表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

ただ、このときは

 目の前で燃えさかる炎を見ていた。

 広がるは、ただ、一面の赤。

「ディミヌ!」

 熱風と共に届いた母の声に、振り返る。

「逃げて!」

 声を探し、凝視する。母の姿は見えない。視界は振り返る前と同じで。

 まだ十五歳の彼女は逃げる方向もわからず、動けなかった。


 炎ではない赤い色が、舞った。それは、母の──。




 ふわりと赤いマントが目の前に舞い、足は無意識で止まる。周囲を見渡せば赤だけではなく、黄色のマントをつけている者もいて、

(ああ、こんなに何人もいたんだ)

 と、彼女は現実に戻る。


 あの記憶は、一年前のこと。思い出すのは珍しい。


 彼女は右足を前に一歩踏み出す。左足も──二歩、三歩と歩みを進める。

 苦い過去を思い出しても、感傷に浸らないのが彼女のいいところ。目的の壁の前に立ち、掲示板を見上げて白い貼り紙の前に立つ。


「勇者様、この案件を受けてくださるのですか? ありがとうございます。こちらは、レベル五十以上の方への案件です。申し込みに記載をお願いします」

 すぐ隣に設置されているカウンターから声が聞こえる。恐らく、さきほど目の前を通った赤いマントの者が、カウンターで受け付けをしているのだろう。

 彼女は聞き耳を立てず、目の前のたった一枚の白い貼り紙に真剣な眼差しをそそぐ。


 約四メートル四方の空間。そののうち三面に、大きなコルクボードがあり、貼り紙がされている。掲示板ではない一面に、カウンターと出入口がある。

 赤い貼り紙が一面ほど、残りの二面はほとんど黄色い貼り紙で、白い貼り紙はわずか一枚。

 貼り紙には、仕事内容と報酬金額が記載されていて、仕事の危険度の低いものから白、黄色、そして、赤へと変わる。報酬が高いのは赤い紙。白い紙は低額だ。

 空間には十五人ほどがいて、赤いマントを身に着けている者が多い。


 赤いマントの者は、赤い貼り紙を吟味するように読んでいる。黄色いマントの者は、黄色い貼り紙を。

 彼女はというと、青いマント。赤い貼り紙も、黄色い貼り紙も該当しないのだろうか。


 目に着くのは茶色い髪の毛は外ハネのショートボブ。幼い顔立ち。腰にある長剣は不釣り合いだと言っていい。青いマントで隠れているが、左側にスリットの入った水色の膝丈ワンピースを着ている。ただし、スリットがあっても色気はほど遠く。ワンピースの下には青のミニスカート、更にその下には黒のレギンスを履いている。袖は半袖で、露出の腕を保護するように肘まであるライトグレーの長い手袋をつけ、足元は手袋と同色のショートブーツ。出で立ちで見れば、彼女も一応『勇者』らしい。


 黄色いマントをつけた者が、一枚の黄色い紙を手し、彼女の背後を通過して行く。

「勇者様、この案件を受けてくださるのですか? ありがとうございます。こちらは、レベル五十以下の方におすすめする案件です。申し込みに記載をお願いします」


 彼女は、目の前の白い紙に手を伸ばす。そのとき、カウンターの方から男性の声が聞こえた。


「ヤチ王の公認勇者だが、掲示されていない特別枠の依頼はあるか? ああ、一応、マントの金具も確認してもらわないといけないな。……ほら、ヤチ王の紋章があるだろう? 青いマントだけでも公認勇者とわかるだろうが、念の為にこちらも確認をしてもらうのが、公認勇者としての礼儀だからな」


 彼女の視線が動けば、そこには銀に輝く鎧に青いマントをつけた者がカウンターの女性と楽しそうに話し、申し込み用紙を受け取っている。銀に輝く鎧に青いマントをつけた者が笑顔なのだから、条件がよかったのだろう。

「勇者様、ありがとうございます。これからもご活躍を楽しみにしています」


 彼女の伸ばしかけた手は、自らのマントの金具へと重なる。


「はっはっは。魔王クレシェは、私がいつか倒して世に平和をもたらそう」

「はい! 皆、期待しております!」


 赤いマントと黄色いマントの者から拍手が沸き起こる。他のカウンターの者たちも、同様に。


 彼女はといえば、マントの金具を握っている。上げていた顔は下がり、目を伏せ掲示板に背を向けると、ヤチ公認勇者とカウンターの真横を通ってその場を出て行く。



「おや? 今の娘は……」

「ご存知なのですか? 青いマントなので、どこかの公認勇者様だとは思うのですが……カウンターには寄らずに、何日もレベル不問の白い貼り紙ばかり見に来られるのです」

 カウンターの者の言葉に、ヤチ公認勇者はニヤリと笑う。

「知っているもなにも、彼女はある意味有名さ。最弱の『レベル十の勇者』ってね」




 このときは、まだ誰も知らない。


 最弱の勇者ディミヌが、最強と恐れられる魔王クレシェの手から世界を救い、誇らしげに公認した国王に呼ばれることを。



 

  「望みはなにかないか、ディミヌ」

  世に平和をもたらした勇者に、国王は満足そうに聞く。

  「あります!」

 

 これは、最弱の勇者とその仲間と、最強の魔王のお話。

キャラクター紹介※2013年に落描き程度でざっくり描いたイメージイラスト※登場順※


ディミヌ

挿絵(By みてみん)


上記のイラストの顔が気に入らなかったので、顔だけ描いたイラスト

挿絵(By みてみん)



リンフォル

挿絵(By みてみん)



女性

挿絵(By みてみん)



フォルテ

挿絵(By みてみん)




【ラクガキ】


2014年10月、ハロウィンにちなんで描いたイラスト

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ