強者
(この人、強い!)
1回目のベルが鳴らされた瞬間から老人が体から放ち始めた圧力にヴィジョンは驚いていた。
その瞬間、能力に制限をかけたままでは勝てないことをことを悟った。
2回目のベルがなった。
さらに増していく老人からの圧力に、ヴィジョンはその圧力を断絶することで対処していた。
(すごいな、まだ始まってもいないのにこれか...)
ヴィジョンは木剣を構えて集中を高めていく。
目の前の老人は手を抜いて勝てる相手ではない。それどころか全力でも今のヴィジョンでは引き分けることが精一杯だろう。この老人はそれほどまでの強者であった。
3回目のベルが鳴る。
その瞬間、ヴィジョンは殴り飛ばされ闘技場の壁に叩きつけられていた。
(速すぎる...殴られた時にガードすることさえ出来なかった!)
なんとか叩きつけられる直前に受け身を取ることができたからよかったもののそうでなければ一撃で勝負がついていただろう。
「どうしたんだ、私はまだ軽く殴っただけだぞ?」
首を鳴らしながらそう言う老人。
「すいません、あまりにも速くて見えませんでした。」
ヴィジョンはそう言うと同時に老人が立つ場所へ木剣に乗せた「断絶」の力を向ける。
しかし、そこにはもう老人の姿はなかった。
「おもしろい能力だな、確か君の能力は『切断』だったはずだが?」
「書いてあることだけが全てではありません。」
そう言いながら再び木剣を振るうヴィジョン。
「甘いな。」
老人のその言葉と同時に木剣が砕け散る。
「武器に込める能力であれば、相手が武器を破壊する手段を持っていた時のことを考えるべきだが...」
老人が臨戦態勢を解き、それに続きヴィジョンも構えを解く。
「君の模擬戦の点数は満点にしておこう。」
「ありがとうございます。」
それが本当ならヴィジョンにこれ以上戦い続ける理由はない。
「名前をおしえてくれたまえ。」
「ヴィジョン・トレーニンです。」
老人は噛み締めるようにヴィジョンの名前を呟いてからこう言った。
「私はファウス、君とはまたいつか会うことになるだろう。期待しているよ。」
模擬戦が終わり、ファウスとの会話も終えたヴィジョンが闘技場から出て行こうとする。
「少しお待ちいただけるかしら?」
そんな声が聞こえて、ヴィジョンはもうしばらく闘技場に残されることを覚悟した。