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scene1

記憶の中で、いつも勇者は笑っていた。


「やめて、来ないで」と、赤髪の少年が震える声で言った。

そんなものは構わないとばかりに、燃え盛る城下町のなかを避難中の集団に迫るおびただしい魔物。

その中の一匹が鳴き声をあげながら、飛びかかった。

悲鳴が響き渡る。


その時だった。


魔物の体が吹っ飛んだのは。


「怖かっただろう。辛かっただろう。だが、安心してくれ。もう大丈夫。なぜなら」


おびただしい魔物を前にしても、一切の恐れを見せず、笑って立つその姿は人々の心に希望を与えた。


「勇者アルス、ただ今見参!」



scene 2 王都、城内会議室

初老の男たちが、薄暗い部屋に集まっていた。


「今回も、勇者アルスの手柄でなんとかなったか」


「そこが重要なのだ。まさに、今回も。現在、あまりに勇者アルスの力に頼りすぎている」


「他の勇者もよくやってくれてはいる。問題は、魔物の増殖と凶暴化だ。明らかに奴らは強くなっている」


「対策を講じなければな。勇者アルスにしばらくは踏ん張ってもらうしかあるまい」


「国中を彼に守らせるには無理がある。No.2とNo.3の勇者を常に彼と反対の場所に配置させよう」


「そうするしかあるまい。しかし、魔王め。これも全て奴のせいだ」



scene 3 外界、南の城下町 サウスタウン

「聞いたかよ、また勇者アルスがやってくれたってよ」


「ああ、聞いたよ。全く、勇者ってやつはほんとすげぇよな」


「ああ、まぁ、奴の親父は別だけどな」と、指を刺した先には一人の少年が薪を割っていた。


「親父が言ってたぜ。10年前、南の城下町が魔物の大群に襲われた時、あいつの親父は逃げちまった挙句、殺されたってよ」


「ったく、勇者の風上にもおけねぇぜ。領主様がいなけりゃどうなってたことか」


「勇者の代わりに、領主様が一人で魔物を追っ払ったんだよな。さすが、この街の英雄だぜ」



遠くで聞こえる、あからさまな嫌味。

いつものことだ。気にすることはない。

親父は逃げたとみんなは言う。

臆病者だと。

だけど、僕はそんなことは信じていない。

親父は勇者として、時には数週間もかけて街の近くに出没した魔物を倒しに出かけることが多かった。

いつも遊んでくれとせがむ僕に父は笑って言った。


「勇者はみんなの希望なんだ。お前だけの父じゃいられない時もある。

でもな、フチ。俺はお前と母さんを守るためにも戦ってるんだ。どんな大きな奴でも、見たことがない敵にも戦えるのは、お前達が背中にいると思えるからだ」と。


僕は信じている。親父は逃げてなんかいない。

戦ったはずなんだ。僕らを守るために。僕は絶対に親父を信じる。

それが、死ぬまで親父を信じた母さんとの約束だ。


scene 4

今日も朝から職場に行った。

僕は鍛冶屋で、見習いとして働いている。


「おう、坊主。もう掃除は終わったか?」と、おっさん。


母が死んだ後、俺に仕事をくれた恩人だ。


「はい!終わりました。でも、今日は定休日でしょ?」


「ああ、まぁな。だが、ちょっとお前に渡したいものがある・・・・というより、これから作るんだが」


「え?」


師匠は手招きし、俺を連れて地下室へと向かった。

地下室は、主に武具の原料となる鉄や銀などの鉱物や、魔物の素材などを格納する場所だ。

国内でも指折りの職人である師匠は、数々の希少な素材を持っている。

頑固で、弟子を取らない主義の師匠には俺以外弟子はいない。

むしろ、俺という嫌われ者を働かせているにも関わらず客足が途絶えないその技術を広めないのは勿体無いような気がするが。


師匠は、地下室の角の壁を弄った。

希少な素材が置いてあるとは行っても、流石に普通に保管していたのでは不用心である。

師匠は、家を作る際、地下室に様々なギミックを施し、自分以外は開けられない様々な扉を部屋中に作成したのだ。


ガコッと音がなり、反対側の壁に小さな扉が現れた。

そこから出てきたのは、一本の剣である。


「それは?」


「封竜剣。名前くらいは聞いたことがあるだろう?」


「封竜剣だって???」


現在、職業として確立した勇者だが、かつては1人の戦士のみを指す呼称だったという。

魔王を倒すために、伝説の鍛冶屋が打った剣が「封竜剣」だ。


「この剣は持ち主が切った龍を封印する。持ち主はその力の一部を使うことができるのだ」


「これは・・・・、なぜ師匠がこれを?」


「わしの師匠から譲り受けたのだ。一度ある男に託したのだが・・・。明日、お前は15歳になる。スキルの授与はお前の人生に大きく関わるだろう。お前の運命はお前のものだが、まだ、あの夢は変わっていないのだろう?」


「はい。僕は勇者に、父のような勇者になりたいです」


「なら、フチよ。お前にはこれが必要だ。かつてお前の父はこう言った。勇者は常に、皆の希望でなくてはならないのだ、と。お前も笑って、皆を幸せになれる勇者を目指せ」


だが・・・・と、師匠は言葉を続けた。


「勇者になるのは困難なことはわかっているな?」


勇者というものが職業として認知されたのは約100年前だ。魔物を倒し、人間を守る戦士を指す呼称だが、魔物というのは、一般的な人間が倒せるものではない。加護次第なのである。

加護というものは15歳になると発現する。例えば、師匠は「鍛治神の加護」という加護を持っている。この加護によって、師匠は魔石と鉄の融合など、本来はできないことができるようになった。


だが、「鍛治神の加護」みたいなのはとてもレアで、一般的な加護は「慈愛神の加護」など、病気にかかりにくい程度のものであることが多い。


本当に低い確率で強い加護が発現するものもいる。

その多くが、職人や、勇者となるのだ。


加護は、本人の願望にも左右されると言われるが、魔力の許容量や、身体の耐久度など、元々の潜在能力に比例することが多い。


実際、僕には強い加護はつかないだろう。


強い加護を持つ多くの人間は僕のいる外周区ではなく、中央区の街に住む貴族であることが多い。

僕のような平民が強い加護を持つのは本当に希少なケースだ。


「でも、それでも!」


「わかっている。だから、この剣なのだ。もう一度聞く。本当に勇者になりたいのだな」

「はい!」


「ならば」と、師匠は剣を差し出した。


龍の装飾が施された鞘に入れられた剣を受け取る。

受け取った瞬間、腕に痛みが走った。


「始まったか」


「何が・・・・?」


ドクン、と心臓がなる音が聞こえた。


それと同時に全身に激しい痛みが走る。


「こ・・・れ・・・は???」


「その剣が持ち主の体を自分を扱える存在へと進化させようとしているのだ。それを持った人間は龍人と呼ばれる存在に進化する。見た目は人間とさほど変わらんがな」


目の前が暗くなっていく。










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