そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)3.5 < chapter.5 >
何もかもが停止した世界の中では、水面すらも走れるらしい。
路上の水溜まりを踏んだ瞬間、俺たちはあり得ない感触に悲鳴を上げた。
「うわぁ!?」
「硬い!?」
水しぶきは上がらず、俺たちの足は水面上にあった。ガラスや氷よりはもう少し柔らかい、透明な樹脂の上に乗っているような感触である。
「おい……これ! 水の上も歩けるのか!?」
「それなら、ジャクソン湾をまっすぐ突っ切っていけば……」
「直線距離で5kmもない!」
途中で『ただの水』に戻ったとしても、たかだか5kmだ。ジャクソン湾は波の穏やかな内海。自分の泳力であれば、近くの岸辺まで泳ぎ着くことができる。
俺たちは国道脇のガードレールを飛び越え、真下に広がる海へと飛び降りた。
「おお!? なんだこの感触!?」
「妙な弾力だが……普通に走れそうだな!?」
俺たちは海面上を走り始める。
なぜこんなあり得ないことをしているのかと考えそうになったが、考えたら負けだ。超常現象のど真ん中での常識的な思考は死に直結する。ここはあり得ないことが平然と起こってしまう時空間なのだから、考え方そのものを変えていく必要があるだろう。
だが、並行世界の俺はこの状況にパニックを起こしかけていた。
「おい! どうしてそんなに平然としていられる!? 気持ち悪くないのか!?」
隣を走る彼を見れば、その目は涙で潤んでいる。精神的な限界が近いようである。
「ひょっとして、そちらの世界に玄武やデカラビアは現れていないのか? アストライアは?」
「それは何だ!?」
「『神』の名だ。聞いたことは?」
「一度も無い!」
「なるほどな、だいたい分かってきた。『ケントの死』が可能性の分岐点ということか」
「どういうことだ?」
「こちらの世界では怪奇現象や神的存在が週二か週三ペースで現れている。情報部と特務部隊は、こういう状況には耐性ができているんだ」
「週二か週三だと!? 正気か!?」
「もしかしたら、とっくに狂っているかもな。だが、狂っているからこそ気付くこともある!」
俺はナイフを抜き、立ち止まる。
そして通常空間であったら絶対にできないことを試してみる。
「お前、いったい何を……?」
俺は停止した水面に刃を突き立て、水に『切り傷』をつけた。思った通り、樹脂のように固体化した水面はナイフで引っ掻き傷をつけることができた。
「……その魔法陣は……?」
刻みつけたのは、亜空間ゲートを開いたトニーとガル坊の魔法陣の文様である。二人の魔法が重なり合った時のような立体魔法陣は描けないが、それでも一応、魔法の発動に必要なポイントは押さえているはずだ。
「ありえない状況を打開するには、さらにありえないことをするに限る」
「さらにありえないこと……?」
「俺はそちらの世界に起こらなかったこと、遭遇していない存在、降り注がなかった奇跡と祝福を知っている。そこから学んだことを活かそうと思う」
「何をする気だ?」
「それはまだ分からない」
「ふざけているのか?」
「いいや、本気だ。俺もお前も、今この状況について何一つ有益な情報を持っていない。判断材料も無いのに、論理的な思考で答えを出すことなんて不可能だ。だったらこの際、思い付きで動いてみるのも良いんじゃないか?」
「水の上を走る以上の『思い付き』があるかよ!?」
「ああ、ある!」
「それは何だ!?」
「神頼みだ!」
「はあっ!?」
「俺は『可愛い弟』を祝福した存在を信じることにした! さあ! 発動しやがれデタラメ魔法陣!!」
魔法も機械も使えない状況でも、昔ながらの『マッチ棒』でなら着火も可能だろう。俺は標準装備品のツールキットからマッチを取り出し、魔法陣に火をつけた。
すると思った通り、魔法陣を強制発動させることができた。
周囲に響く重低音。
獣の唸り声のような、地響きのようなその音に合わせ、海面がガタガタと震え始める。
「な……何をした……?」
「分からん!」
「分からないのかよっ!?」
「正体不明の魔法を使った。ぶっちゃけ、何が起こるかなんて分からない」
「そんな!?」
「つい三日前には亜空間ゲートが開いて、地獄の底のような世界に繋がったが……来た!」
海面上に出現する扉。
それは第二運動場に出現した鉄の扉とは全く異なる外観をしていた。
扉と呼ぶにはあまりに分厚い、石柱のような巨大な塊。ビスマス結晶のような、幾層も重なる正方形の造形で装飾されている。
虹色に反射する構造色の中に、かすかに浮かび上がる文字がある。
〈御用の方は右側の受付まで〉
〈ドアチャイム故障中〉
〈セールスお断り〉
〈落石注意〉
内側の様子は欠片も想像できないが、ドアチャイムが故障していることとセールスマンをお断りしたい気持ちだけは伝わった。あと、受付があるなら個人宅ではなく何らかの団体施設である。
すべての魔法が使えない状況下でも強制発動できたのだから、扉の向こうにはこの状況をどうにかできる『神』がいる可能性が高い。
俺は何のためらいもなく扉を開けた。もう一人の俺はついてくる気はないようだが、別に構わない。俺は一人で扉をくぐる。
するとその先には――。
「……ん? ここは……鉱山?」
大きな山の中腹のようだった。
切り開いた山腹にいくつかの建物が点在し、それらを結ぶようにトロッコのレールが敷かれている。線路脇には『シカ・イノシシ飛び出し注意』の看板。あちらこちらに小さな小屋があり、作業用の道具や資材が置かれている。作業員の待機所か、物置小屋か、一目では判断のつかない雑然とした雰囲気だ。
坑道の入り口だろうか。木材で補強した横穴から大勢の作業員が現れて、手押し車からトロッコへ、岩の塊を積み替えている。
ノロノロと進むトロッコは加工場と思しき鋸屋根の工場へと運び込まれ、しばらくすると、空になって来た道を帰っていく。
「……お菓子の国の次は、謎の鉱山……?」
作業員の種族は分からないが、獣人ではなさそうだ。黄色い肌に黒い髪、小柄で細身な男性ばかりで、どこの国の言語か分からない言葉を発していた。
扉の装飾から想像する限り、ここはビスマス鉱床なのだと思う。中央市近郊の鉱山でもビスマスは採掘しているが、あくまでもタングステンの副産物である。ビスマスだけをせっせと採掘する不思議な亜空間なんて、まったくもって意味が分からない。
「受付は……ああ、あの建物か」
工場の右側に、いかにも事務所という雰囲気の建物がある。近づいていくと、扉には貼り紙がしてあった。
〈異世界から御越しのお客様へ
ようこそ恵比寿鉱山へ。
当鉱山は命と引き換えに『一生のお願い』を叶えるヒルコ神の隠し鉱山となっております。
労働者は天寿を全うしたのち、約束通りここで働くことになった氏子たちです。
氏子たちはネーディルランド語が話せません。
ヒルコ神に御用がございましたら、事務所裏のプレハブ小屋にお声をおかけください。〉
何があっても驚かないつもりでいたが、なんだろう、この中小企業の社長感は。社屋裏のプレハブ小屋をプライベートルームにしているあたり、もう本当に田舎の土建屋感がある。
俺は何とも言えない脱力感に包まれながら、事務所の裏手に回る。俺の予想が正しければ、この手の中小企業の社長はプレハブ小屋の周りを家庭菜園かフラワーガーデンにしているものだが――。
「……やっぱり!」
ナスとトマトとマメが植えられていた。小さな畑の周りにはヒマワリとアサガオも咲いている。その辺に適当に置かれているジョウロやゴムホースに『神の庭』らしい神々しさは感じられないが、どれもこれも最高に綺麗な花を咲かせているので、かろうじて『神に守護された空間っぽさ』を感じることができた。
プレハブ小屋のドアチャイムは緑色の養生テープでぐるぐる巻きにされ、その上から油性ペンで『故障中』と書かれていた。俺は呼吸を整え、意を決して扉をノックした。
「ごめんください。どなたかいらっしゃいますか?」
途端、聞こえてくるドタバタとした足音。何かにぶつかったような音と、人が転倒したような重い音。それから色々なものをまとめて壁際に寄せたようなズザザザザという音がして、最後にバサッと、大きな布でもかけたような音。
中はかなりの『汚部屋』と化しているのかもしれない。
それからようやく、取り繕ったような『外行きの声』で返事があった。
「は~い! どちらさまですかぁ~?」
「ネーディルランドから参りました、シアンと申します。現在発生中の異常事態について、こちらにお住いの『神』が何かご存知ではないかと思いまして……」
「あ、はいはい、は~い。異常事態! はい! ちょっとお待ちくださいねー! 今、外の最新データ読み込んでますんで……え゛っ!? なんで時間停止してるの!?」
ズバン! と開かれた扉。危うくぶつかりそうになったが、間一髪、身を引くことができた。
扉を開けて出てきたのは、垂れ目でチョビヒゲ、肥満体型の中年男性だった。『神』としての正装は別にあるのだろうが、私室でくつろいでいたためか、伸びたジャージズボンにくたびれたTシャツ姿だった。
「待って、これ、どういうこと!? ちょっと君の記憶も読ませてね!?」
冴えない中年オジサンは神々しく黄金の後光を放ち、ポテトチップスの塩と油と青のりがついた指で俺の額に触れる。神的存在との接触がこんなにありがたくないものだとは知らなかったが、『神』のほうは指先のコンディションについて考えるほどの余裕がないらしい。
「なんだ!? 君、これ何周目!? リトライしすぎて時系列がごちゃごちゃになってるじゃないか!?」
「リトライ……?」
「ええと……あっ! そうか! 君自身にはリトライの自覚も、リセットスイッチもないのか! でも、だとするとどうして君が……って! 嘘だろ!? 今回私!? 私が選ばれちゃったの!? ついに私、選ばれし者!?」
「あの……何が何だか、さっぱりわからないのですが……」
「待って。私もまだ、君に説明できるところまで呑み込めてない。いま創造主から関連情報ダウンロードしてるところだから! ……ん~……あ、そうか。そういうこと。はいはいはい……あー、なるほどねー。だから君……」
「……もう分かりましたか?」
「たぶん!」
「たぶん?」
「あ、やめて。そのネコ科特有の藪睨み。ネコ圧、怖い……」
「……ご説明をお願いできますか?」
「はい……」
このオッサン、本当に『神』か?
胡散臭いものを見る目を向けられて、ヒルコ神とやらはようやく自分の身なりに気が回ったらしい。大慌てで変身し、凛とした絹織物の装束になる。
「あー……ええ~っと、改めまして、私はヒルコ神。金運アップ、運気上昇、大漁祈願なんかにご利益のある神として知られている存在だ。今回、私は創造主によって君の『相方』に選ばれた。この状況を攻略するまでの間、どうぞよろしく頼むよ」
「はあ、どうも、よろしく……」
「で、どこから話そうかな。まず、君は並行世界の話を知っているよね? そこは省いて、その先からにしよう。実は、君たちが暮らす世界は常に誰かの手によってリセット&リトライが繰り返されている。ホプキンス教授が研究中の『時間を操作する方法』は、一部の『神』にとっては当たり前に使える能力なんだ。で、君は今、その『リセット&リトライ』のど真ん中に巻き込まれているワケだ」
「その時間操作は、あなたにも使える能力ですか?」
「私には使えないよ。私の能力はさっき言った運勢操作だけだから。それ以外の能力は何もない」
「では、時間が止まるこの現象は、別の『神』によって引き起こされていると?」
「うん。まあ、正確な説明をするとややこしくなるから割愛するけれど、そもそもの原因はメルポール丘陵にいた『神』だね」
「あれは何者ですか?」
「フェンリル狼」
「なんですって?」
「フェンリル狼なんだよ、あれは。ただし、もう何千年も前に分岐して、『現在』には続かなかった『可能性の世界』の住人だけどね。彼女は何とかして『運命の本流』に戻ろうと足掻き続けていたようだけれど……あまりに強い執念から、邪神と化してしまったようだね……」
「邪神とは?」
「君はもう、何度もそれを見ているはずだよ? 黒い霧、黒い水、もしくは黒い影。闇の瘴気を噴出させ、世界を呪うもの」
「ああ、あれですか」
「神も、人も、動物も昆虫も魚も、時には器物や道具でさえも、時々ああして闇に堕ちる。呼び方は様々だが、現代人に分かりやすい表現は『バグ』とか『システムエラー』とか、そういう言葉になるかな? 正常な動作を行えなくなったプログラムが、他のプログラムの動作を邪魔し始めるんだ。ごく一部の『神』は対闇堕ち戦に特化した能力を有しているが、そうでない『神』は、この……ほら、見えてる? この、ね? 後光? この光でピカーッと照らして、あっちに行け~っと退けることしかできない。完全に消し去ることは難しいんだ」
「だから『メルポール丘陵』はいつまでたっても危険地帯のままなのですか?」
「そう。倒したくても、並の神々じゃあどうにもできない。時空間断裂を修復できる『神』が穴を塞いだって、中に闇堕ちしたフェンリル狼がいる以上、何度だって穴をあけられてしまう。イタチごっこなんだよ」
「では、抜本的な解決は闇堕ちフェンリルの撃破、ということになりますね?」
「その通り。アレをどうにかしなければ、この先もずっと、色々な問題が起こり続けるだろう。だから、その通りではあるんだけれど……」
「なんでしょう?」
「正直、今、この世界にそれだけの戦闘力を持った『神』と『器』はいない。それが現れるのは、この時間軸から数か月先のことなんだ。でも、リセットは今、このタイミングで行うしかなかった」
「理由は?」
「このままでは、君が消えてしまうからだ」
「消える?」
「君とケント君は闇堕ちに殺された。しかし、こちらの世界のフェンリル狼が『命の名簿』を書き換え、君たちの『死』をなかったことにした。君の記憶が二種類あるのは、整合性を保つために偽の情報が書き加えられたからだよ」
「その……それが原因で、俺が消えるんですか?」
「もう一つの世界の君を思い出してごらん。あっちの君はそもそも死んでいない。生き返った死人が歩き回る世界と、元々死んでなんかいない元気な君がいる世界、どちらが正常だと思う?」
「それは当然、死んでいないほうで……?」
「世界は常にリセット&リトライが繰り返されている。そしてその都度、どこの時間軸とも繋がらない『余計な可能性の残りカス』や、『存在してはいけない不自然な存在』が増えていく。それはある程度以上溜まったところで、一斉にクリーンアップされることになっている。そこで問題になるのが君だ。『生き返った死者』は不自然以外の何物でもない。君は次のクリーンアップで確実に消される。だからその前に、君はもう一人の君を殺し、『すべての並行世界の中にランディ・ヤンが一人しかいない状況』を作らねばならない。比較対象がいなければ、不自然な存在かどうかは分からなくなってしまうからね」
「ええと……いえ、ちょっと待ってください。これは闇堕ちを倒せば終わる話でしょう? なんで俺が、もう一人の俺と同士討ちしないといけないんです? どっちも俺なら、向こうが選ばれても問題はないのでは?」
「いいや、大有りだ。世界が強制停止してしまう」
「強制停止?」
「もう一人の君は、フェンリル狼が『命の名簿』を書き換える前に亜空間から脱出し、仲間にこう言ってしまった。『ケント・スターライトの死亡を確認』と。その瞬間、あっちの世界ではケント・スターライトの死が『史実』として確定してしまったんだ。確定前なら、『命の名簿』は何度だって改竄可能だったのにね。さあ、問題の核心はここからだ。君は『メルポール丘陵』の一件以降、ケント・スターライトと共にどれだけの死線を潜り抜けてきた? どれだけの『ありえない現象』を目の当たりにした? そこにケント・スターライトが存在しなかったら、それらは解決できたかい? そもそも、その事象は発生したと思うかい?」
「いえ……あいつがいなかったら、謎の宇宙戦艦もカラーヒヨコの大量発生も巨大女ゾンビも対処できなかったし……無限増殖するアメーバなんて、あいつが原因で発生したようなものだし……」
「そうだろう? 君とケント・スターライトが揃って死んで、揃って生き返らなければ、それらの『神』にまつわる出来事は発生しない。なのに、肝心の君が『不自然な存在』として一斉クリーンアップの消去対象に選ばれてしまった。そうなると、世界の何もかもが狂ってしまう。もうすでに発生した事象、特に『神がその目で見届けた事象』をなかったことにはできないのに、あちらの世界にはそれがない。君が消えることであちらが『運命の本流』に乗ってしまうと、様々な出来事の『結果』だけが存在し、出来事そのものは起こっていないという、酷い矛盾ができてしまう。どうにも修正の利かない状況に直面して、この世界は……いや、この宇宙そのものが、これ以上先に進めなくなってしまうんだよ」
「……だから、俺が俺を殺すしかない……?」
「そうだ。君自身は気付いていないけれど、この状況はどうやらこれで百回目になるらしい。さっきから、ほかの神からもテレパシーがジャンジャン着信していて……まあ、だいたいの流れは把握できたよ。これまでの九十九回、ありとあらゆる『神』がサポートに入って君を勝たせようとした。でも、何をどうしても、並行世界の君のほうが強いんだ。ケントの死をきっかけに『種の記憶』の『覚醒者』となり、カラカル族の潜在能力を完全に使いこなせるようになっているからね。それで、ついに私に順番が回ってきてしまったようなのだけれども……おお! 創造主よ! 私はしがない鉱山経営者です! 私が彼を守護しても、絶対に勝てるわけないんですけど!? 他に暇な軍神いなかったんですか!?」
空に向かって嘆いてみせるヒルコ神。すると天頂から、ひらひらと何かが降ってきた。
鳥の羽根のようだが、表面に何かが書き込まれている。
ヒルコ神の手元を覗き込み、俺たちは全く同じ表情になった。
〈鈍器で殴れ〉
なんて酷いご神託だろう。
確かにビスマス鋼の採掘現場なら、鈍器になりそうな手ごろな岩はいくらでもある。だがしかし、カラカル族の始祖である『神』の力を自在に操る敵に向かって鈍器を振り上げても、返り討ちに遭うだけだと思うのだが――。
「よし、分かった。確実に仕留めるためにも、完璧な作戦を立てよう。まず、私が彼の運勢を操作し、パンツのゴムひもを切る。ズボンの中は不快感MAXになるはずだ」
「ああ、うん、まあ……ですね?」
「次に、靴下のゴムが急激に劣化してノビノビのベロベロになる」
「最悪すぎますね?」
「靴底のゴムも剥がれる」
「ゴムしか攻撃できないんですか?」
「いや、安心してくれ。運命を操作し、前髪の先端を妙な角度で鼻の穴に入れることもできる。きっと痒いぞ! すごく痒い!」
「あ、あぁ~……それはすごい能力ですね……?」
「逆さ睫毛が目に入る」
「地味につらい」
「脇腹にシャツのタグが当たって痒い」
「また痒いんですか」
「汗が目に入りまくる」
「しみますね」
「私が『心の声』で愛と平和のポエムを囁き続ける」
「精神攻撃か」
「どうにもこうにもチンポジが決まらない」
「それはキツイ」
「そしてとどめに、シャツで乳首がこすれて大出血」
「うわ、大打撃……」
「心身ともにボロボロになったところに鈍器でガツンといって、それから念のため、この採掘用ツルハシで頭蓋骨を、こう……」
「あなたは本当に『神』ですか?」
「君も氏子になるかね? 恵比寿鉱山では随時新規採用をおこなっているよ? 君には特別に、この場で内定を……」
「辞退させていただきます」
どんな武神や軍神より、この神のほうが恐ろしいかもしれない。
俺は顔をひきつらせたまま、ヒルコ神と共に戦闘準備を整えた。




