ…」


「で、早く本題を言ってくれレストランの予約してんだ」

亮が時計を見ながら急かすように言う。

「ああ、それで本題だが…先日の騒動で関東全土から旧東京都に月喰が集まってきているんだ」

「だから最近東京の任務ばっかだったか!」

亮は今までの疑問が解決したのか、頷いて話を聞いていた。

「ああ、今現在月喰対策部隊は3部隊あるんだが、もう一つ部隊を追加したいと考えている」

 我々は新たに第4部隊を設立し、旧東京都に集まった月喰共を全4部隊で殲滅する」

「おお!まじか!楽しくなりそうだな!」

「第4部隊隊長は亮…お前に任せる」

「おいおいまじか! ()()()に許可とってんのか!?」

亮は餌をもらった犬のように喜んだ。

「安心しろ、もうとっている」

「メンバーは全部で何人だ?」

「ここに名簿がある、目を通しておいてくれ」

坂本は、3センチほどの厚みがある資料の束を亮に渡した。

受け取った亮はさっきまでの喜びに満ちた顔とは真逆の渋い表情をしていた。

「名簿にはユズキくんも乗っている、君はこの書類を読んでおいてくれ」

坂本はユズキにも、亮に渡した資料と同じ厚さの書類を渡した。

「メンバーの初顔合わせは3日後だ、それまでに読んどいてくれよ」

─────────────────────────────────────────

西暦2705年9月12日 4:00 ───第4部隊初顔合わせ当日

太陽が段々と出てきた頃、薄暗い部屋のデスクで亮は作業していた。

机の上には缶コーヒーの空き缶が5本転がっている。

「全然終わんねぇ…あのクソジジイ…」

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