別れ、あるいは能力
一部の人々が有している「能力」はいったいどのようなものなのだろうか。なぜ一部の人々、それも人類だけにみられるものなのだろうか。幼かったヴィジョンのこのような疑問に、ラルグは一瞬考える様子を見せてからいつになく真剣な様子で回答を紡ぎ始めた。
「これは俺の勝手な考えなんだけどな...人間の特徴ってわかるか?」
「人間の特徴?」
「そうだ。例えば魔族なら魔法が使えるし、獣人なら種族ごとに違いはあっても優れた身体能力を保有しているだろう?じゃあ、人間には一体どのようなものがあると思う?」
「それが『能力』ってこと?」
「俺はそう思ってる。だけど正しいかはわからない。だが間違いなく君もその『能力』を持っているだろう?」
「うん。もってる。」
「俺にはその疑問を解決することはできないが、人間の能力者は14歳の春から高等英雄学院に入学することができるはずだからな。もし興味があるのなら、そこで能力について学んでみるのもいいかもな。」
「そうだね、ラルグが言うならそうしようかな。」
「短い間だったけどありがとう。気をつけて行きなさい。」
集落の長から言葉をかけられたところでヴィジョンの意識は現実へと引き戻された。目の前の人物と会話している最中に意識を飛ばしているのは問題かもしれないが、その日に限っては過去の思い出に浸るのもしょうがないと言える日だった。
「いえ、こちらこそ長い間お世話になってありがとうございました。」
そう返事をしてヴィジョンは集落を出る。
集落での生活に未練がないと言えば嘘になる。しかしそれ以上に、ヴィジョンは自分の「能力」について知りたかった。それに、せっかくのラルグの助言を無駄にしたくないというのもあった。
「高等英雄学院のある王都までは歩きでも3日はかからないからきっと大丈夫。」
ヴィジョンは自分にそう言い聞かせながら王都までの道のりを歩き始めたのだった。