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イエローこと黄野さんの野望

 ◆


ある日、謎の光線が地球に降り注いだ。


その光線により、超人となった五人の戦士。


彼らこそ、選ばれし勇者。人は彼らをファイバーズと呼ぶ!!


 ◆



最近、私は上の方を見ている事が多い。


あっ、あのビルの屋上、狙撃に向いてるっぽい。


「キーちゃん。どーしたの? ぼぉっとして」


私はその言葉にハッとする。ここはドーナツショップ。私たちは三人でテスト勉強の打ち合わせでこの店に入っていた。買い食いは校則で禁止されているけど、そこはまあ、ご愛嬌。


向かいの席に座っていた幼なじみの朝子とクーちゃんが心配そうに私の方を見ていた。


私はあわてて手を振ってごまかす。


「あー、ちょっと空にトンビが飛んでたもんだから」


私がそう話すと、童顔なクーちゃんが目をくりくりさせて口に手を当てて驚く。


「トンビぃ? 油揚げを取るやつ?」


そう言って驚いているクーちゃんは何というかお人形のような可愛らしさがある。


それに突っ込みを入れるのは朝子だ。


「いやいや、鷲のちっちゃい奴でしょ? そんなの、この都会に居る訳ないでしょ」


びしりと手を使って突っ込みを入れる朝子はクーちゃんと違って大人びている。


きりっとした目つきが鋭くて、誤解されやすいが優しい。


適当にごまかす為に言った言葉に反応してくれる二人に私は笑って言った。


「あはははは。平和だなぁと思ったのよ」


そう、平和だ。


毎週の日曜日に敵はやってくる。それも異世界からだ。


なんだか黄土色で、虫みたいで、だけど二足歩行のへんな奴等なのだ。でも、それを知っている人は殆ど居ない。


それも自分たちの活躍あればこそだと思うと、誇らしくもあり、くすぐったくもある。世界を守っているのは、たった五人なのだ。


正しくは東京しか守ってないけど。でも世界に広まるのを東京で撃退してるって考えれば、世界を守ってるって言っても良いと思う。


あの日、不思議な光を浴びた私はヒーローになったのだ。


ごまかすために言った私の言葉に朝子は呆れた様子で肩をすくめてみせた。


「当たり前でしょ。ここは日本なんだから」


そう話す朝子は全く普通の様子で自分の言葉にいっさいの疑問を持っていない。


「そうだよぉ。でもしばらくは忙しくなっちゃうよねぇ……」


クーちゃんが嫌そうに声を出し、朝子もそれに対して腕を組み、うんうんと頷きながら口を開く。


「テスト休みに入るからねぇー。部活は無いし、楽だけど、しんどいんだよねぇ」


「ははは、朝子ちゃんは体を動かしてる方が好きだもんね」


クーちゃんはそう言って笑い、朝子は当然とばかりに頷いた。


「そりゃそうよ。勉強なんて、ろくなもんじゃないわ。キーもそうでしょ?」


そう話を振られて、私はちょっと考えて首を横に振った。しばらく前の私なら絶対頷いていたと思う。


「ええー、キーもべんきょう苦手でしょ!?」


裏切り者を見つけたかのように非難を上げる朝子に私は苦笑い。


「そうなんだけど。でも最近、知らない事を覚えるのも良いかなって思ってるんだ」


「……なんとまあ、まじめなお言葉」


驚いてる友人に私はちょっと照れながら喋る。本当のことを言う訳ではないけれど、知っておいてほしい事だった。


私は今、結構充実してるのだ。


「最近さ、ちょっとした習い事をしてるんだけど。これがなかなか、癖になっててね」


「へー! キーちゃんも何か習い始めたの!?」


目をキラキラさせてそう聞いてくれるクーちゃんは良い話し相手だと思う。


「そうなんだ。自分の技術が上達するっていうのかな、それに先生が親切でね。仕組みとかも教えてくれたりなんかして」


私がそう話すと朝子も「ほー」と感心したような声を出す。


この二人は私がこれまで部活をしないで、のほほんとしていたのを知っている。


だからなおの事、意外に思ったに違いない。


私だってしばらく前までは、自分がこんな気持ちになるとは思ってもみなかったんだし、当然といえば当然だ。


「キーがおしゃれ以外で夢中になるのって始めてじゃない。それで、なにやってるの?」


朝子にそう訪ねられて、私は思わずうめき声を上げた。


「うぐぅ」


しまった、そういえばファイバーズのことはないしょだった。


墓穴を掘った私がうめき声を上げたので、二人は怪訝な顔で私を見た。


「なに? まさか、言えない事なの?」


「ややや、何をおっしゃるウサギさんだよ」


私がついこぼした言葉に、二人は首をひねる。


「何、その言い回し?」


「童謡のもしもしかめさん?」


「そ、そうそう。先生がそんな言い方しててさ。うつっちゃって、あはははは」


私はそう笑ってごまかそうとしたけども、二人の視線の追求は鋭い。


青島さんは普通だって言ってたけど、うさぎさんはやっぱり変だったようだ。


「へんなことに首つっこんで無いでしょうね」


あはははは。絶賛地球の平和を守ってるんだけど、言えないよね。


「キーちゃん、私たちにも言えない事?」


親友の二人の目線に私は耐えられなかった。


「実はその、私……」


「うんうん」


「その、ライフルを習ってるんだ」


うつむき加減でそう言って、上目遣いで二人の反応を伺う私。


何の為にって聞かれたら、世界平和の為だと答えるよりほかは無い。そうなればアウト、青島さんに迷惑がかかっちゃう。


だけども私の心配をよそに、二人は感心した様子だった。


「ライフルって、鉄砲の事?」


「渋いシュミね」


あれ……なんだか好意的?


「ライフルってぇ、オリンピックの種目にもなってる奴でしょう?」


「テレビで見た事あるな。でもマイナー競技じゃないか?」


「ええー、オリンピックだよ? マイナーじゃないよぉー」


何やら言い争っている二人。というか、オリンピックの種目にライフルってあるんだ。知らなかった。


ファイバーズになってしばらく、青島さんに狙撃銃を勧められた時の事を思い出す。


『黄野さん、狙撃をやってみないかい?』


『ええー、狙撃ぃ? じみー』


『走るのが駄目、腕力もなし。肩の力もなし。でも君は目がいい。狙撃手向きだ』


そう青島さんが言ったから、渋々始めたライフルだったが……遠くの敵は豆みたいに小さく見えて怖くないし、チビッコーズに混じって爆弾爆発させるのも、私じゃ慌てちゃって出来ない気がする。


その点、緑川君は囮までこなすし、桃ちゃんはいつも冷静に爆弾を使っててすごい。


紅君は青島さんからもっと細かくいろんなことを教えてもらっているみたいで、いつも大変そうだ。


きっと私が同じ事を教えられても、嫌になって逃げてたと思う。


今の自分が狙撃にハマっている事を考えると、青島さんの助言は正しかったという事になる。大人ってすごい。


とはいえ青島さんは、変わった人だ。


腰が低そうな顔立ちで、銃とかに関してすごく詳しい。


傭兵という仕事で外国に行っていたらしい。詳しくはよくわからない。


そのことを聞くと青島さんは何とも複雑そうな顔をして、「成り行きとしか言いようが無くて」とはぐらかされる。


親切にいろいろ教えてくれるし、良い先生みたいな人だ。あと、褒めてくれるのがビミョーに嬉しい。


私は平々凡々に生きてきた人間だから、才能とか、頑張った事とかで褒めてくれる大人の人はあんまり居なかった。


でもそう……先生というよりも、どっちかって言えば師匠って感じの人なのだ。


自然とライフルの師匠の事に関して思い浮かべていた私に、朝子は興味深そうに私に訪ねる。


「キーはそういうの目指してるの?」


朝子が言いたい『そういうの』とはオリンピックの事だろう。


私は笑いながら言った。


「考えてなかったけど。でも、そういうのって良いよね」


必要になったから覚えた技術ではあるけれど……。もし世界の平和が守れたら、そういうのも良いかもしれない。


『特殊部隊でもやっていけるよ。うん』


ちょっと前に青島さんはそう言って私の狙撃の腕を褒めてくれた。


あのときも嬉しかったかな?


青島さんの言う特殊部隊には興味は無いけど、でもオリンピックとか素敵だ。


狙撃の腕は青島さんには、まだ敵わないけど……まだ初めてそんなに時間が経っているわけでもないし? 頑張れば、伸びしろはまだあるはず。


それはちょっと……いや結構、すごいかも。


おもわず自分の想像にニヤニヤしながら、私の想像は広がっていく。


昔から着飾ったりするのは楽しかったけれど、その他の事には興味が無かった。


最初におしゃれに目覚めた瞬間は今でも覚えている、写真に写った自分が気に食わなかったのが始まりだ。


私って、もっとかわいいはず! そう幼稚園に入る前に思ったのだ。


そこから鏡を見て研究して、おしゃれをして、それ以外はあんまり興味がなかった。


おしゃれの延長線上で裁縫もやったりしたけれど、お小遣いの関係で、着る服のコーディネートに夢中になった。


だって、作るより買った方が安いんだもん。


そんな私に今まさに、ちょっと目標が出来た。


一つは地球を守る事! これ大事。


クーちゃんも、朝子も、お父さんも、お母さんも、みんなみんな守ってめでたしめでたし。


そんでもって、私はオリンピックに出て、金メダル。


かわいすぎる狙撃手! これよ。おしゃれすぎるでも良いけど、かわいい方が良いもん。


ああ、でもそうなったら過去の成績とか調べられたりして……。


「あの子はバカでねー。みてくれと狙撃の腕だけは良くて、男も狙い撃ちしないと。良い旦那がくれば良いんだけど」


想像の中でお母さんが下品なほどの大口を開けて笑っている。その横でお父さんも「うんうん」と頷いていた。


悪夢だ。


「だ、だめだわ! 二人ともテスト対策よ!」


私は意気込んでそう口にした。


せっかくの金メダルが汚れてしまう。そんなの駄目駄目だ!


「ど、どーしたの急にやる気になって」


朝子が目を丸くしてそう言った。


私は言ってやる。


「金メダルを取ったときに二人ともテレビに出したげる」


その言葉に朝子とクーちゃんはますます目を丸くして、朝子は肩をすくめて、クーちゃんは目をキラキラさせた。



行くんだ、イエロー!! 平和な世のため、夢のため!


頑張れファイバーズ! その一撃は世界を狙える一撃だ!!


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