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【第5章 4話】

「た、確かに現状はそうなっちまってるが、意図的に戦力を分けたんじゃなくてだな」

「その場の流れで分断してどうすんのよ! おバカ! 

 テルティウスを探すなら、なんでマルグレット達を先に呼び戻さないの!」

「いや、こっちから伝える手段が」

「なんでもいいの! 

 大きい音を地下道にガンガン流せば、嫌でも戻ってくるでしょ!」

「そ、それは……。

 まあ、確かにそうだけど。でも結果論だろ、そんなの」

「おバカ! これが敵の策だったらどうするんの! 

 各個撃破されて……」

 

 ふらりとクゥ・リンの頭が揺れた。

 力が抜けて倒れそうになるのを、光輝が慌てて「大丈夫か」と抱き留める。

 

「ごめん、言い過ぎたわね。

 でも、意図的に分断されてるように感じない?」

「正直なとこ、俺もしっくりこない。

 何がどうっていうわけじゃないんだけど。変な意味で間が良過ぎる。

 だから、マルグレットの様子を見に行こうかと迷ってたんだ」

 

 光輝の言葉に、クゥ・リンが表情を緩める。

 

「それが正解ね。こっちの戦力を束ねて、テルティウスの捜索よ」

「賢者様のお墨付きも頂けたし、ちょっとだけ頑張ってみるか」

 

 クゥ・リンの頭を枕代わりの肩掛け鞄にそっと戻し、光輝が立ち上がった。

 そのタイミングで声が響く。

 

「光輝、さん。わたく、しです。流、歌です」

 

 苦し気で途切れ途切れだった。

 

「テルティウスさ、見つけられた、のですが、何故か戦闘状、くうぅ、状態で。

 わたくしのコント、ロールも受付なく、て。

 うう。なんとか、逃げ切れ……。でも、すいません」

「無理しなくていい! 場所だけ教えてくれ!」

「町の南東、側。大通りから南、に三つ目の、道です。青い壁の家で。

 うう、はぁはぁ。屋根端っこが、テルティ……さんの、投石で崩れて」

「それで十分だ! 直ぐ行く!」

「はい。申し訳ありま、せん」

「予定変更だ。まず流歌を回収してくる」

 

 ポケットからメモ帳を取り出し走り書き。

 一枚千切るとワイヤーで槍に括りつける。

 

「待って。あたしも連れて行ってくれると嬉しいんだけど」

「当然だ。ここに放っておくわけにはいかないからな。

 でも影の中だぞ」

 

 すっとクゥ・リンの姿が消えた。

 

「いいか。助手席と影の中では寝ないのが絶対ルールだからな」

 

 冗談交じりに付け加えて駆け出した。

 大通りから南に入る。

 

 道幅は大通りに比べ四割ほど。路地裏然とした感じだ。

 町の南東は庶民の居住エリアらしく、画一化されていない。

 大小の建物が煩雑にひしめく状態である。


 そのまま南に、ひとつふたつと小道を駆け抜けた。

 三つ目の手前で一旦足を止める。

 建物の陰に隠れて、顔だけを出し様子を窺う。

 

「テルティウスはいないな。

 目を離して十分とすると、まだ俺より身長は低いか」


 身体能力も回復力も、まだ人間の域。

 正面からぶつかっても対処可能だが、できる限り衝突は避けたい。

 

「で、あの家か。それにしても」

 

 東西に伸びる道。

 光輝が潜んでいる曲がり角からだと、正面から三軒ほど東側にスカイブルーの外壁の家があった。

 周囲が赤茶やアイボリー、ダークカーキと言った地味な色合いなのに比べると明らかに浮いている。

 

「変わり者ってのは、どこの世界にもいるもんかね」

 

 半ば呆れながら、屋根の一部が崩れている事を確認した。

 ここで間違いなさそうだ。

 

 流歌が逃げ込んだからか、内開きのドアが豪快に開け放たれたままになっている。

 

 ナイフを右手にドアの脇まで駆けると、慎重に覗き込む。

 

 暗い。

 窓にはカーテンが掛かり、鎧戸まで閉められているからだ。

 

 中は直ぐ部屋。

 やや縦長で、広さ的には六畳くらいだろうか。

 タンスやチェストが置かれ、部屋の中央にはテーブルがある。

 奥にドアがひとつ。こちらは閉ざされている。

 

「こ、光輝さん。すい、ません。奥の部屋、に。

 ごめ、んなさい。動けなく」

 

 流歌の声が届く。

 先ほどより掠れ、か細くなっていた。

 

 状況は切迫してきている。そう判断して、光輝は踏み込んだ。

 視野が限られる分、できる限り気を配りつつも、足早に部屋を横切った。

 ドアの横壁、開けた時に向こう側から死角になるように背をつける。

 そっとノブを回し、ゆっくりと押し開いた。

 

 寝室のようだ。

 簡素なベッドが左右に並び。部屋の隅に木箱がいくつか詰まれている。

 

「流歌、大丈夫か?」

 

 入ると素早く視線を周囲に走らせた。

 気になるようなものは見当たらない。

 ふうっと息を吐いて、緊張を和らげる。

 ナイフを肩掛けホルダーに仕舞うと、足元の影からシャルロッタの鞄を取り出す。

 

 その時、開け放したの入り口から、ひとつの影が滑り込んできた。

 背後から光輝に迫る。不思議な事に足音は一切ない。

 そのまま勢いを利用して跳躍。右手を振り上げた。

 逆手に握られているのは短刀だ。

 刃渡り三十センチ超、湾曲した漆黒の刀身が鈍く輝いている。

 

 口元に勝利を確信した笑みを浮かべながら、無防備な背中に容赦なく斬り下ろした。

 

 

           ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 油断なく短剣を構え、マルグレットは違和感を口にする。

 

「何を企んでいるんだ」

 

 マルグレットに対峙するゴーントの騎士達。

 横並びに四体。前二列は両手に短剣装備、三列目は槍の穂先を突き出していた。

 その後方、通路には更に八体が待ち構えている。

 

 合計二十体。

 戦力差は圧倒的、一気に押し寄せられたらひとたまりもない。

 

 しかし敵は動かない。

 互いに攻撃がギリギリ届かない距離で、睨み合いが続いていた。

 

「待機命令が出ているということか。こちらにしては助かるが、しかし」

 

 もう一度笛を吹く。何度もやっているが反応はない。

 

「コーキ、何をやってるんだ。まさか上も敵襲を受けているのか」

 

 ちらりと後ろ、倒れているシャルロッタを見やる。

 出血が酷い。もう猶予はないだろう。

 

「かくなる上は」

 

 踏み込もうとすると、素早く槍と短剣が迎撃の構えをとった。

 マルグレットはリーチが劣る。厳しい。

 

「くっ、このままではシャルロッタが……」

 

 自身の言葉に思い至る。

 ゴーントの騎士は警戒しているのだ。

 シャルロッタを、正確にはシャルロッタが使う「火竜の吐息」を。

 

 この狭い空間でシャルロッタが火を吹けば、ほとんどが炎に呑まれてしまうのは確実だ。

 

「だから、シャルロッタを狙ったのか」

 

 マルグレットは理解した。

 狭い空間にゴーントの騎士を複数体投入すれば、気取られるリスクは上がる。

 つまり、初手の不意打ちは自分かシャルロッタ、どちらかしか仕留められない。

 ならば、戦況を引っくり返せるシャルロッタを狙うのは自明だ。

 

「お荷物は私の方だったとはな」

 

 ゴーントの騎士の指揮者は、シャルロッタが生存している事を把握している。

 だから、完全に事切れるのを待っているのだ。

 そしてそれは。

 

「シャルロッタが生きている間に、こいつらを突破するしか手はない。

 状況が解りやすくなったな。あれこれ考えずに済む」

 

 腰を落とし、まさに突撃を敢行せんとしたところだった。

 ぐっとマントを引っ張られた。

 

 反射的に顔を向ける。

 シャルロッタが血塗れの左手で、懸命にマントを掴んでいた。

 

「心配するな。

 聖騎士マルグレット・ルーセンベリ、こんな雑魚に遅れはとらない」

 

 その言葉にシャルロッタが微かに首を振った。

 健康的な頬は土気色に変わり、瑞々しかったグリーンの瞳は澱んで虚ろ。

 それでも唇を動かし何かを伝えようとしている。

 

「シャルロッタ、なんだ? 何かあるのか?」

 

 その問いに対し、胸元の右手を動かす。

 僅か数センチに過ぎない動作は、シャルロッタにとって残された命を振り絞っての精一杯だった。

 

「そうか!」

 

 意図を察したマルグレットが、シャルロッタの指からこぼれ掛けたそれを掴む。

 

 ほぼ同時にゴーントの騎士達が動いた。

 短剣を振りかざし襲い掛かってくる。

 

 だが、マルグレットは焦らない。

 シャルロッタから受け取ったそれを地面に叩き付ける。

 

 ガラスが割れ、陶器が砕けた。「火竜の瞳」だ。

 

 空気と反応して燃え上がる。

 迫っていたゴーント騎士、最前列の四体を瞬く間に焼き包む。

 だが、後続のゴーント騎士達は距離をとり、火の渦から離れてしまう。

 

「竜の炎から逃げられるものか!」

 

 マルグレットが吠えた。

 高々と短剣を掲げ「風よ!」、渾身の力で投げつける。

 

 暴風を纏った短剣はゴーントの騎士達の真ん中、その陣形を引き裂くように飛んだ。

 それが巻き起こす風に煽られ、火勢を増しながら炎が追い縋る。

 真紅の波がゴーントの騎士達を飲み込み、凄まじい熱量で焼き潰していく。

 室内はもちろん、通路に退避していた騎士達も、ひとたまりもない。

 

 数十秒後。

 暴れ狂った炎は消え去り、通路の隅に点々と残るだけになった。

 

 マルグレットは風の壁と分厚い鎧のお蔭で、火傷を負わずに済んだ。

 大きな吐息をひとつおくと、視線を足元に移す。

 

「エインヘルアルは不死の戦士だ。死に倒れても、再び立ち上がる。

 命を落とすことを恐れる必要はないし、仲間が命を落としても悲しむ必要はない。

 だが」

 

 マントを外す。

 純白の布は血で赤黒く染まっていた。

 シャルロッタの傍らにしゃがみ、生を失った瞳に目蓋を下ろしてやる。

 最期の最期にマルグレットの勝利を確信したのか、その口元は微かに綻んでいた。


 その儚い笑みにマルグレットは、奥歯をぐっと噛み締めた。

 震える右手をぎゅっと握り、硬く目を閉じる。

 数秒の間をおいて。


「戦いに臨んで、あれこれと考えるのは愚かだと思っていた。

 盲目的であっても、迷わず突き進むことが、勝利への最短距離だと信じてきた。

 いかなる犠牲を払ってでも、勝利を得ることが最上だと思い込んできた。

 しかし、それでは足りないようだ。

 ふん、あの賢者の忠告に従うのは癪だがな」

 

 シャルロッタの身体を優しくマントで包むと、右腕だけで抱え上げる。

 

「シャルロッタ、戻ろう。コーキ達に何かあったのかもしれない」

 

 一向に救援に来る気配がない。

 いや、こられない状況に陥っている可能性が高いのだろう。

 

「この罠といい、どうにも後手回りだ。

 まるで全てを見透かされているように……」

 

 自身の言葉に思考を巡らせる。

 この町に着いてからの出来事を順に追い、小さな違和感を繋げていく。

 至った仮定に「まさか」と自嘲しそうになるが。

 

「もしそうなら、各個撃破の憂き目に遭うぞ」

 

 弱々しい炎の残滓を頼りに駆け出した。 

 

 

           ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 漆黒の短刀。

 その切っ先が光輝の襟首に触れる直前。

 足元から跳び出したクゥ・リンが作業用の小型ナイフで受け止めた。

 

 金属のぶつかり合う音に、光輝が慌てて振り返る。

 状況を理解するよりも早く身体が反応。

 サバイバルナイフをホルダーから抜き放つと、勢いそのままに斬り付ける。

 

 対する襲撃者の反応は神懸かり的だった。

 右のナイフを振り下ろしながら、左手の手甲で光輝のひと太刀を弾き流した。

 更に半歩後ろに跳んで間合いをとる。

 

「まさか影にクゥ・リンさんがいらっしゃるなんて」

 

 開け放たれたドアから差し込む夕日が、襲撃者の正体を悟らせる。

 

 腰まである深い藍色の髪。

 淡雪のような白い肌に、黒く瑞々しい瞳。

 小袖袴を思わせる和服の上に胴鎧をつけ、下はゆったりとした袴風のズボン。

 籠手と脛当ては分厚い金属製だ。

 

「流歌、なんのつもりだ」

「申し訳ありません。

 実はハーディンさんに頼まれていたのです。試練のひとつとなるように、と。

 ですが、露見してしまっては、どうにもなりませんね。

 もう止めましょう。これ以上戦う気はありません」

 

 両手を軽く挙げて、流歌は敵意のない事をアピールする。

 

「ったく、ハーディンか。

 あの野郎、マジで何考えてるか解らないからな」

 

 大仰に溜め息をついて、胸元を押さえて蹲っているクゥ・リンにひと声掛ける。

 

「クゥ・リン、大丈夫か、酷いのか」

「かすり傷よ。それほど深くない、とは思うんだけど。

 ちょっと痛みが。ううっ」

「申し訳ありませんでした。咄嗟に止められなくて。

 直ぐに止血を」

 

 慌てて駆け寄る流歌が間合いに入った瞬間を見計らい、光輝が下から右の袖口を狙って斬り上げた。

 

 防御の難しい一撃を、流歌は軽く身体を捻っただけで避ける。

 

「こ、光輝さん。何をなさるんですか! 危ないじゃないですか!」

「あ、悪い。ついな」

 

 非難に対し、頭の後ろをわざとらしく掻きながら。

 

「ほら、俺はプロだろ。つい解っちまうんだよ。

 マジで殺す気か、遊びなのかって」

「どういう意味、ですか?」

「まああれだ。嘘つくんなら、もうちょっと気を遣ってくれよ。

 流歌、テルティウスを探しに出たんだよな。

 で、戦闘状態に入ったテルティウスに襲われて、ここに逃げ込んだわけだ。

 どうしてテルティウスのことに触れないんだ」

 

 右手でサバイバルナイフを弄びつつ、クゥ・リンを庇う位置に立つ。

 

「そもそも物騒な武器を握ったまま、戦意がないって言われても説得力はないだろ。

 あと、これは可愛い女の子に失礼かもだけどさ。

 さっきのお前は、情の欠片もない殺人者の目だったぜ。

 まあ、俺は度量の大きいプロだからな。反論は随時漏れなく受付中だ」

 

 にいっと不敵な笑みを作り、流歌の回答を待つ。

 

「わたくしもエインヘルアルのひとりです。戦うとなれば情を消します。

 短剣は流れで仕舞いそこねていただけです。

 そもそも、光輝さんもナイフ握ったままじゃないですか。

 テルティウスさんについてだって……」

 

 ふうっと溜め息をおいて頬を緩める。

 いつもの優しい微笑だ。

 

「これはどう言っても苦しいですね。

 実のところ、適当に取り繕った嘘だったので、期待していませんでした。

 騙せるのはマルグレットさんくらいかなと」

「おいおい。マルグレットを酷くいうな。

 斬り付けられた時点で、一回殺して後日話を聞けばいいって考える人間だぞ」

「そこまで野蛮ではないと思いますよ。

 というより、酷くいってるのは光輝さんの方じゃないですか。ふふふ」

「いやいや。俺は素直に正直に話しているだけなんだって。ははは」

 

 乾いた笑いを交換しながら、互いになんとなく距離を詰める。

 

 先に動いたのは光輝の方だった。

 前進動作の中でごく自然にナイフを突き込む。

 眉間に迫った一撃は触れる寸前で軌道変更。膝を薙ぐ斬撃に変わる。

 

 フェイントに引っ掛かる事もなく、流歌の短刀がサバイバルナイフを弾いた。

 

 その一瞬の間に、光輝は半歩ステップイン。

 十分に勢いを乗せた左拳を打つ。

 

 顎元を狙う一撃を流歌はスウェーで凌ぐと、短刀を返して首を狙ってきた。

 

 素早くナイフを合わせた光輝が、「くっ」と呼気を漏らす。

 受け止めたナイフが圧されつつあった。

 そこに流歌のミドルキックが飛んで来た。

 咄嗟にガードした左腕が軋む。バランスが大きく崩れた。

 

 その隙を逃すものかと流歌が短刀を振るう。

 左肩口からの斬り下ろし。

 

 容赦のない攻撃を光輝は無様に転がって避けた。

 

 間合いが外れたところで、光輝は舌打ち。

 今の斬り結びで、おおよその戦力比が分析できた。

 まず腕力勝負には分がない。武器の取り扱いは互角。

 格闘術も四対六でやや不利というところだろう。

 思いの外手強い相手、という結論に達する。

 

 流歌が小さく肩を竦めた。瑞々しい瞳を細める。

 

「意外にやるな、と思ってらっしゃいますか? 

 一応はそれなりに戦闘術を心得ております。

 わたくしの方も予想と違うと感じています。予想外に弱いなと」

 

 ふふっと可愛い笑みを挟む。


 

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