番組放送後 案その2 テレポート大作戦
ブブテレビ、休憩室の一角で怪人作成班の面々は集まっていた。とはいえ、ある程度手があいてるものしか集められなかったので四人しか居ない。
「こうして見ると、いろいろ作ったもんだなぁ」
そうコアラが今まで作った怪人達の写真が並んだホワイトボードを見て呟く。
毎週毎週仕事に追われてここまでやってきたが、こうして写真を見て振り返れば自分たちが進んできた足跡を見るような気持ちになる。
ちょっぴりセンチメンタルな空気が流れるが、そんな事をしている場合じゃないと気分を入れ替えるべく、声を上げたのはテレビ業界的にも古株のビーバーだった。
「懐かしんでる場合やないがな。何とかせにゃならんのやろ」
「つーってもどうするんですか? シナリオなんて考えんの無理ですよ、作文苦手なんです」
そう答えるのはカタツムリだ。カマキリが俺も苦手だなぁと相づちを打つ。
「このさい、シナリオだなんだとかは捨てよう。どうせ考えてもまとまらないだろうし」
コアラはそう言って、怪人達の写真を指差した。
「もっとシンプルに怪人だけで考えようぜ。キリマンさんだって、俺たちにあんまり複雑な事はのぞんでねぇだろ。たぶん」
コアラのこの言葉に怪人作成班の面々はそうだなと同意した。
「ってことは、つまりあれやな。ファイバーズの鉄砲をどうにかせにゃならんってことや」
ビーバーはそう言って、手で鉄砲を撃つ仕草をしてみせる。
ファイバーズの現在の主力武器は彼の言うように鉄砲である。種類は大きいのから小さいのまで様々だが、火薬の力で弾丸を飛ばすという事で言えば全部同じだ。
「家のおやじがブルーのファンで、昔のこういう武器の事を調べたんですけど、物理攻撃の延長線らしいっすよ」
カマキリがそう言って発言する。
「すげえ速い速度で攻撃が飛んでくるってことだよな」
「うっす。だからすげえ固いとかそういうのはどうっすか?」
カマキリの提案は悪くなかったが、コアラはホワイトボードに張ってある岩石怪人ガチーンの写真を指差した。
「もう似たのは、やってるからな……結局、爆弾で吹っ飛ばされたし」
「その爆弾ってのは厄介やな……。単純に怪人を強化する方向やと予算も掛かりすぎるで」
「しなやかに動いて、でも固いって難しいですからね……。それこそジョンダー帝王ぐらい時間と金をかけたらできるでしょうけど」
「じゃあ、変わり種ってことっすか? なんかバリアとか」
「超能力系はわるくないかも。あんまり出てないですよね?」
カマキリの発言を肯定して、カタツムリがそう言った。
コアラは作った怪人達の写真を眺めて、たしかにと頷く。
「見た目でわかりにくいから、超能力系は確かにやってないな」
「この際、そういうのもええかもしらんな。結局はあれや、遠くからの攻撃が当たらんかったらええんやろ」
ビーバーがこの案に納得すると、全員がその方向で考え始める。
とはいえ、中々まとまった案は出なかった。サイコキネシスで銃弾を曲げるだとか、周囲に防御用の鉄板を飛ばすとか、火で守るとかいろいろだ。
「こうしていろいろ考えるとなんだかんだ、鉄砲って奴は強いな」
地球より進んだ科学力を持つ彼等だが、相手に合わせていろいろ考えるとなるとこれ! というアイディアは中々出なかった。
弱すぎれば鉄砲で倒され、強すぎてはファイバーソードやブラスターの出番も無い。
いい感じの塩梅がなかなか出てこない。
「……テレポーテーションとか、どうすかね?」
停滞感の中、自分の鎌を適当に振っていたカマキリが、フッと思いついてそう言った。
「テレ……なんやそれ」
「あれっすよ、瞬間移動」
カマキリがそう話すが、回りの面々はあまりピンと来ていない。
自分の思いつきを伝えるべくカマキリは更に言葉を重ねる。
「やっぱどうしても銃を使って戦ってるファイバーズを見てるから、ブラスターをどう使わせるか? ってことを考えちゃいがちですけど、ソードでもいいんすよね?」
「まあ、せやな」
「んで、あれですよ。怪人がこう……自分とファイバーズの位置をぽいっと入れ替えるわけっすよ」
「瞬間移動で?」
「そう、瞬間移動で。ほら、工事現場で使うのがあるじゃないっすか。落ちたときに大丈夫にするやつ」
カマキリの言葉に、ピンと来てなかったビーバーはようやくイメージが付いて、ハンハンと頷いた。
異世界の工事で使われる誤って落ちても、安全な所に移動してから落下する防災グッズの一つだ。それは確かに見た事が合った。
「あんな感じで、自分と相手の位置を入れ替えるっす。そしたら鉄砲は効かないけど、ソードは当たるんじゃないっすかね?」
サラサラと言った言葉に話を聞いていたメンツは理解が追いつかなかった。
「なんで鉄砲が効かないんだ?」
カタツムリのその疑問にカマキリが答える。
「撃った相手と場所を交換したら、撃たれないから」
……?
しばらく間があって、カマキリの言葉からいろいろ想像していたコアラが合点がいったと、拳で手のひらを叩く。
「あー、ああ! わかったわかった。なるほどな」
「わかったんか?」
未だ理解が出来ていないビーバーとカタツムリに対して、コアラは自分が理解した内容を例を交えて口にする。
「例えば、俺が鉄砲を撃つじゃないですか、そんで相手に弾が飛んで行く。この間に相手が俺との位置を瞬間移動して入れ替わる。そしたら、俺が撃った弾は俺に当たる……だから鉄砲が使えなくなるってことだろ」
「そうっす! そうっす!」
理解してもらえたカマキリは嬉しそうな声を出した。
その言葉でようやくカマキリの言いたい事を理解した残りの二人はなるほどと感心して頷いた。
確かにその理屈なら、むやみに敵を鉄砲で撃てば、その弾が自分に飛んでくる形になるわけで、むやみに攻撃できないとなるかもしれない。
「なんや、お前賢いな!」
ビーバーのその言葉にカマキリは照れる。
この案の良い所は、鉄砲では確かにどうにもならないがソードを使えば、問題は簡単だという点である。
ソードが当たりそうになって位置を入れ替えても、ソードごと移動するので当たっちゃうのは変わらないという塩梅だ。
「よしよしいいぞ! シナリオ作成班の奴等も、ビックリ仰天間違い無しだな!」
コアラは実に嬉しそうにそう言って、すぐにこの話をキリマンの所に持って行った。
かくして瞬間移動怪人シュバットは制作される事になったのだった。




