表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/34

【第3章 3話】

「あれはゴーントの騎士。

 常人の三倍近い身体能力に、高い復元能力を有する擬似生命体よ。

 ったく、ムカつくもんを出してくれるわね」

 

 クゥ・リンが憎々し気に告げる。

 

「チマチマしたダメージは直ぐに修復するわ。

 エネルギーを大量に使うから、無限ってことはないけど。

 それでも十回くらいはへっちゃらね」

「一体、二体なら敵ではないが、数集まると厄介だ。

 それにしても随分詳しいんだな」

「あたしが造ったもんだからね」

 

 絶句する光輝達。

 その反応をあえて無視して、クゥ・リンは続ける。

 

「全体の四十パーセントのダメージ。

 それがゴーントの騎士が回復できる限界よ。つまり」

「強烈な一撃で半分を吹き飛ばせばいいんだな。なら、簡単だ。

 風よ、加護を!」


 マルグレットを中心に突風が渦を巻いた。

 

「聖騎士マルグレット・ルーセンベリ、参る!」

 

 高らかに宣言して、マルグレットが走る。

 風の力を受けた、滑るような高速移動。

 

 対するゴーントの騎士達が動く。

 前からいた三体は横並びでマルグレットに迫り、増援の三体は縦列で通りの端を駆ける。

 マルグレットの左側、槍の射程外を抜けるつもりのようだ。

 

「風よ! 穿て!」

 

 マルグレットの槍が前方の一体を捉えた。

 途端に上半身が吹き飛ぶ。と、残った下半身もボロボロと崩れていく。

 

「これで活動停止ということか。しかし」

 

 風の力を強く込める為には、命中した槍を瞬間止めなければならない。

 時間にして一秒足らずではあるが、その隙は大きい。

 

 二体のゴーントの騎士がマルグレットを前後から挟み込んだ。

 他の三体は狙い通り、マルグレットをすり抜けて後方に向かう。

 

「コーキ、左の三匹を仕留めろ!」

「無茶言うんじゃねえ!」

「コーキ、あれはただの人造擬似生命体、遠慮は要らないわ」

「そっちの問題じゃねえよ! 下がれ! クゥ・リン!」

 

 ナイフを右手にゴーントの騎士三体に立ちはだかる。

 

 戦闘の一体が両手の剣を振るう。

 光輝は身体を捻って、それを避ける。

 そのまま流れるように踏み込み、ナイフで逆袈裟に斬り上げる。

 深く抉った。人間相手なら致命傷だが。

 

「くそ、浅いのか」

 

 ゴーントの騎士が持つ再生能力の前にはダメージにすらならない。

 あっという間に傷がなくなってしまう。

 

 光輝の戦闘能力をとるに足りにないと判断したのか。

 一体だけが残り、二体は背中を見せて逃げるクゥ・リンとテルティウスに襲い掛かる。

 

「させません!」

 

 ふたりを助けるべく、流歌が短刀で斬り付ける。

 が、渾身の一撃をゴーントの騎士は易々と払い除けた。

 弾かれた短刀がくるくると宙を舞い、流歌はバランスを失って尻餅をつく。

 そこに残ったゴーントの騎士が剣を振り上げる。絶体絶命だ。

 

 マルグレットの盾が横薙ぎに払われた剣を受け流す。と、くるりと反転。

 後方からの一撃を、紙一重のサイドステップで避けた。

 槍が唸る。暴風を纏う一撃が胴体を微塵に砕いた。

 これで二体目。

 

 流歌に触れる寸前で切っ先が燃え上がった。

 シャルロッタの秘術「火竜の吐息」だ。

 黒い身体を一瞬にして焼き尽くすと、勢いそのままに近くのもう一体をも飲み込む。

 

「まま、間に合いました」

 

 粉薬の包みを握り締めたまま、シャルロッタが安堵の息をつく。

 口内に残っていた炎が、ぽふん小さな火球を作った。

 

 三体目のゴーントの騎士を難なく破壊したマルグレットは、光輝と一進一退の戦いを繰り広げていた一体を後方から突いて撃破。

 

「自堕落に過ごしているから、この程度の相手に苦戦するんだ」

「苦戦じゃねえ。十分に互角の勝負だった」

「自慢になるか。まったく」

「とにかく助かったよ。ありがとな」

「れ、礼など言うな。屈辱だ」


 ぶんと槍を突き付け光輝をぎょっとさせてから、後方のメンバーに駆け寄る。

 

「すまない。抑えきれなかった。怪我はないか」

「はい。なんとかお役に立てました」


 力ない笑みを作るシャルロッタの頭を軽く撫で、地面に蹲った流歌の手を取って立ち上がらせる。

 

「すいません。ありがとうございます、マルグレットさん」

「助かったわ。危ないところだった。ありがと」

「流石は聖騎士マルグレットだね。僕じゃ敵わないよ」

 

 全員からひと言ずつ貰ったマルグレットは、光輝に向かい軽く顎を上げて。

 

「ふん、どうだ。私の活躍をチーム全員が賞賛している。これが正しい状態だ。

 お前もリーダーなら、チームの弱者を守れるくらいの武技は持つべきだな」

 

 さも当然と言い放つ。

 

「じゃ、弱者は酷いですよ。確かに役立たずですけど」

「否定はできません。

 しかしながら、言い方を少しくらい考えて頂きたいです」

「あの子って、無駄に不穏当な口叩くのよね」

 

 シャルロッタと流歌、クゥ・リンがひそひそと意見を交換する。

 

「マルグレットらしくて、僕は嫌いじゃないんだけど。

 みんなには不評なんだよね」

 

 テルティウスはくすくすと笑いながら。

 

「兄さん、どうしよう。このまま進む?」

「敵が襲ってきた方向でもあるし。って、なんだ?」

 

 光輝だけではない。

 全員が唖然とするしかなかった。

 視線の遥か先で、突如光の柱が現れたのだ。

 

 柱は上に向かって一直線。

 結界があると思われる辺りで波紋のように広がっていく。

 段々と周囲に、数分で光輝達の頭上にも光の波が到達してきた。

 

「うわぁ、綺麗ですね」

 

 見上げたまま、無邪気に感想を漏らすシャルロッタ。

 

 その呟きに、はっと我に返ったのはクゥ・リンだった。

 慌てて視覚を切り替え。

 

「やっぱり」

 

 光の源は広場の巨木だ。

 枝についた黄金の花が、異様なまでの輝きを放っていた。

 しかもその光量は益々増えていく。

 そして何より気になるのが。

 

「光が強い熱を持ってる。どういうことなの?」

「あち!」


 光輝が飛び退いた。

 手の甲を見ると、数ミリ程度の丸い火傷があった。


 続いてマルグレットが呻きを漏らす。

 首元、鎧の隙間を押さえながらだ。

 

 シャルロッタと流歌も小さな悲鳴を上げる。

 何かを振り落とすような仕草をしつつ、不安そうに辺りを見回す。

 

「まずい! 上よ!」

 

 全員が視線を頭上に。

 数ミリほどの光の粒が降ってくる。各々が咄嗟に身をかわすが。

 

「おいおい、ふざけんなよ!」

 

 直ぐに倍近い光が落ちてきた。

 いや、その後ろに更なる光の粒が見える。

 まるで高熱の光の雨。しかも、次第に勢いを増していく。

 

「コーキ、なんとかしろ! このままでは、いつか焼き殺されるぞ!」

 

 素早く身体を動かしながら、マルグレットが吠える。

 しかし、彼女の卓越した運動能力であっても、全てをかわすのは不可能だった。

 

「兄さん! これは洒落にならないって!」

「ひぃ! 熱いです! コ、コーキさん、た、助けてくださいぃ!」

「光輝さん、なんとか打開策を! きゃっ!」

 

 他のメンバーが避けきれるはずがない。

 無様に逃げ回りながら、悲鳴に近い声で訴える。

 

「こんなのどうにもなるか!」


 無論、光輝も状況は変わらない。

 

 光の数は加速度的に増えていく。

 鎧のあるマルグレットなら、少しは耐えられるだろうが。

 

「ひとまず退避だ。雨宿りの要領で凌ぐんだ」

 

 北側、倉庫と思わしき建物の軒下を指し示す。

 流歌とテルティウス、更にクゥ・リンが。何度も躓きながらシャルロッタと続く。

 光輝とマルグレットは最後になった。

 

「くっ、盾でも防ぎきれない。これはかなり危険だぞ」

「でもまあ、こうして隠れておけば、あちち! マジか! くそ!」

 

 光の粒が角度を微妙に変えて降り注いできた。

 

「中に入らないと防げねえ!」

「でででも、鍵が、熱い! 熱いですぅ!」

「マルグレット、鍵を壊してくれ! ひい、あちぃ!」

「あつ! 解った! やってみる!」

 

 石突きを振り下ろし南京錠を叩く。

 しかし、単純打撃では破壊には至らない。

 

「頑丈な! えぇい! 風よ! 穿て!」

 

 暴風を纏った一撃には耐えきれなかった。

 錠前は一撃で粉砕。だが、威力は留まらず扉を木っ端微塵に。

 いや、それだけではなく外壁までもを大きく破損させた。

 倒壊寸前だ。

 

「阿呆か! ちったぁ加減しろ! あちち」

「貴様! 聖騎士を愚弄、あつあつ、する気か! 

 錠を破壊する威力ギリギリだ! 風は打点よりも、周囲の影響! 

 あ! 背中に! 熱い! の方が強いんだ!」

「と、とにかく隣に移るぞ。このままだと崩れる」

「ここを突っ切るのは自殺行為だよ! 兄さん!」

 

 雨なら豪雨。

 直視すら厳しい光の量になりつつあった。

 しかも徐々に角度が迫ってきている。

 

「これ、かなりまずいんじゃないか。あちち」

「流石リーダーだ。その事実に今頃気付くなんて。

 もう! 熱いってば!」

 

 会話ができるだけタフな方だった。

 シャルロッタは丸く蹲って泣き声を上げるだけ、

 流歌もしゃがみ込んで両手両足で身体を庇うのがやっとだ。

 

「打開策があるわ。なんとかコツが掴めたの」

 

 クゥ・リンが淡々と告げる。と、迫っていた光の粒がぐぐっと退いた。

 まるで見えない傘を差したように、チームの周囲にぽっかりと安全ゾーンができる。

 

「虫のレンズで、光を屈折させてるの。

 六割近い虫を集めても、この広さが限界よ」

「これで十分だ。とりあえず手当てもできるし」

「残念だけど、そこまでの余裕はないわ。

 耐熱強度を上げているけど虫は虫よ。生き物なの。

 この熱量の中じゃ、あと五分ほどしか耐えられない」 

 

 絶望的な説明に、言葉を失くす光輝とマルグレット。

 

「ふたりして面白い顔しないの。打開策があるって言ったでしょ。

 この光の大元は、広場に生えてきた大木よ。そこから光の柱みたいのが伸びてる。

 今から残った虫を光の柱に突入させて反射。木を焼いてみるわ」

「反撃ということだな。撃破できそうか」

「ん。無理ね。だから、そんな面白い顔するんじゃないっての。

 破壊できなくても、一定のダメージを与えて攻撃を中断させるくらいはできると思う。

 ただ」

 

 力ない笑みを浮かべる。

 

「これだけ強い光を視覚情報として受け続けたら、負荷がハンパないのよね。

 気絶で済めばラッキー、下手したら死んじゃうかも」

「おいおい、縁起の悪い冗談は止めてくれ」

「暗い顔すんな。死んでも明日には生き返るんだから。

 でもさ、あたしが抜けて大丈夫か不安なの。ふたりでケンカせずに仲良くやれる?」

 

 クゥ・リンの確認に、マルグレットは胸を張って答える。

 

「仲良くする気はないが、協力できるようには善処する」

「そんなこと言う奴と仲良くできねえだろ。でも協力ならなんとか、鋼の忍耐力で」

「ま、それで妥協しておいてあげるわ」

 

 大仰に溜め息をつくと、虫達の操作に意識を集中する。

 光の柱に突入。

 流れ込んでくる光で、意識が真っ白に塗り潰されそうになるのを、どうにか堪える。

 巧妙な角度で光を屈折反射させ、枝の下に並ぶ黄金の花を次々と燃やしていく。

 

「くっ、想定以上にきついわね」

 

 虫達からの映像を直視するのは、閃光を瞬きもせず見続けている状態だ。

 その負荷は甚大。頭の中が焼けるように熱くなる。

 

「クゥ・リン、無理だけはするなよ」

「おバカ、ここで無理しないで、どこで」

 

 苦痛に耐えきれず膝をついた。全身が小刻みに震えだす。

 

 他のメンバーは己の無力を嘆きつつ、見守る事しかできない。

 

 不意に光の雨が止んだ。

 

 全員が「おお」と声を上げる中、小さな賢者は地面に力なく身体を投げ出した。

 

「クゥ・リン!」

「ダメ、動かさないで! 兄さん、離れてて!」

 

 反射的に抱き起こそうとした光輝を一喝。

 傍らにしゃがみ込んで、刺激を与えないよう慎重に状態を確認する。

 首元に手を当てたり、目蓋を軽く開けたり、呼吸の有無を調べたり。

 一分ほどの時間を掛けてから、表情を緩めた。

 

「大丈夫そうだよ。負荷でオーバーフローしたみたい。

 脳の強靭さは、流石賢者様だよ」

「そうか。良かった」

 

 つい安堵を声にしたマルグレットに全員の目が集まる。

 その視線に気付いて。

 

「チームメンバーの身を案じるのは当たり前だ。

 その、なんだ。ひとり欠けたら、ミッションを失敗する可能性が高くなる。

 だから心配は当然だ」

「別に何も言ってないだろ。聖騎士様が意外と仲間想いなんで驚いただけだよ」

「意外とだと? どういう意味だ!」

「言葉の綾だってば。と、とにかくだ。攻撃は止んだ。今の間に……」

「光輝さん、次の攻撃が来る前に安全な建物を見つけましょう。

 そこを基地として、まず火傷の治療。

 それから今後の方針を相談しましょう」

 

 流歌の進言に対し、光輝はひと呼吸おいてマルグレットを見やる。

 

「反対だ。

 攻撃が止んでる今こそ最大のチャンス。中央の木の破壊を優先すべきだ」

「私は流歌さんの意見に賛成です! 

 状況も解らないまま、突き進むなんて危険です!」

 

 珍しくシャルロッタが強い語気で訴える。

 光の雨によるダメージが応えているようだ。

 

「テルティウス、お前はどう考える」

「僕? 僕はどっちでもいいよ。

 敵の全体戦力が未知数だからね。攻めても成功率は低い。

 だからって防御を固めても、この人数だよ。詰む可能性は高い。

 どっちにしろ賭けだね。

 ただ優柔不断に戦力を分けるのだけは断固反対かな」

 

 全員の意見を噛み締め、光輝は天を仰ぐ。

 穏やかな初夏の空が広がっている。

 

「どうにも決断ってのは苦手なんだよな。

 多数決で無責任に済ませたいぜ、ったくよ」

 

 盛大に愚痴ってから、力強く決定を告げる。

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ