番組放送後 プロであるから
ラッコの仕上げてきてくれた新しい展開のシナリオが上がり、キリマンはそれを元に会議を終えた。
着々と準備が進み、ブルーが死ぬその日が近づいてきている。
進路変更に対して予算は掛かる。だがそれによりスポンサーの心証が良くなれば、予算の追加が見込めるのだ。
だがこの予定変更はイバラの道だとキリマンを始めスタッフの誰もがわかっている。
おそらくブルーの死後、視聴率は落ちるだろう、そうすれば予算は今よりも減る。
そうなれば火の車。行く先は打ち切りである。
もちろんそうならない可能性はある。視聴率は上がり、おもちゃも売れるかもしれない。
けれどもそうはならないだろうというのがスタッフの気持ちだった。
問題はブルーの存在ではない。ブルーの戦闘能力だ。
ブルーは戦闘の要、ファイバーズの主力である。
戦いの根底には彼の存在があり、それ故に他のメンバーは戦えている。
地盤にして、根底の存在を引き抜けばどうなるかはわからない。
戦いが成り立つのか? 成り立たないのか? それさえも不明。
もしも戦いが成り立たなかったら?
そのときは番組が続くかどうかも怪しい。なにせ、再度のテコ入れの予算を引っ張って来れるかも怪しいからだ。
「賭けに出るしかない」
キリマンの下した判断は文字通りの賭けだった。
ブルーが死ぬ事は盛り上がりに直結する。
視聴率も瞬間には上がるに違いない。
おもちゃが売れるかどうかはわからないが、スポンサーにアピールは出来るだろう。
そのチャンスを逃さないように予算を放り込むのだ。
ブルーの死を大きく演出し、話題性を上げる。
そうしてスポンサーへ追加予算の話を持って行く。
瞬間でも良いから話題が大きくなれば、追加予算を出してくれる可能性も上がる。
そうキリマンはこれまでのテレビ生活の中で培った経験を元に判断していた。
もし追加予算を持って来れなければ、番組はさらに手痛いダメージを被る事になる。
だが、そうしなければ低空飛行から抜け出す事は出来ない。
どちらにしても打ち切りが見えているならば起死回生を狙うのは悪くない判断であるとキリマンは考えていた。
「これだけ予算かけて効果が出なかったら悲惨ですね」
とんでもないことを言う部下のケツを先ほどの会議では叩きあげてきた。
何にしても準備は進んでいる。ブルーは……一人、あるいは二人で戦う事になるだろう。
なにせ、異世界TVはリアル……段取りはするが、ブルーが結局どう動くのかはわからないのだ。
キリマンとて、いやスタッフの誰もがどう転ぶかわからない。それが異世界TVの恐ろしい所だ。
しかし、何にしてもファイバーズにとってはブルーの死は確実な転機となるだろう。
そうした確信めいた不安がスタッフ達全員の胸の内に立ちこめているのをキリマンも感じていた。
キリマン自身も不安に思っている。
ああ、こんな事ならば今までのように番組を作っていたかった。
そうした思いがハマンディ局長への不信感となっている。
その燻りをキリマンは立場上、消さなくてはならない。
彼が仕事をしているのはもはや……夢や希望の為ではない。明日の生活のためだった。




