第5話
「遅いよお兄ちゃん、とっくに朝ご飯できてるよ。」
なんとか一命を取り留めることができた。しかし顔の右側は真っ赤に染まっている。
「はい、タオル。」
「ありがとう。」
気の利く妹だ。流石我妹。
僕はガラスのコップに注がれたトマトジュースの様なものに手を付けた。そして、一気飲み。そして、僕は味に違和感を覚えた。
「これ何ジュース?」
妹は間髪入れずに笑顔で答えた。
「それはね。血だよ!」
その瞬間、僕の胃袋が拒絶反応を起こし、強烈な吐き気が止めどなく押し寄せて来た。
「おぇーーーーえーーぇーー」
その吐き気に耐え切れずトーストが乗っている皿の上に吐いてしまった。
「お兄ちゃん汚いよー。」
「って事は俺は自分の血を飲んだのか?」
口には耐え切れんばかりの胃酸による酸っぱさが込み上げてくる。喉が焼けているようだ。
「いや、違うよ♪」
まさかその答えが返ってくるとは思いもしなかった
「なら、誰の血だ?」
思わず固唾を飲んだ。
「当ててみてよ。シンキングタイムスタート!チッチッチッチッチッチ…」
妹はタイムリミットを思わせる秒針の音を奏で始めた。
「スッポン?」
「ブップー!」
徐々に終わりが来るかわからない妹次第のタイムリミットが迫っていく。
「お前の血か?」
「んー、惜しいねー。」
惜しいだって?
頭の中に浮かぶ目まぐるしいほどの答えとなりそうなものを現実的な物だけに絞り整理していく。あとはなんだ?何がある?
「犬!」
慌てた挙句、出た答えが犬だった。
「ブップー!時間切れー!」
答えを間違ったと共に妹がタイムアップを告げた。意外と短かった。
「正解は…」
ゴクッ…
答えが気になるせいか緊張し、額からは汗が流れ出す。
「…」
妹はニヤついた表情のまま身体、顔ともに全く動こうとしない。子供を相手にしているかのようだ。
「…」
1秒1秒いつもはなんとなく流れていってしまうのに今の瞬間だけはその1秒1秒が非常に感じられる。
「正解はね…」
正解は?!
ー「お母さんとお父さんの血だよ♪」ー
「はい?」
僕は一瞬理解に遅れた。
「ヴォエエーーェーおぇーーーーえーーぇーーぇーぇーーーぇーぇぇー」
その言葉の意味を理解した瞬間、空っぽのはずの胃からは再度胃液がこみ上げて来た。
「美味しかったでしょー!」
なぜ笑顔のままでいられるんだ?
「ほらー、台所見てよ。」
ヤバい。僕は見た。赤く染まった母と父の頭を。首から下は無く、首の断面からは血と砕けた骨が出ている。歯は強引にペンチで抜かれたのか赤く染まり、頭部は綺麗に開かれて内部の物が飛び出している。
「興奮してさっき一人でしちゃった♡」
「なんで…こんな事した?」
惨虐過ぎる。僕が両親の仇を取らなくては。
「ふふふ。」
「なんとなくかなぁー?」
背筋に寒気が走った。
ー殺される。このままじゃころされてしまう。ー
身の危険を感じ、僕は靴も履かずに家から飛び出した。
ー
ー
ー
「次はあなたの番だからね。」
騒々しさと一転し静寂が訪れた部屋には残酷な微笑が響き渡った。