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【第3章 4話】

「大通りを突っ切る。

 中央の木が攻撃を再開する前に撃破だ」

「そんなの無謀です! 

 光輝さん! 少し冷静になってください!」

 

 悲鳴に近い声を流歌が上げるが。

 

「テルティウス、クゥ・リンを運んでくれるか。

 ゴーントの騎士とやらが残っている可能性がある。

 ここに放置してはいけないし、護衛に割ける戦力もない」

「うん、任せて。

 賢者様は軽いからね。背負って逃げ回るくらいはできるよ」

「頼む。マルグレット、先頭は任せる。

 ゴーントの騎士が出てきても、捌いて進んでくれ。

 木の撃破が何より優先だ。

 俺が後方に続いてできる限りフォローする」

「無茶な要求だが、私の武技を鑑みれば容易いことだ」

 

 ぶんっと槍をひと振り。風が全身を包み込んだ。

 

「光輝さん! 話を聞いてください!」

「流歌、悪いが自分の身は、できる限り自分で守ってくれ。

 シャルロッタは、ふたりを守りつつ、残敵の処理をしてくれ」

「そそそ、そんなの私にできるはずが……」

「無理を言ってすまないが、頼らせてくれ」

 

 そのひと言にシャルロッタが動きを止めた。

 不安で血の気が引いていた頬に色が戻る。

 むしろ、普段よりも紅潮していく。

 瞳をキラキラと輝かせ、拳をぎゅっと握った。

 

「私、頑張ります。コーキさんの期待に応えてみせます」

「よし、行こう。詳しくは移動しながらだ。

 それと、作戦名は成功してから考える」

「もう、いい加減だな。兄さんは」

「でも、コーキさんらしいです」

「勝手にしろ。お前のセンスに期待はしていない」

「待ってください! おかしいじゃないですか!」

 

 流歌が怒鳴った。

 両手を広げて、遮るように回り込む。

 彼女らしくない険しい表情だ。


「もっとちゃんと作戦を立てるべきです!」

「悪い、流歌。今は時間との勝負なんだ。

 いつまで攻撃が止んでいるか解らないからな」

「それなら、尚更防御を優先すべきじゃないですか!」

「これ以上邪魔をするなら排除するぞ。

 死んでも明日には復活するんだ構わないだろ」

 

 マルグレットが槍を突き付ける。

 流歌がぎょっとして一歩下がった。

 

「今のリーダーはコーキだ。リーダーは責任を負う代わりに、決定権を持つ。

 無謀だろうが無茶だろうが、目的が正しければチームメイトは従わなければならない」

「流歌さん、大丈夫です。コーキさんを信じてください。

 普段は頼りないですけど、その、えっと、時々は、とっても頼りになる、気がします。

 多分ですけど」

「それ、絶対に褒めてないよな」

「はは。僕は兄さんの指示ならなんでも従うよ。

 ま、失敗したら失敗したで、次を考えればいいだけだからね。

 そもそも兄さんが、失敗しないはずがないって信じてるんだ」

「それも、絶対に褒めてないよな」

「解りました。

 みなさんがそこまで仰るなら、わたくしも微力を尽くさせて頂きます」

 

 軽い溜め息をひとつおいて、そう告げた。

 少し意地悪そうな微笑になって。

 

「もしダメだったとしても、光輝さんらしいと思えば納得できますしね」

「だから少しは俺を褒めろ」

 

 

           ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ふん。やはり予想通りの展開だな」

「予想通り? 俺の予想とは随分と違うんだけどな」

 

 マルグレットの言葉を、光輝は苦々しく返す。

 

 チームは町の中央に駆け進んでいた。

 ロブレドの町を十字に貫く大通りを東から中央に向けて、である。


 先頭は聖騎士マルグレット。一メートルほど遅れて、リーダーの光輝。

 そこから五メートル下がった位置にシャルロッタ。

 頬一杯に「火竜の吐息」の粉薬を含んでいるので、呼吸が苦しそうだ。

 その後方には賢者クゥ・リンを紐で縛りつけて背負ったテルティウス。

 隣には短刀を手にした流歌が走る。

 

 視界の奥、交差する通りの中央地点に巨木が見えた。

 抱えるのに大人三人は必要なほどの太い幹。

 立派に広がった枝には青々とした葉が揺れている。

 そして枝の下には黄金の花がある。

 現在、八割近くが硬く花弁を閉じている状態だ。

 

「あの花が元凶ってところか。それにしても、なんかギリギリっぽいな」

 

 咲いている二割が強い光を放っていた。

 蕾になっている物も膨らみつつある。

 これからどんどん回復して、開くのが推測できた。

 

「問題は辿り着けるか、だな」

 

 マルグレットが槍を構える。

 

 大木との距離は約三百メートル。

 その間には全身真っ黒のモンスター、ゴーントの騎士が待ち構えている。

 まず五体が横一列に並び、その後ろに三体という陣形。

 前列は両手に剣、後列は間合いの遠い槍を握っている。

 しかも、この八体ひと組のグループが二十メートル間隔で五つ。

 その向こうに散開したゴーントの騎士が、十体は控えている。

 

「聖騎士マルグレット・ルーセンベリ、参る!」

 

 マルグレットが速度を上げて果敢に突撃。

 前列中央の一体を突風の一撃で四散消滅させると、槍を素早く薙いで左右を吹き飛ばす。

 後方三体が繰り出す槍を盾で弾くと、勢いそのままに体当たり。

 中央突破で次の陣まで一気に押し迫ろうとする。

 

 マルグレットが作った突破口に光輝が走り込んだ。

 後方からマルグレットを追撃しようとするゴーントの騎士にナイフで斬り付ける。

 狙いは膝下辺り。


 光輝のナイフではゴーントの騎士を破壊できない。

 しかし攻撃に移る瞬間をつく事で、バランスを奪う事は可能だった。

 異形の騎士が無様に蹈鞴を踏む。

 

 光輝はマルグレットのフォローに徹し、彼女を狙う敵を駆け抜けざまに処理していく。

 無論、進むふたりをゴーントの騎士達が見逃すはずはない。

 すぐさま、体勢を立て直し背後から追い縋ろうとするが。

 

 炎の渦がゴーントの騎士を飲み込んだ。

 シャルロッタの「火竜の吐息」が、文字通り暴れ狂う竜の如き威力で焼き尽くす。

 

 対峙したマルグレットは「ゴーントの騎士とかいう化け物からは、戦う意思を感じなかった。おそらく事前に与えられた命令を実行するタイプだろう」という印象を語った。

 

 つまり、士気がなく、仲間を倒されも怯まないという厄介な敵だ。

 しかし、その非生物的な行動パターンは、柔軟な対応を苦手とするはず。

 そう考えた光輝は、システマチックな戦法で挑む事にした。

 マルグレットの攻撃と自身の支援で強引に突破口を開き、対応しようとするゴーントの騎士の隙をついてシャルロッタが殲滅する。

 

 相手が知性のある存在であれば、シャルロッタが作戦の要であると見抜いて迅速に対応できるだろうが。

 

「よし! いけるぞ! もうひと息だ!」

 

 マルグレットの高揚した声が、仲間を鼓舞した。

 

 四つの陣を瞬く間に突破。残るひとつに果敢に突っ込む。

 

 中央から前列防衛線を強行突破。

 後衛の三体が一丸となって槍を繰り出してくるが、左腕の盾で受け流し、神業的な槍捌きで二体を破壊してしまう。

 

「こいつも十分に化け物なんだよな」

 

 獅子奮迅の活躍を目の当たりにして光輝が漏らす。

 圧倒的な戦闘力を誇るテルティウスに比べて、二番手と軽く扱われるマルグレット。

 だが、その戦闘力は数十人の精鋭部隊を遥かに凌駕するのだ。

 

「うら若き乙女を化け物扱いするとは! この戦いが終わったら覚悟しておけ!」

 

 槍を振り回し、更なる撃破をしながら、マルグレットが叫ぶ。

 

 軽口を叩ける余裕が出てきたかと感心しつつ、ちらりと後ろに視線を投げた。

 

 シャルロッタが粉末薬を補充しているところだった。

 指の間に三つ挟んで器用に破り、頬張っていく。

 頬や口元に火傷ができ血が滲んでいるが、恐怖も焦りもないようだ。

 

 流れはこちらにある。そう確信しつつあった光輝の表情が強張った。

 

 散開していたゴーントの騎士が迫ってきたのだ。

 その速度は前で陣を張っていた連中よりも遥かに速く、体格もやや大きい。

 全体的に高スペックの精鋭体なのだろう。

 

「マルグレット! 気を付けろ! こいつらは!」

 

 左右から二体が挟撃、更に後方から一体が跳躍してきた。

 

「問題ない!」

 マルグレットはジャンプで左右からの攻撃をかわす。と、頭上で剣を振り上げる一体の寸前で空中を蹴った。

 風の聖騎士であるマルグレットだけに許された、不可視の足場を使ってのバックステップ。

 必殺の一撃を避けると、頭部に容赦なく槍を叩き付ける。

 

 着地すると、大きく槍をひと払い。残っていた二体を吹き飛ばす。

 

 木までの距離は残二百メートル弱。

 ゴーントの騎士はまだ残っているが。

 

「ふん。散開していたのが仇になったな。ここからならひと呼吸も掛からない」

 

 突風がマルグレットの身体を包む。

 しかし、そこで。

 

 木から光の柱が上がった。

 マルグレットが一瞬、踏み込みを躊躇う。

 

 光輝も少なからず肝を冷やした。

 だが、その光は先ほどのような強い輝きはない。

 まだ回復しきっていないのだろう。多めに見積もって三割ほど。

 であれば威力は堪えられる範囲だと計算する。

 マルグレットに前進突撃の指示を出そうとした時。

 

「もうダメです! 撤退しましょう!」

 

 僅かに早く流歌が叫んだ。

 しかも、事もあろうに前にいたシャルロッタの外套を引っ張ったのだ。

 シャルロッタが仰け反って、「うぐ」と呻いた。

 口一杯に含んでいた粉末が喉に入り、咳き込んでしまう。

 吐き出された大量の粉が炎となって、光輝を飲み込もうと迫る。

 

 身をかわすのも間に合わない。

 光輝は覚悟を決めるしかなかった。

 

 そこにマルグレットが割り込んできた。

 左手の盾が、覆い被さってくる炎を受け止める。

 盾を覆う風が直ぐ火を消し飛ばしたが。

 

「マルグレット!」

「うぅ。も、問題ない」

 

 肉の焼けた嫌な臭い。鎧の隙間から血が滴り落ちてくる。

 

 真っ青になって立ち尽くしているシャルロッタ。

 その向こうでは光輝達を気にしながらも、流歌が離脱していく。

 落ちてきた光の粒が、首筋に当たってジュっと音を上げた。

 背後からはゴーントの騎士達も迫ってくる。

 

「兄さん! 呆けてちゃダメだ!」

 

 テルティウスのひと言に、光輝が我に返った。

 

「くそ! 失敗だ! 退くぞ! 

 シャルロッタ、残ってる火を吐け! 全部だ! 

 後ろを焼いて、追撃を押し留めるんだ!」

「はい!」

 

 シャルロッタの吐いた炎が壁のように道を塞ぐ。

  

「マルグレット、走れるか」

「なんとかな。すまない、無様なところを見せる」

「何を言うんだよ。助けてもらった俺の肩身が狭くなるだろ」

「ほう、お前に狭くなるほどの肩身があったとは驚きだ」

 

 力なくも軽口を叩くマルグレットを守りながら、光輝達は撤退を開始する。

 シャルロッタの炎を警戒したのか、木の防衛だけを命じられていたのか、幸いにも追撃はなく、光の雨もパラパラと落ちる程度でダメージには至らなかった。



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