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ブルーこと青島の大人の苦労1

 ◆


ある日、謎の光線が地球に降り注いだ。


その光線により、超人となった五人の戦士。


彼らこそ、選ばれし勇者。人は彼らをファイバーズと呼ぶ!!


 ◆



パソコンで資料を纏めた俺はやれやれと固まっていた体の筋を伸ばした。時間はまだお昼前だ。


仕事のペースとしては悪くない、別の仕事も片付けられそうだ。


「あー」


肩の筋を伸ばすと声が思わず漏れた。目の奥がしばしばして、俺は眉間を揉む。


俺もいい年だからな……眼が疲れる。


「すまないね。青島君、ちょっと良いかね」


ちょいちょいと手招きする上司からそんな風に呼ばれて、俺は「はい」と声を上げて立ち上がった。


ここは国防ビル。全長五十階立て。国の安全を守る最後の希望を司るすごい建物だ。


その三十七階の特殊部隊本部が俺の勤め場所だ。


良い職場である。


食堂の飯はうまいし、値段も安い。おまけに自販機の飲み物はタダである。


「まあ、腰掛けたまえ」


そう言って、応接用のソファーを指し示す上司の大林さんもいい人だ。


五十歳を過ぎたイケメンジェントルマンだ。灰色に染まった髪が実に渋い。


大林さんは俺の分までコーヒーを手早く入れて、差し出してくれる。


「ありがとうございます」


コーヒーを受け取り、お礼を返すと大林さんは笑ってテーブルの向かいの席に腰掛ける。


「青島君はブラックで良かったかな?」


「はい。慣れてしまったもので」


「うーむ。私は甘い方が好きでねぇ……格好がいいとは思うんだけどね」


俺の向かいの席に座った大林さんはそう苦笑して、机の上のバスケットからシュガースティクを取り出し、自分のコーヒーに入れる。


「憧れるよ。ブラックコーヒー。これはあれかねぇ、子供の舌なのだろうねぇ」


そうしみじみ話されて俺はちょっと笑った。大林さんはもう五十を過ぎている。


「子供の頃のあこがれですか?」


「そんなもんかもしれないね。渋い感じでかっこ良いだろう? だが、なかなかどうして。こんな見た目だがピンとは来なくてね」


こりゃあ、一生縁がないのだろうねと言って、大林さんはコーヒーを啜った。


「僕も学生時代に貧乏で慣れただけなので」


「学生時代かね?」


「ええ……なにがなんだかわからないくらい貧乏でしたね」


「若いときはそんなものさ。逆に年を取ると金はあっても体力も、時間もない。寂しいものさ」


「大林さんも若い頃は貧乏だったんですか?」


「若い頃から金持ちなんてのは一握りだ。流行り廃りは合っても、人間そうは変わらないものさ。だが、まあ……」


大林さんは笑顔を潜めて、はめ殺しになっている大きな窓の向こうに視線を映す。


俺もそれに釣られて窓の外を見た。そこからは大都会、東京の町並みが一望できた。目に見える範囲はすべて建物。その隙間を電車と車が町中を走り回っている。


その地下には蜘蛛の巣のように張り巡らされた地下鉄の線路が走っている。この窓から見える風景で人の手の入っていない土地は無い。


「この平和が続けばこそなんだけどねぇ」


大林さんがそう言って、空を見上げて目を細める。その先には空に開いた巨大な穴が浮いていた


眠らない町、東京。その上空に突如現れた怪奇現象『ダークホール』。


それは異世界の出口。東京を蝕む悪の吹き出し口だ。


あそこから週一度、「だぢづで人」という名の異世界の怪人達が毎週日曜日に律儀に攻め込んでくる。


俺としては大林さんの言葉がどうにも耳に痛い。


「ははははは、精進します」


何とも気まずく笑ってから俺はコーヒーを啜る。


うーん、苦い。


俺の言葉に大林さんはハッとした表情を浮かべて、オールバックに整えられた頭を撫でる。


「いやぁ、すまん。いらんプレッシャーをかけてしまったね」


「いやいや。大林さんが気を揉むのもわかりますので」


俺はそう言って、自分の頭に手を当てて笑ってみせるよりほかは無い。


なにせ、俺は大林さんの言う平和を守っているヒーローの一人なのだ。


選ばれたヒーローというか、選ばれてしまったヒーローというか。


ある日、家から散歩に出ると青白い光を浴びたのが始まりだった。


それ以来、俺は地球の平和を、日本の平和を、さらに絞って東京を守るのが使命であり、仕事となった。


そしてこの特殊部隊本部がその戦いの前線基地なのである。


「それで、言いにくい事なんだが」


そう前置きされて、俺は内心で身構える。


大林さんが俺に差し出してきたのは、以前提出した装備強化の嘆願書だった。


「どの件です? UAV……ああ、ええっと無人偵察機の分ですか?」


言葉の途中で首を傾げられたので、俺はあわてて言い直す。


専門用語はなるべく避けるようにしているのだが……それでもポロッとでてしまう。


上層部に俺が出していた嘆願書は無人偵察機の配備とセントリーガンの配備、そして重火器使用の使用許可申請だ。


戦闘車両に関しては不許可で突き返されたので、資料を追加して再び作成中である。


「とりあえず、読んでみて」


戻されてきたのは予想通り、無人偵察機の嘆願書だった。


大林さんが差し出してきた書類には大きく不可と印がされている。


「駄目でしたか……うわ、二枚目にも印が押してある」


返された書類をめくり、俺は顔をしかめた。必要だとさんざん嘆願書を出しているのに。


「やはり、無理そうだ。空軍も良い顔はしなかったよ。無人偵察機の使用に関しては消極的だ」


「なんでですかねぇ……、有効性があるんだから、導入くらい検討しても良いでしょうに。活躍すれば箔もつくというのに」


「無人機の導入はやっぱり否定的な印象があるね。海軍も否定派だった」


「……海外は結構導入してますけど。何かまずいんでしょうか?」


「日本は兵器導入に関しては微妙な立ち位置だからねぇ……。立場的に上層部を庇わないわけにはいかないから言うけど、いろいろとあるんだろう。面倒な事だが」


そう言って大林さんもため息を吐く。


俺はそれに合わせて相づちを打ちながら口を開いた。


「現場の意見として言わせてもらいますが、やっぱり厳しいですよ」


大林さんには悪いが、俺はそうきっぱりと告げた。


「……まあ、君たちは現場で働いているからね」


大林さんが何とも言えない表情でそう同意してくれる。


「敵のだぢづで人に関する隠匿はまだ解除されないんですか?」


そう質問した俺に大林さんは大きく首を振った。


「現状維持、つまり一般には秘匿したままだね」


その言葉に俺は納得が行かず口を開く。


「そもそも、敵の……だぢづで人の情報を隠匿する意味があるんですか?」


何度目かわからない俺の質問に大林さんは困ったような笑みを浮かべて、コーヒーを啜る。


「……君の主張はわかるよ。情報がおおやけになれば、君たちが隠れて動く必要も無い。いろいろと便利にもなるだろうからね」


大林さんは、俺の言葉にあっさりと納得してみせる。俺は更に言葉を続けた。


「そうでしょう? 言っても僕らの活動は公務じゃないですか。公務員ですよ。陰に隠れて平和を守るってそんな必要ないでしょう?」


ある意味、お決まりの話の流れ。それに対する、大林さんの答えも変わらない。


「だが……だが情報公開でデメリットも無いわけじゃない。だぢづで人の敵意は本物で、それ対抗できるのは君を含め、五人だけだ……こんな情報が世間に知られたら大混乱が起こるのは間違いない」


「市民の不安感を煽るってことですよね……でももう既に攻められてるんですよ? 悠長すぎやしませんか?」


「有事の際の予算分配に理解のある人ばかりじゃない。ましてや、事が侵略だ。今までの国防に関する予算の使われ方だって批難も出るし、治安だって悪くなる。そうなってくれば外国がこの国へ手を伸ばすことだって十分考えられる。東京が火の海にならないとも言えない」


俺の目を見ずに大林さんはそう言って、はあーとため息を吐き出した。


「君の批難もわかる。こんなものはおためごかしだ」


その言葉に俺もため息を吐いてコーヒーを啜る。ここで認めてくれなければ、俺だって更に文句の一つも言えるのだが……それで問題が解決しない事も俺は知っている。


「実際問題、オープンにしてしまえば上手く行く事もあるかもしれない。万事塞翁が馬とはいうが、どうなるか誰にもわからない。けれど上層部はまだ隠匿したいそう考えている」


「定例会議でも毎回、議題には上がってはいるんだよ。だが声は小さい……特に陸軍に覇気がない。初戦に負けた事を公にはしたくないらしいね」


「ああ……」


初めてだぢづで人が現れた際、その最初の戦いをして大規模な敗戦をしたことは書類上で俺も知っている。


今の俺がうらやましくなるような重火器をたくさん持った訓練された大規模部隊がズタボロにされて逃げ帰ってきた。それが事の顛末だ。


「君たち以外の5人が戦えない理由……恐慌磁気だったかな。今でも出動していた隊員の多くがPTSDによる精神障害を抱えるような状態になってしまったからね」


いま大林さんが口にした恐慌磁気、ほんとうに磁気なのかは相当に疑わしいのだが……それはその名が示すように人を無条件で恐慌状態へと陥れる悪魔のような代物だった。


鉄だろうが、鋼だろうが、コンクリートでも防げない。人をパニック状態に陥れる電波的な代物。人類でこの特殊な磁気対抗できるのは、謎の光を浴びた俺を含む五人だけなのだ。


戦いに必要なのは戦いをするという意思だ。それをへし折られては戦えるわけが無い。


恐ろしいもので、敵であるだぢづで人はその体からその磁場を流しているらしい。


惨敗に終わった初めての戦い……対抗する為に展開した陸軍はその存在を知らなかった。


結果、訓練された屈強な兵士達はパニック症状を出しながら、我先にと逃げ出した……。結果、敵にやられた数より、自滅した数の方が多いと言われるほどの大敗走になった。


大の大人だろうが、鍛え抜かれた戦士だろうが心が折れていれば赤子と何ら変わらない。


阿鼻叫喚の地獄絵図。幸いにも生き残った兵士達も、その多くがトラウマによる精神障害を患い、今でも入院している者も居るらしい。


結局、その場はミサイルの使用に踏み切って、防衛自体は成功した。


だがこの大敗走は世間には公開されず、世間に報道されたのはミサイルの誤射と言う報道だった。当時の防衛軍は当時蜂の巣を突いたような大騒ぎだったと聞いている。


「そもそも磁気さえ何とかなれば、こんな状況もひっくり返せます」


「……そりゃそうだが、解析も進んでないようなんだよ。とりあえず磁気とは関係ない事が判明したくらいだ」


……恐慌磁気なのに、磁気じゃない事が判明してどうするんだよ。


大林さんも同じ事を考えたらしく、トホホという顔を浮かべている。


「捕獲はどうだい? 上手くいかないかい?」


大林さんにそう尋ねられて、俺は首を振る。


「なにせ、解析しようにも敵の死体は二時間で溶けて消えてしまいますから……。生きたままの捕獲も自爆機能のせいで上手く行きません。それこそ有効な毒物でもあれば、だいぶ違うと思うんですが」


「個人的には毒物はどうかと思うが……対人戦闘ではないから良いもんなんだろうねぇ」


大林さんはそう言って、コーヒーを啜る。


極めて重要な謎の敵に対する研究はスタートラインにも立ててないというわけだ。


だが解析が出来ていないのでハイおしまい、というのではすまない。


俺は現場で戦う当事者なのだ。意味不明な敵に、現状装備で戦って行くにも限界がある。


「大林さんの方でもなんとか装備の充実の方向で動けませんか? 無人機があれば、人手の問題もかなり改善できます。何か合ってからでは遅いんですよ」


俺の要望に、大林さんはマグカップを置いて、真面目な顔で返答する。


「無論、私も上とは掛け合っているよ。だが……やはり反応は鈍い。むしろ、要望の突き上げの方が強いくらいだ」


「ならなんとか重火器の使用禁止を解除できませんか? いつも使おうって訳じゃありません、ですが必要になったときに現場にあるのと、無いのとでは話が全く違うんです」


「それもなんとかはしてやりたいよ……そもそも肝心の人員は増えそうにないからね。そちらも一応調査は進めてもらっているが、君たちが耐性を持つきっかけになった光なんだが、あれ以来まったく発生してない」


「……上層部はこのまま隠匿を続けるつもりなんでしょうか?」


重苦しい空気になった部屋の中で俺はそう尋ねる。


俺の問いかけに大林さんは難しそうに唸りながら、考え込むようにあご先を撫でながら言った。


「うーむ。逆説的に、”隠匿できている”現状が問題とも言えてしまうねぇ」


「確かに……妙にピースがハマってしまっていますからね」


なにせ、異世界の侵略に対して対抗戦力が五人なのだ。普通はどうしようもない。


だが現状”何とかなっている”。


もし仮に俺が異世界人で本気で地球を征服するなら、一都市に執着はしない。


不定期かつ、多方面にゲリラ戦を仕掛ける。俺だったらそうする。


戦略は知らんが、戦術の基本は嫌がらせだ。


もしそうなれば、五人では対処しきれない。だが”そうはなっていない”のが現状である。


敵怪人は毎週日曜日の午前中にしかやってこない。おまけにやってくるのも東京から車で移動できる範囲内だ。


正直、意図が読めない。それが不気味である。


何せ相手は異世界人である。意図が読めないのは普通なのかもしれない。侵略の意図……少なくとも友好関係を結ぼうとはしてこない事から、敵対関係ではあるが、明確な狙いは不明なままだ


「僕としてはあの子達にハリネズミみたいに武装させてやりたいんです。若いあの子達に無茶はさせたくないんですよ」


俺の言葉に大林さんは全くだと大きく頷いてくれる。


「その気持ちはわかる。君の方があの子達との年も近い。年の離れている私のほうがもっとそう思うとも」


そう言って笑う大林さんの言葉は実にもっともだ。俺と大林さんは二十歳くらい年が違う。


だがしかし、それを言うのならば俺だって言わせていただきたい。


「それでも僕とあの子達は一回り以上違うんですけど」


「……そんなにちがうかね?」


「違いますよ。あの子達の最年長で十七です」


十七歳といえば高校生である。最年長者でも俺と十五歳も違うのだ。


十五歳って小学校二回卒業してもまだ余る年数である。


「紅君ね……。そういえば高校生だったね」


「そうです。黄野ちゃんは十六、緑川君は十四、桃山ちゃんなんて十一ですよ」


俺はそう言って、自分の仲間達の事を考えながらコーヒーを啜った。


最初は美味しかったコーヒーがやけに苦い。胸焼けがしそうだ。


「……青島くんはいくつかね?」


「三十二になります」


「……なんともかんとも」


はぁと大林さんはコーヒーを啜る。砂糖を入れたにもかかわらず渋そうな表情である。


「神様はどーしてこう、意地悪をするのだろうね?」


なんだか悟った顔でそう追われても、なんと答えてよい物かわからない。


「まあ、たまたま僕を含めて選ばれた五人ですからね。逆にメンバーの中に赤ん坊とか、高齢者が居なくて良かったと思えなくもないですが」


俺はそう心にもない事を言ってみる。正直に言えば、俺も神様の意地悪だと思っているのだ。


「それは確かに不幸中の幸いと言うべき何かもしれないが……、むしろメンバーに君みたいな人材が入っていたことが幸いだったんだろう。あと武装に関してだが、あそこからの要望がすごくてね」


何か臭わせるような発言に俺はピンと当たりが付く。


「新技術研究所ですか?」


俺の言葉に大林さんはコクリと頷いた。


「ファイバーソードとファイバーブラスターを使ってくれという嘆願書まで持ってきた」


その単語に俺はため息を吐き出すしかない。


ちなみにファイバーソードは最初に渡されたファイバーズ専用の武器で、伸縮が出来る警棒形の剣だ。伸ばした状態で長さは肩幅より少し長い程度。片手で振り回す事を念頭にされている武器だ。刃の部分がよくわからないエネルギーでコーティングされていて、切れ味は良い。


しかし肩幅程度の距離まで敵に近づくなんて、とても使えた物じゃないというのが俺の考えだった。


「あれは危なすぎます。剣ですよ? 紀元前じゃないんですから」


「じゃあ、ファイバーブラスターはどうかね?」


大林さんが口に出したのは最初に手渡された武器のその二でよくわからないエネルギーを弾丸として打ち出す兵器だった。


エネルギー弾というのは俺も初めて見る武器ではあった。


威力も高い、反動も少ないと良い事尽くめのようだったが、実際には威力減衰が大きすぎるのだ。有効射程は七メートルあるかないか。それ以上は著しい威力減衰が起こる。


そして何より連射が効かず、拳銃タイプしかない。


「ここが西部のマカロニウエスタンなら、大活躍間違い無しでしょうね」


俺はそう言って肩をすくめる。この議論もさんざん交わしている。むしろ新技術研究所には意見書を送ってあるはずなのだが……使ってみろの一点張りなのだ。


「あれは少数で多数を相手にしている現状を理解してないとしか思えない武器です。現場での採用は危険につながりますよ。新技術研究所の方には意見書を毎度送っていますけどね」


そう、今現在ファイバーソードとファイバーブラスターはお蔵入りになっているのだ。


だが新技術研究所はそれに納得していない様子で、さんざん現場での実戦使用によるデータ取りを促してくる。

俺の言葉に大林さんは実に難しそうに口元を曲げた。


「私もよくわからんのだ。上層部は新技術研究所を優遇しているらしい。不自然だと言う者も居るし、当然だと言う者も居る。私の回りでは半々かな」


大林さんはそう言って、ファイバーソードとファイバーブラスターの制作元の評判を口にした。


新技術研究所自体は古い組織だ。最新技術の研究を材料、工学、医療から環境開発まで幅広い技術の実用化を行っている。本当に役に立つ物から、変わり種まで幅広いものがそこから生まれ、世間に羽ばたいたり、羽ばたかなかったりしている。


「そういえばファイバーソードとかの技術の出所に関しての話は出てるんですか?」


「ないねぇ。青島君は、あれの出所を異世界だと言っていたが……まだ、疑っているのかい?」


「疑っていますね。あれは……既存の武器のどれとも違います。降って湧いたような感じがするんです。同じ人間が作ったとは思えないんですよ」


実際に手に取った感触をふまえて、俺は大林さんにそう告げた。


俺はあの武器の出所をかなり怪しいと睨んでいた。


おもちゃのような外見に、聞いたことも無い技術。俺は技術畑の人間ではないが、それでもわかる。エネルギーで切れ味を良くした刃物など見た事も聞いたことも無い。


鉄板を切るなら、ガスバーナーがあるし、プラズマカッターだってある。材木を切るならノコギリか円盤ヤスリの方が良い。単一の刃物の切れ味を良くしても料理か、ひげ剃りくらいにしか使えない。


昔、刃物が武器として作られていたのは、その時代には銃という代物が無かったからだ。そして現在使われているナイフなどの武器は、戦場ではあくまで緊急用である。携帯性に優れ、銃よりも多様に使えるという点でむしろ武器よりは工具に近い。


けれどファイバーソードは明らかに武器だ。刃を伸ばした状態だと大きさは肩幅より少し大きく、取り回しがしづらい。軽さはあるがナイフよりは日本刀の系譜と言われた方がしっくり来る。だがそんなものは絶えて久しい。


その点ではまだブラスターの方が意図は分かる。引き金を引くたびに弾が出るシングルショットの銃で、いわゆる普通の拳銃をエネルギー弾にしたものだ。


だが……そうした武器の意図とは違い、確信を持って、これが変だと感じる点は別にあった。


ソードは少なくとも十日間以上連続で稼働し続けるし、ブラスターは千五百発弾を発射しても弾切れをしないのだ。


結局、双方の武器は実験期間中、一度もエネルギーの補充を行わなかったにも関わらず、エネルギー切れを起こさなかった。


無尽蔵に使える兵器。それはいわゆる永久機関だ。そんなわけないと思うが……事実そうだ。


とにかく普通ではない。


俺はその他の情報も統合した結果、おそらくその新技術研究所には異世界との何らかの繋がりがあるのでは無いかと睨んでいた。もっとも、確固たる証拠をもっているわけでもないのだが。


もちろん、それでも有効ならば使うのは、やぶさかではない。


最初に渡された防護服兼変身スーツは従来品の防弾防具と比べて、とにかく優秀だったのでそのまますぐに採用している。カラーリングには文句を言いたいところだが、その意見書も活かされている様子は無い。


「防具と比べると武器は正直、微妙です。信用度も低いですし、応用幅が狭いんです。俺たちの基本戦術は待ち伏せ戦法ですから……」


「使うのはやはり難しいかね?」


「はい。正規の訓練を受けても無理です」


「そんなにかね?」


「拳銃と刀でまともに戦おうとしたら、接近するしかありません。そんなの山賊ですよ、山賊。さすがにそんな戦い方は教えられませんよ。危ないなんてもんじゃありませんし」


そう言ったところで、大林さんは笑いとも、嘆きともつかない曖昧な表情を浮かべた。新技術研究所から生まれた新しい武器が山賊のような戦いしか出来ないというのが笑いどころなのか、迷った結果なのではないかと思う。


「ましてや、あの子達は素人です。最近は素人でした。と言うところですが……それでも何でも出来るというわけではありません」


「それぞれ特化させてチームの実力を底上げするとは聞いているけど、君みたいに指導できる人間が居て本当に良かったよ。君が居なかったらと思うとゾッとするよ。シルバー狩りだったかな? 君のあだ名は」


シルバー狩り、親父狩りみたいでかっこわるい名前が、俺の傭兵時代のあだ名だった。呼ばれていた期間自体は短いものだったが、引退するまでの間はそう呼ばれていた。


「青島君はあれだ。有名だったんだろう?」


「そこそこです。そこそこ。兵隊って仕事は日系人が珍しかったですからね」


俺はそう言って笑ってごまかし、残り少なくなったコーヒーを飲む。


正直、傭兵時代の事は話したくなかった。どこをどう切っても愉快な話ではないからだ。


「実はその流れで爆弾の使用に難癖をつけられたんだ。なんとかごまかしてはいるが」


大林さんの言葉に俺は驚きで目を剥いた。馬鹿な、冗談じゃない!


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