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【第7章 5話】

「は? 昨日、ハーディンから通知があっただろ」

「メンバーの異動に伴い、各チーム再編成になるって封書なんだけど」

「ああ。あの封筒には、そんなことが書いてあったのか」

「マルグレットさん、まさか見てないんですか?」

「薄い封筒だったからな、適当でいいかと後回しにしていた」

 

 ここ数日は光輝ばかり気に掛けていた。他への意識が散漫になるのは仕方ない。

 

「適当でいいかって」

 

 ゲナンディ達のリアクションが重なる。

 今までのマルグレットからは、絶対に出てこない単語だ。

 むしろそういう言葉を率先して口にするのは。

 

「お前ら何やってんだ。俺の部屋の前で集まって」

 

 臙脂色のジャージで、

 いつもより気だるそうな顔の光輝が現れた。

 

「何をやってるかだと? それは私の台詞だ」

 

 誰よりも早く反応したのはマルグレットだった。

 ゲナンディとアポロニウスを押しのけて光輝に近付くと、腕を組んで不機嫌な表情を作る。

 

「部屋にこもりきりで何をしていた。

 賢者達への気持ちは理解している。

 だが、いつまでもひとりで沈んでいるんじゃない。

 食事はとっているのか? 

 食事はエネルギー摂取だけではないんだ。

 生きる活力の補給なんだぞ。疎かにするな。

 掃除はしているか? 

 部屋の汚れは心を暗くする。常に清潔さを保つのが……。

 おい。肌の色が悪いな。ちゃんと寝ていないのか。

 何をやってるんだ。睡眠は肉体にとって最良の報酬なんだぞ」

 

 次々と繰り出される容赦ないダメ出し。

 それを半歩離れて見ながら、三人がひそひそと感想を交わす。

 

「このふたり、こんなに仲良かったか?」

「僕の記憶が正しいなら、互いに毛嫌いしてるみたいだったけど」

「毛嫌いまではいかなくても、相性がちょっと悪いなって感じで」

 

 その間にもマルグレットの小言は止まらない。

 流石に光輝が辟易して割り込む。

 

「ここ数日ちょっと忙しかったんだよ。

 クゥ・リンの研究施設を、俺の部屋に繋いでもらったりしてたんだ。

 テルティウスも色々と資料を残してたから」

「それなら、前もって私に言っておくべきだろ。

 どれだけ心配し……」

 

 はっと続きを止めて。

 

「だ、誰が心配などするか! 調子に乗るな!」

「なんで俺が怒鳴られないといけねえんだよ」

「お前がだらしないからだ。そもそもその格好はなんだ。

 覇気の欠片も感じられないぞ」

「私服が覇気だらけでたまるか! 

 あ、お前、珍しく化粧してるのか? 

 女の子みたいで可愛いじゃないか」

 

 マルグレットの動きが止まる。

 頬のチークが微かに赤味を増す。

 

「き、貴様に褒められるなんて屈辱だ。

 ん、待て。

 女の子みたいとは、どういう意味だ?」

「そこに噛み付くのかよ。

 待て待て。短剣を抜こうとするんじゃねえ」

「なになに? なんか賑やかにやってんじゃん」


 鼻に掛かった甲高い声だ。

 

「酷いじゃん。ウチもこれからチームメイトだし。

 騒ぐなら誘って欲しいじゃんね」

 

 身長は百六十を切るくらい。

 女性としての魅力に溢れた身体を包むのは、過剰なくらいフリンジで装飾された茶色のシャツだ。

 バリバリに糊を効かせたジーンズと、踵の高いレザーブーツ。

 羽織っているベストは腰上丈で、背中には彼女のトレードマークである「投げキッスをする女神」が描かれている。

 頭にはテンガロンハットと称される獣皮製の分厚い帽子。

 腰のガンベルトには、男ですら梃子摺るくらいの大きな銃が左右に下げてある。

 

「よよ! 親友!」

 

 帽子をくいっと上げて、にぃっと笑みを作る。


 大きな青い瞳に、あちこちカールしたボリューミーな髪。

 やや高さに欠ける鼻は、桜色の唇と相まって愛らしい雰囲気を高めていた。

 

「ビリィ、久しぶりだな。

 相変わらず機嫌良さそうじゃないか」 

「コーキもじゃん。ってかさ、ようやく同じチームじゃん。

 これからはウチを頼ってくれていいじゃんさ」

 

 ビリィ・ザ・キッス。新大陸最強の賞金稼ぎ。

 神速の抜き撃ちと、百発百中の腕前を誇る少女だ。

 遠距離戦闘では、ヴァルハラでも並ぶ者はいないと讃えられるほど。

 ただコンペティションでエインヘルアルに銃を向けるのは、自衛の為の最低限に留めている。

 

「にしても、びっくりじゃん。

 コーキ、いつの間にか実戦部隊のリーダーとかなってるじゃんさ。

 ま、ウチが見込んだ男なら、当然っちゃ当然って感じじゃん?」

「コーキ、こいつもチームに入れたのか?」

「なんか感じの悪い言い方じゃん。

 まあ、暴れ馬みたいな聖騎士よりも、ウチのが役に立つって考えるのは当然じゃんね?」

 

 にひひと笑う。

 

「ビリィ、変な挑発するなよ。

 これからチームメイトなんだから」

「チームメイトねえ。

 ってかさ、ウチはマルグレットのこと、ぶっちゃけ嫌いじゃん。

 戦う気はないって言ってるのに、三回くらい殺されてるじゃん。

 ってかさ、ウチがいたら、こいつ要らんじゃんね?」

「ビリィさん、そんな言い方は良くないですよ」

 

 剣呑としてきた雰囲気に、シャルロッタが慌てて割り込む。

 

「シャルロッタ、チームってのは団結が大事じゃん。

 こういう不穏分子がいるのは危険じゃん。

 コーキ、悪いことは言わないじゃん。チームから外して……」

「ビリィ、ここの殺し合いなんてゲームだろ。根に持つなよ。

 まあ、どうしてもマルグレットが気に食わないなら仕方ない。

 お前は別の」

「待て、コーキ。こいつの言い分は正しい」

 

 そう言うと、マルグレットは深く頭を下げる。

 

「今までのことは悪かった。これからはチームプレイを心掛ける。

 だから、コーキの力になってやってくれ」

 

 普段の攻撃的な言動からは想像すらできない行動に、ゲナンディとアポロニウスは目を丸くして固まる。

 シャルロッタもぽかんと口を開けて止まった。

 当事者のビリィは苦い顔になる。

 

「そんな風に謝られたら、ウチが悪者じゃんさ。

 なんか今までと違ってて、調子狂うじゃんね。

 ってかさ、別にホンキで追い出すつもりじゃなかったじゃん。

 その、軽い仕返しのつもりだっただけじゃん」

「ま、これまでは色々あったけど、チームが変わって心機一転。

 これからみんな仲良くやっていこうってことでいいよな?」

 

 光輝の確認に、全員が首肯して同意を示す。


「じゃあ。これにて一件落着だな。

 みんなで餌でも食いにいくか」

「いいね。ウチは超賛成じゃん。

 ってかさ、みんな賛成じゃんね? 

 コーキ、いいじゃん。

 リーダーらしい貫禄出てきた感じじゃん」

 

 景気良く手を叩きながら、光輝の傍に移動。

 腕を取って抱き寄せようとする。

 

 その自然な動きに、シャルロッタは「あぁ」と声を漏らすしかできなかった。

 しかし。

 

 ビリィの胸が光輝に触れる寸前、マルグレットの手が素早く伸びた。

 シャツの襟首を掴むと、強引に引き剥がす。

 

 圧倒的な腕力に、ビリィはバランスを崩して尻餅。

 痛みを堪えて睨みつけるが、逆にマルグレットの殺意すら感じる目に気圧されてしまう。

 

 これまでのマルグレットからは考えられない行動に、シャルロッタ達だけでなく、光輝ですら呆然と成り行きを見つめるしかできない。

 

 全員の視線が自分に集まっているのに気付いたマルグレットは、軽く咳払いをひとつ。

 

「必要以上にベタベタするな。チームの風紀が乱れる。

 風紀の乱れは緩みを生み、緩みは致命的なミスに繋がる。

 サブリーダーとして看過できないことだ」

「わ、解ったじゃん。そこまで怒んなくてもいいじゃん」

「以後、気を付けろ」

 

 素っ気なく継ぎ足し踵を返した。

 光輝に近付くと、その後頭部をパンと叩く。

 

「隙だらけのお前も悪い。少しは緊張感を持って行動しろ」

「無茶言うな。プロは緩急をつけて生活するのが……」

「サブリーダーの命令だ。反論は認めない。

 これからは緊張感を持て。いいな」

「そんな怖い目で睨むんじゃないよ。

 解ったって、ちょっとだけ緊張して生きるって」

「ふん。まあいいだろう。

 では食堂に移動するぞ。新チームの懇親会だ」

「お前が仕切るのかよ。

 ったく、俺がリーダーなんだからな」

 

 ひとりで歩き出すマルグレットに、不平を漏らしながら光輝が並んだ。

 

「あのふたり、良く解らなねえな。

 ま、前みたいにいがみ合うよりはいいけどよ」

「個人的には面白くなってきたって感じだね。

 今後の展開が楽しみだよ」

 

 ゲナンディとアポロニウスが続く。

 

「ビリィさん、大丈夫ですか? 立てます?」

 

 座り込んだままのビリィに駆け寄ると、シャルロッタが手を差し出す。

 

「あぁ、ありがと。

 シャルロッタはホント優しいじゃん。

 ってか、どうなってるじゃん。

 あのふたり、もっと感じ悪かったじゃんね?」

「そ、そうですね。

 前の任務で蟠りが少し抜けたみたいです」

「ふうん。でもシャルロッタはそれでいいじゃん?」

「チームメイトですし、仲良くなった方が」

「そうじゃなくてじゃん。

 このままだと、マルグレットにコーキとられちゃうじゃん。

 それでもいいじゃん?」

「と、とられるとか、とられないとか。

 そんなこと言われても、良く解らないですし」

「マジなとこ、マルグレットは美人じゃん。

 大抵の男はイチコロじゃんよ」

 

 シャルロッタの表情が微かに強張る。

 

「ウチはさ、賞金稼ぎじゃんね。

 必要となったら、コーキでも撃ち殺せないとダメじゃん。

 だから、親友以上恋人未満がいいじゃん。

 でもさ、シャルロッタは違うじゃん。優しいし、いい子じゃん。

 だから、ウチはシャルロッタを応援したいじゃん」

 

 と頬を緩めた。

 

 その温かい笑顔にシャルロッタは小さく頷く。

 

「ありがとうございます」

「まずはちょっとずつじゃん。

 早くみんなを追いかけるじゃんね」

「でも、ビリィさんが」

「ぶっちゃけケツ痛くて。だから先行って欲しいじゃん。

 ってかさ、乙女がケツさすりながら、歩いていけないじゃん」

 

 にひひと笑って促した。

 

 シャルロッタは少し迷ったが、その言に従う事にする。

 

「はい。じゃあ、先に行ってますね」

 

 シャルロッタが何度も振り返りながら曲がり角に消えると、ビリィは大きく溜め息をついた。

 

「やれやれ。

 マルグレットとコーキが、あんなに仲良くなってるとか、

 マジ勘弁じゃんね。ホントにさ……」

 

 浮かんでいた笑みの質が変わる。

 天真爛漫な色が薄れ、悪意が滲んでいく。

 

「流歌の無能ぶりには呆れるね。

 ま、このくらいの難易度の方がゲームは楽しめるけど」

 

 




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