名前
「私はラルグ・トレーニンだ。君の名前を聞かせてくれるかな、少年?」
少年は応えることができなかった。それも当然だ。常に一人だった少年には、名前がなかったのだから。
「まあ細かいことはいい!少年、せっかくだから私と一緒に食事でもしないか?腹一杯になるまで奢ってやるぞ!」
そうして、少年と奇妙な男は出会った。
「よし、少年!今日から君は私の弟子1号だ!」
だが、出会いがあれば別れもある。
「いいか少年!私はまた旅に出る。もう二度と君と会うことはないかもしれない。私は君に様々なことを教えたが、まだ一つだけ君にないものがある。何かわかるかい?」
それは、名前だ。親愛を込めて呼ぶ、大切な名前。
「今日から君は、ヴィジョン、ヴィジョン・トレーニンだ!」
「僕は、ヴィジョン?」
「そうだヴィジョン!君は今日からヴィジョン・トレーニン。私の大切な家族だ!」
「私がいなくなっても、君はもう大丈夫、生きていける!またいつか会えたなら、そのときはよろしくな!」
そうしてラルグは去っていく。後に残されるのは少年ただ一人。
「僕は、ヴィジョン。ヴィジョン・トレーニン。」
少年はその言葉を噛み締める。そのとき、少年は一人ではあったが、それと同時に、確かに少年は独りではなかった。